悪役令嬢、石投げ
「そ、そう。妹さんが」
エリーは心配そうな顔をしながら呟く。
勿論内心の様子は大きく違う。
ーー何それ!?そんな設定初めて聞いたんだけど!?それ本当?本当に、妹倒れてるの!!???
エリーは、自分の知らない情報が更に追加されて混乱していた。
混乱しながらも、エリーは考え、自分の利益を追求する。
そう考えている内に、場をつなぐための会話を思いついた。
「妹さんは、薬局にも見て貰いましたの?」
「薬局?」
薬局。
それは、クラウンの部下の1人、ファーストが局長をしている場所。
教会に敵視されており、教皇の息子であるイルデは利用して教会の権威を下げようとしている所だ。
教会から敵視されても潰れないのは、民衆から広く支持されているからであり、1度薬局へ乗り込んだモノがひどい目に遭ったから。
最近では教会側が表立って非難できないレベルまで影響力が強くなっており、貴族でも利用するモノは多い。
そんな場所だからこそ、クイフにの妹を見せることができると考えたのだ。
治せるかどうかは別として、
「薬局……1度行ってみることにするよ」
とりあえずその意見に納得をしてくれたためエリーも少しは落ち着いてきて、
(これも向こうの作戦っていう可能性はあるわ。油断したらだめよね。妹がいない可能性だって、そしてたとえ妹がいたとしてもそれを本気で治したいと思っているかだってわからないわ)
「それでは、妹さんを気遣ってあげて下さいね」
「うん。今日はいろいろありがとう。エリー様」
2人は部屋の前で、小さく手を振って別れた。
クイフが廊下の端まで行き、姿を消したところでエリーは肩を落とす。
「今日は長くしゃべりすぎましたわ。少し疲れてしまいました」
そう呟くエリー。
直後、エリーの目の前にお茶やタオル、お菓子が並べられた。
「エリー様。お疲れだろうと思い、用意しておきました」
そういうのは、エリーの専属メイドであるメアリー。
最近のメアリーは、一層エリーへの忠誠心を強くしていた。
理由は、エリーが相談にのってくれているからだ。
世間には批判されるようなことも、エリーはきちんと受け止めて相談にのってくれる。
メアリーには、エリーが天使のように見えるのであった。
それも1つの要因だったのだろう。
《『洗脳LV5』が『洗脳LV6』になりました》
洗脳がレベルアップした。
ーーいや。最初の印象が悪すぎて使う気が起きないわぁ。
なんてことがありつつも、そのまま夜は深まっていく。
エリーはセカンドが待っているらしい、老婆のファーストが住んでいた小屋に向かった。
最初に見たときより数倍も大きくなった小屋へ入ると、そこにいたのは、
「「「お久しぶりです。クラウン様」」」
100名近い人員。
まるで、昔のクラウンが再結集したようである。
小屋にいるモノたちをエリーが見回していると、老婆のファーストが前に出てきた。
そして、膝をついて言った。
「クラウン様の元を離れて、1年近くが経ちました。私たちも、少しは成長できたのではないかと思っています。そこで、本当にクラウン様にふさわしい部下として、これから活動していきたいと思っています。数名遠くの地まで潜入しているモノもおり、集まれていないモノもおりますが、そのものたちも含めて、これからまたよろしくお願い致します」
エリーはファーストの言葉に感動した。
ーーつまり、また私のごっこ遊びに付き合ってくれるということね!うぅ。優しい部下が多くて嬉しいわ。
「よい。ならばクラウン再結集と言うことで、今夜は盛大にやるぞ!……とは言っても、今夜有名になるのはクラウンではないのだがな」
エリーはそう言って、黒い笑みを浮かべた。
集まった部下たちもエリーの顔は見えないはずなのに、同じように笑みを浮かべていた。
「それでは、行くぞ」
「「「はっ!!」」」
エリーたちは軽く作戦を話し合い、早速決行することにした。
幾つかの部隊に分かれ、部下たちは小屋から消えていく。
「我も行くか」
「私もお供させて頂きます」
エリーが外に出ようとしたところで、少女がそう言ってきた。
少女は、100。
昔の名をセラニナといい、セカンドの妹でもある。
闇の加護を持っていて実力は申し分ないため、エリーは黙ってうなずき、駆けだした。
「クラウン様。クラウン様は、どちらへ向かわれる予定なのでしょうか?」
100が行き先を尋ねてくる。
エリーは答えず、ただ手を振るだけだった。
ーー全然どこ行くか考えてなかったわぁ。私が考えてた所は、部下たちに行かせちゃったし。……こうなったら行き当たりばったりで良いでしょう。
エリーは部下たちに再会したことを喜びすぎて、自分の行く予定だった場所を全て教えてしまったのだ。
そのため、エリーの予定は総崩れ。
適当にその辺りの盗賊でも狩るか、という考えになった。
「この方角は、……っ!?そういうことですか」
セラニナも何かに気がついたようであるため、何かあるのだろうことは分かる。
エリーもこのまま進むことは問題ないと判断できた。
それから数分。
「よし。ここにするか」
エリーは川の前で止まった。
セラニナは首をかしげる。
ーーここ?あの場所は、もう少し先のはずだけど。
エリーが選んだ場所は、セラニナが予想していた場所とは少し違った。
「それじゃあ、軽く練習でもするか」
だがそんな様子は気にせずエリーは足下の石を拾う。
それから、振りかぶり、
ヒュッ!
