悪役令嬢、買収します!
エリーがデュランスとイルデを会わせたかった理由。
それは、特殊グループというモノが作りたかったからだ。
特殊グループは、特定の数人をハーレムメンバーにするとできあがるグループ。
特殊グループを作ると、そのグループに関する特殊なイベントが起きたりするのだ。
そんな中で、現在作れそうなのが、イルデとデュランスとアロークスのグループである。
他のグループは、まだ大して友好関係の築けていないメンバーがいる。
(この子たちストレスとか凄そうだし、せめて友達を作ってあげて、心が落ち着く空間を持たせてあげたいわ!)
エリーは、デュランスたちの状況を考えて、ストレスを解消できるようにしてあげたかった。
「それじゃあ、帰ったらイルデとある程度調整を行って、お手紙を送りますので」
「うん。ありがとねぇ。エリーちゃん!」
ウインクをしてデュランスは見送ってくれた。
そんなことになったのだから、もちろん、
《スキル『洗脳LV3』が『洗脳LV4』になりました》
洗脳のレベルが上がった
(ですよねぇ~)
エリーも今回は予想できていたので、そこまで驚かなかった。
ただ、驚かなかった理由は他のことをしていてそれどころではなかったというのもあるのだが。
そんなエリーが忙しい理由。
それは、盗聴をしているからだ。
「どうなっている!あの小娘、強すぎるだろ!!」
「そうだな。子供とは思えない強さだった。おそらく、バリアルと共にあの騎士から剣術を習っているのだろう」
今回、エリーの暗殺が失敗してしまったので、緊急で話し合いが行われていた。
本当はこの席で、成功したぜ!やったぁぁ!!!となる予定だったのだが。
「船の件も、どうなっているんだ!魔物船など、聞いていないぞ!」
「そうだな。アレは完全に予想外だった。まさか、魔物船の出張を行うとは」
「船もかなり壊されてしまったし、海上の暗殺はしばらく無理だ」
今までの話し合いの声は、怒りのこもったモノが多かった。
だが、今回の話し合う声はとても暗い。
2回も連続で失敗してしまうと、次も失敗するのではないかという気がしてくるのだ。
そのため、次の暗殺計画案は次々と却下されていく。
「クソ、どうすれば」
「本当に、殺せるのか?」
敵の話し合いの様子を盗聴しながら、エリーはベッドに入る。
そして、周りの様子を感知で安全を確認してから、外に出た。
「かなり廃れてるみたいだし、治安も悪そうね」
エリーはそう呟いて、屋敷から離れる。
すると、すぐに寂れた町が見えてきた。
エリーはその町に入り、屋根の上に飛び乗る。
見回すと、すぐに目的のモノを見つけることができた。
「金をだせぇ!」
「ひ、ひぃぃぃ!!!」
ひ弱そうな男が、数人の柄の悪そうな男たちに囲まれている。
エリーは魔力を操作し、
バシュバシュバシュッ!
柄の悪そうな男たちの首を飛ばした。
「……へ?」
ひ弱そうな男は、突然目の前の男たちが死んで、呆然としている。
エリーは、その男を放っておき、次の目標を探した。
それから1時間ほど。
パシュパシュッ!
路地裏が赤く染まる。
これで、エリーは本日100人のゴロツキを殺害した。
(こんなにゴロツキを殺せたのは久しぶりだわぁ。もっと王都とか、私の領地とかにもゴロツキが増えても良いと思うんだけどね)
エリーの管理しているガリタッドや、エリーの住む王都では、最近犯罪者が少ないのだ。
それには、エリーが沢山殺しすぎたためという理由があるのだが。
巷では、盗賊殺しの妖精という存在がほとんどやっているという噂になっている。
妖精と言われると、エリーとしても悪い気はしなかった。
バシュッ!
自分の近くにゴロツキが来ないことを悔やみつつも、エリーは次々と殺害を行っていた。
そんな風にしながら過ごしていると、しばらく聞いていなかった種類の声が聞こえた。
《レベルが731になりました》
レベルアップである。
最近レベルアップに必要な経験値が多くなってきていて、なかなかレベルアップしていなかったのだ。
普通はレベル700を超えることなど無いのだから、それは当たり前のことである。
この世界でレベル100以上が500体(人間以外も入れるので、単位は体)未満なのに、レベル700なんて、40体もいない。
久々に聞いたそれに心躍らせつつ、調子に乗ったエリーはレベルをもう1つあげて屋敷へと戻った。
そのまま寝て、何も問題はなく次の日の朝に。
そこから家族会議をした結果、昨日色々と起きたので今日で帰宅することになった。
短い時間ではあったが、勉強になることもあり悪い旅ではなかったと、エリーは振り返る。
「今回の件、シッカリと忘れずに支払ってくれたまえ」
「くっ!……そうさせて貰う」
ちなみに父親はエリーたちの活躍をダシにして、シッカリとサッド家から搾り取ろうとする。
サッド公爵も断れるわけもなく、大人しく頷くしかできなかった。
そんないろいろな駆け引きをする隣で、その子供たちは大人を観察しながら会話を交わしていた。
デュランスは、以外とバリアルやアシルドと打ち解けている。
「エリーちゃん。また遊ぼうねぇ。もちろん。その時にはバリアルとアシルドも一緒に」
「ええ。是非お願い致しますわ」
「ああ。遊ぼう。今のうちにな」
「また色々と教えて下さい!!」
遊ぶ約束までした。
そんな新しいつながりを感じつつ、
「それじゃあ、馬車に乗って帰るぞ」
「はい。分かりましたわ」
父親の呼びかけにエリーは返事をして、馬車まで向かう、
そのまま、帰路へ就いた。
(………あれ?馬車?帰りも船に乗せて暗殺をするとか、そういうのは?)
