悪役令嬢、2度目の相手
「お疲れ様」
バリアルがそう言って、水の入ったコップを渡してくる。
エリーはお礼を言って受け取った。
そうしてエリーが休憩している間に、ヒューズール、バリアル、ターリルも3人が集まって話をしていた。
エリーには上手く聞こえなかったが、その内容は、
「エリーの剣、異様に綺麗だな」
「そうですな。まさに型どおりと言った感じです」
「でも、綺麗すぎるよね」
3人が話しているのは、エリーの剣について。
エリーの剣が、人を殺すような剣ではないと言うことだった。
「あんな型どおりの動きなのに、なぜか襲撃に来た人たちを殺せたんだよねぇ」
「それは、恐ろしいですな。誰しも実戦になると型が崩れてしまうはずなのですが」
「しかも、それまでに人を殺したことはなかったんだろ?絶対緊張するはずだよな」
そこまで話して、3人はエリーの顔を見る。
エリーは和やかな顔で、クイフやガリドルと話していた。
「「「不思議だ」」」
なんて思われていることなど知らずその日の夜。
エリーは部下たちのいるクラウンの拠点へいく。
すると、
「クラウン様。今日は、お願いがございます」
拠点に入ってすぐ、部下数名から頼みごとをされた。
そのお願いの内容は、
「私たちの成長した力を見て頂きたいのです」
と、いうことで。
クラウンの部下数名と戦うことが決まった。
「ふむ。実力を見るんだ。先手は譲ってやろう」
エリーがそう言うと、ファーストが地を蹴った。
ファーストが戦いに出ることは基本的にないので、とても珍しい光景である。
エリーはファーストの素速いナイフの突き刺しを、体をひねって避ける。
が、そこにセカンドの剣が迫っていて、
「ほっ!!」
「「うわっ!?」」
その迫るセカンドへ、ファーストを無理矢理投げた。
一撃必殺のスキルで、無理矢理強化した攻撃力があったからこそできた技である。
投げられたファーストは、セカンドを巻き込み、更にその後ろの部下も巻き込みながら転がっていった。
ここまでは1年前に戦ったときと似ている。
だが、以前はここでだれも動けなくなったが、
「はぁぁ!!!」
ファーストに巻き込まれなかったケモ耳少女、サードが後ろから襲ってくる。
エリーは振り向くように体を回転させながら、それに合わせて蹴りを放つ。
が、すでに一撃必殺の効果は切れている。
だから、そこまでの効果はない。
はずだった。
「ぐほっ!?」
サードは体をくの字に曲げながら、後方に吹き飛ばされた。
とは言っても先ほどの2人ほどではなく、3メートルほど下がっただけ。
だとしても、ここまでの威力が出るとは思っていなかったので、エリーは驚く。
なぜ、サードを吹き飛ばすことができたのか。
ーーん?もしかして!?
エリーは、前回戦った後に起きた事件を思い出した。
それが、第2王子アロークスの誘拐事件。
あの件で、クラウンという存在が王などにも知られるようになった。
そしてさらに、放火などの犯人もクラウンということにされている。
ーー知られたから犯罪者として認識され、断罪者とか死刑執行人とかの効果も出るようになったってこと?
犯罪者に対して攻撃力が増加するスキル。
それが効果を発揮したのだ。
「「「うわああぁぁぁ!!!!!」」」
部下たちが叫びながらエリーに迫る。
去年もそうだったが、ここまで早く幹部クラスがやられるとは思っていなかったのだ。
だが、それでも去年の経験がある。
ここで止まれば、的にしかならないと言うことも理解していた。
「ふむ。少しは成長したようだな。では、我も少し力を見せるとしよう」
エリーは感心したように部下を褒めた。
それから、懐に手を入れ、指輪を取り出してはめた。
「な、何だ!?」
「クラウン様の手が紫に!絶対危ないって!!」
「でも、逃げてもむ、ギャアァァァ!!!????」
「うるさいぞ。本番なら殺されている」
エリーはそう言いながら、紫の霧を生み出す腕で部下たちを殴り飛ばしていった。
この腕に掛かる霧は、指輪が関係している。
指輪の効果は、はめたモノの魔力をかき乱し、装備者を体内から破裂させるという非常に危険なもの。
完全な呪われた装備であった。
だが、それでもエリーが平然としていられるのは、
ーー『呪纏』。便利なスキルよねぇ。
エリーが呪纏というスキルを手に入れたのは、偶然だった。
それは、数ヶ月前のこと。
「ん?コレは、鎧?」
エリーは夜に活動している最中、鎧を発見した。
その鎧はまがまがしい雰囲気を醸し出しており、明らかに危険なモノであると分かる。
ーー魔力も凄い乱れてるわね。これ、私の魔力操作で整えられないかしら?
