悪役令嬢、初日からこれ
朝食も取り終わり、クレアたちは居心地の悪い食堂から抜け出す。
それから、また各々の部屋へと一旦戻った。
「それじゃあ、10分後くらいに」
「了解!」
約束した10分後。
クレアの部屋の前には、すでにアンナリムとギービーが待っていた。
流石に、オシャレ少年ガガーラナは別行動である。
ガガーラナとしても、女子3人に自分だけだと色々思うところがあるらしい。
「それじゃあ、行こうか」
「ええ。初めての登校よ!」
「いやぁ。学校、楽しみッスねぇ」
3人は和気藹々とした雰囲気で雑談をしながら、寮を出る。
その足が向かう先は、勿論学校。
すでに沢山の生徒が登校中であり、クレアたちもそこに紛れる。
だが、主席のクレアとガタイの良いギービーがいるため、目立つことは避けられない。
「うぅ。視線が痛いッス」
「はいはい。それを避けるためにも、加護の研究をするのよ」
3人は教室に着き、適当な席に座る。
それから、教科書を見たりしながら話していると、
「皆さん、おはよう!」
背の高い男性が入ってきた。
彼は、
「俺は、このクラスの担任、ダンだ!よろしく!」
クレアたちの担任らしい。
ーーゲームだと担任とか出てこないからなぁ。
「それじゃあ、早速なんだが授業を始めるぞ!」
そう言って、ダンは緑色の黒板へと向かった。
教室内は少しざわめいている。
ーー急な授業。何の授業か分からないし、こうやって生徒たちの気持ちを切り替えさせようとしてるのかしら?
そして数十分後、
「……よし!今日はここまで!」
ダンは授業終了を宣言した。
その瞬間、
「「「うはぁぁ~~~」」」
クラスの半分くらいが机に突っ伏した。
それは、クレアの隣にいた友人も同様で、
「リム。ギービー。大丈夫?」
「大丈夫、だよ」
「嘘ッスね。アンナリムも私も、力が入らないッス~」
ぐでぇ~。
と、2人はなっている。
ーー次の授業もこの教室みたいだし、軽い復習でもやっておけば良いかしら。
クレアはそう考え、先ほど受けた授業の復習をしようと教科書を開く。
「リム。ギービー。さっきの授業で分からないところとかあったら訊いて。私ができる限り答えるわ」
「「え?」」
2人は目を丸くする。
そして、
「「そう言えばクレア(ちゃん)、頭良いんだった!」」
どうやら忘れられていたらしい。
エリーはそんなに今まで自分は理知t系に魅せられていなかったかと思いつつ、2人の相手をしていく。
「つまり、この文字は……」
「「ほぇ~」」
エリーは友人の2人に対して、授業の復習を聞かせていた。
ノートに図などを書いて説明していき、視覚からも聴覚からもわかりやすいようにする。
「クレアちゃん。説明上手いねぇ」
「コレが主席の力ッスか~」
説明を受けた友人たちは、感心したように頷いている。
そして、頷いているのは2人だけではなく、
「クレアさん。凄いんだね」
「あの。良かったら次の授業とかも聞かせて貰っても」
いつの間にか集まっていた生徒たちも、救世主を見るような目でクレアを見ている。
それだけでなく、他の授業も解説しろとのこと。
「お前らぁ。席に着けぇ」
「あっ。先生来た」
「頼んだよ。クレアさん」
教師がやってきて、生徒たちは自分たちの席へ戻っていった。
ーー休憩時間に勉強漬けとか、私、休む暇がないわねぇ。
結局その日、3つの授業を終えた。
そして、
「………ということで、魔力の関係が読み取れるわけ」
「「「へぇ~」」」
エリーは、クラスメイトたちに勉強を教えていた。
3つ目の授業は授業らしいことをしなかったため、現在は次の授業の予習中。
さて、そんな予習を済ませた生徒たちがどうなるかと言えば、
「な、なんでこれが!?」
教師の驚愕の声。
最初に難しい問題を出して生徒たちの気持ちを引き締めようとしたのに、その問題をあっさりと解かれてしまったのである。
「クレアさんが教えてくれたので当然!」
「なっ!クレア!………なら、この問題を解いてみろ」
クラスメイトの1人が、クレアから教わったと言ってしまう。
それによって、教師のヘイトがクレアに集まった。
だが、
「ああ。この問題は。公式に当てはめて、こう、ね」
「……せ、正解だ。ぐぬぬぬぬう」
教師がクレアを見て唸っている。
問題を解かれたことが相当悔しいらしい。
やっと人間らしい言葉を発したのはしばらく唸ってから。
恨み言の1つでも出るかと思っていたが、
「………主席だしな。解けるノモ当たり前か。しばらくは簡単な授業が続くから、しばらくは来なくても問題ないと思うぞ」
まさかの休んでもいいよ宣言。
エリーも流石に驚いたが、
「分かったわ」
と、軽く返しておくにとどめた。
そして、
ーーそういうことなら、ここで考え事でもさせて貰いましょうか。
クレアは今後について考え出した。
今後の予定。
直近の大イベントと言えば、
ーー2ヶ月後の聖女召喚。これは、警戒しないと。
教会のトップ教皇の息子、イルデから2ヶ月後に召喚が行われると聞いていた。
ゲームでもその時期に召喚は行われていたので、それは予想の範疇。
その日は、国全体で祝日となるらしい。
クレアは、エリーとして召喚に立ち会う予定だ。
ーー問題は、召喚された後。私がやってきたことが無駄にならなければ良いんだけど。
聖女は、エリーの天敵。
エリーは身分を剥奪され、挙げ句の果てには弟に毒殺されるのだが、
ーー頑張ってアシルドの好感度も上げたし、王族の使える絶対命令権が使われないよう、アロークスたちとも仲良くなった。
身分を剥奪してくる相手も、毒殺しようとしてくる相手も好感度を上げてある。
この情勢なら、エリーの危険度は下がるように思われるが、
ーーゲームみたいに、男がチョロいままだと困るのよねぇ。
ゲームでは3回ほどデートをして、幾つか贈り物をすれば簡単に男は落ちるモノだった。
もしそうなった場合、今まで高めた好感度なども無駄になる。
この状況まで来れば絶望的に思えるが、まだ手は打ってあった。
それが、漁村ガリタッド。
今や国内でトップの繁栄を誇る都市である。
ーーあそこの船に乗って国外逃亡も出来る。船員ともかなり仲が良いし、私を隠して船を出すくらいはしてくれるはず!!
