悪役令嬢、人形遊び
「それでは、早速トーナメント戦を行っていくよ!初戦の対戦相手はくじ引きで決めるから、良い機体を作っても1回戦で負ける可能性もあるよ!」
ジャミューがそんな説明を行う。
説明が終われば、すぐにくじ引きが行われ、対戦相手が決まった。
「あっ。クレアちゃんの初戦の相手」
「うわっ!クレア。頑張れ!ッス」
クレアのトーナメント表を見て、友人たちが微妙な顔をする。
なぜなら、初戦の相手が、
「はっ!お前が初戦か!この前の恨み、ここで少し晴らしてやるよ!」
プライドが高くて商会の会長の息子なハイロラだったのだ!
ーーまあ、手加減しなくて良いし、丁度良いのかしら?
クレアがそう考え、対策を考えていると、
「クレアちゃん!次はあなたの試合よ!」
「あっ。もう?」
すぐに試合がまわってきた。
クレアたちの試合は、かなり最初の方に行われる予定だったようだ。
「それじゃあ、両者人形を置いて!」
コトッ。
会場に人形を置く。
「何だそれ?何の改造もしてないじゃないか」
小馬鹿にするようにハイロラが言う。
そう言う彼の人形は鎧で覆われていて、かなり防御力が高そう。
それに対して、クレアの人形は外見に変化はなかった。
まるで、何の改造も行われていないかのように見える。
「それじゃあ、両者魔力を流して!」
審判役の生徒がそう言ってきたので、クレアたちは人形に手をかざす。
魔力を人形に流すと、
ーーおお!自分の意思の通りに動かせるわ!
人形を自由に動かせるようになった。
「お前の人形くらい、すぐにぶっ壊してやるよ!」
ハイロラが叫ぶ。
ーー最初にあったときは、もうちょっと綺麗な言葉を使ってた気がするんだけど。
「それでは、始め!」
審判が声を張り上げる。
そして、すぐに勝負はついた。
まずクレアがやったことは、
ドォォォンッ!
「え?」
爆撃である。
対戦相手のハイロラはその爆発に驚き、間抜けな顔をさらしている。
だが、クレアはそんなことで手は抜かない。
ーーあの顔は演技かも知れない。あと3発は撃っとかないと。
クレアはそう考え、顔が半分ほど割れている人形からまた爆発を起こさせた。
ドォォォンッ!ドォォォォンッ!ドドオオォォォォォォンッ!!!!!!
「え?え?ええ????」
ハイロラは視線を左右にさまよわせている。
何が起こっているのか理解が追いついていないようだ。
クレアが爆撃を終わらせ、煙が晴れると、
「勝者、クレア!!」
審判が判断を下す。
少しの沈黙の後、
「ふ、ふざけんなぁ!」
大声で怒鳴るハイロラ。
人形遊びで負けたことが認められないようだ。
「ふざけてないわよ。あなた、ふざけた相手に負ける程度なの?」
「うるさい!僕は、僕は負けてない!!」
見苦しいことこの上ない。
クレアがどうしたモノかと視線をさまよわせると、
「はぁい。負けた人はこっちだよぉ」
「え?おい?ちょっと、待て!!」
先輩が来て、ハイロラを引きずっていった。
クレアはそれを苦笑しながら見送る。
「クレア。おめでとう!」
「うわっ!?」
突然何かにぶつかられる。
何かというのは、アンナリムなのだが。
「クレア。おめでとうッス。ハイロラが負けてスッキリしたッス」
「2人ともありがとう」
賞賛の声をかけてくる友人2人に感謝の言葉を述べる。
それから3人で話していると、友人たちも戦いがまわってきた。
「………強すぎだよぉ」
「……あんなの勝てるわけないッス」
結果は惨敗。
2人とも、あっさりと負けてしまった。
「まあ、仕方ないわよ。先輩が相手だったんだし。今年頑張って勉強して、来年頑張りましょう」
「「……そうする(ッス)」」
そんな感じでクレアが2人を励ましていると、すぐに時間は経ち、
「それでは、2回戦を始めるよ!!」
2回戦。
クレアは最初から戦うことになった。
「………相手はあなたね」
「ああ。お互い頑張ろう」
そう言って笑うのは、オシャレ好きの少年ガガーラナ。
なんと彼も2回戦に進んでいたのだ。
「おぉ!新入生の主席と次席が戦うぞ!」
「下剋上か!?」
外野が異様な盛り上がりを見せている。
クレアは、その外野の言葉を聞いて、
「え?次席だったの?」
「ああ。知らなかったのかよ」
ガガーラナは苦笑しながらクレアを見る。
ーー4位くらいだと思ってた。とか、言えないわぁ。
「まあいい。それなら今回の戦いで、君の脳にハッキリと植え付けてあげよう!」
「そうなることを願ってるわ」
2人はそう言って微笑み合う。
そのタイミングで審判役の生徒が出てきて、
「それでは、始め!」
戦いが始まった。
クレアは先ほどと同じように、
ドォォォォンッ!ドオオオォォォンッ!!
