悪役令嬢、味方も掌に
「……っ!」
クレアは顔を上げた。
その目に映るのは、
「来たわね」
ごま粒のような人影。
それでも、かなりの数がいることが分かる。
「殺すか殺されるか。その結果は、戦う前から決まっているとは言うけれど、」
そう言って、クレアは地面を見る。
そこには、光る暴威が大量に刺してあった。
「こういうわけの分からないことをされると、自分たちが有利なように思えちゃうわよね。ある意味、油断を誘ってるとも考えられるわね」
敵は今、どういう風に思っているだろうか?
カラフルに彩られた学校を見て、油断しないだろうか?
ーーそこは敵次第。それでも、
やれることはやる。
クレアが死ぬことはないだろうが、友人たちも出来れば死んで欲しくないから。
「さぁて。頑張りますかぁ!」
そうして気合を入れた直後、
「きたぞぉぉ!!」
「そなえろぉぉ!!!!」
クレアの下、校舎の中にいる生徒たちが、大声で叫んでいる。
どうしてクレアの下かというと、クレアが屋上にいるからだ。
「下の子たちも気付いた、と。頑張って耐えて欲しいところね」
クレアはそう思いながら、手元の通信機に触れた。
通信機からは、
『……ギ、……ギギィ……」
という、ノイズか何かかと思われるような音が聞こえていた。
が、
「ギレ。ノイズっぽくしゃべって遊ばないの!」
『ギィ~』
仕方ねぇなぁ。
といった感じの声が通信機から聞こえてくる。
ノイズのように聞こえていた音は、ノイズではなくギレの遊びで出している声だったのだ。
この危機的状況だというのに遊んでいるギレは、メンタル強いと言うべきなのかどうなのか。
クレアがギレと遊んでいると、いつの間にかごま粒のようだった襲撃者たちが、かなり目前まで迫ってきていた。
ーー結構数がいるわねぇ。
クレアも驚くほどの人数がいる。
それも、丁度両側から挟むように。
「おい。終わったぞ」
突然後ろから声が掛かる。
クレアは笑みを浮かべて振り向き、
「お疲れ様。セカンド。上手くいったかしら?」
「ああ。上手くいったぞ。……ただ、俺を使いっ走りみたいに使うのはやめてくれよ」
「あぁ。ごめんごめん。考えておくわ」
クレアは適当にあしらった
セカンドはパワハラかよ!みたいな目で見ながらも、また戻っていった。
しかも返答では考えておくとしか言っておらず、使いっ走りにしないとは一言も言っていないのだ。
クレアの性格の悪さが垣間見える出来事であった。
ーーあれ?誰かに馬鹿にされた気がする。……憂さ晴らしに、敵を何人かやっちゃいましょう。
かなり性格の悪いクレアであった。
とはいっても、すぐに手を出すわけではない。セカンドからの報告を受け、クレアは下の様子を見た。
敵がかなり迫ってきている。
このままでは、後数分もしないうちに魔法などで攻撃され始めてしまうだろう。
ーーそろそろね。
クレアは敵の動きに集中する。
ーー47,46,45。
少しずつ迫ってくる敵を探りながら、カウントダウンを始める。
ーー34,33,32.
「ん?これは、ただの光る棒ですね」
「なんだ?罠とかじゃなかったのか?」
敵が光る棒を見て、不思議そうにしている。
ーー22,21,20.
敵は棒を抜いてみたり、振り回してみたり、何かが起こるのではないかと試しているが、何も起こる気配がない。
ーー11,10,9.
ーー3,2,1,ここ!
「ギレ。F4D2K9を!」
『ギィ!!』
ドォン!ドォォン!ドォォォォンッ!!
「「「「ギャアアァァァ!!!?????」」」」
「「「「うわああぁぁぁぁぁぁ!!?????」
3カ所から聞こえる爆発音。
それと共に、敵の悲鳴が上がった。
ーー警戒するならまだしも、悲鳴上げるってどういう事よ!
クレアは敵が1流でないことを感じた。
「これは、作戦変更ね」
少し作戦の修正を行う。
当初は強い敵が来ることを想定していたので、高度な読み合いの戦い方をしようとしていたのだ。
ただ、読み合いなんてこの敵たちと出来る気がしない。
なぜなら、向こうがこちらの考えを読める気がしないから。
「ギレ。H8Y5X4を爆発させて」
『ギィ!』
ギレに指示を出すと、元気の良い返事が返ってくる。
直後、
ドン!ドォォンッ!ドォォォォォォンッ!
