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悪役令嬢、強化しよう

「………まったく。なんでここに手紙を送ってくるんだか」


あきれを込めて呟く。

そんなクレアが見ているのは、


「イルデったら。手紙を送るなら実家に送ってくれればよかったのに。こんなところに送られても困るわ。もしかしたら他の子達もやるかもしれないし、今度注意するように手紙を送っておきましょ」


クレアはそう呟いてから、表情を変える。

その顔は、少しあきれを含んでいるようで、


「召喚の案内なんて、わざわざワタシに送る必要はないんだけど」


イルデから送られてきた手紙の内容は、聖女を召喚するということの説明と案内だった。

家の方にも案内は来るはずなので、クレアに送ってくる必要はないのだが、イルデはどういうことか送ってきたのだ。


………まあ、どういうことか分からないのはクレアがそういうことに鈍感だからという理由もあるのだが。

イルデが振り向いてもらうのに時間がかかることは明白だった。


「さて、手紙でも書きますかぁ」


クレアは忘れないうちに注意する手紙を書いておく。

それから友人たちが頻繁にクレアへ手紙を出すようになったのは、頭の痛い話となった。



そんな手紙が来て数日後。

クレアたちは、召喚したモノたちを連れて1つの教室に集まっていた。


「今日は、召喚したモノたちの実力を確かめるぞ。当然、お前たちは召喚したものの強化を行っているだろう?」


それを聞いて、数人の生徒が視線をそらす。

強化や訓練などやっていないのだろう。


こそこそ。

「クレアちゃん。どうするの?」

「まだ有効な攻撃できないんだろ?」


こそこそ。

「そ、そうね。どうしようかしら」


クレアたちはこそこそ話す。

友人たちは心配しているのだが、


 ーーどどど、どうしましょう!?ギレ結構強くなってるって、『右腕』に聞いてるんだけど!?どうやって隠せばぁぁ!?

クレアと友人の心配事は違うのだった。


「どうしようかねぇ」


「どうしようかぁ」


 ーー本当にどうしよぉぉ!!!!

クレアは心のなかで絶叫した。


ギレの力をどうやって隠すか。

それを悩んでいるわけだが、


「ギィ?」


悩んでいる原因のギレはよく分かっていないよう。

クレアはその様子をじっと見た後、


「一応作戦を伝えておくわね」


成功する予想ができないが、取り敢えず伝えておく。

 ーーできるだけ簡単な作戦を、


「まずは…」


「ギィ」


「そして……」


「ギィ!」


「最後に………」


「ギィィッ!!!!??????」


ギレは驚いたように鳴いたあと、ガックリと肩を落とした。

 ーー落ち込んでる?どうフォローすれば!?


結局、立ち直ったのは授業が開始する直前だった。


「それじゃあ、相手は前回と同じで良いな?」


対戦相手は前回と同じ。

ということは、クレアの相手は、


「……今回は、僕も分かってる。安心してきて良いよ。クレア」


「ええ。そうさせてもらうわ。ハイロラ」


安心させるように微笑むハイロラ。

その言葉の節々からは思いやりが感じられた。


 ーー私がだましてるような気がして、気遣いが辛い!でも、作戦を上手く達成させられれば気遣いをムダにせずに終わらせられるはず!

クレアは拳を握りしめ、計画の成功を誓った。


「それでは、構え!」


教師が大声を出す。

その声に応えて、クレアとハイロラは向き合って、


「始めぇ!!」


お互いの召喚したモノがかけだした。

ギレの場合は飛び出したという方が正しいが、


「ギィィィィィ!!!!」


空中から急降下するように飛びかかり、


スカッ!


