悪役令嬢、久しぶりの夜
「勝者、ジャミュー!」
「「「「うおおおおぉぉぉおぉ!!!!!!!」」」」
現在決勝戦が終わったところ。
優勝者は、勿論ジャミュー。
最上級生で主席なんだから、優勝は当然と言えば当然。
さて、そんな彼女だが、
「うぅん。欲しい人形が」
クレアの人形を欲していたのだが、爆発したことによりまともな人形として機能しない。
ーー素材にするつもりだし、あげるわけにはいかないわね。
と、クレアは思っていたのだが、
「じゃあ、クレアちゃんの人形の残骸を頂戴」
「え?私の?」
残骸が欲しいと言われれば、断れるわけもなく。
クレアはジャミューに残骸を渡した。
クレアとしては予想外だったが、
ーーまあ、いいか。本命はコレじゃないしね。
こうして予想外のイベントもあったが、無事目的の部屋を入手。
部屋替えは、波乱の後に幕を閉じたのであった。
「おやすみぃ」
「おやすみッス」
「2人とも、おやすみ」
部屋替えをして、色々していたらあっという間に夜になった。
クレアは新しい寝室へと向かう。
そして明日は何があるのかと考えながら、ベットに入る。
そして、眠りに、
つくわけがなかった。
「久々に、夜の活動が出来るわ。一体何日ぶりかしら」
クレアはそう呟いて、部屋の窓から飛び出す。
その小脇には、クレアが改造した人形の姿が。
今まで、学校に入ってから夜の活動が出来ていなかった。
理由は部屋に窓がなかったから。
ーー何よ!あの部屋!誰にもバレずに外に出れないじゃない!
クレアは自分が元いた部屋に怒りながら、夜の街を走って行く。
行き先は、
ーーこの場所も、数日ぶりだわぁ。
「あっ。クラウン様!」
「こんばんは。クラウン様!」
「ああ。久しいな」
出迎えるクラウンの部下たち。
クレアは彼らに挨拶を返しながら、クラウンのアジトへと踏み入れた。
「よぉ。久々だな」
「ああ。久々だ。まさか、あのような部屋に入れられるとは」
クレアに話しかけてきたのは、かなり身長の伸びたセカンド。
この数年間で、また一段と実力を伸ばしている。
「で?それは何だい?」
そう言って指を指してくるのは、相変わらず見た目の若いファースト。
その指は、クレアの小脇に抱えている人形に向いていた。
「これか?これは、魔導人形、というモノらしい。以外と面白かったから、研究材料にしてみてはどうかと思ってな」
そう言って、クレアはファーストに人形を手渡す。
ファーストは受け取った人形を見回し、奥へと消えていった。
「きっと開発の奴ら、しばらくはあれだけ研究することになりそうだな」
そうは思うが、今は気にせず切り替える。
「軽く打ち合わせをするぞ」
「「「はい」」」
ファーストが戻ってきたので、軽く打ち合わせという名の情報整理を行うことにした。
この数日の間に起きたことなどを聞いておこうと思ったのだ。
ーーええっと、今の状況は、
その前に一応自分の記憶を確かめる。
クレアことエリーが火傷蜥蜴のボスだった『脳』を殺害してから数年。
『脳』は死んだものの、火傷蜥蜴が壊滅するようなことはなかった。
とはいっても、火傷蜥蜴という名前の組織はもうない。
そこそこの地位に居た者達が次のボスは自分だと名乗りを上げ、内部分裂しだしたのだ。
現在火傷蜥蜴から内部分裂してできた組織は全部で3つ。
大規模な内部分裂が起こる前に王国から反乱を起こして現在はアーニ王国にいる毒龍も合わせれば、4つ。
では、それぞれの組織がどこで活動しているのか。
まず王国内は北部以外が誰の勢力圏内でもないことになっている。
本当はクラウンがいるのだが、権力者を下に付けたりはしていないのでクラウン自体に影響力はあまりない。
ーーまだ政治関係に詳しい人材がいないから、手を出すのは早いわね。
ここで一旦他の闇の組織を知るにあたって必要となる知識に、各国の位置関係がある。
ということでまずはイモート王国。
