悪役令嬢、色々デカい新入生
「いらっしゃ、」「あっ。そういうのいいんで、部屋案内して貰えますか?」
ジャミューの言葉が、バッサリと切られる。
先ほども言いたいことが言えなかったし、悲しい運命にあるようだ。
ーーあとで、ちゃんと話聞いてあげましょう。
エリーはその姿を見て、硬く心に誓った。
「あの子、凄い頭良さそうな見た目だね」
「そうね。たしか、学年で5番目じゃなかったかしら?」
クレアとアンナリムはコソコソと話す。
すると、それに気付いたからなのかは分からないが、その生徒はクレアを指さして、
「僕の名前はハイロラ。主席クレア。君から受けた屈辱は、必ず晴らしてみせるからな!」
それだけ言って、奥の方へ進んでいく。
エリーたちは苦笑した。
「5番目くらいが変にプライド高いって本当だったんだねぇ」
「そうだねぇ。クレアちゃん、お疲れ!あと、未来の私も苦労するだろうからお疲れ!」
「ええ。お疲れ。私は応援しておくわ」
3人は笑い合った。
直後、
「あっ。あいつ戻ってきた」
「道間違えてたからな」
なんとなくどういう相手か分かった気がした。
その後もまた、
「あっ。また新入生来たぞ!」
「いらっしゃぁい!」
新入生が来た。
今度はどんな変わった人が来るのだろうと、クレアたちはわくわくしている。
「いらっしゃ、って、デカッ!?」
先輩の1人が驚いて飛び退く。
すると、少しだけ疲れたような声で、
「す、すいませんッス。驚かせちゃって」
大柄の子が、柔らかい声で謝る。
エリーはそれを見て、目を細めた。
エリーにはその子に覚えがあったのだ。
ーーあの子。主人公の仲間の、
「あなたが筋力の加護を持つギービーちゃんね」
「はい。ギービーッス。よろしくお願いしますッス」
ギービー。
筋力の加護という加護を持つ、体は大きいけど心は優しい女の子。
普段から変な目で見られるが、他の人と変わらずに接してくれる主人公に心を開き主人公の友人となる。
ゲームの設定では、正面から戦えばセラニナ(セカンドの妹)にも勝てるという話。
ーーあの大柄じゃ、普通の一部屋では少し狭いわよね。どんな部屋が用意されるのかしら?
濃い面子が集まると思うわけだが、まだ終わらない。
「あっ!また来た!」
「いらっしゃい!!」
更に追加で新入生が入ってくる。
クレアたちはそちらの観察をしようと視線を送る。
「いらっしゃい」
「ん?ああ。こんちは」
入ってきたのは、この世界から見るとかなり軽装の男子。
白い髪で、Tシャツのような服を着ている。
「ま、また変わった子が来た」
「リム。あなたが言える台詞じゃないわ」
エリーの言葉に、アンナリムはそれもそうだと苦笑する。
ファッションが少し先に進みすぎている少年は、辺りを見回し、
「大してファッションは進んでないか。まあ、強いて言うなら……主席ちゃんくらいだな。俺はガガーラナだ」
ガガーラナが右手を差し出してくる。
エリーはその手を見てあえてにぎらずに、
「腕時計とかしてみたら?」
「腕時計、だって?」
ファッションに本気のガガーラナは目を見開く。
驚いた理由は、腕時計がそこまで安くなくて簡単に手を出せるモノではないと言うこともあるが、
「その発想はなかったな。小物としての腕時計と言うことだろ?」
「その通りよ。私はやらないけどね」
エリーは、自分でやるほどファッションに興味はないよと言っておく。
だが、
「なあ。俺と一緒にファッションの研究をしないか?」
「しないわ」
なぜか研究に勧誘された。
当然即座に断ったわけだが。
「そ、そうか。仕方ない。今回は諦めよう。だが、興味が出たら声をかけてくれ。男女両方のファッションの最先端を友人と押さえてみたいし」
「あら。友人認定してくれるのね。気が変わったら声をかけるわ」
2人はそう言って別れた。
その光景を見ていたアンナリムは、ぽつりと
「恋の波動って、ガガーラナ君と?」
なんてことをつぶやいていた。
エリーことクレアはそんなことも知らず、新入生が全員すでに寮に来たということで移動を始めて、
「あら。ギービー、で良かったかしら?困りごと?」
クレアは筋肉少女ギービーに声をかけた。
ギービーは、ビクッと肩をふるわせて振り向く。
「うぇ?な、何でもないッス」
ビーギーはその大きな腕を振って、何でもないと言う。
それから、その腕からひょこっと顔を出して。
「あ、あの。怖くないんスか?」
そう尋ねてくる。
クレアは数秒間ギービーの顔を見て、
「いや、怖くないわよ」
「ほ、本当ッスか!?私、怖くないッスか?」
ビーギーはその手でクレアの両肩を掴み、ユサユサと前後に動かしながら尋ねてくる。
クレアは目がまわりそうになりながら、
「こ、怖くないわ。そんなに気にしてるの?」
