悪役令嬢、身バレしました
「ま、まじかよぉ」
「う、嘘だろ」
『左足』はその光景を見て、呆然とした。
『左腕』は、危険性を察知して後ずさった。
彼らの目の前にいるのは、3つの呪われた指輪をはめているエリー。
その手の3色の霧はまとまり、巨人の腕のような形をとっている。
「さて、どこまで耐えられるだろうな?」
エリーは、霧が纏っていない手でもう1つ指輪を見せながら言う。
まだまだ強くなると言っているのだ。
「くそっ!こ、こうなったら」
「こうなったら?」
『左腕』が悔しそうに顔を歪ませる。
エリーは、何か奥の手が出てくるのかと期待した。
が、その期待は裏切られる。
『左腕』はエリーに背を向け、
「逃げるぜぇぇぇ!!!!」
その身体能力を活かし、全力で離脱した。
さすがに即座にその背中を追いかけることはできず、エリー達は取り逃す。
「……逃げたか」
「そ、そうみたいだねぇ」
エリーの残念そうな呟きに、『左足』は頬を引きつらせた。
ーーあんなの見て逃げない奴はいないと思うけどなぁ。
「……まあ、今は追う必要もないか。先にお前の相手をしなければな」
エリーはそう言って、『左足』の方を見る。
視線を受け、『左足』は背筋が震えた。
「あ、相手ってどういう事かなぁ?ぼ、僕に戦う気はないよぉ」
『左足』は慌てた。
エリーに殴られないためにも。
「ん?別に戦いの話ではない。我が言いたいのは、貴様の未来の話だ」
「ぼ、僕の未来ぃ?」
『左足』は首をかしげた。
その反応を見て、エリーは頭を抱えたくなる。
「流石に1人でこれから静かに過ごしていく気はないのだろう?」
「うん。まあね」
「お前は火傷蜥蜴を裏切ったわけだ。だから、それ以外の組織に入らなければならない。そこで、その入る組織について我と話し合おうと、」
「お前の下につくよぉ」
エリーの話を遮って、『左足』は即答した。
エリーは、天を仰ぐ。
「我の下、か」
「そうだよぉ。ここに1人でいることを考えると、どうせお前1人なんでしょぉ?だからぁ、僕が下について手助けしてあげるぅ」
エリーはどう返答するか迷った。
ーークラウンだって明かして良いのかしら?
「うぅ~ん」
エリーが悩んでいるときだった。
近くから、魔力の反応を感じ取る。
直後、
「貰ったぁぁぁぁ!!!!!」
聞き覚えのある声。
先ほど逃げたはずの『左腕』が、エリーへと迫っていた。
だが、
「邪魔だ」
エリーはそう言って、手を振る。
すると、『左腕』はエリーに触れることもできず吹き飛んだ。
「ぐおっ!???」
だが、それは『左腕』も予想済みだったようだった。
エリーが追撃する前に、エリーへの攻撃が来た。
パンッ!
エリーの手に何かが当たり、はじける。
それによって、1人では倒せなかったのだから今度は複数人で来たのだということを理解した。
「近くにはいない、か」
エリーの魔力感知には、『右腕』しか引っかからなかった。
つまり、他の敵は遠くから攻撃しているということ。
パンパンッ!
エリーにめがけて、次々と攻撃が飛んでくる。
「厄介だな。だが、」
エリーは敵の攻撃が途切れた一瞬その場で屈み、下から石を拾い上げた。
そして、攻撃を受けた方向へと投げる。
直後、
ドォォンッ!!
「ギャアアアァァァァ!!!????」
悲鳴が聞こえてくる。
的の遠距離攻撃をしてきていたモノに、エリーの投げた石が直撃したのだ。
「お、お前。遠距離もできんのかよ」
悔しそうに呟く『左腕』。
エリーはそれに、肩をすくめて応えた。
その姿はまるで、今のが遠距離?君たちの戦える範囲は随分狭いんだね。
と言っているようであった。
「くそっ!『右足』もやられちまったか」
『左腕』はエリーへと駆け寄りながら呟いた。
ーーえ?『右足』?もしかして、この子たちと同じ幹部?
「邪魔だ」
「ごふっ!?」
エリーは裏拳を容赦なく『左腕』の顔面にめり込ませた。
それから、左足に早速尋ねてみる。
「『右足』とは誰だ?」
「えぇ?『右足』ぃ?『右足』は『左腕』と同じで火傷蜥蜴の幹部だけどぉ。……って、そういうことかぁ。今の攻撃は確かに『右足』だねぇ。後方支援が担当だよぉ」
エリーはそれを聞き、
ーー元を含めて火傷蜥蜴の暗部が3人。集まりすぎでしょ。
かなり本気で攻勢をかけてきたことが分かった。
そこでさらに『左腕』が新たな動きを見せる。
エリーたちを向いたまま少しずつ後ずさっていき、ある程度まで離れたところで、
「覚えてやがれぇ!!」
捨て台詞を吐いて逃げ出した。
エリーたちは即座に追いかけようとしたが、
パンパンッ!