空振りした。お互い相手の動きに合わせきれなかったわけだ。

ただ、それだけではなく。


「「「えっ?」」」


観戦者たちから驚きの声が漏れる。

なぜなら、


「地面に埋まった!?」


からである。

まあ、埋まったと言うより、地面をすり抜けたからなのだが。


「ど、どこにいったんだ!?」


ハイロラはキョロキョロと周りを見渡す。

どうやら地面をすり抜けるとは分からなかったらしい。


「今よっ!」


この混乱しているところを逃してはならないとクレアが叫ぶと、


「ギィィィィイッッ!!!」


「なっ!?いつの間に!?」


ギレがハイロラの召喚したモノの後ろから現れた。

ハイロラは目を見張る。


が、


「……じょ、場外。ハイロラの勝ち」


「「「えぇ!?」」


ギレが出てきたのは、舞台上ではないところ。

場外となる場所から出てきてしまったのだ。


「あら。潜ることは出来るけど、居場所は分からないのね」


クレアは困ったように言う。

勿論演技だが。


 ーー作戦成功ね。


「お疲れ。ギレ」


「ギィ」


クレアが労いの言葉をかけると、ギレは少し不満そうな声を出した。

どうやら、負けるのは嫌だったよう。


 ーーギレが負けても、ギレ自身にメリットがあるわけではないからね。納得できない気持ちは分かるわ。でも、

クレアは、ギレの気持ちが分かる。

だからこそ、


「何か欲しいものがあったら言って。今日は頑張ってくれたし、色々と買ってあげるわ」


「ギィ!」


キレの目の色が変わった。

物でつられたわけである。


 ーーチョロッ!。

クレアはそう思うが、口にすることはない。


「それじゃあ、後で色々見ましょうね」


とりあえずこれで今回の授業での出番は終わりだ。


「クレア。あんなモノ隠してたのか」


「ええ。アレの良い使い方が分からなかったから隠してたんだけどね。今回も上手く使えなかったし、もっと考えないと」


授業が終わると、クレアはオシャレ好きの少年ガガーラナと話をしていた。

普段一緒にいる女子2人は、とある用事でクレアから離れている。


クレアたち2人の会話の内容は、先ほどの戦い。

ギレの見せた能力についてだ。


「地面に潜り込めるとか、使い方次第ではかなり化けそうだが」


「そうね。潜入とかには便利なんだけど。ただ、ギレの性格的に同じ場所で長時間待機とかは無理だと思うのよねぇ」


「それもそうだが…………潜入以外だって色々使えると思うが」


ガガーラナはギレの能力を地面に潜れる力だと勘違いしているが、すり抜けられるのは地面だけでなく、ほとんどの物体だ。

そして、物体の貫通能力は全ての悪魔が使える。それこそ、『右腕』だって同じことが可能だ。


ただわざわざそんなことを他人に教える事はないが。

 ーー秘密があると女は美しくなるって、誰かが言ってた気がするわ。


「今回の試合で問題点が見えたわけだし、色々考えてみるわ」


クレアはそう言って、ガガーラナに背を向けた。

それから、自分の部屋に向かう。


つもりだったのだが、


「まあ待て」


ガシッ!

