悪役令嬢、もっと倒せ
色々あって数日経った。
今日はなんと、
「おめでとうございます。皆様。皆様方のお屋敷の再建を、心からお祝い申し上げますわ」
今までエリーの屋敷にいた貴族たちの屋敷が再建され、エリーの住む屋敷を離れる日なのだ。
エリーは、離れていくモノたちにお祝いの言葉を述べる。
「エリー嬢にも随分と世話になりました。このご恩は忘れません」
逆に、離れていくモノたちは、エリーに感謝の言葉を述べた。
これは、ハアピ家が多くの家に借りを作れたと言うことを示している。
「エリー嬢」
「ん?ああ。お三方。お屋敷の再建、おめでとうございます」
エリーに友人となった3人が話しかけてきた。
エリーは笑顔で対応する。
「その、今日でお別れってことだから、その」
モジモジしながらクイフが何かを言おうとする。
ーーお手洗いにでも行きたいのかしら?
「ぼ、僕たちと、名前で呼び合わない?」
「ああ。そういうことでしたら、構いませんよ。それでは、これからは呼び捨てにしますわ。クイフ」
エリーの言葉にクイフは顔を輝かせた。
他の2人も呼び捨てにすると、顔がほころぶ。
そんな風なやり取りがあった後、
「さて、それでなんだけど、僕たちの関係を修復してくれたエリーにお礼を含めたコレを受け取って欲しいんだけど」
クイフはそう言いながら、細長い箱を差し出してくる。
ーーこれは、特殊グループを作ったことで貰える装備ね。
「ありがとうございます。嬉しいですわ……あ、あの、開けて良いですか?」
エリーはお礼を言って受け取る。
エリーの質問に、3人は笑顔で頷いた。
エリーは、箱を少しずつ開けていき、中身を見て顔を輝かせる。
中に入ってきたのは、
「うわぁ!綺麗なネックレス!………あの、これ、凄く高そうなんですが、大丈夫だったんですの?」
ネックレス。
エリーは値段について尋ねた。
「くくくっ。エリーらしい質問だな。それは行商人から買ったんだ。そこまで高いわけじゃなかったぞ。3人で少しずつ出し合えば余裕だった」
値段について尋ねてくるエリーに苦笑しつつ、ターリルは、腕組みをして言う。
エリーはそれを聞き、「ほぇ~」というよく分からない声を漏らしながら、そのネックレスを自分の首に掛けた。
ーーあっ!やっぱり!!
ネックレスを付けると、エリーの予想していたとおりのことが起きた。
ーーまあ、特殊グループから貰うプレゼントと言ったら、この効果があるわよね。
エリーは自分の視界の端に映るモノを見ながら思う。
視界の端に映るモノ。
それは、新しい方のステータス。
今、エリーの視界に映っているステータスは、
《エリー・ガノル・ハアピ》
オシャレ:AA ダンス:B 体力:AA 学力:AA 魔力:AA 攻撃力:AA
精神力:AA 財力:AA
撃破数:1
こう変わっていた。
と言っても、以前までのステータスを覚えているわけがないと思うので、比べるために変化する前のステータスも載せておくと、
《エリー・ガノル・ハアピ》
オシャレ:B ダンス:C 体力:A 学力:A 魔力:AA 攻撃力:A 精神力:A
財力:AA
撃破数:1
こんな感じだった。
比べてみると、魔力と財力以外のステータスが1つずつ上がっている。
まあ、魔力と財力が上がらないのは仕方のないこと。
なぜなら、AAがステータス上の最高値だからだ。
ーーゲームやってるときは、このステータスを上げるのに苦労したはずなのになぁ。
エリーは昔の苦労を思い出し、もう1度、見たことのないようなAAの多さを確認する。
ーー攻撃力とかもAAになってるわね。口喧嘩も最強になったってことかしら?やるつもりはないけどね。
エリーは、そう思うことがフラグを立てるということだと気がつかない。
ただすぐにフラグが成立するわけではなく、
「あっ。3人とも。おめでとう」
エリーと3人が集まっていることに気付いた1人が、近づいてきた。
その人物は、
「おっ。バリアル!」
「あぁ。お兄様。もう他の方々への挨拶は良いのですか?」
エリーの兄、バリアルであった。
エリーの質問に、バリアルは笑顔で頷く。
「とりあえず全ての家に声をかけてきたよ。反応としては良い感じかな。恩をしっかり感じてるみたい」
「そう。それは良かったですわ。しばらく我が家は、貴族内で最大の派閥となるでしょうね」
「………お前たち、たまに怖いこと言うよな」
エリーとバリアルの会話に、3人は苦笑する。
それにつられ、バリアルも笑みを浮かべた。
ーーうん。バリアルと3人は仲良くなったわね。後は、ここにデュランスを加えれば、3つ目の特殊グループ完成ね!
