悪役令嬢、パーティーを止めないで
メアリーのサポートのための作戦の成功を感じ取り、
ーー他の作戦も考えた方がいいかしら?
と、ちょっと危ないことになりかねないことを考えていると、
「エリー様は、好きな方とかいらっしゃらないんですか?」
メアリーからこんな質問が来た。
エリーは顎に手を当てて悩む。
「好きな人ですの?私、まだ恋愛とかよく分からないですわ」
嘘である。
エリーといえど、前世で数回恋愛をしている。
告白したり告白されたり、甘酸っぱい青春を過ごしたのだ。
そして、それに比べると、
ーー私、まだ子供すぎて好きになれないわ。
今まで会ってきた子供たちは、若すぎる、というか幼過ぎるのだ。
「エリー様。恋愛分からないんですか?それでよく作戦を考えられますね」
「ふふっ。だから、メアリーも私を信用するだけではいけませんよ。本当に効果があるのか、考えてやってみて下さいね」
エリーはどこか遠くを見つめるようにしながら、
ーーいつか私が、攻略対象に恋する日が来るのかしら?
そんなことも思いつつ、その後もどうでもいい事を話していく。
「へぇ~。エリー様。まだ恋愛は未経験なんですかぁ」
「そうですわね。まあ、知らないことより知ることの方が重要だと思いますが。
エリーとメアリーは雑談中。
そんなところに、
コンコンコンッ。
「入っていいかしら?」
「あぁ。キシィお母様。どうぞ」
キシィがやってきた。
その表情は、明るさと暗さの両方を兼ね備えていた。
「エリー。ご機嫌よう。あっ。メアリーも」
キシィが挨拶をしてきた。
平民嫌いでもあるはずなのに、メアリーにも話しかけてきている。
ーーよし!キシィにも、メアリーのことを覚えさせられたわ。このまま家族たちに認めさせ、結婚反対させないようにしてやるんだから!!
エリーは、メアリーが少しずつ認められてきていることを感じた。
「それで、どうかされましたの?」
「そ、その。旦那様が新しい子供でもと言い出して、私が候補に入ったのよ。それで、私ともう1人の候補に、それぞれ好きな場所に行くようって言われて」
「なるほど。お父様が好きなように部屋をまわって、先に出会った方と子供を、といった感じでしょうか?」
エリーは少しあきれたような声で確認する。
キシィは、その通りだと頷いた。
「変な制度ですわねぇ。お父様、優柔不断なのかしら?」
エリーは苦笑した。
そんなどちらにしようかな、などせずに、自分で選べないのかと。
「いや。これは、この国の貴族でやる人は多いわよ。エリーに教えなかったかしら?」
「教えて頂けてないですわね。そんな伝統もあるのですかぁ」
くだらないと考えていたが、伝統と言われると流石に無視できない。
エリーがあきれながら遠い目をしていると、
コンコンコンッ!
「エリー。いるかな?」
聞き覚えのある声が聞こえた。
エリーたちは顔を見合わせ、薄く微笑む。
「いますわ。どうぞ、お父様」
「ああ。失礼す、……キシィ。ここに居たのか」
父親たちはすぐに部屋から去ることとなるのだった。
そんな風に時間が過ぎていくある日の夜。
父親とキシィの間に妹か弟が生まれそうなことを感じ取って、エリーはウキウキで拠点へやってきていた。
すると、
「補給部隊!?そんなもったいない事を」
「クラウン様。一体どういったお考えなのですか!??」
部下たちが、エリーに詰め寄る。
その原因は、
「折角、最強と言われる『左腕』を引き入れたんですよ!」
「なぜ、戦闘部隊に入れないのですか!??」
と、いうことだった。
エリーも『左腕』が戦うことを嫌っていることを伝えたのだが、部下たちは部下たちで、嫌いでも得意ならやればいいと食い下がる。
「……『左腕』。お前は、戦わなければいいんだよな?」
「え?ああ。そうだが」
エリーは話の中心である『左腕』に確認する。
それから、少し考えて、
「ならば、補給部隊でなく、戦いの教員として活動して貰えるか?」
数日後。
クラウンの拠点では、教育が行われていた。
「ほら、それだと頭を狙われるぞ!もっとガードをシッカリと!!」
『左腕』の声が響く。
目の前には、大勢のクラウンたち。
『左腕』は、クラウンの新人に戦い方を教える教員となったのだ。
因みに、古参のモノたちは『左腕』より強かったので、教育を受けるモノは少ない。
数人は興味本位で受けているモノもいる。
そのものたちは、最初こそ『左腕』を教育係にするというエリーの判断に反対していたモノの、今はコレが正しかったのだと確信していた。
「通常の戦闘になれば、この戦い方を知っていれば強いな」
「ああ。奇襲には使いづらいかも知れないが、発見されたときには強い」
『左腕』の戦いは、かなり革新的だったのだ。
今までクラウンたちには足りていなかった、真正面での戦闘能力が向上していく。
クラウンは、さらなる戦闘能力の上昇を達成。
ただ、伸びたのは戦闘能力だけでなく、
「クラウン様は、ここまで考えておられたのだな」
「だが、それならなぜ補給部隊と言う言葉を最初に?」
「そっちの方が理解していることを伝えやすかったからでは?」
エリーの評価も向上していた。
そこからまたまた数日後。
今度はパーティーの開催日になった。
エリーは家族と一緒に馬車から降りる。
エリーの格好は紫色のドレスで、肩より少し長いくらいの髪をツインテールにしていた。
「エリー!」
「あぁ。アロークス。ご機嫌よう」
