悪役令嬢、左足
「それでは、伯爵方。私が、この方々の友人となりましょう」
「「友人?」」
エリーの提案に、伯爵たちは首をかしげた。
エリーはその顔を見て、怒鳴られていたモノたちを見る。
「「ひっ!?」」
怒鳴られていた令嬢2人は悲鳴を上げた。
その令嬢たちは、喧嘩をしていてエリーも巻き込んできていたモノたち。
「ご令嬢を叱られていたのは、私と敵対的な行動をとってしまい、他家から避けられると考えたからでしょう?でしたら、この私が友人だと言えば、全ては解決するはずです」
「なるほど」
「納得ですな。その代わりに、貸しを増やすと、いうわけですか」
伯爵2人は納得した表情に。
エリーは2人が納得したのを確認し、令嬢2人に笑いかけた。
「それでは、これからよろしくお願いしますね。お2人とも。建前上は友人と言うことですから、名前を教えて頂いてもよろしいですか?」
「「ひゃ、ひゃい!」」
名前を聞き、他にも情報を口にしてもらう。
その後打ち合わせを行ない、
「……それでは、2ヶ月後のパーティーで私たちが仲良くすると言うことで」
「ええ。よろしくお願いします。エリー様」
「この借りは必ず返しましょう」
エリーは伯爵2人と打ち合わせを行った。
勿論令嬢2人も参加してはいるが、声を出す権利など与えられない。
「借りを返して頂くのは当然です。返して貰えない貸しなど、意味がありませんわ」
「ははっ。その通りですな」
「おっと。私としたことが、面白みのないことを言ってしまったようですな」
エリーは、意外と伯爵2人とは打ち解けた。
伯爵2人はそこそこ頭が良く、エリーと気が合うところもあったのだ。
というより、この2人はエリーの船に関する計画にかなり早く飛びついたモノたちなので、頭が良いのは最初から分かっている。
ーーこの2人は優秀なのに、どうして娘の方は……。
エリーは少し残念に思いながら、4人と分かれた。
今度こそ今日の仕事を終わらせたエリーに、温かい飲み物が手渡される。
「お疲れ。エリー」
「あぁ。お兄様。ありがとうございます」
それから少し時間が経ち、夜になった。
エリーは勿論、活動中。
「クラウン様。B地点に迫っているようです」
「C地点が苦戦中!!」
「S地点が壊滅しました!!」
部下から上がってくる報告の数々。
それは、毒龍と火傷蜥蜴の争いについての報告だった。
「かなり火傷蜥蜴の勢いが激しいな」
昼ではこの数日で屋敷が再建したわけだが、夜の方の変化は日ではないほど激しかった。
クラウンとしては予想通りなのだが、火傷蜥蜴が本格的に毒龍への攻撃を始めたのだ。
「火傷蜥蜴も各地から精鋭を集めたようですからねぁ。まあ、ある意味、精鋭を潰されるチャンスなので良いのだけど」
エリーの呟きに、ファーストが応える。
ファーストの言うとおり、今回は火傷蜥蜴がかなり強いモノたちを送り込んできていた。
「強い奴を殺せるのは良いんだが、部下たちも4人以上相手にできないらしいじゃないか」
各地から集められた精鋭。
それは、幾らクラウンのモノたちといえど簡単に始末することはできなかった。
「今のところこちらに被害はないのですから。良いではないですか」
ファーストはそれでも今のところは問題がないのだからと笑うが、そうしていられる時間はそう長くもなかった。
クラウンに被害が出たわけではないのだが、幹部が対応に当たらなければならない事態が発生したのだ。
「それでは、私もいかせて貰います」
「ああ。頼んだ」
ファーストが小屋から出て行く。
そこでもう、部屋から幹部の姿は消えていた。
「幹部が出払っているとなると、次に問題が起きれば我が動くことになるか」
エリーは真剣な声で呟く。
ーーもう少し人員を増やすべきかしら?……とはいえお遊びだし、そこまでやる必要はない?
エリーは人員を増やすべきか悩んだ。
が、そこまでする必要はないと考え、首を振る。
ただ、
「クラウン様!大変です!FGHの3地点が壊滅しました!!」
「は?3地点壊滅だと!?」
緊急の報告に、部下の1人が驚く。
エリーも少し驚いた。
「詳しい報告をしろ」
「はい!火傷蜥蜴の四肢が1人、『左足』が現れたようです」
「そうか。……仕方ない。我が出る。お前たちは帰ってきた幹部に事情を伝えておけ」
エリーは強い敵が現れたという場所へ向かう。
目的地はかなりわかりやすかった。
「更地になってるな。さすがは火傷蜥蜴の幹部」
エリーが通る道は、更地になっていた。
それだけでなく、更地の周囲も直前まで在ったであろう家などが瓦礫になっている。
詳しく状況を確認しようと更地の真ん中に着地し、
「っ!?」
エリーは横に跳ぶ。
直後、
ゴォォォォォ!!!
