悪役令嬢、人質ですか?
「本当に、いいんだね?」
「ええ。パーティー。行かせて頂きますわ」
パーティー当日。
エリーはどうにか父親を説得し、パーティー参加の許可を得た。
ガタゴトと馬車に揺られ、目指すのは首都にあるサッド家の屋敷へ。
エリーはその馬車の中で、これからどんなことが起こるのかと屋敷へ思いをはせていた。
「ん。見えてきたよ」
窓から外を眺めていたバリアルが、屋敷を発見した。
エリーも窓から外を見てみる。
「あれは、アロークスの馬車でしょうか?もう来てるんですのね」
エリーは屋敷に泊められた馬車を見ていく。
そうしていると、1つ不自然な馬車を発見した。
ーーあれは?
馬車の近くで、黒ずくめのモノがウロウロとしている。
十中八九火傷蜥蜴の手のものであろうと考えられた。
ーー油断は出来なさそうね。
エリーは覚悟を決め、罠へと自ら踏み出すのだった。
「エリー。ようこそぉ」
「あら。デュランス。ご機嫌よう」
馬車から降りると、サッド家の長男であるデュランスが近づいてきた。
エリーはそのデュランスに笑顔を見せる。
ーー表情に暗さはない。事情は聞かされていないようね。
エリーはその様子から素速く判断した。
「イルデとかも来てるから、話しかけてきたらぁ?僕は、ここで対応しなきゃ行けないからねぇ」
「分かりましたわ。頑張ってくださいまし」
デュランスに別れを告げ、エリーは会場へと入っていく。
会場へ入ると、すぐに違和感に気付いた。
ーー魔力が異様に多いのが数人。強い魔力を無理矢理押さえ込んで目立たないようにしているのが十数人、といったところかしら。
エリーは、魔力感知に反応した数人を、気付かれないように見た。
そんな警戒を暫くしていると、
「それでは、パーティーを行わせてもらおう!」
サッド家公爵が、そう言って部屋の中央に立つ。
持っていたワイングラスを上に掲げ、
「乾杯!」
「「「「乾杯!!」」」」
パーティー開始。
エリーは辺りを見回し、この瞬間に動くだろうと予想した。
ーー角の方で、辺りを見回せるように。
エリーは会場一帯を見れるような位置へ移動する。
「あれ?エリー?」
途中でその様子を見たイルデが話しかけてきた。
エリーはともに話しながら、目立たないように人混みへ。
「どうしたの?」
「いえ。今日は、普段とは違った動きをしようと思っておりますの」
ーー左に1人。右にも強い魔力が。
エリーはイルデと会話しながら、不審者に近づかれないよう気をつけた。
数人が追いかけてきてる気がするが、人混みの中に入れば入るほど見失われていく。
エリーは。コレを続ければ大丈夫かと考えていた。
「あっ!エ、」
どこからかエリーに声をかけようとしてくる。
それを感じた瞬間、エリーはそこから見えない位置へと移動した。
「……今、エリーを呼ぼうとしていた人がいたけど」
「ああ。そうですの?後で声をかけておきますわ」
イルデは、怪訝そうな顔をした。
エリーがあえて無視したのだと気付いたのだろう。
「……エリー。今日、いつもと調子が違わないか?」
ーーもしかして、イルデの私への信用が落ちてきてる?それはヤバい!!
エリーは急いで言い訳を考えた。
「私達、この間襲われたではないですか。そのため、お父様から一部の信用できる人としか話さないように言われてますの」
「ああ。そういうことか。そこまで頭が回らなかったな。すまない」
配慮が足りなかったとイルデが謝る。
エリーはそれに、気にするなと手をヒラヒラ振って応えた。
直後、
「動くなぁ!コイツがどうなってもいいのかぁ!!」
「動くなぁ!!」
男の低い声が響く。
エリーたちは何事かとそちらへ視線を移した。
「っ!そうきましたのねぇ」
エリーはそこにいた人間を見て、表情を引きつらせた。
そこにいたのは、
「ロメル様!」
「お前!何のつもりだぁ!!」
第1王子のロメルが、大柄な男に捕まっていた。
大柄な男は鎧を着ており、ロメルの護衛をしているモノだったことが分かる。
「うるせぇ!近づくな!近づいたら、こいつをぶっ殺すぞ!!」
男はそう言って、ロメルの首へ剣を当てた。
これで、貴族たちは何も言えなくなる。
下手なことを言ってロメルが殺されでもしたら、自分の首が飛びかねない。
何も言えずに男を睨むだけの貴族たち。
その貴族たちを見て、男は満足そうに頷いた。
それから、
「エリー・ガノル・ハアピを出せ!そいつを渡せば、こいつは解放してやる!!」
エリーは数秒間悩んだ。
ここで、自分が出て行き、ロメルを助ける価値があるのかと。
エリーは悩んだ末に決意を固め、隣のイルデに微笑む。
ーーまあ、私がこんな罠だと分かるパーティーに来たのも、こういうことが更に深刻になることを防ぐためだったわけだしね。
「はいはい。私をご指名ですか?」
「エリー!?やめろ!くるな!!」
エリーは脳天気な口調で出て行った。
エリーの姿を見たロメルは、エリーが殺されることを確信していたので、必死にその足を止めさせようとした。
「そう言われましても……国王陛下。どうされます?」
エリーが国王の方を見ると、国王は苦しそうな顔で頷いた。
それでエリーが自分のために死にに行くのだと、ロメルは悟る。
「やめろ!お前が死ぬ必要なんかない!!」
「………はぁ」
必死に止めるロメルを見てエリーはため息をつく、
それから、不敵な笑みを浮かべ、