イモート王国はクレアたちがいる国で、大陸から飛び出した半島のような位置にある。
海を少し進むとアーニ王国があり、イモート王国はアーニ王国と貿易している唯一の国だ。
イモート王国の北東と接するのが、アーネ帝国。
唯一火傷蜥蜴に対抗できた組織のある国で、国の東側は国家直属の組織であるリブコールが裏の支配をしている。
イモート王国の北にあり、アーネ帝国の北西部と接するのがイトー王国。
海と接していない内陸国であるが、イトー湖という巨大な湖が国の中央部にある。
このイモート王国、アーネ帝国、イトー王国にアーニ王国を加えた4国が主な人間の国。
その周りには森があったり火山があったりして、開拓が進んでいない。
ここまで大まかな国を紹介したところで、その国々にどうそれぞれの組織が関わっていくのかについて解説していこう。
まず、イモート王国。
こちらは、少し前にもあったように北部以外はクラウンが支配しているが、そのことはあまり知られていない。
では、北部がどうなっているかというと、アーネ帝国とイトー王国の一部も含めて、血湯という火傷蜥蜴から分裂した組織が支配している。
ーー血湯。接している面積も広いし、潰す優先順位は高いわね。
そして血湯の支配する土地の更に上、イトー王国の南部以外は、苦霞という、これもまた火傷蜥蜴から分裂した組織が支配している。
ーーこの組織と協力すれば、血湯を挟み撃ちすることも可能。一考の余地ありね。
さて、では今度はアーネ帝国。
こちらは東に国家直属の組織リブコールが東側にいる。
そしてその西側には、涙角という組織があった。
またまた火傷蜥蜴から分裂した組織だが、この組織の重要なポイントは、その位置。
涙角は、毒龍を除く全ての組織と接している場所にいる。
つまり、色々な方向から狙われているのだ。
だが、この数年間この組織は潰れず、しかも、その支配面積をほとんど減らすことなく存続している。
その理由が、
ーー涙角と血湯の同盟。これがあるから、涙角は東側のリブコールに、血湯は北の苦霞、南の私たちに集中できる。
組織同士の同盟が、非常に厄介なモノとなっていた。
「……では、報告をします」
「ああ。我が出られなかった間でどれだけ変化できるかは分からないが、とりあえず報告して貰おう」
「はい。我らクラウンは毒龍を壊滅させ、アーニ王国の闇を支配下に置くことに成功しました」
ーーえ!?そっちぃぃぃ!!!????
「……そうか」
クレアは、驚きすぎてコレしか言えなかった。
ーーま、まあ、大陸内で争いが起こってるから、後ろを警戒するのも分かるわよ。でも、そんな簡単に落ちるもの!?
「新人の教育もかねて行ってみたところ、あっさりと壊滅しました。ただこの背景にはアーニ王国の武器の質があまり高くなかったことが原因であり、他の組織を同じように壊滅させることができるとは考えない方が良いかと思います」
「うむ。そうだな」
クレアは毒龍を倒せた理由に納得して頷く。
ーーそんな簡単に倒せるなら、もっと早い内に倒しても良かったかも知れないわね。
「つきましては、クラウン様にはアーニ王国にある毒龍のものだった拠点などをどう活用するか、ご指示を頂きたいのですが」
「ふむ。そこそこの広さはあるのだろう?そうなると、活用方法は真剣に検討するべきだな」
クレアは顎に手を当てて、活用方法を考えた。
ーー拠点とかは大きさもまちまちだろうから、判断が難しいけど。
「……そうだな。では。広い拠点は工場にでもして、後方支援に使え。小さい拠点は、こちらの拠点として使ったり、新技術等の研究所として使っても良いだろう」
「了解しました」
こうして報告が次々とされていく。
そして、
「クラウン様。今回はセカンドが頑張ったんだ。褒めてやりな」
話し終わると、突然ファーストがこんなことを言ってきた。
クレアは数秒セカンドを見つめた後、
ポンポンッ。