轟音と共に、風の固まりがエリーの横を過ぎ去った。
「今のを避けるかぁ。毒龍も、少しは歯ごたえのありそうなのがいるのなぁ」
奥から影があらわれた。
暗くて顔は分からないが、左足部分が発光している。
ーー左足が光るから、『左足』って名前がついたのかしら?ひねりがないわね。
エリーはそんな感想を抱きながら、敵の方を向く。
『左足』は、火傷蜥蜴の四肢と呼ばれる幹部の中の1人。
『左足』という名の敵が、ゆっくりと近づいてくる。
それによって、敵の様子が少しずつ分かってきた。
「少年、と言っていい身長だな」
「へぇ。身長が低いって言いたいのかなぁ?………ぶっ殺すぞ」
『左足』はエリーと同じくらいの身長。
ただ、身長に何かコンプレックスがあるようで、エリーの言葉を聞いて左足は消えた。
「死んじゃいなぁ」
エリーの右耳に、こんな声が聞こえた。
エリーはそれを聞き、即座に前に倒れる。
ブオンッ!
エリーの真上で重い音が発生する。
ーーあ、危なっ!?
エリーは自分が追いつけなかった速さに驚く。
まさか、ここまでレベルを上げたのに相手の攻撃が見えないとは思わなかったのだ。
「隙だらけだぞぉ!!」
『左足』は倒れたエリーに剣を振り下ろしてきた。
ただ、エリーはギリギリまで動かなかった。
「はあぁぁぁ!!!!」
迫る剣。
ギリギリまで待って、エリーに触れるかという所で、エリーは動いた。
「あぇっ!?き、消えたぁ!?」
『左足』は驚きで思わず声を出す。
その横から、
「死んじゃいなぁ、だったか?」
声が聞こえた。
『左足』は全力で反対に跳んだが、少し遅い。
「遅いっ!」
この速さなら確実に剣が当たる。
エリーはそう考えたが、
スカッ。
「ふむ。避けられたか」
エリーの剣は空を切った。
『左足』がどこに行ったかと言えば、
「お前の後ろだよぉ」
そんなホラー展開かと思うような声を出しながら、『左足』は後ろから襲ってきた。
「遅いな」
エリーは体を横に反らせて剣を避ける。
言葉からも感じられるとおり余裕があったので、エリーは頭を働かせていた。
ーーこの子、不思議ね。私の動きが見えないことから考えて私よりステータスが高いわけではなさそうだけど。
エリーは、なぜ『左足』が自分より速く動けるのか不思議に思った。
「まだまだぁ!!」
突然横から現れた『左足』の攻撃を、エリーはまた避ける。
それと同時に、カウンターの蹴りを放った。
ゴスッ!
と、重い感触がエリーの足に伝わった。
「グフッ!??」
苦しみのこもった声が聞こえた。
初めてこの戦闘でしっかりと攻撃が命中した瞬間だった。
だが、すでにその声の主はそこにいない。
「や、やるじゃないかぁ」
痛みのせいか、そういう声は少し震えている。
エリーは、その隙を逃さず、地面を蹴った。
『左足』は、その動きに対応することもできず、
「ガハッ!?」
エリーの拳が直撃した。
だが、彼にも今までの経験がある。
だから、このまま殴られるだけということはなかった。
スッ!
と、エリーの前から『左足』が消える。
「何だ!逃げることしかできないのか!!」
エリーは即座に魔力感知で位置を探り、反応がある場所へと駆け出す。
『左足』が逃げ出さないように、煽って気持ちを落ち着かせないことも忘れない。
「ひれ伏せ!貴様程度で、我と対等に戦えると思うな!!」
エリーは、逃げられる前に連撃を放つ。
1発の威力は全力で1発殴るときより劣るが、速さは段違い。
「ア゛アアアァァァァ!!!!!????」
『左足』は、自分がどうなっているかも分からない。
ただ、激しい痛みだけを感じることができた。
「これで終わりだ!!」
大量に殴られ、痛みでもう逃げることすら考えられないほどの『左足』。
そんな『左足』に、エリーは全力の1撃を放った。
ゴンッ!
と、人のパンチの音とは思えない音がする。
「……ほう。これを耐えられるのか」
エリーは面白そうに呟く。
エリーの目の前には、先ほどの攻撃を受けてなお、意識のある『左足』が倒れていた。
「………毒龍。ここまで強くなっていやがったのかぁ。僕の負けだよぉ」
『左足』は倒れた状態で、手をヒラヒラと振る。
エリーはそこに再度とどめを刺そうとした。
が、
「僕の負けだよぉ。だから、僕は君の元につくことにするねぇ。明日には毒龍に入る手続きしておくから、待っててぇ」
と『左足』が言ってきたことによりその手を止める。
ーー今の毒龍は劣勢。でも、この幹部が裏切れば?
エリーはここで見逃す場合のメリットを考え、とどめを刺さず『左足』に背を向けて去った。