「ロメル。命がかけられない友達など、お友達とは言えませんわ」
ロメルは、その言葉で悔しそうな顔をした。
エリーはそれを見て、苦笑しながら頬をつつく。
「もぅ。すねないでくださいまし」
「……俺は、いつまでもお前を超えられそうにないな」
ロメルは頬をつつかれながらも暗い顔をしていた。
エリーはその言葉を聞いて、不思議そうな顔をする
「そうですの?あと数年すれば、身長は抜かれると思いますが」
「……そういう事じゃ無いのだけどな」
エリーの言葉に、今度はロメルが苦笑する。
だがここで初めてロメルの顔から暗さが薄まった。
「ふふふっ……それでは、誰が私をエスコートしてくださるのかしら?」
エリーは数秒ロメルに微笑んだ後、周りを見回していった。
すると、族たちの中から数名、黒装束のモノたちが出てくる。
「俺が連れて行ってやろう。王子が殺されたくなければ、大人しくついてこい」
「ふふふっ。そんなこと、言われなくて分かっておりますわ……では、行きましょうか」
エリーは微笑んでついて行く。
通路を歩いていると、
「随分と素直に来たな」
「そう?身分的に私が行かないわけにはいかないから、普通だと思ったんだけど。それに、行かなかったら行かなかったで、今度は普通に処刑されそうじゃない」
エリーを案内する男が意外そうに言ってきた。
エリーはそれに、砕けた口調で応える。
「ん?お前、そんな口調だったか?」
男は意外そうな顔で問いかけてきた。
エリーは、それに素直に応える。
「どうせ、私がこれからボスとか言うのにあったら、今まで通りに行くことはないでしょう?死ぬ可能性も高いわけだし。……まあでも、」
「でも?」
「いや、何でもないわ」
男は何なんだとエリーを見つめるが、エリーは素知らぬ顔。
ーーでも、私があなたたちを全滅させる可能性の方が高い。とか、言えないわねぇ。
男は何が言いたかったのか気になったが、残念ながら(?)それを問い詰める時間はなくなった。
男は表情を引き締め、
「ここだ。この部屋に、ボスがお持ちだ」
慎重に扉をノックする。
すると、
「入れ」
どこか楽しそうな声が部屋から聞こえた。
男は緊張した顔持ちで、部屋の扉を開く。
「よぉ。お前が、エリー・ガノル・ハアピか?」
中にいたのは、数十人の黒ずくめのモノたち。
そして中央には、豪華な椅子に座り片手でワイングラスを持った筋肉隆々で入れ墨を入れた男。
「違うと言ったら、いったいどうなるのかしら?」
エリーは微笑んだ。
入れ墨の男と視線がぶつかり火花が散る。
数秒睨み合い、先に折れたのは入れ墨の男の方だった。
視線をそらし、笑みを浮かべる。
「変人だな」
「あなたには言われたくないわ。火傷蜥蜴さん」
エリーの言葉に、部屋の空気が変わった。
入れ墨の男は、殺気を放ちながら尋ねてくる。
「お前、なんでそれを知ってやがる?」
エリーはそれに、なんと言うことはなさそうな顔で応える。
「あら?幹部を2人ほど失った組織を、どうして知らないと思いますの?」
「っ!?そこまで知ってやがるのか」
入れ墨の男は、目を見開く。
それから、少し落ち着いたようで1度椅子の背にもたれかかり、小さくため息をついた。
「………お前、何者だ?」
入れ墨の男はどう答えるべきか迷う質問をしてきた。
普通に答えるとしたら、公爵家の令嬢。であるが、
「お前、ただの公爵家の令嬢じゃねぇだろ」
と、言われたらそう答えるのは難しいのだ。
しばらく入れ墨の男を観察した後、エリーはあることに気付いた。
「……あら?増援を送らなくていいのかしら?」
「ん?何を言ってるんだ?」
入れ墨の男は不思議そうな顔をする。
ーーこの人たち、会場の部下が制圧されていることに気付いてないのね。
「あなたたちの部下、殺されてるわよ」
エリーがそう言って微笑むと、部屋にいた火傷蜥蜴のものたちは顔を見合わせた。
それから、黒装束の1人に、入れ墨の男が指示を出して会場へ向かわせた。
「……帰ってこねぇな」
数分後。
入れ墨の男は苛立ちのこもった言葉を漏らす。
エリーの方はエリーの方で、疑問を感じていた。
ーー黒装束、殺されてないわね。拘束されてるみたいだけど。
「仕方ない。お前たち、いけ」
入れ墨の男が、黒装束たちに指示を出した。
すると、全ての黒装束が部屋から消える。
「あら?全員行かせて良かったの?」
「あぁ?お前を見張るのは、数人で十分だろ。ちょっとナイフが使えるかも知れないが、実力差がありすぎるからな」
「そう」
エリーはただそれだけ言って頷いた。
その直後、部屋が赤く染まる。
「は?」
それを見て、入れ墨の男は唖然としていた。
なぜなら、
「ああ。あなたたちは生き残ったのね」
「う、嘘だろ?」
生き残ったのが、たった2人だけだったからだ。
その2人とは、入れ墨の男と、その隣にいた金髪の眼帯男。
「あぁ。でも、そっちは放っておけば死にそうね。……姿が見られないようにしておきますか」
しかも、金髪の眼帯こと、『右足』は瀕死だった。
ほぼ1人と行っても間違いではない。
エリーは、突然のことに戸惑っている入れ墨の男をよそに、着替えを行った。
その着替えというのは、
「あ、あれは、『左足』と一緒にいた、」
その姿を見て、瀕死の『右足』は、目を見開く。
彼の目に映るのは、黒いコートを着た鳥の仮面だったから。




