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悪役令嬢、手強い相手

「……分かった。それでいい」


「僕もそれで構わない」


2人とも貸しを作ることを了承した。

エリーがまた2人の親の方を見ると、今度は少し困ったような顔をしていた。


 ーー金を払うだけなら簡単だけど、借りを返すときには、こちらが困ってないといけないからねぇ。私たちが困ることがあるのかって言うことがまず問題よね。

エリーは、金をむしり取るのではなく他家に貸しを作ることで自分の有能性を示しておいた。


エリーの目標は、夜の活動のために、目立たずに行動すること。

だが目立たなすぎると、父親から行動を制限される可能性がある。


だから、エリーは貴族間だけで少し目立つことにしたのだ。

貴族間だけで目立っても、民衆からは目立つことが少ない。


 ーーそれなら、民衆から騒がれることもなく、今のような状況ではなくなるはず。

エリーはそう考える。


が、貴族から目立てば暗殺もあるので、全く問題がないわけではない。

とはいえ、子息関係とエリーの中は良好なことが多いため、そこまで頻度は高くないだろうが。


なんてこともありつつ時間は流れていき、その日の夕方。


「エリー様。ターリル様とガリドル様がいらっしゃいました」


身分が高い連中が来たこともあり、秘密の話の可能性もあるということで部屋から、メイドなどが出ていく。

直後、


「「すまなかった」」


2人は頭を下げてきた。

エリーは頭を働かせ、彼らの目的を推測。


 ーー親に、謝ってこいとでも言われたのかしら?確かに、私は謝られていない気がするし。

エリーは、2人が親に言われてイヤイヤ来たのだと考えた。


「謝罪など不要ですわ。というか、あの花は私のモノではないですし。謝るなら、持ち主のお父様にでも謝って下さい」


エリーは突き放すように言う。

だが、2人は首を振った。


「まずは、俺たちの事情を説明させてくれ」


ターリルはそう言って、エリーに真剣な眼差しを向けてきた。

そこまでされるとエリーも、聞かないと言うわけにもいかない。


「実は僕たち、クイフに洗脳されているフリをしてるんだ」


「はぁ?」


ガリドルの言葉に、エリーは驚く。

エリーは、彼らが洗脳されていることに気付いていないと思っていたのだ。


ゲーム内で、ターリル、ガリドル、クイフの3人を攻略した場合、とある事実が発覚する。

それは、クイフが他の2人を洗脳していると言うことだ。


だが、ゲームではそのことを他の2人に伝えても信用されない。

てっきり、疑えないくらい洗脳されているのかとエリーは考えていたが、


「そう。お二方とも気付かれてましたのね」


2人とも気付いていたの。

エリーとしては驚きの展開である。


「ん?お前も気付いていたのか?さすがだな。そんなに会ったこともないのに。そこまで見抜くことができるなんて」


ターリルが賞賛してくるが、エリーは苦笑する。

別に自分の力で気付いたわけでもないし、そのことを正直に言うこともできないからだ。


「分かっているなら話は早い。どうやらクイフは、父親から俺たちを洗脳するように言われているらしいんだ」


「クイフの家はかなり厳しくてな。成功しなければ厳しい罰が待っているのは、容易に想像できた。だから、僕とターリルは2人で話し合って、洗脳されているフリをすることにしたのさ」