爆撃を。
戦いのステージから煙が上がる。
クレアはそこから離れた場所で、じっとその煙の中を見ていた。
「っ!おお!!!」
「マジか!」
煙が晴れてきて、中のモノが見えるようになる。
すると、観戦者の一部から、驚きの混じった声が聞こえる。
「ど、どうにか耐えた」
ガガーラナは自分の人形を見て、ほっとしたような表情で呟く。
それから、すぐに表情を切り替えて、
「今度は反撃だ!」
そう言葉を発すると、人形が赤く光った。
元々青いカラーリングがされていて、鎧のようなモノも付けていたのだが、いつの間にかそれらはなくなっている。
「やれぇ!」
赤い人形はクレアの人形に急接近し、その拳をクレアの人形にたたきつける。
かと思われた瞬間、
プシュ~。
熱が抜けるような音が聞こえた。
「な、何だ?」
ガガーラナは、音と、自分の前の光景を見て固まっていた。
彼の目に映る光景は、
「うん。しばらくは動けないんじゃないかしら?」
ガガーラナの人形が、動くことなく止まっていたのだ。
それを、クレアの人形が撫でたり軽く叩いたりしている。
「審判。判定は?」
「え?えぇっと」
クレアに判断を促された審判は、ガガーラナに目を向ける。
ガガーラナは少し困ったような表情をした後、黙って頷いた。
「で、では、勝者クレア!!」
「「「おおぉぉ!!!」」」
観戦者たちが沸く。
ーー相手のオーバーヒートを誘発する機能、作ってて良かったぁ。
どうにか勝ち上がることができた。
次は3回戦だ。
「クレアちゃん!頑張って!」
「頑張れッス!」
「俺の分もよろしくなぁ!」
友人たちから応援が跳ぶ。
クレアはそれに手を振って応え、3回戦の舞台へと足を踏み出した。
「……勝者、クレア!」
「「「おおぉぉぉ!!!!」」」
第3試合、簡単に勝利を収めることができた。
爆撃だけで倒せたのである。
次は第4試合だが、
ーー残りは30人くらい。これ以上勝つと目立ちすぎるし、そろそろ負けても良いかしら?
