悪役令嬢、誤解されまくり
「お、おう。凄いな」
エリーは呆気にとられながらも、技を褒める。
石に魔力を込めて炎を鳥の形にするなど、なかなか素晴らしいと感心したのだ。
だが、今はハッキリ言ってそれどころではない。
ーー魔力の反応が薄くなってる!死にかけてるんじゃないかしら!?早く、助けにいかないと。
エリーは炎によって被害を受けたモノを心配し、川を越えようと跳んだ。
100もそれを追い駆けてくる。
「いた!」
エリーは生存者を見つけ出し、駆け寄った。
そこで、初めて、
ーーあれ?この人たち、盗賊っぽいわね。
と、気付く。
「我ら毒龍に刃向かうならば、容赦はしない」
少し考えた後、エリーはそう言って、生き残りに軽い回復魔法をかけた。
毒龍と名乗ったのは、
ーー私たちクラウンは何も悪くないわ!悪いのは全部、毒龍よ!
責任を押しつけるためである。
そうして生存者を助けた後、
ーーん。あっちにも魔力の反応が。
魔力感知で他にも人が集まっていることを感じ取った。
ーーこの人たちの仲間よね?この人たち盗賊っぽいけど、指名手配されてるのとかは見たことないから、流石に殺すのは忍びないわね。
エリーは人が集まっているのには触れないことにした。
「よし。戻るぞ」
「え?でも、まだ人が」
エリーが帰ることを告げると、100は戸惑ったような顔をした。
だが、その言葉は聞かずにエリーは帰路についた。
……。
すぐに小屋に到着。
「戻ったぞ」
「あっ。クラウン様」
「お疲れ様です」
部下たちがねぎらいの言葉をかけてくる。
このまま報告会をしたいところであったが、少し時間が経ちすぎていた。
「我は戻る。明日の夜までに、お互いの報告をしておけ」
エリーはそれだけ言って勝手に帰っていく。
だがそれでも部下たちは動じず、
「それではこれより、今回の作戦の報告を行って貰う」
20代くらいの見た目のファーストが、報告会の開始を宣言した。
小屋には作戦に参加したクラウンのメンバーが全員集まっており、真剣な表情をしている。
「Aグループ。成功しました」
「同じくBも成功」
「同じくCも………」
それぞれのグループから、結果が告げられていく。
結果は、全グループ作戦成功。
そこで、誰かが思い出したように声を出す。
それは他のモノたちも気になっていたことで、
「クラウン様はどこに行かれたんだ?」
というモノだった。
ということで、ついて行った100は起こったことを簡単に説明する。
「火傷蜥蜴の大規模基地に向かいました。ただ深入りはせず、偵察用の魔物を多数殺害し数名の殺害を行った程度です。そして、数名に毒龍の名を告げて去りました」
クラウンのメンバーたちは、不思議そうな顔をする。
全員、エリーなら全滅できることを疑っていなかったのだ。
「ん?待てよ?もしかして、クラウン様はもっと大物を釣るつもりなんじゃないか?」
「もっと大物を?」
半数は首をかしげた。
そして、もう半数はなんとなく理解した表情になる。
分からない半数のために、セカンドが解説を行う。
「そうだ。クラウン様も、俺たちと同じように毒龍の名前を高める作戦に出たんだ。俺たちの場合は小さなアジトを狙って毒龍の仕業に見せかけたが、クラウン様はそれを大きな場所でやった。ただ、それだけの違いなのではないかと思う」
クラウンのメンバーが行ったこと。
それは、火傷蜥蜴のアジトを襲って、それを毒龍の仕業に見せかけることだった。
そうすることで火傷蜥蜴は毒龍を更に警戒し、この国から手を引いていく。
というのが、クラウンの基本的な考え方。
「だが、クラウン様がやろうとしているのは、その逆。つまり、火傷蜥蜴を更にこの国へ入り込ませようとしているんだ。そのために大きなアジトを少しだけ攻撃し、ちょっかいはかけられるが潰すほどの力はないと思わせた」
そこで、理解していなかったモノたちの頭に疑問が浮かぶ。
その疑問は、
「なんで、わざわざ火傷蜥蜴をこちらへ来るように仕向ける必要があるんだ?」