と、セカンドの頭を叩いた。
「よくやってくれた。今後も期待してるぞ」
「お、おう」
セカンドは顔を若干赤らめながら横を向く。
ーーん。流石にこの年になると、頭を撫でられるのは嫌がるかぁ。
クレアは顔を背けるセカンドを見て、少し残念に思う。
そんなクレアを見ながら、数人が、
「あらぁ。相変わらずクラウン様は鈍感だねぇ」
「そうですね。ここまで来ると兄が可哀想です」
「でも、見てる分には面白いですよ」
そんな話がされていたとか、されていなかったとか。
ーーあら?ファーストと女子2人の目が温かいわ。
よく分からないが、とりあえずこれで報告も終わったということで、
「我はそろそろ仕事をしてくるとしよう」
「ああ。いってらっしゃい」
「また明日」
クレアは部下たちに別れを告げ、外へと出る。
そして、
「ギャアァァァ!!????」
「うわぁぁぁぁ!!????」
盗賊狩りを行った。
ーー久々の盗賊狩りだけど、……そこまで腕はなまってないわね。このまま続けて、今日はリハビリにしましょう。
殺しのリハビリとか、恐ろしいことを考えるクレア。
そんな彼女は、勿論この数年で力を付けていて、
【ステータス】
名前:エリー・ガノル・ハアピ(偽名:クレア)
種族:人
LV:967
職業:公爵令嬢
HP:245100 MP:24510
攻撃力:10030 防御力:10010 機動力:10140 運:11900
スキル:『魔力感知LVMAX』『魔力操作LVMAX』『暗殺LVMAX』『一撃必殺LVMAX』
『剣術LVMAX』『演技LVMAX』『洗脳LVMAX』『精神支配LVMAX』
『呪纏LVMAX』『手加減LVMAX』『呪いLVMAX』『短剣術LVMAX』
『調教LVMAX』『全属性魔法LVMAX』『合成LV7』『鞭術LVMAX』『弓術LVMAX』
『魔道具作成LVMAX』『詐術LVMAX』『自爆LV2』『魅了LV4』
称号:『力の器』『魔力と共存するモノ』『魔力を扱うモノ』『暗殺者』『断罪者』『死刑執行人』
『死を知らせぬ者』『終わりを始まらせる者』『剣聖』『呪いを御すモノ』『力を御するモノ』
『呪うモノ』『魔を悟りしモノ』『鞭聖』『魔により作りしモノ』『欺くモノ』
加護:『光の加護』『毒の加護』『闇の加護』
という、見たら目が痛くなるようなステータスをしている。
スキルも称号も増え、レベルも上がっている。
レベルに至っては、後もう少しで1000になりそうなほどだ。
ただし、それは見た目上の話。
このレベルまで来ると、クレアでさえ1つレベルを上げるのに2月近く掛かるようになってくる。
そのため、後数週間は盗賊を狩らないとレベルは上がらないという予想だ。
ただ、そこまでになってくるともう完全に常人とはかけ離れた力を持つことになる。
「さようなら」
スパスパッ!
いくつも首が飛ぶ。
クレアの加護による首の切断は、新しいスキルによって強化されていた。
とはいっても、首を切断するから強化されてもあまり変化は見えないが。
「いいな。新しい魔道具を作った甲斐があった」
それでも、クレアとしては納得の出来。
自分で知覚できる速さを超えて首が切断されるので、自分に同じ技を使われたら反応できないという自信があった。
そして、その強化するために使ったもの。
それはクレアが呟いていたように、魔道具である。
クレアが新しく手に入れた『魔道具作成』というスキルで、魔力によって動く道具を作ったのだ。
その道具で今回使っているのが、
「加護の力を30倍に高める道具など、常識的に考えれば作れるようなものではないのだが」
加護の力を30倍。
それは、加護持ちならほとんどのモノがほしがる効果。
クレアの場合は、光と闇の加護が両方強化されてステータスが恐ろしいほど高くなっているし、毒の加護の効果である毒の耐性も30倍。
ーー私、強くなったわねぇ。




