悪役令嬢、狙われる
「あぁ~。どうだったかな」
「どうでしたっけ?」
イルデもエリーも、腕を組んで悩む。
その表情はどこか険しい。
そんな2人が悩んでいる内容は、
「お2人とも、友達になった記憶がないんですのね」
「……友達じゃないなら、どういう関係なんだよ」
そういう王族たちの語句からは、あきれた様子が感じられる。
気まずくなって、2人は苦笑を浮かべた。
「まあ、今までの関係なんて何でもいいですわ。それなら今、友達になればいいだけのこと」
そういって、エリーは片手を差し出す。
差し出されたイルデは首をかしげたが、すぐに笑顔を浮かべて、その手を握った。
「これからよろしく」
「ええ。お願いしますわ」
辺りは温かい雰囲気に包まれる。
全員が、自然と笑みを浮かべる、温かい空間がそこにはあった。
だが、
「うぅぅん」
第1王子のロメルは腕を組んで難しい表情をしていた。
何か悩み事があるのかと思いながら、エリーはそれをじっと見つめている。
「なあ。エリーは、どうするんだ?」
視線に気づいたロメルは、エリーに尋ねてきた。
エリーは首をかしげる。
「何に対して、どうするか尋ねてらっしゃいますの?」
エリーは逆に質問する。
質問の意図を測り損ねたのだ。
「ああ。すまん。説明が足りなかったな。エリーは、イルデを教皇に推薦するのか?」
エリーは質問を受けて固まった。
話題をそらそうと思ったが、他のモノたちからの視線に気づいて、それができないことを悟る。
「……決めかねてますわ。正直、わたくしとしては関わりたくないところなのです」
エリーは真剣な話に持ち込むことにした。
真剣に、私関わりたくないでぇす。と、するつもりなのだ。
「まあ、俺たちとしても関わりたくはないが、関わらないわけにもいかないだろ?」
ーーくっ!?逃げ道をふさがれた!
避けようと思っていたが、避けることは叶わなかった。
だが、ただでやられるわけでもない。
「決めなければならないのは確かですが、それはいまではないですわ」
エリーは先延ばしすることに。今逃げられないなら、新しい逃げ方をいつか思いつくまで待てばいいだけなのだ。
だが、王族たちは逃さない。
「決めるなら今のうちがいいんじゃないか?教皇とのつながりは、お前も大事だと思っているんだろう?」
ロメルの食いつきは予想以上。
なかなかエリーを離してはくれなさそうだった。
ー-あれ?食いつきが強いわね。どうかしたのかしら?
エリーは少し不穏な空気を覚えた。
「……でしたら、説得していただきたいですわ。説得されれば、わたくしは支援いたしますし、説得されなければ、今のところ支援はなしということで」
エリーはそう言ってほほ笑む。
ロメルは顔をゆがませたが、渋々といった感じでうなずいた。
「え?なんか、僕が会話に混ざらないうちに、僕が説得しなきゃいけなくなってるんだけど!?」
説得しなければならなくなったイルデは困り顔。
エリーはそんなイルデに優しく言った。
「大丈夫ですわ。ここで説得できなかったとしても、まだまだ機会はあるのですから」
そうしてしばらく、イルデの説得が行なわれることになる
即興にしては出来がいいため、事前に王族たちようへアピールするための要素を考えてきたのではないかと予想された。
「………ということなんだけど、僕を支援してくれないかな?」
イルデは微笑みながら頼んでくる。
エリーも同じように微笑んだ。
ーーイルデ。成長したわね。
そう思い、エリーは、
「ふむ。今回は見送らせて頂きますわ」
拒否した。
イルデだけでなく、王族たちも唖然としている。
それから、
「え?なんで!?」
「凄い良い感じな雰囲気だったのに」
「今の説得、僕は凄く心動かされたんだけど!?」
驚きのこもった声で抗議のような質問してくる。
エリーはそれに、ただ微笑んで返した。
「………はぁ。そうかぁ~。コレじゃダメなんだな」
何も言わないエリーから、理由も推薦も引き出せないと考えたイルデは肩を落とす。
