悪役令嬢、兄よ闘え
「ご、ごめん」
2人に詰め寄られたクイフは、ゲッソリとしていた。
エリーもその様子にはさすがに苦笑い。
ー-友情が変にゆがむとああなるのね。貴族は友人が少なくて拗らせやすいから、私も気を付けていかないと。
少し手遅れな感じのする感想を抱くエリー。
「それで?エリー嬢から何を聞いたんだ?」
ターリルがエリーのアドバイスの内容について尋ねる。
クイフは少し落ち着きがなかったので、エリーが説明した。
「まず、クイフ様は………」
エリーは洗脳に関するところはあえて触れずに、昨日クイフから聞いた話を伝えた。
そして、それに加えてエリーが行ったアドバイスも共有する。
「…なるほど。全く知らなかった」
「クイフ。言ってくれれば、僕たちも協力したのに」
2人はクイフに心配するような視線を向けた。
それとともに、その顔には悩むような表情が浮かぶ。
「うぅ。2人とも。ごめんね」
クイフはそれを見て、謝罪の言葉を口にする。
そしてそれと共に、
「ごめんね。実は僕、2人の事を洗脳しているんだ」
突然の告白だった。
クイフが、自分から洗脳の事を2人伝えたのだ。
「え?クイフ?」
「な、何を言っているんだ?」
ターリルとガリドルの2人もさすがにこれには戸惑った。
だが、クイフは話をやめない。
「ごめんね。ごめんね。僕、お父様に言われて逆らえなかったんだ。2人の事は大事だったんだけど、妹の事はどうしても捨て切れなくて。ひどいよね。2人とも親友だって言ってくれてるのに、僕だけ家族の方を優先しちゃって。こんな僕は、」
「待て。クイフ。そんなに思い悩むな」
ターリルが、ぶつぶつとつぶやくクイフを遮った。
その顔は戸惑いと心配で染まっている。
そんなターリルに続いて、ガリドルも、
「クイフ、心配しないでくれ。俺たちはたとえ洗脳されていようと、お前の友達だ」
「ふ、2人とも」
手を取り合う3人。
その表情は、希望に満ちていた。
「ありがとう。2人とも」
「礼なんていらない。これからも、ともに生きよう」
「ずっと友達だ」
「…うん!」
感動的な場面。
エリーはそれを見ながら、
ー-あぁ。早く終わらないかしら?
と、かなり人でなしなことを思っていた。
とはいえ仕方ないといえば仕方ない。
数分間、自分が完全に蚊帳の外なのだ。
お茶があるわけでもお菓子があるわけでもないので、時間をつぶすこともできない。
エリーは少し飽きてきていたのだ。
「エリー嬢」
「……ん?あぁ。何か?」
突然呼ばれて少し焦ったが、エリーは表面上では平然を取り繕う。
何が来るのかとエリーが警戒していると、
「「「ありがとう」」」
素直なお礼の言葉が投げられた。
「い、いえいえ。お礼なんて必要ありませんよ。お3方が、誤解を解けたようで何よりですわ」
エリーはそう言って、ニコリと笑う。
3人も同じように笑みを浮かべた。
だが、1人だけ笑顔がどこか暗い。
ーーまあ、今までのことがあるし、罪悪感が残っているわよねぇ。
「クイフ様。何を悩んでおられるんですの?」
「え?あぁ。や、やっぱり変だったかな?………まだ、ターリルとガリドルの洗脳が続いているんじゃないかって、怖くなっちゃって」
「いや。俺たちは。」
クイフは暗い顔をしながら言う。
ターリルとガリドルは洗脳されていないと伝えようとするが、クイフとしては確証が持てていないと言った表情。
「そういえば、洗脳が成功すれば、洗脳というスキルが手に入ると聞いたことがあるのですが」
エリーは思い出したように言った。
あくまで、聞いたことがあるとしか言わない。
決して、自分が持っているとは言わないのだ。
ーー私の手札を見せるつもりはないわ。
「『洗脳』?」
クイフは首をかしげた。
どうやら、洗脳のスキルを知らないようである。
「手に入れられていないなら、洗脳が上手くなっていない証拠になるのではないでしょうか?」
エリーがそう言うと、クイフの表情が少し明るくなった。
どうやら希望が持てたようだ。
「私の話が信用できないというのなら、公爵様に聞いてみては如何ですの?きっとクイフ様に洗脳をするよう言ったのですから、公爵様も洗脳できるんでしょう」
「そ、そうだね。聞いてみる」
エリーの提案に、クイフは頷いた。
その目は少し前までとは違い、どこか輝きがある。
ーー良い感じね。これで、次期公爵組はある程度こちらに引き込めたかしら?
エリーは心の中でほくそ笑んだ。
すると、やはりというべきか。
《スキル『洗脳LV6』が『洗脳LV7』になりました》
《スキル『精神支配LV4』が『精神支配LV5』になりました》
洗脳のレベルが上がった。
ついでに、使ったことのない精神支配の方も上がっている。
ーー私、このまま行けば国を裏から操れそうな気がするんだけど。
スキルのレベルだけを考えればそんなことすら考えられた(なお前回使った結果には目をつむるとする)。
そうしていると、
「そういえば、洗脳なんてスキルどこで聞いたんだ?」
ふと思い出したようにターリルがエリーを見て、聞かれたくなかった質問をしてきた。
エリーは、持っていることを悟られないような返答を心がける。
「誰だったかは覚えていませんわ。おそらく、私が管理している村の方で聞いたのだと思うのですが。もしかすると、何かの文献で読んだ可能性もありますわね」
「ふぅん。………お前が持ってたりとかするのか?」
笑顔を浮かべて返答したエリーに、究極の質問をターリルが投げかけてくる。
ーーぬぉぉお。何という質問!直球過ぎて、ごまかせないわ!!