そう考えたエリーは、鎧に触れ、魔力を操作しようとした。
だが、鎧の魔力の乱れもすさまじく、エリーの魔力さえ乱れそうになる。
エリーは全神経を魔力の操作に集中させ、鎧の魔力を抑え込んでいった。
そして、数時間の格闘の末、鎧の魔力が整ったのである。
その結果、
《スキル『呪怨操作LV1』を獲得しました》
こんなスキルを手に入れた。
エリーはそちらの検証を後回しにして、まずは魔力を整えた鎧を着てみる。
すると、鎧から再びまがまがしい魔力が湧き出てきた。
エリーが急いで押さえようとするが、少し感覚が違うことに気付く。
ーーこの魔力、私を覆ってるみたい。変な感じ。
そう気付くと、
《『呪怨操作LV1』が『呪纏LV1』に変化しました》
そうしてスキルを手に入れたのち、たまに見つける呪われた装備を装着してはスキルを使って自分に呪いをまとわせた。
そうしているとすぐにレベルは上がり、あっという間にレベルマックスへ。
因みに最初の鎧は、エリーだけが知る秘密基地のような場所へ保管されていた。
他の持ち歩けない呪いの装備も、そこに入れられている。
「来い。貴様らは、この1年で成長したのだろう?もっと見せてみろ」
エリーは更に呪いの装備を追加で装着し、部下たちを手招きした。
すると、覚悟を決めた部下たちが次々と襲いかかってくる。
「うおぉぉぉ、グフォォ!?」
「はあぁぁ、ギャフンッ!」
「てやあぁぁ、アギュゥゥゥ!??」
「いいぞ。もっと、相手に攻撃する隙を与えさせずに襲いかかるんだ」
エリーは、部下たちを殴り飛ばしながら言う。
だが、すでに戦える部下は数名。
「くそぉぉ!!!!ダバッ!???」
悔しそうに走っている部下を沈めて、エリーの勝利となった。
と、思えたのだが、
「隙ありぃぃ!!!」
勝利を確信し、部下たちに背を向けたエリー。
その背中に、倒れていたセカンドが襲いかかった。
セカンドは、ずっとコレを狙っていたのだ。
エリーが勝ったと思い、自分たちに隙を見せる瞬間を。
完璧なタイミングで、エリーの体は完全に捕らえられていた。
だが、
カツンッ!
セカンドの剣は、エリーの体に到達する前にはじかれた。
「はっ!?」
驚きで目を見張るセカンド。
逆に隙だらけになってしまったセカンドに、エリーの回し蹴りが炸裂した。
「グハァァ!!???」
今度は本当に倒れた。
エリーはそれを数秒黙って見つめ、また背を向けた。
次に襲ってくるモノはいない。
今度こそ、エリーの勝利が確定した。
そうして全員が動けなくなったため、拠点にいても特にすることがないと考えたエリーは去っていく。
その後、クラウンでは反省会が行われ、
「俺たちも、この1年で成長したと思ったのにな」
「正直、私たち幹部だけでも勝てると思ってた」
「そうだねぇ。加護持ちもたくさんいたし、負けることはないと思ってたんだけど」
セカンド、サード、ファーストが全員の意見を代弁するような言葉を言う。
誰1人として、エリーに負けるとは微塵も思っていなかったのだ。
「というか、剣がはじかれるってどうなってるんだ?}
「あぁ。あれは、呪いの装備を使ってるんじゃないかねぇ。指輪とかも呪いのまがまがしさがにじみ出てたし」
セカンドの疑問に、ファーストが考察したことを述べる。
呪いの装備、という言葉にメンバーは表情を変えた。
「じゃあ、クラウン様は何かしらのデメリットを背負っていたと言うことか?」
「そうなのかぁ。……もしかして、俺たちが相手にならなさすぎて、自分の力を抑えるために呪いの装備を付けたとか?」
「えっ!手加減するために呪いの装備付けてたのか!?………マジかよ」
「クラウン様。格が違うなぁ」
完全に的外れな考察が行われる。
この考察によって、エリーへの尊敬はさらに高まっていくのであった。