エリーが会場である王城に着くと、すぐに第2王子のアロークスに発見された。
ーーあれ?おかしいわね。久々にあった気がするわ。
週1のペースでお茶会をしているが、なぜか久々に会った気がした。
なぜか特殊グループを作って以来な気がしたのだ。
「よぉ。エリー!……アロークスは早いな」
「あぁ。ロメル。ご機嫌よう」
第1王子のロメルもやってきた。
ロメルは、エリーの隣にいたアロークスに苦笑する。
その後、
「エリー。こんにちは」
「ご機嫌よう!エリー!!」
「エリー!やっほぅ!!」
第1王女タキアーナ。第2王女リファータ。第3王子エイダーの3人もやってきた。
6人でいると周囲からの視線がものすごいので、1人ずつ個別に来てはいるが。
もちろん、声をかけてくるのは王族だけではない。
「あっ。エリー。それにバリアルも」
「おっ!久しぶりだな!!」
「元気だったか?」
声をかけてくる男子3人。
全員公爵家の長男で、クイフ、ターリル、ガリドルの3人である。
3人とは王族ほど会う機会がなく、会うのも1月ぶりくらいである。
エリーはバリアルと共に3人と接触すると、あることを思いだして辺りを見回す。
「ん?エリー?どうかしたのかい」
「あぁ。お兄様。気にしないでください。少し人を探して、……いた!デュランス!」
エリーは目的の人物、デュランスを見つけ、手を振る。
向こうもエリーに気がついたようで、歩み寄ってきた。
「やぁ。エリー。久しぶりぃ。それに、他の皆もこんにちはぁ」
サッド家の長男、デュランスは他の家の長男たちに挨拶をする。
された方も当然、挨拶を返した。
「なんだ。デュランス君もエリーの知り合いだったのか」
「そうだよぉ。というか、僕からしてみれば、君たちの仲がいいのは意外だなぁ」
そう言い合う長男グループは、どこか穏やかさがあった。
ーーこれは、公爵家長男の特殊グループが!?
ただ、数分後、
ーーちぇ~。
エリーは少しいじけていた。
理由は、公爵家長男たちの特殊グループが出来そうだったのに、人が集まってきて解散せざるを得なくなったからだ。
ただ残念ではあるが、デュランスがガリドルたちと話せていたので放っておけば勝手に完成するはずである。
ーー時間はあるんだし、気長に待っていることにしましょう。
そう思いながら、長男以外にも挨拶くらいはしておこうとエリーは周囲を見回す。
すると、丁度国王の正室と目が合った。
エリーは一瞬迷ったが、話をしてみることに決めて、
「おらぁ!」
突然、エリーの体を何者かが押し倒した。
エリーは腕を使って、受け身を取る。
「っ!?なんだ!?」
「おい!不審者だぁ!!」
それに気付いた貴族が声を上げるが、もう遅い。
出入り口の兵士たちは倒され、すでに包囲されていた。
「これから、このクソガキ、エリー・ガノル・ハアピの処刑を行う!!」
「処刑!?何のつもりですの?」
エリーは、押さえつけてきた男に尋ねた。
だが、返答の代わりに、
「うるせぇ!ガキは黙ってろ!!」
背中を踏みつけられた。
エリーは苦痛で顔をゆがめる…………演技をする。
「「「「エリー!?」」」」
心配をする声が上がる。
エリーはそちらは無視し、辺りの賊の観察を行った。
ーーうぅん?あんまり動きが洗練されてない?
よく見ると賊たちは、大半が緊張したような表情をしていた。
「それじゃあ、首を切り落としてやるよ」
男が、エリーの首に板のようなモノをはめた。
それは、まるでギロチンでも落とすようであったが、
「俺の剣のさびにしてくれる!!」
抜いたのは剣だった。
エリーは、できるだけ時間が稼げるように考える。
「一体何の罪で処刑をするつもりですの?」
「うるせぇ!てめぇに教えてやることなんて1つもねぇよ!!」
だが、男は時間稼ぎを理解していたわけではなさそうだったが、拒否されてしまった。
そのまま、男は剣を振り上げる。
「……はぁ。仕方ないですわね」
このままでは駄目だと理解したエリーは、腰のポケットに手を入れた。
それから、素速く指輪を取り出し、
「これ、貴重な物ですから汚したくないんですの。持っていてくださる?」
男に差し出した。
男は意味が分からず首をかしげたが、基調だというので後から金に換えられるかもしれないと考えて受け取ろうと触れてしまう。
直後、
「っ!?な、何だ!?魔力が!!!」
男は目を見開き、苦しそうにする。
エリーは指輪に男が触れたことを確認してから、
「あぁ。これ、呪いの指輪でしたわぁ。間違えてしまいましたぁ」
「の、呪いの指輪!??」
男は苦しそうな顔をしながらも驚く。
見ていた貴族たちも、呪いの指輪という言葉にざわめいている。
「あらあら。間違えてしまいましたわぁ。……間違えてしまいましたけど、この指輪の効果は魔力を乱して、触れたモノの装備を解除できなくする。だった気がしますわ」
エリーは、指輪の効果を告げる。
すると、男の顔は更に歪んだ。
「う、うそだろ。外せないのか?」
「そうですわね。現に、離そうとしても離せないでしょう?因みに、私の腕を切り取ろうとするのはやめた方がいいですわよ。1人で魔力を制御しないといけなくなりますから」
エリーはそう言って微笑む。
逆に、男の顔は更に顔を歪ませていた。
「おい!早く殺せ!」
男に対して、賊の1人が声をかける。
時間をかけたくはないのだろう。
「あら?私を殺してしまったら、この加護持ちである私の魔力が一体どうなってしまうんでしょうねぇ?」
「なっ!?」




