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悪役令嬢、海外旅行!

始めて魔法を実演しているところ見せてもらったエリー。

だったのだが、


「それじゃあ、エリーもやってみて」


「は?いや、やってみろと言われましても」


「いいから!やるのよ!!」


「……はい」


エリーはジト目になりながらも頷く。

それから、手を前に出して、


「ファイアーボール」


と、唱えた。

だが、何も起こる気配がない。


「えぇっと。どうすればいいんでしょうか?」


「うぅん。気合いが足りないわね」


エリーの目が死んだ。

母親は、先ほどの自分のように叫べというのだ。


 ーー嫌よ。あんな大声で叫ぶとか、恥ずかしすぎるわ!

エリーはそう考え、


「も、もう1度お手本を見せて頂けますか?」


「お手本?分かったわ。『ファイアアアァァァァボォォォォォルッ!!!!』」


ボンッ!と爆発音がする。


その様子を見たエリーは顎に手を当てて少し考えた後、手を前に突き出した。

それから、目を閉じて、


「『ファイアーボール』」


掌から火の玉を打ちだした。

魔法発動成功である。


 ーーよ、よかった。叫ばなくても魔法は成功するのね。

エリーはほっと胸をなで下ろす。


「えぇ。エリー。今、気合い入れてなかった気がするんだけど」


母親はそう言ってエリーを見る。

エリーは笑って答えた。


「そうですか?結構入れたと思いますけど!」


嘘である。

ただ、母親の魔力の流れを読み取って、それを再現しただけである。


「ふぅ~ん。ま、いっか。成功したんだし」


「それじゃあ、次の魔法へ行くわよ」


「あっ。はい」


顔を輝かせて言う母親に、エリーは大人しく頷く。

それから、魔力の感知に意識を集中させた。


「それでは、いくわよ!!『サンダァァァァァタァァァァッチ!!!!』」


バリバリバリッ!

母親の手から電撃が出る。


 ーースタンガン的な使い方はできるかしら?

エリーはこの魔法の使い方を考える。


「他のも見せてしまいましょう『ウォォォォタァァァウォォォォルッ!!!!!』」


水の壁が母親の周りに現れたた。

 ーー水の防壁。もうちょっと厚くすれば銃弾の推進力を失わせるのにも使えそうね。


エリーはなぜか科学と戦う方向で考えた。

そんなことをエリーが考えている間も、母親は次々と魔法を発動していく。


「『ダァァァクハンドォォォォ!!!!!』」

「『ソイルゴォォォレムゥゥゥゥ!!!!!』」

「『ライトボオオオオオオォォォォォォォム!!!!』」


そんな風にしていると、


「……ハァハァハァ」


大量の魔法を使った母親は、肩で息をしている。

エリーはそんな母親に、水を差しだした。


「あ、ありがとうエリー。今度は、ハァ、エリーもハァ」


「私がやれば良いんですね?分かりましたから、息を落ち着かせてください」


エリーは母親を座らせる。

それから手を前に出し、


「『ウォーターウォール』『サンダーランス』『ダークバインド』『アイス……」


連続で魔法を発動させていった。

水の壁が現れ、雷の槍が飛んでいき、闇の何かから縄のようなモノが飛び出し、色々とカオスな状況になっていく。


数分後。


「……さて、こんなモノでしょうか?」


エリーは見た魔法をほとんど使い終わった。

エリーはアドバイスでも貰おうと、母親を見ると、


「………エリー。疲れて、ないの?」


呆然としながらそう尋ねてくる母親。

エリーは母親と自分の違いを思い出して苦笑しながら頷いた。


ただ、母親は不満があるようで、


「エリー。気合いが足りないんじゃないかしら?疲れるくらい気合いを込めれば、もっと威力が上がるはずよ」


「そ、そうなんですか?でも、今以上の威力が必要はない気はしますが」


エリーはそう言って苦笑する。

そう言われると、母親も何も言えなかった。


「ん~。気合い。もっと使うべきだと思うんだけど」


反論はできないが、納得はしていないようである。

そこで、エリーは自分から一時的に意識をそらすことにした。


「では、気合いを入れると威力が上がること以外にどんな効果があるんでしょうか」


「え?威力が上がること以外?……うぅん。そういえば、全神経を集中させて全力を込めると、無詠唱で魔法が放てるって聞いたことがあるわ」


「へぇ~。無詠唱ですか」


それにはエリーも心引かれた。

無詠唱と言うことは、ファイアーボールみたいに、ちょっと厨二病臭い台詞を言わなくても魔法が使えるということ。


「ちょっとやってみます」


エリーは全神経を集中させ、気合いを入れた。

すると、


「ふぅぅぅぅん!!!!!」


エリーは気合いを入れた。

手を前に突き出す。


………。

シィ~ン。


「何も、起きませんね」


「そ、そうね。何やってるのかと思ったけど、無詠唱魔法をやろうとしてたのね。お手洗いに行きたいのかと思ったわ」


エリーの顔が、そんなバカなと言いたげに歪んだ。

そして、


 ーー二度と気合いなんて入れないわ!!!!

