悪役令嬢 隠さなければ
片手剣を発見したものの、エリーは特に干渉しなかった。
貰って部屋に置いても邪魔だし、必要なときに取りに来れば良いと考えたのだ。
そして、調理場の見学が終わったエリーは、探検を終了し、部屋に帰ることになった。
その途中で、兄、バリアルとエリーは雑談をしていた。
「そういえば、エリーは初めて鑑定式に行くのかな?」
「鑑定式?」
兄から聞き覚えのない単語が出てきた。
鑑定式の説明を受ける。
「鑑定式は、貴族の子供たちの鑑定をする式だよ。ステータスとかスキルとか称号とか、後は、珍しいけど加護なんて言うのも見られるかも知れないね。持ってなかったら見られないけど」
「へ、へぇ~。楽しそう。子供が集まるって事は、お友達ができるかな?」
子供らしく、お友達なんてことを言っているが、内心とても焦るエリー。
ーーうそ!?私のレベルマックスの魔力関係のスキルとか、絶対にバレたらマズいんだけど!
「それに、鑑定式は国王様もご覧になるからね。良いスキルとかを持っていれば、国王様も褒めてくれるんじゃないか?」
「わぁ。私、褒めて貰えるように頑張るね!」
ーーどうやって対策しよぉ!?すぐに考えないと!!
そうして考えた末、1つのイベントを思い出す。
しんと静まった町を、小さな影が高速で移動する。
もちろんエリーだ。
ーーちょっと遠いけど、絶対にあのアイテムは必要!
エリーは、鑑定式のために、自分のステータスを偽装できるようなモノを探して活動していた。
まず、何がマズいのかを説明しよう。
マズいのは2つ。
レベルとスキルだ!
エリーは現在レベル30を超えている。
レベルは、基本的に生物を殺さない限り増えないため、30近いレベルがあると言うことは、それだけ生物を殺してきたと言うことである。
つまり、今まで何かしらを殺してきたと言うことになり、確実に問い詰められる。
絶対に隠さなければならない。
そして、スキルの方。
こちらは魔力関係のスキルが2つカンストしてしまっているのがマズい。
魔力感知と魔力操作がカンストしているのは、宮廷魔術師くらいなのだ。
宮廷魔術師は、仕事をしながら魔力と携わることでカンストする。
つまり、宮廷魔術師は直接的に魔力の操作だけをしているわけではないため、魔力のみを動かしてきたエリーよりもスキルのレベルが上がるのに時間が掛かるのだ。
それに、エリーは1年ほど起きている間は魔力を動かしまくっていたため、一般人と比べて、明らかに練習量が違う。
ついでに、カンストしたことで称号も貰えているため、こちらも隠さなければマズい。
ということで、エリーが現在目指しているのは、自分のステータスを偽装できるアイテムがある場所だ。
「「「ゴァァァァ!!」」」
「っ!?モンスターの声!」
彼女の耳に凶悪そうな声が聞こえてきた。
少し気になり、彼女は進行方向を変える。
「ゴォォォ!!!」
「くぅ。この数は私でもきついねぇ」
エリーがモンスターの声がした方に行くと、老婆がモンスターに襲われていた。
老婆の腹部には深い傷が付いているが、その前には大量の死体も転がっている。
エリーが現在居るのは、魔物が多く湧く森。
そんな森に居るのだから、老婆も相当の実力があるとは思われる。
相当な実力はあると思うのだが、数が問題だった。
魔物が数十匹いるのだ。
死体も併せて数えると、百を超えるのではないかと思われる。
それでもどうにか生き残っている老婆を見て、エリーはまたイベントを思い出した。
そのイベントは、主人公がステータスを偽装するアイテムを運良く見つけ、持ち帰ろうとする道中に発生。
主人公たち一行の前に、強力なスケルトンが現れるのだ。
そのスケルトンは、対策なしに遭遇すると、必ずハーレムメンバーのうち2名が死亡する。
そして、その2名は二度と戻ってくることがない。
因みに、そこで死者を減らすために必要なのが、公爵家が持っている武器だ。
その武器を2つそろえることで、死者を1名に抑えられ、5つそろえることで死者無く生き残ることができる。
「で、その武器で対抗しなければならないほど強いアンデッドが、あのおばあさんかしら?」
色々と考察できる。
が、いつまでもそうしている場合ではない。
「くそっ!ここで、終わりか、」
エリーがイベントを思い出している間、老婆はさらに傷を増やしていた。
今にも死にそうな状況である。
「流石にここで助けないと、後悔する気がするわね」
エリーは覚悟を決めて駆け出す。
そして、
「ギョブブゥゥゥ!!???」
「え?」
老婆に襲いかかろうとしていた1匹の魔物を殴り飛ばした。
唖然とする老婆をよそに、エリーは次の獲物へと襲いかかる。
この段階で、魔物たちの意識が全てエリーへと移った。
だが、もう遅い。
ボトボトボトッ!
重いモノが落ちる音がする。
《レベル40にレベルアップしました》
…………
《レベル62にレベルアップしました》
辺りの草が赤く染まった。
それを見た老婆は、さらに驚愕し、化け物でもきたのかと思い始めたのだが、
「おばあさん。大丈夫?」
エリーはそう言って、赤く染まった右手を老婆に差し出す。
「え!?に、人間!?」