悪役令嬢 帰るのも楽じゃない
「た、助かったよ」
老婆は完全に修復された自分の腹を見ながら、エリーに礼を言う。
エリーたちは、老婆の家だという小屋に来ていた。
ーーこの小屋、ステータス偽装のアイテムを手に入れる場所よね。
エリーは小屋を見回して確信する。
「あの。おばあさん。相談があるんだけど良いかしら?」
エリーはステータス偽装のアイテムを、しばらく貸してくれないかと相談した。
すると、老婆は、笑顔になって2つの髪留めを渡してきた。
「コレはお嬢ちゃんにあげるよ。私なら、こんなモノ簡単に作れるしね。命を助けて貰ったお礼だとでも思ってくれれば良いさ」
「本当!ありがとう。おばあさん!」
エリーは満面の笑みで受け取った。
コレで危機を回避できるのだ。
嬉しくないわけがない。
「でも、私の命のお返しがそれだけとか、少なすぎる気がするねぇ。お嬢ちゃん。他に欲しいものとかは、ないかい?」
エリーはその老婆の発言に、ニッと笑って。
「じゃあ、仲間が欲しいな。おばあさん。私の仲間になってよ」
「ん?仲間?まあ、いいけど」
「それじゃあ、詳しい話は明日するから!バイバイ!」
老婆がうなずいたのを確認したエリーはそう言って、手を振る。
老婆も手を振ったのだが、すでにエリーの姿は消えていた。
エリーはとても急いでいるのである。
なんと、遠出したせいで身代わりの維持時間があと30分しかなくなってしまったのだ。
急がないと、エリーが消えたと言うことで騒ぎになってしまう。
せっかくステータス関係の問題を解消できたのに、常に監視が付くようになったら困る。
「グポオオオ!!!」
「邪魔!」
「ギョボォォ!!!???」
エリーは目の前に出てきたモンスターを殴り飛ばす。
次々とモンスターが襲いかかってくるが、容赦なく殴る。
《レベル65にレベルアップしました》
エリーは全速力で走り、10分ほどで首都に戻ってきた。
ただ、急いだため周りの目を気にしすぎていなかったので、どこかの町では夜に高速で移動する精霊を見たとかいう噂が広まった。
「残り20分」
ただ、ここからが問題だった。
「あ、足が上手く動かな、い」
エリーの体に疲労が出始めたのだ。
光の加護によって身体の力は強化されているが、それでも赤子の体には相当な負荷が掛かっていた。
「ど、どうにかしないと」
エリーの残り時間は15分になってた。
急いで疲れを解消できるモノを探す。
「な、何か、……あっ!あれは!」
悩むエリーの瞳に、とある顔が見えた。
それは、指名手配犯の人相書きに描かれていた顔。
指名手配されている盗賊だ。
エリーはその盗賊に狙いを定める。
エリーは盗賊を殺してレベルアップをすることにしたのだ。
レベルアップすれば、HPが全回復し、疲れもとれる。
エリーは光の加護によって使えるようになった攻撃を放とうと思ったが、途中でやめた。
エリーもかなりレベルが上がっており、盗賊1人を殺しただけではレベルが上がらない可能性があると判断したのだ。
「ゲヘヘヘッ!」
汚い笑い声を出しながら、盗賊は建物に入っていく。
その建物を確認すると、そこは酒場だった。
ーーうわぁ。酒場って事は、仲間かどうか分からないなぁ。
とは思ったモノの、エリーは異変に気づいた。
バーの店主と少し話をした盗賊が、扉に入った後、出てこなくなったのだ。
エリーは屋根に上り、盗賊が入った場所のスペースなどを確かめる。
タイムリミットは残り10分。
「隠し部屋があるようでもなさそうだし、地下かしら?」
エリーは建物の大きさを確認しながら、推測する。
エリーの推測では、盗賊が入ったのは地下だと考えられる。
「それでは、潜入しましょうか」
これより、制限時間5分程度の潜入作戦が始まる。
エリーは、まず、スキルを使う。
「魔力感知って、絶対にこんな使い方するためのモノじゃ無いと思うのよね」
魔力感知。
空気中の魔力を感じる、魔法の補助のためのスキルだが、
「中に10人程度、地下には、6人。殺せるわね」
エリーは魔力感知を人の気配を知るために使ったのだ。
細かく感知できないといけないため、通常ではされない使い方だが、スキルレベルをカンストさせたエリーだからこそできる。
「それじゃあ、さようなら」
エリーは光の加護を使って、地下の6人の首を飛ばす。
《レベル66にレベルアップしました》
レベルアップした。
コレによって、体の疲労感が消える。
残り3分。
少し時間を掛けすぎてしまっている。
「ハァハァ」
エリーは肩で息をしながら走る。
目の前には、屋敷が。
残り2分半。
「ん!警備が多い!?」
運悪く警備の交代の時間に当たってしまったようだ。
それによって、エリーは潜入に時間を食ってしまう。
残り40秒。
「ほっ!ほっ!」
エリーは窓枠に手を掛けながら、壁を登る。
そして、エリーの部屋に手が届く。
残り20秒。
エリーは部屋を見回す。
「誰も居ない」
人が居ないのを確認し、エリーは窓の鍵を開ける。
少し時間は掛かったが、開錠に成功。
残り10秒。
ゆっくりと足音を立てないようにベッドへ向かう。
残り5秒。
エリーはベッドの縁に手を掛け、
ポフッ!
柔らかい感覚が全身を覆い、エリーは睡魔に身を委ねた。
無事帰宅完了。