悪役令嬢、船への襲撃
ズオオォォォォ!!!
船が斜めに動き、海の1点にポッカリと穴が空く。
そこにまた、ヒュルルルと光る球が落ちていく。
その球が海面に当たると、
ドバァァァァンッ!!!
再度爆発が起こり、海水が吹き上がった。
ただとてつもない威力ではあるが、盗賊たちはにやりと笑った。
なぜなら、
「お前ら!あんな遅い攻撃、当たらなければどうということはない!」
「そうだ!俺たちなら余裕で避けられる!」
攻撃が遅く、きちんと撃ち出される瞬間を見ておけば攻撃をかわせると確信したからだ。
盗賊たちはやる気のこもった表情で、目的の船をもう1度見る。
だが次の瞬間、
「あっ!」
盗賊たちの表情が変わる。
目的の船が、動き出していたのだ。
先ほどの攻撃を避けるために、自分たちが開けてしまった隙間へと。
「抜かせるな!穴を閉じろ!!」
襲撃者の1人が叫ぶ。
襲撃者たちは、本気で退路を塞ごうとした。
だが、お分かりの通りなぜか相手は盗賊たちとつながっている者達ではなく、エリーも認める凄腕の船乗りたちである。
少しでも隙があれば、逃げることは容易い。
「くそぉぉお!!!」
「待てぇぇ!!」
逃げるエリーがいるだろう船。
それを、襲撃者たちは全力で追いかけた。
「なんでだよ!サッド家の奴ら、操縦の交代はしないって言ってたのに!」
「あいつら、失敗しやがったのか!?」
襲撃者たちは、サッド家に文句をたれる。
文句はたれているが、決して集中を解くことはない。
彼らだって、殺人に関してはプロなのである。
ターゲットに逃げられることなどよくあることで、彼らはそれを追うことにも慣れている。
「よし!」
「こっちの方が速い!追いつけるぞ!!」
余裕を感じ始めた盗賊たち。
その余裕は間違ったものではなく、数分もしないうちに、
「よし!捕らえた!!」
襲撃者たちは1つの船尾を捕らえる。
その船はどうにも速度が遅い。
「分かったぞ!あの船を狙え!あそこに貴族たちを乗せているんだ!!」
1人がそう声を上げる。
船が遅い理由は、乗客が多いからだと考えたのだ。
乗客が多いのは、貴族が乗っていて、さらに護衛も乗っているから。
と、考えを深める。
襲撃者たちの船が、エリーたちが乗っているだろう船にぶつかる。
と、思われたところで、急に襲撃者たちの速度が落ちた。
「ちっ!風上に入られた!!」
他の船が、風上に入り、襲撃者たちの船に風が当たらないようにしたのだ。
タッキングと言われる技術である。
こうされると、帆船は速度が出せなくなってしまう。
エリーたちが開発した船は、魔法の補助はあるモノのほとんどは風の力で移動しているのだから。
「風上のヤツをどかせ!3隻で行くんだ!!」
このままでは追いつけないと判断し、別の船に圧をかけ始める。
なかなか難しい事ではあったが、どうにか盗賊たちも船に近づき、
「よし!風上のヤツは剥がせたぞ!」
喜びのこもった声を襲撃者たちは上げる。
風上を押さえていた船を移動させることに成功したのだ。
これによって、盗賊たちは船に追いつけるようになる。
はずだった。
ポンッ!
軽い音が響く
その音だけで、襲撃者たちは背筋が凍った。
何の指示も出ないが、すぐに回避体勢に移る。
ヒュルヒュルと間抜けな音を立てながら落ちる光の球は、船の後ろの海水へと落ちた。
爆発音と共に、海水が波打つ。
ただ、襲撃者たちの船は横や後ろに避けていたので、たいした被害はない。
少し横にいた船の向きが変わり、後ろにいた船が交代させられただけである。
まあ、被害が出ていないだけで、船の距離は離されてしまったわけだが。
光の球を打ち出した船は、爆発の衝撃によって加速したのだ。
「くそぉ!」
襲撃者の誰もが、失敗したと思った。
だが、その目には希望の光が映る。
「あれは!まだ来てなかった奴らだ!!」
集合時間より早くエリーたちの乗っているだろう船が来たため間に合っていなかった、他の仲間の船。
その姿が見えたのだ。
これにより状況は激変。
「お前ら!船を囲めぇ!!!」
襲撃者は声を張り上げる。
その声を聞いた襲撃者の仲間は、事情を察して素速く妨害を行った。
「よし!囲んだ!!」
襲撃者たちは勝利の笑みを浮かべる。
それから、光の球が打ち出される前に全ての船で突撃を行った。
ガンッ!ガンッ!ガツンッ!