投げた。
石は川に向かって飛んでいき、
パシャ!パシャ!パシャッ!!
と水の上をはねた。
直後、
「ピキュウウゥゥゥゥゥ!!!?????」
何かの動物の悲鳴が響いた。
セラニナは音のした方に駆ける。
「これは、魔物?しかも、テイムされてる!?流石ですクラウン様。敵の偵察を発見されたんですね」
「え?あ。そうだな」
目をキラキラさせてエリーを見つめてくる100。
エリーはそれに、曖昧な答えを返した。
ーーえ?ちょっと遊んでみただけだったんだけど。何かやっちゃったの?
エリーは故意にやったわけではなかった。
ただ、なかなか探しても見つからなかったから、時間を潰そうと石投げをしてみただけなのだ。
それなのに、こんな尊敬の眼差しを向けられるとは。
「お前も、やってみるか?」
エリーはそう言って、石を手渡す。
ーー石投げ、この子もやってみたいのね。
エリーは、100が感心していた理由を、石が水の上ではねる技術に驚いたからだと考えた。
勿論そんなことに驚いたわけではなく、2人の間には大きな溝ができていた。
だが、その溝に2人が気付くことはない。
100は石を受け取り、構えた。
「どこに投げれば良いですか?」
「どこでも良い。ただ、最初の衝突地点が近くなりすぎないように気をつけろ」
「はっ!」
100が石を投げた。
石は回転しながら水面に当たり、
パシャパシャッ!
数回はね、向こう岸まで石は飛んでいった。
それから、ゴスッ!重い音がする。
100は嬉しそうな顔でエリーを見てきた。
「ほう。なかなか上手いじゃないか」
エリーは素直に感心する。
まさか、最初から成功させてくるとは思わなかったのだ。
ただ少し悔しさもあったので、エリーは新たな技術を見せることにした。
その技術は、この世界の技術との融合で、
「石に魔力が集まってくる。……何をされるおつもりなのですか?」
100が不思議そうに魔力の詰まった石を見る。
エリーはそれを1度手の上で転がした後、強く掴み、アンダースローで投げた。
パシャパシャパシャパシャッ!
と、激しく石は弾んでいき、
パァァァンッ!という音と共に破裂した。
だが、それだけでは終わらない。
はじけた石がそれぞれ、
パシャパシャパシャ!!
と、はねていった
「す、凄い。爆発攻撃で、しかも広範囲」
100は驚いたように目を見開き、それから自分もマネをしてみようと、石に魔力を込め始めた。
エリーはそのとなりで、新しいことを試す。
「はっ!」
パシャパシャパシャッ!!
「ほっ!」
パシャパシャパシャパシャ!!!
石が次々と弾んで、爆発したり、竜巻を起こしたり、電磁加速されたり、色々魔法と組み合わされて効果を発揮した。
エリーは気付かなかったが、それによって当然被害は発生。
被害を受けたのは、向こう岸にいた偵察用の魔物たち。
大量にやられて、何が起こったのかと探しに来たらまた殺される。
そんなループが完成していた、
テイムしている魔物の飼い主は何が起きているのか分からず、大混乱している。
だがその混乱はその後余計に加速されていき、
「はぁ!!」
ドンッ!ドォォォンッ!!!
爆発音が響く。
川の水が吹き上がり、辺りに降り注ぐ。
エリーたちはそれも気にせず、石を投げ続けた。
バリバリバリバリッ!
ドン!ドンガラガッシャーン!!
そうしていると、エリーの魔力感知に新しい反応が出てきた。
エリーは、石を投げながらそのことを100に伝える。
「……なるほど。では、私にお任せ下さい」
エリーの話を聞いた100は1度うなずき、石を大きく振りかぶった。
そして、上へ放り投げた。
放物線を描きながら石は飛んでいき、
パァンッ!と、空中で破裂する。
ーーえ?普通に投げるの?
エリーは首をかしげるが、結果を見て納得した。
なんと、破裂しカケラ同士でぶつかり合い、数秒間空中で石が跳ね続けたのだ。
ーー水面ではできない技術。考えたわねぇ。
そしてこれの結果、何がどう当たったのかは分からないが、
「ギャアアァァァァ!!!!???????」
絶叫が響き渡った。
どうやら、近づいてきていた人に石のかけらが当たったようだ。
「すみません。少し操作を誤りました」
100が謝ってくる。
エリーとしては、
ーー謝るなら私じゃなくて、石当たった人にしたら?
と、思ったが、言うことはなかった。
言う前に、新たな反応を見つけたのだ。
エリーはそのことを、また100に伝える。
「なるほど。では、ここで名誉挽回をさせて頂きます。………はっ!!!」
その言葉と共に、また石が投げられる。
今度の石は赤く輝いており、空中ではじけると、
ゴォォォ!!!
火を噴いた。
さらに、その炎が形を変え、鳥の形となる。
その鳥は新しくやってきたモノたちの方へ向かっていき………。
「どうでしょうか?先ほどの汚ミスを挽回できたでしょうか?」
この作品とは関係ないのですが、作者が書きました
VRゲームで攻略などせずに勉強だけしてたら伝説になった
の2巻が発売されました!
書店等で見かけた際は是非是非よろしくお願いいたします。




