悪役令嬢、嘘ぴょ~ん
「お、俺は」
男は視線をさまよわせる。
それと共に、エリーを押さえつける力は弱まっていた。
だが、エリーは無理矢理振りほどこうとはしない。
どうせなら、利用してしまおうと考えたのだ。
「あなたは、仲間のために死ぬ心優しい方なんですの?」
「お、俺は、俺は………」
男の目が、変わった。
エリーは誰にも見られないように微笑む。
「俺は、死にたくない!!」
「なっ!お前!裏切るつもりか!?」
「おい!あいつを殺せ!!」
賊が動き出した。
エリーは、男を利用するなら素早い説得が必要だと考え、
「あなた、死にたいんですの?……あぁ。もし私を殺さなければ、罪の軽減を申し出てあげてもよろしくてよ」
「っ!くそ!くそぉぉぉ!!やってやるよぉぉぉぉ!!!!」
男はもう、頷くしか選択肢はなかった。
「エリーが説得した!僕も動かないと!!」
エリーを見ていた兄のバリアルは、エリーが男を説得したことを見て、すぐに行動を開始した。
賊の1人に後ろから襲いかかり、剣を奪う。
「はああぁぁぁ!!!!」
それから、他の賊に斬りかかった。
賊は反応が遅れ、右腕に傷を作る。
「ガキが!なめんじゃねぇ!!!」
「くっ!数が!!」
1対1ならどうにかなりそうだったが、他の賊の数人が集まってバリアルを囲んだ。
バリアルも、流石にこの数を相手にすることは難しい。
ーー勝てないね。何人を道連れに出来る?
自分の死は避けられないとバリアルが覚悟したとき、
「隙ありだぁ!!」
囲んでいた賊の数人が、背中から血を吹き出し倒れる。
その背中に傷を作った存在は、
「ターリル!」
「バリアル。やるなら、俺にも声をかけてくれよ」
「君がいるなら心強いよ」
「そっくりそのまま、同じ台詞を返すぜ」
そう言い合いながら、バリアルとターリルは背中を合わせる。
2人とも戦ったことがあり、お互いが強いことはよく分かっていた。
だからこそ、仲間として戦うなら非常に心強い。
2人は、勝利を確信して、笑顔を浮かべながら賊へと斬りかかった。
「はい!そっちにテーブルを」
「コレはちょっと薄いかなぁ。補充をよろしくぅ」
戦っているのは、バリアルたちやエリーだけではない。
直接的ではない戦いを、デュランスやアロークスは行っていた。
貴族たちを一カ所に集め、テーブルなどでバリケードを作っている。
賊に貴族を襲わせないための行動だ。
彼らは剣を使うことが出来ないが、彼らなりの土俵で戦っているのだ。
諦めずに自分の出来ることを探す。
その考え方をするのは、一体誰の影響なのだろうか?
その影響を与えた人物は、
「ちょっと!左からも来てますわ!右から、あっ!そっちにもいますわ!」
「う、うるせぇ!黙ってろ!!」
「ほら、そっちに!」
「おっ!?ちょっと待て、そっちは、あ、危ねぇ!!」
エリーと男は、指輪につながれた状態で動き回っていた。
その動きは優雅で、まるでダンスをしているよう。
ーー私、初めてにしてはダンスが上手い気が、って、また来た!数が多いわね!!
辺りから襲いかかる賊を障害物で避けながら、たまに反撃をする。
男が剣を振り、エリーはテーブルの上に置いてあるナイフやフォークを投げる。
少しずつではあるが、賊の数は減ってきていた。
「くそぉっ!剣の方はともかく、投げナイフが面倒くせぇ!!お前ら!テーブルの上の物を地面に落とせぇぇぇ!!!」
賊の1人が指示を出した。
すると、テーブルクロスごと下に物が落とされたり、テーブルがひっくり返されたりする。
これによって、エリーがナイフやフォークを拾いにくくなってしまった。
が、特に問題はない。
「ほらほら。こっちですわ!」
「えっ!いや、そっちはぁぁぁ!」
エリーたちはナイフなどが散らばっている場所を通り抜けていく。
それで敵に近づかれにくくしたのだ。
だが、恐れる様子もなくエリーは言った。
「大丈夫。この落ち方なら、脚が傷つくことはないはずですわ。ほら!私のダンスのお相手なんですから、もっと凛々しくしてくださいませ!!」
「ふ、ふざけんなぁぁぁ!!うわぁぁぁ!!!?????」
エリーに引っ張られながら、男は悲鳴を上げる。
下にあるナイフなどを踏んでケガしそうだが、そんなことは無い。
「待てぇぇ!!!!」
追いかけてくる元は仲間だったはずの賊で、更に男の恐怖心は大きくなる。
だが、
「いってぇ!?」
「さ、刺さった!」
追ってきた賊たちは立ち止まった。
そして、散らばったモノを避けるように座り、脚に刺さったフォークなどを抜いている。
「えっ?おい!あれ、ケガしてるじゃねぇか!俺たちは」
「私たちは大丈夫ですわ。ちゃんと、ケガしないような散らばり方をしているところを通ってますから!」
「じゃあ、なんであいつらはケガしてるんだよ!!」
「あなたや私が走りながら蹴って裏返したりしているからですわ」
エリーに言われて、自分の足下を見た。
そこでは踏んだナイフなどを後ろに蹴っている。
こうして追手の足を止められどうにかできるかと思われたが、
「おい!そっちまわったぞ!」
「分かってる!!」
