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悪役令嬢、混乱する学校

「侵攻って、どういう事!?」

「大丈夫なの!?」

「死なないよね!?」



騒ぐ生徒たち。

クレアはその様子を見ながら、


 ーーなるほどね。

手元に来ていた紙を読んでいた。


その紙は、学園に隠れていたクラウンの部下たちからの報告書。

クレアとしても予想外の事態だったこのときに、クラウンの報告はとてもありがたかった。


 ーー意外ね。まさか、競い合って、同時に2つの勢力が攻めてくるなんて。

2つの勢力。

それは、血湯と苦霞だ。


現在、血湯と苦霞の双方が学園に迫ってきている。

しかも、それをお互いに理解していないよう。


 ーーなんで、大勢で来ているのにお互い分からないのよ!

クレアは叫びたくなるが、目立つのでやめておく。


「クレアちゃん。どうしよう」

「逃げれるっすか!?」


「逃げられるかしら?……できたとしても。全員は無理でしょうね」


クレアはそう言いながら、外を見る。

そこには、大量の生徒が外へと出ていた。


「あっ!貴族の奴ら!」

「そんな!?私たちを置いて逃げるって事!?」


アンナリムとギービーが悲鳴のような声を上げる。

その声で他の生徒たちも貴族たちに気付いたようで、


「ふざけるな!」

「お前たちだけ逃げるんじゃねぇ!!」


校舎から生徒たちが貴族たちに罵声を浴びせる。

ただ、そんな羽虫が騒いだところで貴族が気にするわけもなく。


「……くそっ!」

「マジで行きやがった」


クラスメイトたちは悔しそうに窓の外を睨み付ける。

数人の生徒たちは逃げだそうとしたが、教師たちに止められて、外に出られない。


そんなときだった。

クレアの感知能力に、とある魔力反応が引っかかる。


 ーーこれは……アロークス!?というか、他の子たちもいるじゃん!


「ちょっと抜けさせて貰うわ」


「え?クレア!?」


クレアは友人たちに詳しいことは伝えず、教室から出た。

教師たちは慌てているが、気にしない。


というより、クレアだって逃げることのできる立場なのだ。

本当は止めること自体が間違っている。


 ーー私はそんなこと気にしないけどね。

クレアはとっても優しいのだ。


「で?皆様は一体何をしておりますの?」


「あっ!エリー!」

「大丈夫だったか?」


貴族の友人たちの優しい声。

クレアは困った顔で彼らを見つめた。


「全く。何で子爵家やら男爵家やらにご子息が逃げているのに、あなたたちのような高貴なお方々が残っているんですの!」


次期国王やら次期公爵やら次期教皇やら。

重要人物が逃げずに残っているのである。

大問題だ。


「まず王族というのはですね……」


「「………」」


クレアが王族の血の尊さと、いかに王族の命が大切かという事を説いた。

ロメルとアロークスは恐怖のためか、涙目になっている。


ちなみに、クレアは1ミリも王族の血が尊いとか思っていないのはご愛敬。

 ーー血よりも、実力の方が個人的には大切だと思うけどね。


そう思ってはいても、説教はやめない。

本心を言わないことが時には重要だと知っている、優秀なクレアなのであった。


「……ということです。分かりましたか?」


「「……はい。すみません」」


消え入るような声で謝る2人。

それを聞いて、とりあえず2人への説教はやめることに。


「で?タキアーナも他人みたいな顔をしておりますが、同じ王族ですから変わりませんわよ?」


「へ?」


「他の方々もですわ。高貴な血の流れる方々が、揃いも揃って一体何をやってるんですの?ちょっと私、怒りますわよ」


「「「えぇぇぇ!!???」」」


貴族たちの悲鳴が響き渡ったのは言うまでもない。

そしてそこから数分。


「「「「すみませんでした」」」」


クレアに頭を下げる高貴な血の流れるモノたち。

数名は目に涙を浮かべ、小刻みに震えていた。


高貴な血が流れるとか言っておきながらお前何しとんねん。

という感じはするが、本心では全く尊いとか感じていないのでセーフだ(何が?