イルデが納得してしまえば周りが抗議することも難しくなってしまい、王族たちは納得いかないような表情で2人を見ていた。
そうしてそのまま時間は流れていき、
「それじゃあ、今日はこの辺りで」
「本日はお招き頂きありがとうございました」
エリーとイルデは、王族たちに別れを告げる。
見送られながら、2人は部屋を出た。
「イルデ。何か気づきまして?」
部屋から出た直後、エリーは尋ねた。
突然だったにもかかわらず、イルデは真剣な表情で頷き、
「ロメル王子の様子。少しおかしかったな」
「そうですわね。少し今のロメルは危ない気がしますわ。イルデも、関わるときには注意して下さいまし」
「ああ。分かってる」
2人は、エリーに異様に食いついてきた第1王子のロメルに、少し引っかかりを覚えたのだ。
エリーへの今までの態度では、あんなことは考えられなかった。
何かおかしい。
だが、その原因までは掴みきれない。
「友達を疑わないといけないなんて、辛い世界ですわ」
「それを、友達からの頼みを断ったエリーが言うのか」
2人は視線を合わせる。
そして、肩を小さくすくめて笑った。
だが、ここでただ笑っただけで済ますエリーではない。
数時間後、
「クラウン様。こちらが、今回の資料です」
「うむ」
エリーに、ケモ耳の少女のサードが資料を渡してくる。
エリーはクラウンとしての姿で、その資料を受け取った。
仮面の中のエリーの表情は、最初から険しい。
そして、資料を見ながら、
「やはり、洗脳されているか」
憎々しげに呟いた。
なんと、第1王子のロメルは洗脳されていたのである。
勿論、他の王族も洗脳されている。
ただ、ロメルが1番洗脳が強いようだ。
「次期国王であるし、駒にしたいのだろうな」
「そうでしょうね。ただ、それだけでもないようです」
「それだけではない?」
エリーは首をかしげる。
一体、王子を洗脳するのに、王になったときのため以外のどんな理由があるのだろうかと、エリーは考える。
「はい。どうやら、エリー様の影響を受けることを恐れたようです」
「エリーに影響されることを恐れた?」
クラウンとしてのエリーは呟く。
自分のことを名前で言うのは、なんだか不思議な気分だったが、残念ながらそんなことを気にしている場合ではなかった。
「はい。エリー様のように、聡明になることを恐れたようです。そのために、エリー様に失敗をさせようとしているようでした」
「エリーに失敗?」
エリーは考え込むように腕を組む。
エリーに失敗して欲しい理由は簡単に予想できた。
「エリーに失敗させ、それが理想とならないようにしたいのだな」
「そのようです。さらに作戦が失敗したときのため、王族としての考え方というものを教え、エリー様の考え方が王族にはそぐわないということも教えているようです」
「ほぅ。多少は考えられた作戦だな」
エリーは腕を組んで感心したように声を漏らす。
その心の中では、敵の強大さを改めて感じていた。
ーー戦闘面では私たちが勝てていたけど、これから先勝てるかは怪しいわね。そのためには…………
明かりのともっていない、暗い屋敷。
そこに、数人の人間が集まっていた。
「あいつは、必ず殺したい」
「そうだな。イルデの後押しになる可能性も高いし、公爵家の影響力が強くなりすぎる」
そういうのは、貴族や教会のモノたち。
それを黒い笑みで見つめているのは、
「いいぜ。俺たち毒龍が、火傷蜥蜴との敵対を条件にその依頼を受けてやるよ」
この国の火傷蜥蜴の元ボスだった男。
彼らは火傷蜥蜴から名前を変え、毒龍と名乗っていた。
「奴らとの繋がりも大切ではあったが、致し方なかろう。我が家は火傷蜥蜴と敵対するぞ!」
「教会も、奴らと手を切ろう」
次々と貴族や教会のモノたちが、毒龍についていく。
そして、それによって毒龍がエリーを暗殺することが決まった。
ーー一応、計画通りになっているわね。
そんな様子を盗み聞きしていたエリーは、作戦の成功を感じた。
最初から、こうなることは予想済み。
というか、こうなるように仕向けたのはエリーなのである。




