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悪役令嬢、迎撃準備

「……というか、おぬしらいいのか?儂ら教師は、先ほどまで君たちが逃げるのをじゃましていたんじゃけど?」


「「「あっ」」」


学生たちが、そう言えばそうだったという風に声を上げる。

クレアは苦笑い。


「折角ここでわだかまりを解消しようと思ってたのに。言わないほしかったわ」


「ぬっ。そんなことを考えておったのか。流石に主席は違うな」


 ーー違うって何が?

とは思うが、口には出さない。


こういう台詞は、深く追求しない方が安全なのだ。

おそらく、向こうもあまり深く考えず言っていて、勝手に良い感じに解釈して欲しいなぁ、という気持ちのはず。


「教師がやらないって言うんだから、俺がやって良いだろ?」


また出てくるガガーラナ。

どうしても指揮をやりたいようだ。


「……じゃあ、こうしましょう。先に作戦を教えて貰って、多数が賛成したら指揮を任せるって感じで」


「分かった。それでいい。俺の作戦は、大量に地雷を設置するって言う至ってシンプルなモノだ!」


「「「……おぉ」」」


ガガーラナの作戦を聞いて、学生たちはなんとも言えない声を上げる。

悪いわけではないが、期待していたほどではないと言った感じ。


「何もそれだけじゃない。だが、俺の考えたこっからの作戦は、とある人物の協力が必ず必要なんだ。その人物が、」


ガガーラナは視線を移動させる。

その先にいるのは、


「クレアだ!」


「……でしょうねぇ」


予想通りだった。

地雷、という単語が出てきた時点で大体予想できてたのだ。


なぜなら、その作戦は、


「ギレを使うつもりね?」


「そうだ!この間考えた作戦!早速使おうじゃないか!!」


数日前にクレアと友人たちが一緒に考えた、ギレの能力を上手く生かす作戦だったから。

 ーーギレのご褒美になるかしら?


「とりあえず、地雷を設置するかどうかだけ多数決を取りましょう。皆はどうかしら?」


クレアが生徒を見回す。

学生たちは考え込むように下を向き出した。


「本当ならもっと考える時間が欲しいんだけど、そうも行かないのよねぇ。自分たちの逃げ道を塞いじゃうって言う面もあるから、できるだけ早く決めたいわ。


「うぅ。どうしよ」

「地雷!?地雷ぃぃぃ!!????」

「なんでぇぇぇ!!????」


突然迫られる究極の選択。

一般人が決められるわけがない。


だが、クレアはここで追い込む。

時間がないし、自分の手の中で操りたいから。


「ほら。あと3秒後に多数決を取るわよ。反対の人は手を上げて」


反対の人は。

これが味噌だ。


こういう状況に追い込まれたとき、人は自分の意思で行動を起こしたくない。

つまり、選択を放棄してしまうことが多いのだ。


それがどういう事かというと、


「はい。誰も手を上げてないから、全員賛成ね。早速地雷を設置していくわよ」


こうなるということだ。

現在、早速地雷設置中である。


魔法を使えるモノは魔法で土を動かし、使えないモノは手作業で埋めていた。

他の人が設置した地雷に掛からないよう、きちんと順番通りに進めている。


「はい。次はA5の所に運んで」!


指揮はやりたくないとか言いながら、指示を出しまくっているクレア。

その様子に、貴族の友人たちも平民の友人たちも苦笑していた。


「クレアらしいな」

「そうッスか?」


作業をしながらも話をするガガーラナとギービー。

その周りにはアンナリムたちも集まっていて、さらに、貴族の友人たちも近づいてきた。


「クレアはいつもあんな感じなのか?」


ロメルが代表して質問をする。

貴族の友人たちも、クレアが普段どんな風に過ごしているのか興味があったのだ。


「あっ。殿下方。そうなんですよぉ。クレアちゃんは、面倒だって色々やりたくなさそうなんですけど、結局できるからやることになるんです」


「ふぅん。クレアちゃんは、面倒くさがりなんだぁ」


「そうなんですよぉ」


クレアの友人たちがクレアについて話している。

ただ、その話題の主であるクレアはそのことに気付いていなかった。


何をしているかと言えば、


「はぁい!そこ、B3地区に運んで」


「「「はい!」」」


地雷設置の指示出し中である。

指示が忙しくて、友人たちまで気が回せない。


「あの姿を見ていると、本当に優秀なんだと実感できるな」


「そうッスね。ただ、クレアは優秀すぎるから、私たちに頼ってくれないんスよねぇ」


ギービーが悲しそうに言う。

そこで、貴族の友人たちは揃って眉を動かした。


「頼ってくれない?」


「そうなんスよ。今回の作戦は、やっと見つけた頼ってくれるところだったんス。なかなか、クレアには弱いところがなくて」


と言う割に喋っているだけでそこまで手伝えている感じのしない友人たち。

貴族や王族の相手をしているのだから仕方ない事ではあるのだが、


「……はい!みんなおつかれさま!」


クレアが笑みを浮かべて終了を宣言。

すると、


「ふぅ~」

「疲れたぁ」

「よっしゃぁぁ!!終わったぁぁぁぁ!!!!」


沸き上がる歓声。

地雷設置作業が終了したのだ。


学生たちはやりきったという顔をしている。

が、


「ほら!地面に寝ないの!本番はこれからなのよ!」


本番はこれから。

何のために地雷を設置したのか。


「ってことで、早速本番に移るわよ!指揮は立候補したガガーラナにさせるから、ちゃんと言うことを聞いてねぇ!」


「「「はぁい!」」」


「……え?ちょっと待ってくれ。クレアが指揮しないのか?」


指揮を突然任されたガガーラナが戸惑ったようにい言う。

その様子を見て、クレアは不思議そうに首をかしげた。


「ガガーラナ。何言ってるの?私はギレへの指示を出さなきゃ行けないんだから、指揮なんて出来るわけないじゃない」


クレアは至極当然のように言う。

確かに、ギレへの指示出しは作戦の要であり、召喚者のクレアがやるのも当然。


「うっ。……分かった」


まっとうな理由のため、ガガーラナは反論できない。

そのまま、なし崩し的ではあるが、指揮をすることに納得したのであった。


 ーーガガーラナ、自分でやりたいって言っておきながら、いざやるとなると抵抗するなんて、変わってるわねぇ。何を考えてるのかしら?

クレアはガガーラナの考えがよく分からず、疑問を抱いた。


だが、今は質問をしている時間すら惜しいのでクレアは指示を出す場所へと移動した。

目をこらして敵の発見を急ぐ。


「ん~?まだ、目視できる範囲にはいないって感じかしら?」


目視では敵が確認できなかった。

そのため、まだ時間的な猶予はある。


それが分かると一応周囲の確認をした後に、


パンパンッ!


「誰かいる?」


クレアは手を叩いて、近くに人がいるか尋ねた。

すると、物陰からぬっと、


「何か用か?」


「あぁ。セカンド。丁度良かった」


クラウンの1員であり、クレアの警護役であるセカンドが現れた。

クレアはその姿を見て笑みを浮かべ、


「ちょっと仕事を頼んで良いかしら?」


「ああ。いいぞ」


快く了承するセカンド。

そのセカンドにクレアが紙を渡すと、


「……ふむ。分かった」


少し眉をひそめながらも、セカンドはまた消えていった。

これで、ピースは揃った。

 ーー後はピースを綺麗にはめるだけ。簡単なお仕事だわ。

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