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悪役令嬢、情報は隠して

王族たちとのお茶会から帰ってきたエリーは休憩していた。

本を読んだりしながら過ごしていると、すぐに夕方はやってくる。


「エリー様。夕食のお時間です」


専属メイドのメアリーからそう告げられ、エリーは食事へと向かう。

家族がそろい、夕食が始まると、


「エリー。後で私の部屋へ来なさい」


「はい。お父様」


父親から呼び出しを食らった。

 ーー十中八九、教育係の件ね。


そんな予想は正確なもので、


「エリー。実は、お前が王族方の教育係として推薦を受けたと聞かされてな。詳しい事情を聞きたいんだが」


父親の部屋に行くと、こんなことを告げられた。

エリーはうなずき、簡単に事情を説明する。


「……なるほどな。教育係も消えた、か」


難しい顔をする父親。

教育係()、という表現をしたことからそれ以外も消えていることを把握していることが分かる。


「最近、人事異動が非常に激しくてな。私も対処に困っているのだ。エリー。原因は分かるか?」


父親に尋ねられエリーは悩んだ。

難しい顔をしているエリーを、父親は黙って眺めている。


エリーのその見た目は原因を考えているよう。

だが、


 ーーこれ、どう言えばいいのかしら?本当のことを言うわけには勿論いかないし。だからといって、適当な嘘はつけないわ。どんな嘘なら良いのかしら?

どんな嘘をつくかで困っていた。


というか、父親が火傷蜥蜴のことを知っている可能性も考えられる。

そのため、下手なことを言ってエリーも火傷蜥蜴を知っていることを父親に察知されるわけにもいかない。

ということで、


「原因は分かりません。ただ、人事異動は教会でも激しく行われているようですので、かなり中枢の何かが変わったと考えられますわ」


こういう程度にとどめておく。

父親も少し納得したような顔になったので、エリーはこれでいいだろうと判断した。


「中枢の何か、か。新しく情報がつかめたら、是非とも私に教えて欲しい」


父親がそう頼んでくる。

断っても良い事にはなりそうに無かったので、エリーは大人しく頷くしかなかった。


「わかりましたわ。お父様」


ただ、それでもおとなしく引き受けるだけでは終わらせず、


「報告するのは良いのですが、できればお父様の知っている情報をある程度教えて頂けると助かりますわ」


エリーはそう言って微笑む。

こちらのお願いも、かなり断りにくいだろう。


情報が欲しいと言っているので、どういう関連の情報が欲しいのかを詳しく教える必要があるからだ。

エリーとしても父親が何をどの程度知っているのか知りたかったので、尋ねてみることにした。


「ふむ。それが道理か。いいだろう。私の知っていることを問題ない範囲で教えよう」


父親は了承し、エリーに教えて問題ない範囲の情報を与える。

エリーの知っていることがほとんどだったが。


「それで、この商会にも影響が出ていてな」


「あら!つまり、今なら買収の可能性があるということですね!」


結果の方は知らないことが多かった。

打撃を受けた商会などの情報を知り、エリーは目を輝かせる。


父親の話が終わると、エリーは立ち上がった。


「なるほど。では、私も色々探ってみますね」


エリーはそう言って、部屋から出て行く。

その頭の中は、

 ーーあの商会、私が買収して見せる!