遠距離からの攻撃で妨害される。
エリーは追いつけないと判断して、さよならの代わりに石を投げる。
挨拶代わりなので、爆発音と悲鳴は気のせいである。
気のせいだと言ったら気のせいなのだ。
エリーは残念そうに走り去って行った方向を見ながら、もう1つ投げた。
「え、えげつないねぇ」
『左足』が若干引いている気がするが、きっとそれは気のせいだ。
それよりも、
「さて、これからどうするべきか」
「悩むねぇ。毒龍は壊滅しちゃったしぃ」
エリーと『左足』は悩んだ。
とはいえ、2人で悩んでいる内容は違うのだが。
ーーどうやってこの子を私から引き剥がしましょうか。
というのがエリーで。
ーーどうやってボスとかから逃げようかなぁ。
というのが『左足』である。
ーーとりあえず遠くに連れて行ってみようかしら?
と、エリーが考えたときだった。
「クラウン様!」
突然、エリーの前に影が現れる。
その人物はエリーと『左足』の間に入り、『左足』を睨み付ける。
ーーあっ。ヤベッ。
その瞬間、エリーの計画は崩れ去った。
なぜなら、
「え?クラウン様ぁ?どういうことぉ?」
間に入っているクラウンの者を警戒しつつも、『左足』はエリーに尋ねてくる。
エリーは天を仰ぎ、全力で思考した。
ーーこれは嘘がつけるような状況ではないわね。でも、本当のことを全て話して良いモノかしら?いや、まだこの子は信用できない。
エリーがこう考えるまでに掛かった時間は1秒。
「我は、」「す、すみませんクラウン様!!思わず言ってしまいました!!」
エリーは頭痛がした。
もう計画が総崩れである。
「えぇ?毒龍じゃなかったのぉ?」
『左足』の視線が鋭くなる。
エリーは、逃げられないと判断して、傷が深くならない手を探すことにした。
「……コイツの言葉の通り、我は毒龍の者ではない。我が毒龍と名乗ったのは、火傷蜥蜴をだますための罠だ」
「そ、そうだったのかぁ。すっかり騙されてたよぉ」
エリーは試すような目で『左足』を見る。
その目は、その程度で自分の下につくつもりなのかと言っているように見えた。
「分かったよぉ。確かにぃ、今のところお前には良いところ見せれてないしねぇ。試験があるって言うなら受けるよぉ」
『左足」は笑みを浮かべて言った。
エリーは何も言わない。
勿論心の中では、
ーーーは?試験?なんでそうなった?
と、困惑していた。
まあ、そんなことは誰にも気付かれなかったが。
「いいでしょう!」
エリーの気持ちなどつゆ知らず、クラウンの部下は偉そうに言った。
エリーは嫌な予感がして、部下の顔を見る。
「クラウン様。お任せ下さい。この者が本当にクラウンにふさわしい者か見極めて見せます」
「お、おぉ」
部下は決意の炎を瞳に宿らせながら言ってきた。
エリーは、死んだ目をして頷く。
「好きにしろ」
「はい!必ずやクラウン様のご期待に応えて見せます」
「試験をしてきますので、クラウン様は拠点でお待ちください」
「絶対に合格してくるからねぇ」
2人はそういって去って行った。
残されたのは、エリー1人。
「……帰るか」
エリーは独り寂しく、拠点へと帰った。
エリーが戻ってから数十分後。
「ただいま戻りました!!」
部下が帰ってきた。
エリーは、無言で目を向ける。
「あっ!クラウン様!試験してきましたよ」
「ふむ。どうだった?」
「あぁ。では、呼びますね。来なさい」
部下が笑顔で駆け寄ってきたので、エリーは結果を聞いておく。
すると、部下は後ろの方へ声をかける。
すると、そこから出てきたのは、
「や、やっほぉ…………ゲホゲホッ」
後ろから『左足』らしき人物が出てきた。
なぜ、らしきなのかというと、
「ひどいやられ様だな」
「ハ、ハハハッ。そうだねぇ。正直、立つのも辛いよぉ」
『左足』がボロボロだったからだ。
全身傷だらけで、顔も膨れ上がっている。
こんな状態で誰か特定しろなんて無理な話。
エリーは流石に可哀想だったので、『左足』に手をかざし、
ホワァ
「うおぉ!?か、体が!?」
「体が?」
慌てる『左足』にエリーは意地の悪い笑みを浮かべて尋ねる。
『左足』の体は、
「治ってる」
傷が治っていた。
エリーの持つ、光の加護の効果である。




