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悪役令嬢、読み違い

化け物と言われてしまったエリー。

それを今嘆いていた。


「お、おぉ。それは、ひどい、ねぇ?」


バリアルはエリーの頭を撫でた。

それから、助けを求めるように隣のターリルを見るが、


スッ。

と、視線をそらされた。


化け物を否定できないらしい。

エリーもそれを察したが、口には出さないから気を遣ってくれているのも分かった。


「いやぁ。でも、今の感じからすると化け物って言うのも間違いじゃない気がするけどねぇ」


だが、デュランスがそれを破壊した。

エリーは顔をガバッと上げる。


「デュランスもひどいですわ!ターリルは傷つけないよう言わないでくれてたのに!!」


「え?あっ。バレてたか」


ターリルがばつが悪そうな顔をする。

デュランスは更に貼り付けた笑みを深くした。


「……え、えっと」

「エリー?」

「だ、大丈夫か?」


バリケードをつくって賊たちから身を守っていた友人たちが、エリーの心配をしてくる。

エリーの気持ちは少し柔らかくなったが、次に来た言葉でまた、


「この様子なら大丈夫だろ。精神力も化け物並みってわけだ」


「ちょっ!ロメル!!女の子に化け物っていうのやめて下さいまし!私のガラスのような繊細な心が傷つきますわ!!」


エリーはすねたようにプクッと頬を膨らませる。

すると、アロークスが、肩をポンと叩いてきた。


 ーーおっ。アロークスは私のことを励まそうとしてくれるのねぇ。分かってるじゃない。

と、思ったのだが、


「うん。全然心が弱そうに見えないから、諦めて」


「アロークス!?そこは優しく慰めるところではなくて!?」


エリーは予想と違った行動に驚き、目を見開いた。

それから、誰か慰めてくれないかと友人たちを見回したが、全員視線をそらした。


「み、皆ひどいですわ!信じてたのにぃ!!」


エリーが泣き真似をすると、友人たちは笑い声を漏らした。

それに貴族たちもつられ、会場は少し明るい雰囲気を取り戻すのであった。




そしてそんなパーティーが終わり、夜。

エリーは盗賊を狩ったりしていたが、他の場所ではとある会議が開かれていた。


「……ダメだった、か」

「もう、終わってしまうのだな」


部屋は暗い雰囲気に包まれている。

その部屋で、生きる希望を失ったような顔をしているモノたちは、今回のエリー殺害を計画した貴族たちや協会関係者だった。


「まさか、殺害者が裏切るとはな」


「あいつさえ!あいつさえ裏切らなければ!!」


「あいつを選んでしまったことは、悔やんでも悔やみきれん」


部屋のモノたちは、エリーに脅されて裏切った男に苛立っていた。

苛立っていると言うより、恨んでいた。


もう死んでしまっているが、それでも更に苦しむようにと数人は呪いをかけていたりする。

可哀想な限りだ。


ただ、彼らもそんなことをしなければ耐えられないのだ。


コンコンコンッ。

ノックの音が部屋に響き、部屋の中のモノたちは一様に顔を暗くした。


「来たか」


その後返事も待たずに部屋に入ってくるのは、全身に入れ墨をした筋肉隆々の男。

それに続いて、黒ずくめの男たちが入ってきた。


「この前は良くもやってくれたな。今日は、お返しをしてやりに来たぜ」


入れ墨の男はそう言うと、腕を振る。

すると直後、数人の首から血が噴き出し辺りを赤く染めた。


「ふむ。殺すのはこれくらいでいいか」


入れ墨の男はそう呟き、黒ずくめたちをやめさせた。

残ったのは、サッド家公爵や教皇など、部屋にいた、メンバーの中でも身分の高いモノたち数名。


「さて、これで俺たちを敵に回せばどうなるかよく分かっただろう?」


問いかける入れ墨の男。

その目に映るのは、刃物を首に押し当てられているサッド公爵たち。


「本当ならお前たちまで殺そうと思ったんだが……お前ら、何か面白そうなことしてるみたいじゃないか。自分たちで賊まで雇って、何がやりたかったんだ?」


問いかけ。

それに答えなければどうなるか分かったものではない。


残った者達は慎重に言葉を選びながら口を開く。


「………ほぅ」


入れ墨の男は、興味深そうにサッド公爵たちの話を聞いた。

その顔は、話が進みにつれて笑みが深まっていく。


「エリー・ガノル・ハアピか」


その名を呟き、入れ墨の男は腰のナイフを抜いた。

それから、そのナイフを机に、


ドンッ!