エリーは暗殺が来ないことに首をかしげる。
そして、相手の方の事情を考え、
(そうか!パーティーでは、私のナイフ投げが面倒だった。だから、こういう馬車みたいな狭い場所で飛び道具の利点を潰しに来たのね!しかも、馬車なら油断してしまう!!)
エリーは深い考察をして、警戒した。
勿論結果は、
「よし!到着だね。久々の遠出で疲れちゃったよ」
バリアルの疲れたような声が馬車に響く。
エリーはその様子をうつろな目で見て、
「………おかしい」
「ん?どうしたんだい?エリー」
「い、いや。何でもございませんわ」
何も問題なく帰り着いてしまった。
襲撃など無かったのだ。
それでもまだ可能性はあると考えながら数日。
エリーは、父親と約束をしていたことをしに来ていた。
それは、企業の買収。
火傷蜥蜴が国から追い出されたことで、その被害を受けた企業が安くなっているのだ。
「初めまして。エリー様。お噂はかねがね聞いております」
「あら?そうなんですの?大商会と言われた、ファララ商会の会長様に知っていただけるなんて光栄ですわ」
「ハハハ」
「フフフ」
エリーと商会の会長は、笑顔で話し合う。
ただ、その笑顔がどす黒いことは言うまでも無い。
今回エリーが買収しようとしているファララ商会はかなり幅広く商品を扱っており、ファララ商会に行けば大抵のモノは買えると言われるくらい有名な商会だ。
だが、いくら有名とは言え、今回の件で流通が滞り商品の半分以上が店に常備できなくなってしまったのだ。
客からの信用が落ちてしまっている今、ファララ商会を買おうとするものは少ない。
だが、エリーはそれでも買う価値はあると見込んでいた。
現在落ち目であるものの将来舞い戻る可能性は高いため、ここである程度無理をしてでも買いたいと考えていて、
「……それでは、交渉成立と言うことで」
「ええ。これからよろしくお願いします。エリー様」
交渉は無事成功した。
なんとお金を払うことなく、従業員を大量にクビにしないという条件だけで買収できてしまったのだ。
「それで、最初のお仕事をお願いしたいのですが」
「はい。何でしょうか?」
エリーは早速頼み事をする。
それは、これからエリーが目立たずに活動する上で必要なことで。
「新しい戸籍を作っていただけます?平民の商人としての戸籍が欲しいのですが」
「はぁ。まあ、構いませんが」
事情がよく分かっていない商会の会長は、首をかしげながら頷いた。
それから2人で細かい設定を決めていく。
そしてできたのが、
「それでは、これから私の販売する商品は、クレアという名の平民が出したモノと言うことで」
クレアという、存在しない人物。
その人物を使って、これからエリーは商売をしていく。
これでエリーという名前をこれ以上有名なものにせずに済むと考えているのだ。
そうしてエリーが商会を買収してから、数日後。
今はまだ早朝。
それまではガランとしていた商会の前に、
「後、30分くらいだろ」
「いやぁ。並んどいて良かったぁ」
長蛇の列ができていた。
そして、そのモノたちの手にはとある紙が握られている。
そんな客たちを見つめて、感心している男が1人。
商会の会長であるファララだ。
「まさか、新聞にファララ商会のお買い得商品を載せるとは。あの方は、本当に自分の武器を知っていらっしゃるな」
客が持っているモノ。
それは、新聞に入っていたチラシである。
そのチラシには、ファララ商会で安く買えるモノがいくつも書かれていた。
この世界でも、庶民は安い物に目がないのだ。
「お待たせしました!開店でぇす!」
「「「「うわぁぁぁ!!!!」」」」
これにより、商会の売り上げは元のもの度同等どころかそれ以上まで戻ることになるのだった。
そして、
「エリー様。売れ行きは順調です」
エリーが商会の視察に来たとき、最初に言われたことがコレだった。
エリーも頬をほころばせる。
「まあ!良かったですわ。では、私の考えてきたものも売ってしまいましょう」
この状態なら自分の物も売れるだろうと、エリーは鞄から物を取り出した。
それは、細長く、先端が丸くなっている。
「何ですか?それ」
「コレは、インク消しですわ。口で説明するより、見せた方が早いですわね」
エリーはそう言って紙を取り出し、そこにインクでさらさらと字を書いていく。
そして、途中でわざと字を間違えた。
「こうやって、文字を間違えると紙を捨てなければなりませんわね?」
「ええ。そうですね。紙もなかなか高価ですし、できるだけ間違わないようにしなければなりません」
「そうですわね。ですが、コレを使えば」
エリーは持ってきたモノを間違えた文字に当て、軽く擦る。
すると、
「おお!文字が消えた!!」
エリーが持ってきたのは、異世界版の消しゴムであった。
異世界製と言うこともあり、魔力の力を使っている。