「気にしてるッスよ。地元じゃ化け物なんて言われてたし。クレアが初めて怖くないって言ってくれたッス!」
そこまで聞いて理解をするとともに、意識が若干遠のくのだった。
「クレアちゃん!大丈夫!?」
一瞬意識が遠のいたが、すぐに戻ってきた。
クレアのレベルが高かったおかげである。
「クレア。ごめんなさいッス。やっぱり、私……」
クレアを気絶まで追い込んだギービーは、しょんぼりとしている。
反省しているのは一目瞭然。
「だ、大丈夫よ。落ち込まないで。………とは言っても、ムダみたいね」
クレアが落ち着かせるように声をかけたが、ギービーの表情は変わらない。
それを少し眺めた後、クレアは、
「私が気にするなっていってもギービーは気にしそうね。それなら、ギービー」
「はい?な、何ッスか?私は駄目な子ッス」
ギービーの目が完全に死んでいる。
ーー相当トラウマがあるわね。
「気になるなら、改善できるようにしてみれば?」
「改善?そんなの無理ッス!加護の力なんスから」
「ふふっ。じゃあ、加護の研究をしてみたら?」
「研究ッスか?」
「そう。研究よ。加護について調べて、その効果を抑えられる技術の研究をすればいいのよ」
「なっ!?そんなことができるッスか!?」
ギービーは困ったような顔をしている。
出来たら嬉しいが、そんなこと出来るわけがないと思っているのである。
「分からないわ。でも私もそれをやってみたいし、私はやるわよ」
「えっ!?クレアもその研究やるッスか!?」
「クレアちゃん!?もう研究テーマ決めちゃうの!?」
エリーの宣言に、ギービーもアンナリムも驚く。
研究は大概数年かけるので、普通は時間をかけて決めるモノなのだ。
「……ん~。クレアちゃんがやるなら、私もやるかぁ」
「えぇっ!2人とも決めちゃうッスか!!???」
しばらく考えた後、アンナリムも研究することを決めた。
ギービーは信じられないようなモノを見る目で、2人を見る。
だが、
「………なら、私もやるッス。というか、この流れで私がやらないとか出来ないッス」
こうして3人は、いつか研究をするテーマを決めるのであった。
そんなこともありつつ色々と起きた1日が終わる。
そして、次の日。
「おはよう」
「あっ!クレアちゃん、おはよぉ!」
「おはようッス!」
クレアたちの寮は個室。
ということで、通常会うのは部屋を出てからとなる。
クレアがアンナリムとギービーと会ったのは食堂。
朝食を食べるために、数人の生徒が集まる。
「うぅん。食堂なのに、人が少ないよねぇ」
「そうね。研究する人たちは、朝食を食べない人が多いみたいだから」
「朝食食べないと、体に悪いって聞いたことあるんスけど」
エリーたちはそんな雑談を行いながら、朝食を食べる。
そうしていると、他の生徒も降りてきて、
「ちっ!クレアか」
ーー聞こえる大きさで舌打ちしないで欲しいんだけど。リムもギービーも睨んでるから怖いわ。
空気が変わってきた。
ジロッ。
「………」
ジロジロッ。
「…………」
ジロー。
「……………」
シロ~~~~。
「……そんなに見つめられても困るんだけど」
あきれた声でエリーは言う。
だが、返事は返ってこない。
ボソボソッ。
「あの人誰ッスか?」
「5位のハイロラだよ。ムダにプライドが高くて、クレアちゃんを目の敵にしてるみたい」
「へぇ。迷惑な人もいたもんスね」
友人となった2人がコソコソと話しているが、ギービーのがたいがいいため、コソコソと話していてもすぐ何か言われているのは分かる。
そのため、
「お前たち!僕をそんな目で見るな!!」
と、ハイロラは怒りだした。
ーーさっきまで私をじろじろ見てたのは誰かって言いたいわ。
「ん~。凄い空気が悪いな」
ハイロラが、機嫌悪いです!と言う雰囲気を醸し出す中、新たに部屋に入ってきたのはオシャレ大好きなガガーラナ。
昨日とはまた違ったファッションをしている。
「あれよ。新入生にありがちな、話しかけたいけど話しかけられないみたいな人がいるのよ」
「「ぷっ」」
エリーの言葉に、友人たちは吹き出す。
逆に、ハイロラはものすごい形相でエリーを睨んでいた。
「ふぅん。まあ、気持ちは分からないでもないが。……と、そんなことより、どうだ?早速お前が言ってたことをやってみたんだが」
ガガーラナは右手を前に出す。
そこには、緑色の腕時計が。
「あら。良いアクセントになってると思うわよ。学校で腕時計が流行っちゃうかも知れないわ」
「ん?流行ったらマズいのか?」
流行っちゃうかも、という言い方に引っかかりを覚えてガガーラナは尋ねる。
その質問に、エリーは肯定の意味で首を振った。
「まだ私の所の商会が腕時計を販売していないから、もう少し遅くして貰わないと、売り時を逃しちゃうわ」