賊たちの1部が、エリーたちの進行方向に立ち塞がった。
エリーたちは急いで向きを変える。
「逃がすかぁ!」
賊の数人がテーブルを倒し、エリーたちの逃げ道を塞いだ。
エリーたちはその中でも逃げ道をどうにか探し、障害物を抜けていった。
男は何度か体をぶつけたようだが、どうにか抜け切る。
だが、コレが間違いだった。
「っ!誘い込まれましたわ!」
「え?……くそっ!そういうことか!」
エリーたちは、部屋の隅に来ていた。
逃げられる道は、今来たばかりの道1つしかなく、そこには、
「やっと、つかまえたぜ」
「もうお前らは、逃げられないんだよぉ」
「大人しく剣のさびになれぇ!」
エリーと男は、顔を見合わせた。
そして、出した結論は、
「「抜けるしかないな(ですわ)」」
賊の合間を縫って逃げる。
他に道はない。
「やるなら、あっちですわね」
エリーは、賊にバレないように人の密度が低い場所を指さす。
男も、それに黙って頷いた。
「それでは、行きますわよ!!」
「おう!こうなったらもう自棄だ!!」
2人は同時に走り出した。
息の合った動きで、賊の集団にツッコむ。
「うわっ!抜けられる!……なんて、なるかボケェ!!」
賊の1人が、手を振り下ろした。
すると、それが合図だったのか周りの賊が腕を突き出し、
「「「「『ふぁいああああぁぁぁぁぁ!!!ぼぉぉぉぉるっ!!!』」」」」
気合いのこもったファイアーボールを放った。
炎の球が、先に出ていた男の体に直撃する。
「ぐわああぁぁぁ!!!」
男の悲鳴が上がる。
つまりそれは、呪いの指輪でつながれているエリーにも被害が出ると言うこと。
「「「エリィィィィ!!!!!」」」
貴族の子息などから、悲鳴に近い声が上がった。
逆に賊たちは、
「よし!」
「やったか?」
と、エリーを殺害できただろう事に喜んでいた。
2人目の『やったか?」は、フラグだと分かって言っているのかも知れない。
ファーアーボールの爆発により、エリーたちのいた辺りは煙に覆われている。
数秒して煙が晴れると、
「あへぇ!?」
「し、死んでる!!」
人が死んでいた。
だが、死んでいたのはエリーではなく、賊の数人だった。
「ふふっ。残念ですわ。煙があると、私に気付かなくて良かったんですけどねぇ」
「な、なんでお前が生きてるんだよ!!」
「そ、そうだ!おかしい!!呪いの装備まで付けて、あいつが死んだっていうのに、生きてるなんておかしいだろうが!!」
賊たちが困惑のこもった声を上げる。
それを聞いたエリーは、かわいらしく首をかしげた。
「呪いの装備?勿論、嘘に決まってるではないですかぁ」
「「「「え?」」」」
エリーの言葉に、賊だけでなく貴族たちも唖然とする。
誰も、エリーの言葉が信じられない。
「じゃ、じゃあ、なんであいつは指輪から離れられなかったんだよ!!」
賊が反論した。
貴族たちも、そうだそうだと言わんばかりに、首を振る。
ーーどっちの味方なのよ。
と、あきれながらも、エリーは解説を行うことに。
「この指輪は、呪いの装備に見えるように作られた『魔道具』なんですわ。魔力をちょっと乱して、軽く人体を引きつけるんですの。こういうときのために、護衛が持たせてくれたんですわ。」
エリーは、護衛が指輪をくれたと言うことにした。
自分で買ったとか言うと、どこで手に入れたのか聞かれたりしそうで面倒に感じたのだ。
「う、嘘だろ」
賊たちは怯えたような表情になる。
それではまるで、最初から、
「最初から、あなたたちは私の掌の上だったんですわ。……っと、お兄様、ターリル。受け取ってくださいまし!!」
エリーはそう言うと、下に落ちていた賊の剣を投げた。
バリアルとターリルは切れ味の悪くなっていた剣を捨て、それを受け取る、
「バリアル!こっちを片付けて、エリーの加勢に行くぞ!」
「ああ。もちろんさ!!」
2人はうなずき合い、自分たちを囲んでいた賊に再度斬りかかった。
エリーは、賊の視線が2人に移っている間に地面からナイフなどを拾い、賊を後ろから襲った。
「え?な、グアアアァァァ!!!」
「っ!お、」
賊の1人が、ナイフで首を刺され、血を吹き出した。
それを見た賊の1人が止めようとしたが、次の瞬間には頭部にナイフが刺さり即死。
「ば、化け物か!?」
賊たちは、容赦なく賊を殺したエリーを見て恐れおののいた。
エリーが賊たちを見る、賊たちは1歩下がる。
エリーが1歩詰め寄ると、向こうもまた1歩下がる。
エリーがナイフを構えると、賊たちは逃げ出した。
だが、
「ムダだよ」
「逃げられると思うな!」
逃げることはかなわなかった。
すでに、賊を倒し終えていたバリアルたちが、後ろにいたのである。
「「「うわぁぁぁ!!!????」」
盗賊たちの絶叫が、王城に響き渡った。
情報を吐かせるために数名捕まったが、殺された方とどちらが幸せだったか。
「エリー!」
あらかた片付け終わると、バリアルはエリーに抱きついた。
エリーはその勢いを踏ん張って受け止め、抱きつき返す。
「お兄様ぁ。あの人たちひどいですわ!私のこと化け物だとか言うんですのぉぉ!!!」