ターリルとガリドルから、知らなかった事実が次々と語られる。

エリーは自分の知識と照らし合わせながら、その情報を元に様々な推測を立てた。


「……なんとなく、話はつかめましたわ」


エリーは2人の話が終わり、納得した。

2人もクイフも大変な思いをしていて、今の道以外が思いつかないのも理解できる。


「俺たちの状況はこんな所だ。どうか、理解してほしい」


「ええ。理解致しましたわ。ただ、」


ターリルの言葉にエリーは頷く。

だが、少し含んだように言葉を溜め、


「ただ、だからといって貸しが無くなるわけではありませんからね」


エリーはそういて微笑む。

2人は少し唖然とした表情をした後、笑い出した。


「ははっ!そうだなぁ」


「覚えておくよ。いつか返そう」


2人はエリーに借りを返すことを約束した。

しばらく笑った後、ガリドルが表情を真剣なモノに戻す。


「まあ、借りはいつか返すとして。今は君に注意して貰いたいことがあるんだ」


 ーー注意すること。まあ、1つしかないわよねぇ。

エリーはなんとなく内容を察した。


「おそらくクイフは、君も洗脳しようとしてくるだろう」


「そうでしょうね」


エリーは深く頷いて、窓から外を見る。

窓からは夕日が差し込んでいて、エリーたちの顔を赤く照らしていた。


「……なあ。頼み事をしていいか」


ガリドルはそう言ってエリーを見る。

エリーは即答した。


「嫌ですわ」


拒否である。

ここまで素速く拒否されるとは思わなかったのか、ガリドルとターリルは唖然としていた。


それから数秒後。

先にガリドルが復活した。


「話くらい聞いてくれたって良いじゃないか!」


ガリドルは抗議の声を上げる。

だが、エリーは首を振る。


「どうせ、私にも洗脳されたフリをしてくれ、とでもおっしゃるのでしょう?勿論嫌に決まっていますわ」


「「むぅ」」


エリーの推測は正しかったようで、2人は黙り込んでしまった。

 ーー洗脳されたフリしたら、変なことに手を付けなきゃいけなくなるかも知れないじゃない。嫌だわぁ。


ただ拒否はするにしても、そのまま突っぱねるだけでは恨みを買うだけだと考え、


「それじゃあ」


「……ああ。頼んだぞ」


「できるだけ。善処してくれれば」


エリーと2人は分かれた。

少しして、2人の話にあったとおり、


「エ、エリーさん。ちょっと話せるかな?」


クイフがやってきた。

エリーは笑みを作り、当然受け入れる。


「構いませんよ、夕食まででしたら」


「そう。じゃあ、さっそく本題なんだけど。……ぼ、僕の友達になってくれない?」


クイフは友人となるよう求めてきた。

ここまでは、エリーの予想通り。


「いいですわよ。これからお願いしますね。クイフ様」


エリーはそう言って、手をクイフに差し出す。

クイフは小さく笑みを作り、エリーの手を握り返した。


そして、


「それから、友達からのお願いなんだけど」


早速仕掛けてきた。

貴族という存在が孤独で友達という存在に弱っているからこそ出てくる言葉だろう。


「………ということなんだけど。お願いできないかなぁ?」


クイフはそう言って、手を合わせて頼み込んでくる。

エリーは即答した。


「嫌ですわ」


「………へ?」


沈黙が続いた。

エリーは自分から話すつもりもないし、クイフはエリーの返答が予想外だったのか固まってるし。


どちらも話すような状況ではないのだ。

エリーは、数秒間クイフが復活することを待つ。


「……と、友達の頼みを断るの!?」


クイフ復活。

だが、エリーはそこに優しさを見せたりはしない。


「当然、断りますわ。私たち、そこまでの関係ではございませんから。………お金がないから、少し欲しい、でしたっけ?ありえませんわ。私は、自分で商売をしてみようとも思わない人を、お金を渡して良い友達だとは思ってませんの」


「ぐぅ。………なら、ぼ、僕たちが君の敵に回るよ!!」


「あら?あなたたちが敵にまわりますの?それは驚きですわ。まさか、あなたたちのような方々が、みすみす利益を逃してしまうなんてぇ」


エリーはそう言って、笑みを作る。

クイフは、明らかにうろたえた表情をしている。


「こ、公爵家3家だぞ!お前の家の利益なんて、すぐにでも吸い取れる!!」


クイフは焦った顔をしながらも言った。

だが、エリーは笑みを崩さない。


「でしたら、私の友人の公爵家と王家と教会が動くかもしれませんわねぇ」


「ぐぅぅ!!!」


クイフは悔しそうに唸った。

 ーー公爵家も、そこまで情報収集能力は高くないようね。


エリーは勝ち誇ったような余裕のある笑みを浮かべているが、内心そこまで落ち着いているわけではない。

なぜなら、


 ーー教会とサッド家は、私の敵に回るはずよねぇ。

という考えがチラついたからである。


両方の組織に友人は所属しているが、だからといってその組織が味方というわけでもない。

それを分かっていないという点も含めて、エリーは公爵家の情報収集能力が低いことを理解した。


「ふふっ。私としては、あなた方がこのままの関係でいることをお望みならわざわざ壊すつもりもないですけど…………そうでないというのなら、容赦はしませんよ?」


エリーはそう言いながら、とあるスキルを初めて使う。

 ーーこれ、どこまで効果があるのかしら?


そのスキルは、

 ーー『洗脳』、されちゃいなさい。


洗脳。

1年ほど前から持っていた、そこそこ付き合いの長いスキルである。


スキル自体のレベルも5と、そこそこ高い。

だが、使う予定だった弟のアシルドが従順だったりと色々予定がかみ合わず、今日まで洗脳が日の目を見ることはなかった。


だが、ついに今日、その洗脳が真価を発揮するのだ!!

 ーー楽しみだわ!洗脳が成功したら、どうしようかしら?


《洗脳に失敗しました》


期待最高潮のエリーの頭に、無慈悲な声が響く。

エリーは理解が追いつかず数秒固まり、


 ーーはあああぁぁぁぁぁ!!!!???????

心の中で大絶叫を行った。


なのだが、


「わ、分かった。ぼ、僕は、君に敵対しないよ」


「ふふっ。賢明なご判断ですわ」


エリーは笑う。

だがその心の中では、


 ーー洗脳使えない!とても使えないわ!レベル5もあるくせに失敗してんじゃないわよ!

と、失敗した洗脳を罵倒していた。


が、すぐに思考を切り替える。

たとえスキルが失敗したとしても、エリーにはまだ使えるモノはある。


そう。

それは、自分自身。


 ーーこうなれば、私の手で洗脳してみせるわ。絶対無害にする!!

エリーは覚悟を決め、クイフに再度笑いかけた。


「さて、賢明な判断をするお友達と私はもう少しお話ししたいですわ。……クイフ様。あなたは、なぜそこまで焦ってますの?」


なぜ焦っているのか。

その理由は、ターリルとガリドルから聞いた。


だが、それが本当の理由かは分からない。

だから、本人はどう思っているのか聞いてみることにしたのだ。


「あ、焦ってはいないよ。でも、……ぼ、僕は、世間には公表していない妹がいるんだけど、病気で寝たきりなんだ。難病だから、お金が沢山必要で、そのために、僕も家のために頑張らないと行けないと思って」

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