悪役令嬢 発見しました
鑑定式まで後1月となった。
エリーは村をまわって盗賊を殺しまわり、老婆はそれに役立つ毒を作り続けている。
その日も、エリーはいつも通り盗賊を探しに町へ入った。
そして、地下通路を見つけて盗賊のアジトへと潜入する。
「さようなら」
エリーが呟くと、盗賊たちの首が落ちた。
すでにエリーのレベルは80近くになっており、レベルアップしづらくなっている。
「さて、次の獲物は……ん?誰かの気配がする」
エリーは、アジトの奥に居る何者かの気配を感じ取った。
盗賊の仲間かと思ったが、動く気配がないので違うと判断する。
「ん。ここ、隠し扉になってる」
エリーが反応を見つけた先には、壁があり、奥へ行けなくなっていた。
だが、よく見てみると一カ所くぼみがあり、そこを押すと、
ガラガラッ!
壁が崩れ、入り口ができあがった。
エリーは警戒しながら進む。
「ぐぅぅぅ!!!」
唸るような声。
エリーが声の方を向くと、
「あら?かなり悲惨ね」
エリーは見たモノに哀れみを抱いた。
全身がただれ、下半身は見る影も無い状態。
手は鎖でつながれており、壁につるされている。
「あなた、大丈夫?」
エリーは心配して近づく。
肩に触れ顔を覗き込もうとしたところで、
「ぐあぁぁぁぁ!!!!」
「っ!?魔力狂い!?」
傷だらけの生物は、それでもエリーに噛みつこうとしてきた。
エリーは難なく避けることができたが、その生物の存在に驚く。
魔力狂い。
それは、自分の器に合わない大量の魔力を吸収してしまった生物が陥る姿。
戦闘力が高いが、知能が無いため、発見され次第即刻殺すことが法律で決められている。
そんな存在が、拘束されているのだ。
「ふむ。元気ねぇ」
エリーはのんきに呟きながら、目の前で暴れている魔力狂いを見下ろす。
そうしながら、どう対処するかを悩んでいた。
魔力狂いは、法律的にも発見しだい殺害するべきなのだが、とらわれていたことに疑問を覚えたのだ。
殺されずに捕まっていた。
つまり、殺さない理由があったということ。
力が足りずに殺せなかったのか、それとも、殺さなかったのか。
それは重要な違いだった。
ーーもし、殺さなかったのだとしたら、その理由は、
バキバキバキッ!
「グオォォォォォォ!!!!」
そこまで考えたところで、魔力狂いは鎖を無理矢理引きちぎって、エリーに襲いかかってきた。
エリーは冷静に対処し、魔力狂いの攻撃にカウンターを行った。
「ガボォォ!!??」
魔力狂いは1撃で崩れ落ちる。
エリーはその様子を見て、少し実験をしてみることにした。
エリーは倒れている魔力狂いに触れ、光の加護によって得た能力を使っていく。
すると、
ジュゥゥゥゥ!!!!
「グァァァァァァ!!!????」
浄化の力を使ったところで、魔力狂いが体から煙を吹き出しながら絶叫した。
何度か苦しみによって魔力狂いが暴れたが、エリーが完璧な動作で鎮め、すでに魔力狂いは声すら上げられなくなっていた。
「ん。戻ってきた?」
エリーが手を置いていたところが、薄いピンク色になっていた。
魔力狂いは普通肌が青色になっているため、これは、魔力狂いの状態が解消されていると言うことになる。
「魔力狂いが、なんで浄化で治せるのかしら?」
エリーは首をかしげながらも浄化し続ける。
そして、20分ほど経つと、
「うん。完璧ね」
魔力狂いは、完全に人間へと姿を戻していた。
流石に火傷などは浄化で治すことはできなかったので、老婆に貰っていた薬を使った。
「ふぅ。こんなモノかしら……って、あっ!もう時間が無い!急がないと」
エリーは帰宅時間が迫っていることに気づいた。
すぐに帰れるように準備をしているところで、
「うっ、ここは」
人間に戻された少年が目を覚ました。
だが、今のエリーには構っている余裕がない。
「あっ!目を覚ましたのね。私はそろそろ行かないと行けないから、明日までここで待ってて貰えるかしら?食料とかはこの辺にあるのを好きなように食べて。それじゃ!」
「えっ!?あ、ちょっ!」
時間制限を気にして、エリーはほぼ説明もなく去っていった。
エリーは高速帰宅を成功させ、平和に次の日を迎えた。
「エリー。今日はお父さんと散歩しよう」
と、優しい笑みを浮かべた父親が言う。
エリーも満面の笑みで、
「うん!」
了承した。
ただ、心の中では、
ーーこの人、私のこと利用するとか言ってたし、できれば関わりたくないんだけどなぁ。
と、思っていたりする。
もちろん父親の方は、エリーの好感度を上げて自分の地位を強いモノにするという狙いがあった。
「今日はどこに行くの?」
エリーは行き先を尋ねる。
「今日は、我がハアピ家の宝物庫に連れて行ってあげよう」
宝物庫。
その言葉で、エリーのテンションは一瞬で最高潮まで行った。
ーー貴族の宝物!気になる。
エリーは、父親について行く。
父親は、図書室を過ぎ、実験場を過ぎたところで、立ち止まった。
「ここだよ」
父親が指さす先には、他の扉よりも小さな扉が。
だが、その扉の前には2人の門番がいた。
ーーシッカリと警備をしているのね。
エリーは兵士の屈強そうな筋肉を見てそう感じた。
「開けたまえ」
父親がそう言うと、兵士が扉に手を掛けた。
そして、扉から光があふれる。
「うわぁ!?」
エリーは思わず声を出した。
目の前に広がるのは、金銀財宝でできた山の世界。
「ここには沢山のお宝があるんだよ」
父親はそう笑いながら手袋をはめる。
その姿を見て、素手で宝に触れてはいけないんだとエリーは判断した。
「もし、エリーがどこかへお嫁に行くことになったら、この中のどれか1つをエリーにあげよう」
父親はそう言いながら、手前にあった金貨を拾い上げる。
父親の言葉に、他の貴族と結婚しても良いかもしれないと思うエリーであった。
「これは、今から500年前に描かれた絵画でね。今ではかなり高額になっているんだよ」
そう言いながら、父親は金の額縁に入った果物の絵に触れる。
額縁から値が高いと言うことがにじみ出ていた。
「そして、これが6000年以上前のツボでね、さっきの絵画とは比べものにならないような値段がするんだよ」
今度は長細いツボを指さして言う。
金属は使われていないが、歴史があることが感じられた。
「さて、それで、ここで1番のお宝なんだけど」
父親はそこまで言って、辺りをぐるりと見回した。
そして、足下のコインを拾い上げ、宝の山へ投げる。
ガラガラガラガラッ!
投げた場所から金の雪崩が起こった。
「あぁ!もったいない!」
エリーはそう言って焦ったが、違和感を感じた。
いつまで経っても、雪崩がやまないのだ。
「ふふふ。これが、ここで1番の宝。触れたモノを複製する、倍化のコインだよ」
投げたコインを拾って、父親はにやりと笑った。
ーー何そのお宝!?最強過ぎない!??