と、重い音が響く。
どちらの船もエリーの運営する工場で作ったモノであり、非常に硬い。
そのため、重い音は響くものの壊れるようなことはなかった。
「よっしゃ!乗り込むぞぉぉ!!!」
「うおおぉぉぉ!!………って、アレ!見ろ!!」
襲撃者たちが雄叫びを上げる。
そんな中、1人が遠ざかる影を見つけた。
その影は、小型のボート、
いつの間にか緊急時用のボートで脱出されていたのだ。
ただ、乗っているものの数は少ない。
それに、全員があまり豪華でないような服を着ている。
「船乗りに逃げられたか!小娘も、部下に愛想を尽かされてかわいそうなヤツだな!あいつらは3隻くらいで追っておけ!もしかしたら、あの中に小娘がいるかも知れないしな!!」
数隻がボートを目指して進む。
そのほかのモノたちは、エリーが乗っているだろう船などにつけ、中へと乗り込んでいった。
侵入自体はできたのだが困難な部分もあり、
「何だこの扉!頑丈すぎるだろ!!」
襲撃者たちはそれぞれの船の扉を開けようとするが、厳重に鍵が掛かっているのか開く様子がない。
それにより仕方なく襲撃者たちは、少し強い衝撃を加えて無理矢理開けることにした。
「よし!やれぇぇぇ!!!!」
使うのは、自分たちが苦戦した光の球。
それを少量扉につけ、爆発させる。
直後ドンッ!
と、重い音がして扉が吹き飛んだ、
それと共に、
「ギャアアアァァァ!!!?????」
悲鳴が響き渡る。
その悲鳴を聞き、ボートを追っていたモノたちは嫌らしい笑みを浮かべながら振り返った。
ついに貴族たちに、エリー達に手が届いたのだ、と。
だが、
「……え?」
振り返ったモノたちの顔から、笑みが消え去る。
その顔はだんだんと焦ったモノへと変わっていき、
「戻れぇぇ!!!」
叫び声が響き渡った。
そんな風に船が襲撃された頃。
エリーは船の中にいて、
「お茶がおいしいですわぁ」
エリーは優雅にお茶を飲んでいた。
その様子は、襲撃など無かったかのようである。
それも当然。
本当にエリーは襲撃されていないのだから。
「エリー様。あちら、何か見えますよ」
エリーがお茶をすすっていると、専属のメアリーが何かを見つけた。
他の数名も気づいたようで、そちらの方を観察している。
段々とそれがこちらに近づいてきてはっきりと見えるようになると、
「……あれは!?」
エリーは驚いたような声を出す。
その目に映ったのは、
「サッド侯爵閣下!脱出用ボートが浮かんでいます!救出の許可を!」
「え?う、うむ。良いぞ」
緊急時に使用される脱出用のボート。
なぜかそんなものが現れたのだ。
「あなたたち、どう致しましたの!?」
エリーはボートに乗っていたモノたちに話を聞く。
その者たちは、エリーの元で働く中ではかなり腕の良いモノたちばかりで、エリーが今回の襲撃を受けないためにある依頼を出したモノたちでもある。
「実はその、」
船乗りの1人が説明しようとしたところで、
「ふ、船が見えました!!」
見張り役の1人が叫んだ。
乗客たちが見張り役の指さす方向を見ると、
「あれは、何が起こってるんだ?」
「大量の沈没船じゃないか」
船の残骸がいくつも浮かんでいた。
近づいてみると、そこには沢山の死体が。
「人の死体だけじゃない!モンスターのモノもある!」
船の様子を見たモノたちは大慌て。
そうなっている中、船を壊された船乗りたちが謝罪してきた。
「申し訳ございません。エリー様。20隻以上の船に囲まれまして。向こうのモノたちのモノも手練ればかり、私たちは脱出できましたが、船の方は」
エリーにそう言った船乗りは、壊れた船と死亡したモンスターたちを見て表情を暗くする。
彼らは、客寄せに大いに貢献していたエリーの大事な魔物船を壊してしまったのだ。
「大丈夫ですわ。船より、あなたたちの命の方がよっぽど大事。あなたたちが生きているだけで十分良いのですの」
「「エリー様!!」」
エリーの優しい言葉に、船乗りたちは涙を浮かべる。
自分たちがここまで思われているのだと知り、感動したのだ。
破壊されてしまったということへの不安や恐怖あがあっただけに、その反動は大きかったのだろう。
「港に着いたら、今回の件を伝えなければなりませんね。連絡の方は任せましたわ」
「はっ!承りました!」
エリーは、船乗りたちに事情を話すように言っておく。
これで、帰りに海上での暗殺を行おうとはしないだろうと、エリーは考えた。
「なんということだ」
蒼白な顔でサッド公爵は呟く。
彼にも、エリー殺害の作戦が失敗してしまったことは理解できたのだ。
ーーふふっ。計画通り。