と、肩を掴まれる。


振り返ると、ガガーラナが良い笑顔でクレアの肩を掴んでいた。

クレアは苦笑する。


「えぇっと」


「俺も一緒に考えるぞ」


「そ、そう」


クレアは戸惑いながらも、頷いた。

 ーーこれは、逃げられなさそうねぇ。


「そ、それで?何か案はあるの?」


「ああ。ちょっと待ってろ。すぐに来るから?」


「?」





「…………ねぇ」


クレアはガガーラナに疑うような目を向ける。

ちょっと待ってろ。といわれたが、5分ほど経っても何も起きないのだ。


「そんなに焦るなよ。もうちょっとだから。……って言ってたら、来たぞ」


「え?」


ガガーラナが指さす。

その方向をクレアが見ると、


「クレアちゃぁぁぁぁん!」

「ちょっ!アンナリム!叫ばないで下さいッス」


こちらに走ってくる女子2名。

クレアの友人である、アンナリムとギービーである。


「クレアちゃああああぁぁぁぁんっ!……って、あっ!」


「え!?」


アンナリムが、こちらにまっすぐ走ってくる。

その途中で、盛大にこけてクレアを巻き込む。


「ぐふっ!」


「「クレアアアァァァァァ!!!????」」


友人たちが慌てる中、クレアは自分のレベルの高さに感謝するのであった。


「ごめんね。クレアちゃん」


「ううん。大丈夫よ」


頭を下げてくるアンナリム。

それに、クレアは気にしていないという風に手を振った。


こけたアンナリムだが、そのままクレアに衝突。

クレアは腹部に頭突きを受けたのであった。


「それで?2人はどうしたの?」


アンナリムとギービーが何をしに来たのかと尋ねる。

すると、2人はにやりと笑って、


「「もちろん、ギレの能力の活用方法を考えてきたんだ(ス)よ!」」


「あ、ありがとう」


元気いっぱいに言う2人に驚きつつも、クレアはお礼を言う。

 ーー2人がいなくなった用事はコレなのかな?


「それで?良い方法が思いついたのか?」


真剣な表情で尋ねるガガーラナ。

それに2人はサムズアップして応えた。


「じゃあ、早速教えて貰おうか。その方法を!」


ガガーラナは期待を込めた目で2人を見る。

2人は大きく頷き、


「私たちが考えた方法は、地面に潜った後にレーザーを出したりして、相手の意識をそらすって言う方法だよ!叫んだりしても良いんじゃないかな?」


「大きい音を出せる道具を持って潜っても良いかも知れないッス」


2人はそう解説した。

クレアとしても一考の余地がある方法。


 ーーなるほどね。頑張って考えてくれているわ。

クレアはそこまで自分のことを考えてくれているのかと、少し感動した。


「道具を使うのは無理なのよねぇ。それに、見えてない状態でレーザーを使うのはさすがに何があるか分からなくて怖いし保留。となると、音を出す方法を考えればいいかしら」


クレアは顎に手を当てて考える。

が、その考えは肩に手を置かれて中断された。


「ん?どうしたの?」


「そこも考えなくて大丈夫ッス!」


「そろそろ来るから、色々試してみよ!」


「来る?来るって、何が?」


クレアはアンナリムの言葉に首をかしげる。

だが、友人たちは微笑むだけ。


 ーーえ?何?どういうこと?

クレアが混乱していると、


「あったぞ」


そう言いながらやってきたのはハイロラ。

大きな荷物を背負っている。


「遅いよぉ」


「仕方ないでしょ。色々集めてきたんだから」


アンナリムが文句を言い、ハイロラが反論する。

そこに他の友人たちが集まり、


「それじゃあ、早速見せるッス」


「次期会長様が選ぶんだから、それ相応のモノがあるんだろうなぁ」


ギービーがハイロラの荷物を奪う。

そして、それをみながらガガーラナがハードルをあげた。


「そう言われると見せづらいんだけど!」


友人たちがそんな感じで話す中、

 ーーあれ?私だけ置いてけぼり。


「えぇっと」


戸惑うクレア。

その様子を見て、ガガーラナがやっと解説を始めてくれた。


「実は。俺がお前を引き留めている間、3人には活用方法とかを考えて貰ってたんだ。それで、ハイロラがその活用方法に良さそうな道具とかを商会から貰ってきたわけだ」


「は、はぇ~」


クレアは驚きもあり、間抜けな声を漏らす。

ただ、すでに友人たちは道具の準備に取りかかっており、その声を聞かれることはなかった。


「よし、まずはこれから」


そう言って、ハイロラが長細いモノを持ってやってきた。

ギレはそれを受け取り、不思議そうに眺める。


「これはどうやって使うの?」


「これは、光る棒なんだよ。こう。………ほっ!って、棒に魔力を込めると、棒が発光するって言う仕組みなんだ」


ハイロラが実演しながら言う。

オタ芸に使えそうな棒。


 ーーこれは、売れる!

クレアは商業本能が湧き出たが、今回の目的はギレの強化である。

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