なんてことを考えていた。調査なんてほとんど考えてすらいないのである。


ただ、何もしないというわけにもいかず、


「メアリー。イルデから情報を聞いておきたいから、面会の申し込みをしておいてくれるかしら?」


「かしこまりました」


エリーは専属メイドのメアリーに指示を出す。

面会はすぐに成立した。


「珍しいね。エリーが僕のことを誘うなんて」


会ってすぐ、イルデは面白そうに笑いながら言う。エリーの方からイルデを何かに誘うなんてあまりない事なのだ。

エリーは真剣な声で応えた。


「お父様から、今回の騒動の調査を頼まれたんですの。教会のことも教えて欲しいんですわ」


「……なるほど」


イルデは納得したように頷き、少し考える仕草をする。

 ーー交換条件を考えているんでしょうね。


「……なら、そちらの知っていることも話して欲しいな」


「分かったわ」


エリーは即、了承。それくらいは想定の範囲内なのだから。

 ーー適当な情報を、さも良い情報のように聞かせれば良いでしょう。


こうしてお互い納得すると早速情報共有が行なわれて、


「幹部の数名が突然消えた。1番大きな出来事はコレかな」


イルデが真剣な表情で話す。

エリーは予想できたことだったので、特に反応はみせない。


「ただ、それと同時に教会の資料が大量に盗まれたんだ」


「資料が?」


エリーは思考を巡らせる。

何の資料が盗まれたのかは分からないが、それが火傷蜥蜴に関係している可能性は高い。


「そうなんだよねぇ。その資料は、」


「その資料は?」


2人は真剣な表情で見つめ合う。

だが、次のイルデの言葉でその雰囲気は一瞬にして崩壊した。


「僕の、日記なんだよね」


「………は?」


エリーは愕然とした。

まさか、火傷蜥蜴がそんなくだらないモノを盗むとは思わなかったのである。


 ーー何?日記帳にマズいことでも書いてあったの?

色々と気になる部分はあるが、今回はこれで満足することとする。


そして、


「それじゃあ、対価のお話をしましょうか」


エリーはそう言って、腕を組む。

イルデは笑みを浮かべて頷いた。


エリーはイルデの話を聞きながら渡す情報を考えていた。

そして出た結論が、


 ーー私の情報じゃなくて、他の人から聞いた情報を渡せば良いわよね。

というモノであった。


「実は、王族方の教育係も消えたらしいんですの」


「……へぇ」


2人はほほ笑み合う。

お互いの視線がぶつかった。


イルデは、その情報の価値を素速く読み取ろうとしている。

エリーは、その情報がいかに重大な情報であるか見せかけることに集中している。


エリーとしては、その情報にあまり価値を考えていなかったのだ。

だがその情報と、エリーによってさらに急速に育てられたイルデの子供とは思えないまでに成長した思考力が、見事にマッチし、


「ということは、僕の日記は洗脳の経過観察記録として使えるってこと!?…………なるほどね!」


イルデが納得した。

エリーは笑みを浮かべながら、静かに頷く。


だが、心の中は全く穏やかではなかった。

 ーーいや!?なんで納得してるのかしら!?


エリーは自分の与えた情報とイルデの言葉から、イルデが行き着いた結論を推測する。

 ーーまず、イルデの日記は洗脳の観察記録という結論に行き着いたのよね。つまり、自分が洗脳されていることに気づいた、ということね。そこに気づいた理由は………もしかして!?


「あなたも、王族方は洗脳されていたと思いますのね」


エリーは自分の推測が正しいか確認を行う。

エリーはイルデが自分の洗脳に気づいた理由が、王族たちの教育係が消えたことに関連していると考えた。


イルデは、前々回のお茶会で王族たちに会っている。

そこでロメルの様子を不審がっていた。そこから洗脳に行きついた可能性も十分考えられるのだ。


「ああ。エリーも、ロメル様とかは洗脳を受けていると思うんだね。僕も、ロメル様のは洗脳だと思ってる。そして、洗脳をしやすいのは教育係だと思う。だから、消えた教育係と関連がありそうな教会から消えた人たちもその教育係の仲間。それなら、僕も洗脳されてたんじゃないかと結論に至ったんだよ」


「なるほど。私も、その読みは悪くないと思いますわ。じゃあ、その消えた人たちとイルデの関わりを教えて下さるかしら?」


「そうした方が良さそうだね。僕が関わりがあったのは、やはり教育係で」


エリーは、教会から消えたという人物とイルデの関わりを聞いておく。

そこで洗脳の方法が分かれば、対策も行いやすい。


そして何より、


「……なるほど。そういう風に洗脳が行われていたんですわね」


新たな洗脳方法を知ることができた。

 ーーどこかで試してみたいわね。


「今からでは遅いかも知れませんが、王族の方々にも警戒するように言っておきますわ」


「それが良さそうだね」


2人はうなずき合う。

それから簡単にこれからのことを話し合って、エリーは帰宅した。


そして、早速父親に報告することに。

まだ父親は帰宅していなかったので、出迎えのために飲み物などを用意しておく。


「ふふふっ。お父様から、ご褒美を引き出したいですわぁ」


帰宅途中だった父親は、なぜか寒気を感じたという。

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