「……さて、やってしまったことは仕方がないですわ。これからの事を相談致しましょう」


「そうだ!なら、とりあえず平民のモノたちと話し合いをさせてくれ!」


クレアの言葉に、表情を変えて提案してくるロメル。

説教から逃げるチャンスを見つけた、飛びついたわけである。


「……構いませんが」


そうは言うが、少しクレアは視線を落とす。

その姿からは、あまりやりたくないという感情が読み取れた。


「どうしたんだ?」


「いや、その…………この見た目にしているのに、私のことをエリーと呼ぶ人たちがいると面倒だなと思っただけですわ」


「面倒!?」


口ではこんなことを言うが、1番気になっていることは別になる。

ただそこは隠して仕方ないとは思いつつ彼らを連れて良き、


「俺は、ロメル・アンダード・フィーリン。第1王子だ」

「僕は、アロークス・アンダード・フィーリン。第2王子だよ」

「俺は……」


始まりました自己紹介。

貴族の子息たちが逃げ出してしまった為非常に印象が悪いと予想していたが、クレアの友人たちは意外にも、


「「「「きゃあぁぁぁ!!!!」」」」

「ロメル様!格好良い!!」

「アロークス様!素敵!!」


好印象だった。

ただそれは一部、というより半数だけで、


「「「「けっ!」」」」

「何だよ。イケメンが」

「身分もあって顔も良いとか、世の中不公平だよなぁ」


残りの半数はあまり快く思っていなかった。

ただ、貴族だからと言うのが理由でないのが微妙な気分にさせてくる。


 ーー私の心配は杞憂みたいだったわね。

クレアはその光景を見て、苦笑を浮かべた。


ただ、その心に少し安心感があったことも間違いない。


「さて、現在どこかの勢力がこの学校へ攻めてきている!」


自己紹介が終わり、ロメルが何か演説のようなモノを始めた。

 ーーこれは、俺が指揮するからお前たちは一丸となって敵を殲滅するのだ!みたいなことを言っちゃう感じかしら?


クレアは、ロメルの成長具合が見れると、少し期待していた。

が、


「本当なら、俺が指揮をしてお前たちと共に敵を打ち破りたい。だが、貴族たちが逃げ出したこともあり、俺たちの信頼はあまりないだろう。と、いうことで、俺から、いや、俺たちからの提案だ。この戦場において実力が優先されべきだ。だから、今回の戦いの指揮は、学年主席のクレアにやって貰いたいと思っている」


「「「「おおおぉぉぉ!!!!!!」」」」


盛り上がる生徒たち。

クレアは耳を疑った。


「へ?私?」


何考えてんだこの野郎!という目でロメルを見る。

が、張り付いたような笑みを浮かべられるだけで、何も言ってはくれなかった。


「あ、あの。私より、最上級生主席の方がいるのでそちらの方が良いのでは?」


「む?なんだ?自信がないのか?」


ロメルが挑発するように尋ねてくる。

クレアはその表情をじっと見て、


「まだ学生のみですので、殿下方の身をお守りできるほどの実力はございません」


順当な返しをしておいた。

指揮官とか絶対にやりたくないのだ。


因みに今の返しの重要な点は、身を守れるほどの実力はないというところだ、

ここで否定してしまえば、兵士が学生より弱いと言ってしまうようなモノだから。


「そんなこと言っちゃえば、私だって学生だしやりたくないよぉ」


突然横からそんな声が掛かる。

声の主は、


「あら?ジャミュー。来たのね」


「来るよぉ。ていうか、私に指揮とか出来るわけないじゃん。やめてよぉ。知らない間にそう言うことするのぉ」


最上級生のが主席、ジャミュー。

ジャミューは怒ったようにぷくっと頬を膨らませた。


「なら、俺がやっても良いか?」


突然の立候補の声。

その声の主は、


「ガガーラナ?指揮なんて出来るの」


オシャレ好きの少年ガガーラナ。

クレアの学年で次席でもある彼は、立候補する資格がないわけでもない。


ただ、出来る能力があるのか知らなかったので、クレアは指揮の能力を持っているのか尋ねた。

クレアの質問に、ガガーラナは首を振った、


「出来ないけど。でも、この中に出来るヤツなんているのか?」


「ん~。そっかぁ」


確かに、指揮なんて出来るモノがいるのかは怪しい。

学園でそんなことは教わらないし、その前に指揮を勉強したことがあるモノなどいるわけがないだろう。


コソコソ。

「なぁ。エリーって、指揮してたことなかったか?」


コソコソ。

「あぁ。そう言えば、3年くらい前に。そんな話聞いたな」


クレアは、貴族の友人たちが話していることは無視する。

ただ、その言葉を聞いたからか、


「先生たちの中に指揮できる人はいないのかしら?」


「「「「あぁ」」」」


クレアの呟きに、生徒たちが一斉に納得の声を上げた。

それから、一斉に教師陣に視線が向けられる。


「……儂は、経験がないこともないが」


「ええ。私もありますね」


出てきたのは2名。

ただ、


「ただ、儂ら、両方とも負けておるよ」


「「「「……うぅん」」」」


負けているとしても、経験のないものよりはマシか?

それとも、才能のありそうなモノの方が良いのか?


学生たちはそんな闇を抱えて、頭を悩ませた。

 ーーなかなか決まらないわねぇ。

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