エリーは心の中で焦りながら、穏やかに返した。
「そんなスキルありませんわ。というか、手に入れようにも私が洗脳なんてする相手が………」
そこまで言って、エリーは固まった。
いない。と続けたかった。
だが、いないわけがない。
エリーは友人に王家も教会のモノも公爵家のモノもいるし、自分の家族も公爵家だ。
洗脳できたら便利なモノたちは、エリーの周りに沢山いる。
エリーが悩みながら3人の方を見ると、3人とも微妙な顔をしていた。
「まあ、私が洗脳できるならとっくの昔に私と王族方との婚姻が決まってますわ」
エリーはそう言って肩をすくめる。
軽い発言だったが、思ったよりもその発言の効果は大きく、3人とも納得したような表情へと変化した。
こうして洗脳をエリーが持っていないという流れにでき、エリーたちは雑談へと移行する。
内容の半分以上が、3人の思い出話。
エリーが思い出話を適当に聞いていると、またターリルが何か思い出したようにエリーを見て、
「そういえば、お前とバリアルは剣術を習ってるんだったな」
と問いかっけてくる。
エリーは危険を感じた。
ーーこれ、下手な返答をすれば脳筋のターリルと戦う羽目になるかも知れないわ
エリーの記憶が正しければ、ターリルは戦い好きである。
しかも、戦い方は完全に脳筋。
力勝負になる可能性が高い。
「私も一応習ってはおりますが、大して強くはないですわ。剣術の試合がしたいなら、お兄様とでもやって下さいませ」
そこまで言って、エリーの頭にあるアイディアが湧いた。
ーーあれ?これは、新しい特殊グループを作るチャンスでは?
まず、ターリル、ガリドル、クイフの3人の特殊グループが存在する。
こちらは洗脳関係の誤解も解けて、もう完成したと言っても良いだろう。
そして、作れそうな特殊グループがもう1つ。
ーー次期公爵5人の特殊グループもあったはずよね?
なんてことをエリーは考えているわけだが、そんなことはつゆ知らず、
「ん?おまえもそこそこ強いって聞いたんだけどな。盗賊を何人も斬り殺したとか聞いたが」
ターリルが試すような目でエリーを見る。
それをエリーは笑って、
「あら。あれは、敵が油断していただけですわ。真正面から戦って勝てる自信はありませんわ」
と、受け流す。
ターリルは少し不満そうな顔をしたが、それでも少し考えて笑みを作った。
「じゃあ、バリアルの方に声をかけるか」
そう言って、ターリルは部屋から出て行く。
エリーは残りの2人も連れて行こうと考え、
「見学されますか?」
「うん。そうだね」
「まあ、せいぜいターリルの負けた顔を拝みに行くとしようか」
2人は了承した。
そのまま3人で、練習場所へと向かう。
「おそらく、ここで戦うことになると思いますわ」
エリーたちがしばらく待っていると、予想通り兄バリアルとターリルがやってきた。
ーーここで、ターリルとバリアルの仲を良くさせましょう!!
ゲーム用のステータスが生えてしまったエリーは、自身を強化できるチャンスを逃しはしない。
「それでは、はじめっ!」
合図を出すことになったエリーが、腕を振り下ろす。
それと同時に、
「「はあああぁぁぁあ!!!!!」」」
バリアルとターリルは、同時に駆けだした。
バリアルは剣を横に、ターリルは縦に構えている。
「だぁっ!」
先にターリルが剣を振り下ろした。
バリアルはそれを体を傾けて避け、反撃で剣を横に振る。
「おっと!」
ターリルは剣をバックステップで避け、もう1度踏み込んだ。
が、それを狙っていたように、バリアルは回転し、もう1度横に剣を振った。
ガンッ!
「ぐっ!」
重い音と、ターリルのうめくような声が発せられ、ターリルは地面に転がった。
だが、どうやら攻撃自体は剣で防いだようで、バリアルは悔しそうな顔をしていた。
それからまたぶつかり剣で押し合いながら、2人の少年は笑い合う。
時に力で押し合い、時に相手の剣をそらす。
激しい攻防が続いていた。
だが、少しだけバリアルの方が押しているように見える。
「2人ともガンバれぇ!」
「いいぞ!そこだ!!」
見学者の男子2名も盛り上がっている。
そんな中唯一盛り上がりに欠けるのが、
ーー何か、微妙。
この2人の戦いを企画したエリーであった。
確かに子供同士では凄いのかもしれないが、夜の戦いを見てきたエリーにとっては、お遊び程度にしか見えない。
あまり面白くもなかった。
ーー早く終わらないかしら?
この戦いを誘導しておいてこんな調子なわけだが、そんな思いが通じたのか、
カンッ!……カランカランカラン。
1本の剣が宙を舞い、地面に転がる。
剣の落ちなかった方の剣は、相手の首筋を捕らえた。
ここで、2人は笑い合い、
「降参だ」
ターリルが負けを認めた。
やはり、バリアルの方が少し強かったのだ。
「また、戦おう」
「ああ。良い試合だったよ」
2人が固い握手を行う。
その顔には疲れているにもかかわらず、笑みが浮かんでいた。
ーーえ?戦って笑顔ってどういう事?もしかして、バリアルも戦闘狂だったり!?
エリーはそれを見て顔をしかめた。
「ん?エリー?」
その様子を見たクイフが、不思議そうにエリーを見てくる。
エリーは慌てて首を振った。
「い、いえ。少し私との力の差を感じて、頑張らなければと思っただけですわ」
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