と、誓うのであった。


「おっと。もう時間ね。今日は終わりましょうか」


「……はい。ありがとうございました」


「明日からもやるから、忘れずにこっちに来てね」


「はい。よろしくお願いします。お母様」


そうして魔法の授業が終わり午後の剣術も終わり、エリーたちは夕食へ。

その最中、父親が、


「貴族の館の再建も終わったし、皆の慰労もかねて家族旅行に行きたいと思っている。明日には出発するから準備しておいてくれ」


なんてことを言い出した。

父親以外の目が点になる。


「え?明日?」


「きゅ、急ですわね。一体どこに行くんですの?バカンス楽しみですけど」


父親の側室の1人が尋ねる。

 ーーあの感じ、次の子供は自分がとか思ってそうね。キシィはどうやってあの人を出し抜くつもりなのかしら?


昼ドラ展開を期待しなくもないエリー。

そんなあほなエリーをよそに、旅行に関する話は続いた。


「どうせだから、国外に行こうと思ってな」


エリーは、その一言で意識を切り替えた。

父親の話に集中することに。


「国外?帝国にでも行くのですか?」


「いや。帝国ではなく。アーニ王国に行こうと思っている」


これを告げられたエリーは少し焦りながらクラウンの部下たちへ指示を出す。


「我はしばらく来れなくなった。そのため、数日間の対応をお前たちにやって貰うことになる。状況は激しく動くだろうが、できるか?」


「「「勿論です!!!」」」


即答だった。

エリーは頼もしく思いつつ、


「それでは、我はこれからしばらく働けない分、今日働くとするか」


楽しそうに立ち上がる。

今すぐにでも飛び出していきそうなエリーを、部下は慌てて止めた。


「お、お待ち下さい。この数日間の護衛の数はどうすれば?」


「護衛の数?そこまで多くなくても良いだろう。とはいえ、知らない地へ行きたいというのなら構わないが、入るのは大変だと思うぞ」


エリーはそう言うと、今度こそ拠点を出た。

その手にはいくつもの呪いの装備が。


「今日は、楽しむぞぉ~」


次の日、本部隊が到着するまでの準備をしていた大量の火傷蜥蜴が、死体で見つかったという。

それによって火傷蜥蜴の国への侵入が大幅に遅れたのは、また別のお話。


今考えるべきことは、国外旅行を全力で楽しむことなのだから。




ビュォォォォ

潮風がエリーの体の熱を奪う。


「ああ。良い風ですわぁ」


「たまにはこんなのも良いねぇ」


エリーと兄のバリアルは、船首で手すりにもたれかかり、落ちる夕日を眺めていた。

出発したのは早朝だったが、まだ島が見えてくる様子はない。


「アーニ王国。どんな国なんでしょうか」


その隣で同じように景色を眺めていた弟のアシルドが、期待のこもった声をこぼす。

エリーは、自分の知っている知識を話してみることにした。


「アーニ王国は島国で、私たちの住むイモート王国より暖かいという話でしわ」


エリーたちの住む国、イモート王国。

もしかしたら初出しかも知れない王国の名前である。


そこより一回り小さい国がこれから行く旅行先だ。


「あっ!あれ!!」


アシルドが大声を上げ、指を指した。

その先には、豆粒のようなサイズではあるが、


「島だぁ!!」



船は見えた島へと近づいていき、港らしき場所へ付ける。

エリーは自分たちの作る港との違いをシッカリと観察した。


「いらっしゃいませ。ハアピ家公爵御一行様」


止まった船に近づいてくるモノが1人。

整った顔の老人だった。


「おお。出迎えありがとう。それでは案内を頼めるか?」


「はい。それでは、船は私たちの方で案内致しますので、皆様はお降りください」


港にぞろぞろと家族が降りていく。

エリーは目立たないように真ん中の方にいた母親の後に続いた。


ざわざわ。

「なんだ?」

「変な格好してんなぁ」

「外国の奴らだろ?珍しいよなぁ」


民衆たちが、物珍しさに集まってくる。

ただ、その前には兵士がいてそれ以上近づいてくることはなかった。


 ーー兵士をどかして私たちに接触してくるモノたちはいない、と。

エリーは素速く民衆たちの気質を判別した。


「それでは皆様。こちらへどうぞ」

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