クレアは、4試合目か5試合目くらいで負けておこうと考えた。
この程度なら、自分の欲しい部屋が全て埋まると言うことはないと考えたから。
そう考えてから30分くらいした後。
「勝者、クレア!」
「「「おおぉぉぉ!!!!!」」」
第4試合。
クレアの勝利で終わった。
ーー私、負ける予定だったんだけど。
クレアはそう思うが、勝ってしまったものは仕方ない。
なぜ勝ってしまったのかと言えば、
「いやぁ。まさか、先輩が棄権するとは思わなかったッス」
「でも、クレアちゃんの魔導人形は強いから、気持ちは分からなくもないかも」
相手が棄権したからである。
勝負をする前に向こうが棄権してしまったのだ。
「残りは16人。勝つのは厳しそうね」
クレアはわざとそう呟く。
それから、
「私棄権するわ」
「「「え、ええぇぇぇ!!!????」」」
「いやいや。クレアちゃん、何言ってんの!?」
「折角良いところまで行けてたじゃないッスか」
「俺を倒しておいてそれはないだろぉ」
棄権すると言ったクレアに、友人たちが抗議をする。
不満なのは友人たちだけでなく、
「えぇ~。折角クレアちゃんと戦うつもりだったのになぁ」
寮の長、ジャミューがそう言ってくる。
ーージャミューって、戦うとしたら決勝戦のはずよね。
「いやいや。ジャミューたちと戦って勝てるわけないじゃない」
「本当にぃ~?」
「本当よ。というか、新入生が上級生を全員倒せるとか、どれだけ強いのよ」
クレアがあきれたような声で言う。
だが、ジャミューはどこか疑っているような表情。
「ふぅぅん。でも、それだとクレアちゃんの魔導人形は、私が貰うことになるかなぁ?」
「へ?どういうこと?」
「あれ?言ってなかったっけ?優勝者は、好きな人形を1つ選んで、他の人から貰うことが出来るんだよ」
「え!?」
ーーこ、困るわ!これ、私が今後使っていく予定だったのに!
クレアはジャミューの話を聞いて焦った。
「……棄権、取り消すわ」
「はい。では、第5試合に入って貰います」
仕方なくクレアは棄権を取り消した。
ーーどうしよう。だからって優勝するのは目立ちすぎるし、欲しい人形もないし。
クレアは今後の予定を考えた。
だがもう人数が少なくなってきたため、あまり考える時間もなく、
「第5試合始めます!」
すぐにクレアが出なければならなくなった。
因みに第5試合は、準々決勝である。
ーーあれ?私、十分目だってる気が……、いやいや。優勝するよりは、マシ?
クレアは自分が目立っていないことを願った。
「そうでは、始め!」
試合開始。
クレは3つ目の人形の力を使う。
ドオオォォォォンッ!
大爆発。
「ふっ!なめるなよ!対策は立ててきたんだ!」
対戦相手の先輩は余裕そうな表情を見せる。
ーー確かに、爆発には耐えられるんでしょうね。でも、
煙が晴れてくる。
そこには、
「あ、あれ?俺の人形が」
クレアの人形だけが残り、相手の人形は跡形もなく消え去っていた。
対戦相手は驚きで目を見開く。
「うわぁ。エグいな」
「やばぁ。消滅かよ」
観戦者たちも驚きというか恐怖というか、微妙な表情をしている。
ーーよし!爆発で消えたと思ってくれてるわね。
実は相手の人形は、爆発で消えたわけではない。
爆発は、煙を出させて何をやっているか分からなくするため。
本命は別にある。
「凄いね。準決勝だよ!」
「いやぁ。クレアは先輩にも勝っちゃうッスからねぇ」
「このまま行けば、優勝できるんじゃねぇか?」
嬉しそうにする友人たち。
クレアはその様子に苦笑していた。
ーー次の試合で負ける予定だけど、この子たちドン引きするかしら?
クレアが負けたらどんな顔になるかと想像し、
ーーまあいいか。目立たないのが1番よ。
そう思って、
「それでは、準決勝を行います!!」
準決勝の舞台へと足を踏み出した。
言わずもがな、既にかなり目立っている。
「それでは、始め!」
準決勝が始まる。
直後、
ドオオォォォォンッ!!
大きな爆発と共に、
「え?」
「あ?」
「こ、壊れたああぁぁぁ!!????」
クレアの人形が大破した。
どうやら爆発物が発射される前に爆発してしまったらしい。
「あら?私の負けね」
「しょ、勝者、ガハム!」
「「お、おぉぉぉ」」
観戦者たちから、盛り下がった声が聞こえる。
迫力のある戦いを期待していたので、コレも仕方のないこと。
「く、クレアちゃん。そ、その、ドンマイ」
「お、惜しかったッスねぇ」
「うん。まあ、準決勝までいったんだし、良かっただろ」
友人たちが困ったような顔で慰めて来る。
クレアはその様子に少し心を痛ませながらも、
「あはは。少し人形に無理をさせすぎたみたいね」