なんてことを考えていると、
「今日はここまで!昼食を取ったら、実技だからな!!」
授業が終了。
クレアたちは教室を離れ、一旦寮へ戻って昼食を取る。
「1日目から想定と違うことになってるわ」
「そうだねぇ。クレアちゃん大人気!」
「でも、ずっとあれだとクレア疲れないッスか?」
クレアたちは昼食を取りながら雑談している。
ただ、会話をしながらも食事のペースはどことなく速い。
普段は健康のためにもゆっくり食べるのが大事と言ってるクレアなのだが、
ーーハイロラと顔を合わせて心の健康を悪くするわけにはいかないわ!!
ということで、急いで食べている。
ハイロラと仲良くするべきだとは思っているが、今はまだその時ではないという判断だ。
「よし。実技なのよね。行きましょう」
「「おっけぇ~」」
急いで寮から出る。
そして、また学校の校舎へ戻り、今度は演習場へ。
そこでは、教師だと思われる人が、
「『ファイアアアアァァァァァ!!ボオオオオオォォォォォルッ!!!!!!』」
大声を出していた。
「それでは、実技を始める。早速魔法を使うぞ!!」
午後の授業。
内容は魔法の練習。
「『ウォオオォォォォタアァァァァバレットォォォォォ!!!!!!』」
「『トルネェェェェドボムゥゥゥゥゥゥ!!!!!』」
魔法を使うため、叫ぶ生徒たち。
数十名の生徒たちが大声で叫んでいるので、耳が痛い。
ーーうるさっ!母親のヤツもうるさかったけど、人が多い分こっちの方がうるさいわ!!
クレアは両手で耳を塞いで、音に耐えている。
「おい。休んでないで、魔法を使え!」
教師がクレアに近づいてきていう。
耳を塞いでいたため、内容は上手く聞き取れなかったが、魔法を使えと言われているのは分かった。
「はぁ。『ダークスピア』『サンダーランス』」
サボるわけにも行かないので、とりあえず軽く魔法を使っておく。
黒い槍が地面から突き出し、雷の槍が飛んでいく。
「え?連発?でも、今、気合いが……」
その光景を見て、教師は唖然としていた。
ーーあら?教師が凄い顔してるわね。誰か凄い魔法でも使ったのかしら?見逃しちゃったわ。
「え?今、気合い入れてた?」
クレアが使った魔法を見ていた生徒が、瞬きをしながら尋ねてくる。
見た光景を信じることが出来ないようだ。
「入れたわよ。そうじゃなきゃ、魔法は使えないでしょ」
「あ、うん。そうだね?」
頷くものの、納得はしていなさそう。
生徒は首をかしげながら、クレアから離れていった。
「『ロックバレット』『サンダーバレット』」
クレアは次々と魔法を放っていく。
すると、いつの間にか生徒たちがエリーを眺めていて、
「凄いね。クレアちゃん!」
「そ、そんな連発するのに、どれだけ気合い入れてるんスかぁ?」
友人たちが話しかけてくる。
他の生徒たちからも、次々と賞賛の声や質問が飛んできた。
「……ちっ!」
その様子を見て、舌打ちをする学年5位がいたとか。
そして我慢の限界が来たのか、数時間後。
その日の学校が終了すると、
「……ふぃ~。疲れたぁ」
「同じくッスぅ」
「はいはい。お疲れ」
寮に戻り、ぐったりとするアンナリムとギービー。
クレアはその様子に苦笑しながらもねぎらいの言葉をかけた。
「ふんっ!あんなもので疲れるのか?」
小馬鹿にしたような声が聞こえる。
クレアは、それに気だるげな視線を向けた。
「あんなのとかいうなら、来る必要なかったんじゃないかしら?」
クレアは皮肉を言っておく。
すると、ハイロラは少し顔をゆがめたが、すぐに表情を変え、
「お前が余裕ぶっていられるのもここまでだ。今、ファララ商会会長の息子、ハイロラが、お前の解約を宣言する」
「…へ?」
「後悔してももう遅いぞ!一生後悔するがいい!!」
勝ち誇った様子で宣言した。