と、力任せに突き刺し、


「よし。そいつ、殺してやろう」


「「は??」」


サッド公爵たちの顔に、困惑の色が浮かぶ。

なぜ、この入れ墨の男がエリーを殺すというのか。


「加護を2つ持って、いい気になってるんだろうなぁ。俺がそいつを恐怖のどん底に陥れ、泣いて許しを請う様を見せてやるよぉぉ!!」


入れ墨の男には、加護を2つ持つエリーが気に食わなかったらしい。

ここで、実は3つなんですと言ったら更に殺害意欲が高まりそうだ。


因みに、この入れ墨の男こそ火傷蜥蜴のボス。

『脳』と呼ばれ、世界中で恐れられている存在である。


当然その実力も折り紙付きだ。



そうしてサッド公爵たちが火傷蜥蜴のボスである『脳」に脅されていた頃。

エリーは盗賊を狩る作業を中断し、拠点で報告を受けていた。


「……やはり、アレは教会とサッド家の策略だったか」


「申し訳ありません。クラウン様。私たちが油断していたばかりに」


エリーの正体を知る幹部たち数名はエリーに頭を下げる。

エリーとしては。そこまで気にしなくていいと思ったのだが、


「どうか。私の命だけで」


「ファーストさん!やめるんだ!ここは俺が」


「ダメですセカンド!あなたにも、護衛という大切な仕事があるじゃない!!ここは、私が」


結構大変な感じになってた。

エリーは、急いで話題をそらすことに。


「そんなことより、未来に目を向けろ。奴らは火傷蜥蜴が戻ってくると考えて計画を実行したわけだろう?なら、今はそちらの対策を考えるんだ」


「「「はっ!」」」


どうにか命で償わせることから話題をそらすことが出来た。

エリーたちは火傷蜥蜴の対策を考えるため、元幹部たちを呼び寄せることにする。


「さて、それでは会議を始める」


エリーは余計なことを考えさせないため、重苦しい口調で言った。

部下たちも真剣な表情となる。


「まず、大前提として我らの目的が火傷蜥蜴壊滅でないことは言うまでもない。目的は、世界の闇を支配することだというのを忘れることがないように」


「「「はっ!!」」」


エリーの口上が終了し、早速議論が始まった。

火傷蜥蜴の元幹部、『左足』や『左手』などから精鋭たちの情報を聞いたりして、対策案が次々と立てられていった。


そんな中で特に議論が盛り上がったのが、


「今回火傷蜥蜴がこちらに入ってくると言うことは、逆に言えば外の人員が少なくなると言うことではないでしょうか?それならば、国内で火傷蜥蜴と事を構えるより、海外進出に目を向けるべきでは?」


というモノだった。

国内が危機的な状況であるからコソの逆転の発想である。


だが、勿論反対意見も上がる。


「そのようないたちごっこをしていては、いつまで経っても世界を支配できないのでは?」


そんな風なことを言い合いながら、議論は進んでいった。

だが、その次の日、


「え?」


数日後のこと。

エリーは、そんなバカなというふうに唖然としてした。


「ほ、本当なんですの?」


信じられず、最後確認が行われる。

エリーの父親は、その確認に頷いた。


「ああ。本当のことだよ。サッド家がパーティーを開くらしい」


「そ、そんな」


エリーは頭を抱えたくなった。

だが、本当のことなのだ。


 ーー絶対罠に決まってるじゃない!なんで!?火傷蜥蜴が戻ってきて、サッド家たちはそちらに下ったって聞いたけど。

エリーは、パーティーの目的を考えた。


 ーー火傷蜥蜴が、邪魔な貴族を排除したいのかしら?