「簡単だ。クラウンの目的は、この世界の闇を支配すること。決して、この国だけを支配するだけじゃない。そのためにまず、世界中で影響力を持つ火傷蜥蜴の精鋭を潰すことにしたんだ。だから、毒龍を潰すための精鋭が来るように仕向けた」
「な、なるほど。さすがはクラウン様」
「確かにクラウン様なら精鋭相手でも戦えるし、勝利できるかもしれない。それに、敵の目的を毒龍にしておくことで最悪敵に勝てなった場合でもこちらへの被害は出ないようにするわけか」
「クラウン様は、どうやってこんな作戦を思いつかれたんだ?」
クラウンのモノたちは、口々にエリーを褒め称える。
が、エリーにとっては何のことか分からない話。
勝手にエリーの考えを想像して、勝手に尊敬しているだけ。
エリーがコレを聞いたら、頭を抱えたくなるようなことであった。
さて、ではそんなクラウンたちが頑張った成果がどうなっているのか。
民衆たちは、
「おい。毒龍とか言うのが、各地で暴れてたって聞いたんだけど」
「それ、私も聞いた。怖いわぁ」
「数十カ所を一挙に昨日の夜に攻撃したんだろ?どれだけ人数がいるんだよ」
毒龍のことを話題にしていた。
民衆がこうなのだから、勿論やられた方も、
「おい。毒龍の奴らが本格的に攻撃してきやがったぞ」
「だが、潰されたのは小さいところだけ。大きいところはあまり被害がなかったらしい」
話題は毒龍で持ちきり。
作戦成功であった。
なんてこともありつつ夜は更けていく。
翌日にはエリーも何食わぬ顔でまたいつものように公爵家の令嬢をやっていて、
「エ、エリー。今日も話せるかな?」
「ええ。かまいませんわよ」
話しかけてきたのはクイフ。
2人は昨日話した部屋へ移動した。
昨日には洗脳をしてきたが、今日は、
「今日はどういった用件ですの?」
「ん?友達と話すのに理由が必要なの?」
良い感じの台詞を言っているが、少し前には洗脳してこようとしてきた奴の台詞である。
エリーは目を細め、肩をすくめた。
「そうおっしゃるならそれで構いませんわ」
エリーはそう言って、1度窓を見る。
それから、もう1度クイフの顔を見据えて、
「また私を洗脳して来いと公爵様に言われたのでないなら、それでいいですわ」
エリーは微笑みを浮かべる。
逆に、クイフの顔が暗くなった。
「やっぱり、バレてたかぁ」
はぁ。という、小さいため息とともにクイフは言う。
その様子は、エリーの予想が正しいことを表していた。
「やはり、公爵様から昨日の提案は断られたんですわね」
エリーは、あきれのこもった声で尋ねる。
尋ねられたクイフは、お手上げだというように天を仰いだ。
「それも分かるのかぁ」
クイフはもう、笑うしかなかった。
自分では到底エリーには勝てないと思ったとき、
コンコンコン。
扉がノックされた。
「どうぞ」
「おう。入るぞ!!」
「2人とも元気か?」
エリーが入室を許可すると、クイフが洗脳できている(と思い込んでる)2人が入ってきた。
クイフとエリーは、やってきた2人の目的が分からず、首を傾げる。
「ふ、2人とも、どうしたの?」
クイフが入ってきた2人に用件を尋ねる。
2人はにやっと笑って、
「「友達のところに来るのに、理由が必要なのか?」」
と、クイフが使った言葉をまねしていった。
この様子から、2人に会話を聞かれていたことを察した。
「では、お2人は遊びに来られましたの?」
エリーは意地悪く尋ねる。
会話を盗み聞ぎまでしてきたのに、ただ遊びたかっただけなわけがないのだ。
「ちげぇよ。クイフが困ってるなら、俺たちも協力しようと思って!」
「そうだな。困ってるなら、僕たちに相談してくれればよかったのに」
2人はそう言って、クイフに迫る。
ー-私は何も伝えてないのに、良く事情があるってわかったわね。
エリーは、友情というものの凄さを改めて理解した。
そして、友情の
「「なあなあなあなあなあ!なんで言わなかったんだよぉ!!俺(僕)たち、親友だろ!?」」
怖さも理解した。