エリーは、ここにデュランスを持ってくるための作戦を考えた。
そんなときだった。
パシンッ!
「うるさいわねぇ!」
パシンッ!!
「何よ!痛いわねぇ!!」
パシンッ!!
「あっ!やったわねぇ!!!」
パシンパシンッ!と、連続で聞こえる平手打ちの音。
エリーたちがそちらを見てみると、そこでは令嬢同士の喧嘩が行われていた。
エリーが父親の方も見ると、父親は目配せをしてきた。
どうやら、エリーに喧嘩を止めろと言うことらしい。
ーー面倒くさいわね。
そう思いながらも、エリーは令嬢たちに近づいていく。
「お二人とも、その辺りでおやめ下さい。折角のめでたい日を、このようなムダなことをして過ごしたくはないでしょう?」
エリーが言うと、令嬢2人はそろって睨み付けてくる。
そして、
「何かしら?公爵家様には関係のないはなしですわ。まさか、我が家のことに首をつっこんで来るおつもりですか?」
「そうですわ。幾らハアピ家様に恩があるとしても、家のことに干渉しないで下さいまし」
ーーいや。2人で連携しないでよ。
先ほどまでの喧嘩は何だったのかというような、見事な連携にエリーは頭を抱えたくなる。
ハァと小さくため息をつき、エリーは覚悟を決める。
これを穏便に解決すると、時間が掛かりすぎてしまうという考えたに至ったのだ。
「では、このような公衆の面前でやらないで下さいまし。貴族の令嬢とあろうものが、場所をわきまえられないのですか?」
エリーは、後数回言葉を交えれば黙らせられるだろうと踏んでいた。
だが、その予想は裏切られることになる。
「「お、覚えてなさいまし!!」」
令嬢2人は、目に涙を浮かべながら走り去ってしまったのだ。
その後を、使用人らしきモノたちが慌てて追っていく。
エリーは少し気になることがあり、視界の端を見てみると。
予想通り新しいステータスに
撃破数:3
という風に、撃破数が2増えていた。
エリーは増やしていきたくなかった数値に、思わず顔を暗くする。
「エリー?大丈夫か?」
「エリー。あまり落ち込むな。あれくらいガツンと言ってやらないと、ああいう奴には聞かないだろう」
エリーの表情を見たターリルとガリドルが心配そうに言ってきた。
ーー心配してくれるのは良いけど、少し前まで頻繁に喧嘩してた人たちの台詞じゃないと思うのよね。
そんなこともありつつ時間が経ち、パーティーはお開きとなった。
エリーたちは見送りをすることになる。
「それでは、皆様お元気で」
「また遊ぼうね」
エリーとバリアルは、別れの言葉を口にし、手を振る。
すると、向こうも返事をしてくる。
「ああ!2人も!」
「勉強、追いついてやるからな!!」
「げ、元気でねぇ」
3人は口々に言って、手を振り返す。
ーーこれで、公爵家とは上手くいきそうねぇ。
エリーは達成感を覚えた。
これで、今日は貴族としての仕事は終わり。
という訳はなかった。
エリーには、まだやらなければならないことがある。
「だからお前は!!」
「少しは反省しなさい!!」
エリーの耳にまで届く怒声。
エリーは予想した通りで苦笑を浮かべた。
「伯爵様方。先ほどパーティーはお開きとなりました」
エリーは怒声の主に言う。
すると怒声の主は表情を変え、焦ったような表情を浮かべた。
「お、おぉ。そうでしたか」
「気付かなくて申し訳ない。今すぐ帰らせて頂きます」
怒鳴っていた伯爵たちは部屋から出ようと動く。
そこに、エリーは近づいて。
「貸しを1つ増やすなら、私が手をお貸ししても構いませんよ」
と、囁いた。
すると、また伯爵たちの表情が変わる。
「「お、おねがいできますかな」」