エリーは、集められたメンバーが殺されるのではないかと予想する。


ただ、それよりも問題なのは、

 ーー折角立てた私たちの計画、完全に破綻したじゃない!!


そもそもどの計画も、エリーが狙われることなど想定していない。

なぜなら、そんなことを考えるのは敵対している公爵家や教会くらいなものだと考えていたんだから。


「はぁ~」


エリーはため息をついた。

その様子を、専属メイドのメアリーが心配そうに眺めている。


「パーティーが気がかりなのですか?」


メアリーが、主人であるエリーの心配の種について尋ねる。

エリーはその質問に頷いた。


「その通りですわ。なぜ、あんなことがあって即パーティーを開けるのか」


エリーは視線を下げながら言った。

メアリーは、その質問に答えられない。


それからしばらく、()()()()に沈黙が訪れた。

その静寂を壊すように、馬車がガタンッ!と揺れる。


「おっと。到着したみたいですね」


メアリーが窓の外を眺めて言う。

エリーは立ち上がり、馬車から出た。


「よぉ。エリー」


「こんにちは。イルデ」


「パーティーで襲われたって聞いたけど、大丈夫だったか?」


「えぇ。大丈夫でしたわ。イルデも気をつけてくださいませ」


エリーは定型文のように言ったつもりだった。

だが、それはフラグであったと、即座に後悔にさいなまれる。


「そうだなぁ。サッド家からパーティーに招待されたし、僕も気をつけないと」


「……え?」


エリーは自分の耳を疑った。

 ーーえ?今、サッド家のパーティーって聞こえたんだけど、


「そういえば招待状には他の公爵も来るって書いてあったけど、エリーも来るのか?」


「あ、あぁ~。そ、そうですわね。行ってもいいんですけど」


エリーは慌てた。

本当は、行きたくなどない。


「ん。もしかして、今回は見送るつもりだったか?まあ、襲われたばかりだし、今回は控えた方がいいかも知れないか」


そこまで聞いて、ある可能性を考えた。

 ーーーこのパーティー、私が来なかったらどうなるのかしら?


「私が来なかったら、デュランスが悲しむかも知れませんわね」


そう言って、イタズラっぽい笑みをエリーが浮かべる。

それを見て、イルデは苦笑を浮かべた。


「そうかもしれないな。だが、エリーが無理をした方が、もっと悲しむんじゃないか?」


エリーは、返答に困った。

まるでそれは、凄い仲が良い友人のような反応だから。


 ーー私、そんなにデュランスと仲が良かったっけ?

正直そこまで思われているとは考えられなかったが、予想より好感度はそこそこ高いのかも知れないと思えてくる。


「ん?もしかして、」


エリーの頭に浮かぶ、とある可能性。

それは、


 ーーもしかして、イルデたちが捕らえられて、人質にされる?

という可能性。


まず、火傷蜥蜴が本当にエリーを狙っているかも分からない。

だが、エリーが狙いでなかったとしたら、


 ーーパーティーで、有力者の子供たちを殺害する可能性も!?


「どうしましょうか。行きたいと言ったら、お父様たちから反対される可能性も高いですが」


エリーはそう言ってみる。

イルデはそれに、微妙な顔をした。


「いや。だから、さっきも言ったけど、必ず来る必要はないと思うぞ」


「まあ、それはそうなんですけど」


エリーは悩む。

行くべきか、行かないべきか。


エリーはあまり目立ちたくないから、この間のような派手なことはしたくない。

だがここでパーティに出なければ、イルデを含め重要人物が大量に死ぬことになる。


 ーー私の目的のためには、でない1択。だけど、

しかしエリーには、イルデたちへの友情が芽生えていた。


ゲームのキャラとしてイルデたちを見ていたときには感じなかった感情。

この感情をエリーは、


「……説得、大変そうですわね」


「ん?行くつもりなのか?」


「そうですわね。行ってみますわ。私のパーティーの思い出を、悲しいままにしたくはありませんから」

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