「「「ギエエェェェェエェェ!!???」」」
再度の爆発。
突然足元で起こる爆発に敵は苦戦していた。
踏んだ直後に爆発するなら、地雷だと分かる。
が、現在起きている爆発は違うのだ。
すぐに爆発することもあれば、時間が経ってから爆発することもある。
いつ爆発が起こるか分からないのだ。
ただ、条件はなんとなく分かっている。
その条件は、密集度が高いところが優先して爆発させられること。
そして、1度爆発した場所はもう爆発しないこと。
ということで、
「うおおぉぉぉ!!!!」
「でやああぁぁぁ!!!」
敵は、少数での特攻をしてきた。
こうすることによって、被害を小さくしようという考えらしい。
確かに地雷は有限で多数を巻き込むことを優先していたので、この作戦は有効である。
ように思えたが、
「うおおぉぉぉ!!!!」
「ていやぁぁぁぁ!!!!」
奇声を上げながら走ってくる敵たち。
この数人のために地雷を使うわけにも行かず、何の攻撃もできずに校舎まで近づけさせてしまう。
「げへへへ!」
「皆殺しにしてやるぜぇ!!!」
敵はそんなことを言いながら、手に持った武器を振り回しいながら校舎へ入ろうとしたり、魔法を発動して校舎を破壊しようとしたり。
だが、それよりも少し早く、
「全員、放て!」
「「「『ファイアァァァ!!!!トルネードォォォォォォ!!!!!!』」」」
炎の渦が巻き起こり、敵を一掃した。
まともにその攻撃を受けた敵は、一瞬で塵となる。
「「「「………え?」」」」
その光景に呆然とする敵たち。
地雷を回避する方法を見つけ、勝利を確信していたのに、まさかこんなことになるとは、完全に予想外のことだった。
「やったぁ!」
「私たちの魔法でも倒せたよ!」
「作戦成功。これでかなり行き詰まったはず」
クレアは今の状況を鑑みて、そう考える。
敵は今、クレアの掌の上で踊っているのだ。
敵が地雷を受けても被害が少なくなるよう、少人数で来ることは予想できていた。
そのため、生徒たちを接近された場合の防衛用に配置していたのだ。
そこには生徒しかおらず、教師などは別の所に配置している。
つまり先ほど敵をチリに出来たのも、生徒の力と言うこと。
ーーこれであの子たちにも自信がつくはず。この戦いの間くらいは持ってくれるんじゃないかしら?
クレアの願いは、生徒たちが持ってくれることだった。
どういう事かというと、
ーーメンタル的にかなり追い込まれちゃってるから、精神が壊れちゃってもおかしくない。それを、敵が倒せたという経験である程度先延ばしにする。
ということだった。
1人壊れてしまえば、連鎖的に他のモノたちも壊れてしまう可能性が高い。
それは避けなければならないから、クレアは防衛戦の間だけでも大丈夫なように色々作戦を考えたのだ。
「……さて、じゃあ次のフェーズに移ろうかしら」
クレアはそう言って、挟み打ちをするように攻めてきている敵を見る。
そこでは、
「くそっ!」
「どうすりゃ良いんだよ!」
クレアたちを襲っている闇の組織、血湯の部隊。
彼らは、現在頭を悩ませていた。
集団で近づいたら地雷で吹き飛ばされ、少数で近づいたら魔法でチリにされる。
全く近づけないのだ。
「しかたねぇ。このまま正面突破は無理だ!もろそうな場所を探すぞ!!」」
「「「おう!」」」
彼らは作戦を変更。
学校の周りを回ってみて、攻めやすそうな場所を探すことにしたのだ。
それが、クレアの目的だとも知らずに。
「ん?」
「どうした?……って、あれは?」
しばらく歩いていると、彼らは人影を見つけた。
しかも、その人影は、
「「「「苦霞!?」」」」
「「「「血湯!?」」」」
「お前らもここを狙ってやがったのか!」
「ちっ!ならば、ここで決着を!!」
お互いに武器を構え、今にも殺し合いそうな血湯と苦霞。
だが、
「ちょっと、ここで争ってる場合じゃないだろ」
「こいつらより、学園の攻略の方が先だ!」
数名の聡いものたちが声を上げたことによって、その状況は解消された。
お互いににらみ合うが、手は出さないといった感じである。
そんなときだった。
ドォォォォオンッ!
「っ!?ぎょぇぇぇえ!!????」
「ギャアァァァァァ!!!?????」
当然の爆発。
端にいたモノたちがはじけ飛び、彼らは爆発とは反対方向に走った。
その結果。
「「お前らあっち行けよ!」」
「くそっ!離れろよ!!」
「お前らが離れろよ!!」
ドォン!ドォォォン!ドォォオォォンンッ!!!
爆発から逃げるさなか、2つの勢力のモノたちは言い争いをしていた。
彼らが、同じ方向に移動しているのだ。
お互いに離れたいと思っているのだが、囲むようにして爆発が起きるので逃げる方向が1つしか存在しないのだ。
そんな状況の中でも言い争える辺り、彼らもある意味大物と言えるだろう。
「あっち行けよ!」
「お前らがいけよ!!」
そんな言い争いを続けること約数分。
彼らは地べたに寝転んで、息を荒くしていた。
「……ハァハァハァ」
「や、やっと終わった」
どうにか地雷を避けきることに成功した。
被害も尋常ではなかったが、生き残りも大勢。
「こ、これでやっと、あいつらに一泡吹かせられる」
「目に物見せてやろうじゃねぇか!謝ったって許してやんねぇぞ!クソガキども!!」
そう言って立ち上がり、校舎を睨み付ける血湯と苦霞。
それから十分体力を回復させ、校舎へと歩き出した。
新作「殿下に婚約破棄をされましたけど、おそらく婚約者を間違えてます」を投稿しました!
短編になります!
実験的な作品ですのでご意見など頂けるとありがたいです




