悪役令嬢、友達と友達を
「そろそろ、時間ですわね」
エリーが告げると、王族たちは残念そうな顔をする。
だが、すぐに笑顔になって、
「ありがとう。エリー」
「楽しかったよ」
「また誘ってねぇ」
「いろいろ面白かったですわ!」
「もっと遊んでたいなぁ!」
それぞれがお礼を言ってきた。
もう別れるような雰囲気である。
が、
「ああ。まだ、帰るわけではないですわ!これからは、お土産タイムですわ!!」
「「「お土産?」」」
エリーたちは、船から降り、町へと繰り出した。
そして、王族たちはお土産を買っていく。
ー-ふふふっ。王族たちがここでの経験を誰かに話してくれれば、もっと集客率が上がるはず!!その話をさせるのに重要なのは切っ掛け。つまり、お土産よ!!
なんて打算をエリーが考えているとも知らずに王族たちは大量にお土産を購入していく。
そうしているとだんだん日が落ちてきて、
「それでは、皆様。さようなら」
「「「ばいば~い」」」
お土産もかわせ終わり、エリーは王族たちに別れを告げた。
直後、
「メアリー。イルデに面会の要請を」
「はっ!了解です!!」
エリーは、専属メアリーに指示を出す。
その内容は、教皇の息子であるイルデとの面会要請。
ー-お茶会に出るときの口止めをしておかないと。
エリーは、お茶会でイルデが教会をつぶすなどと言ってしまうことを警戒しているのだ。
イルデが教会の内情を話してしまえば、正義感の強い第2皇子のアロークスなどは教会をつぶすことに協力してしまう可能性がある。
さすがに、王家と教会が争ってしまうと内戦が勃発しかねないので、それは阻止しなければならない。
2日後。
すぐに面会は成立した。
2人は月に1度くらいのペースで話していたので、不審がられることはなかった。
とはいえ、エリーからの要求というのは初めての事だったので、要請を受けた教会のモノは首をかしげたようだが。
それでも事情を説明すれば。
「…へぇ~。なるほどねぇ」
イルデは納得顔に。
そんなイルデの表情を、エリーはお茶をすすりながら観察する。
「あまり大胆なことはなさらないでいただきたいですわ」
「まあ、僕としても市民の争いが起きることは望まないからね。従うとするよ」
イルデはエリーのお願いをあっさりと受け入れた。
これはエリーの努力の成果である。
今までエリーはイルデと話し合う中で、教会をつぶすことの危険性を示してきた。
それも、イルデの怒りをそいでいくような形で。
できるだけ教会への危機感は持たせつつ、危険な思想は持たせないようにする。
そんなエリーの努力によって、
「でも、僕が次期教皇になることの支援を要請するのは良いよな?」
イルデは、教会をつぶすのではなく、自分で統制をとろうという考えに変わっていた。
ただ、
ー-私のつながりも容赦なく使うとか、思想がかなり変化したわね。いろいろ教えすぎたかしら?まさか私も利用されるなんて。
そうして色々と思うところはあるものの、説明は終了。
「さて、これで本題は解決ですわ。少し時間もありますし、あのお話をいたしましょうか」
「ああ。あの話ね」
イルデの顔が真剣なものになる。
ただ、エリーの方は微笑みを浮かべたまま。
ー-表情では読まれやすいかもしれないわね。次はその辺の技術も教えてあげましょう。
エリーは次回あったときにポーカーフェイスの技術を教えようと決めて、話を始める。
「どうですの?薬局による教会の権威の低下は?」
「順調だね。ただ、順調すぎる気がする」
イルデは難しい表情をする。
エリーは事情を聴いてみることにした。
「どういうことですの?何か、引っ掛かるところがありますの?」
「実は、教会の一部も対応しようとして、暗殺部隊を作ったらしいんだけど」
「だけど?」
「全滅したんだ」
エリーはそれを聞いて黙り込む。
単に教会側の暗殺者が全滅したことに驚いたわけではない。
ー-当り前よねぇ。薬局って、クラウンのメンバーが結構いるみたいだし。
エリーは、暗殺者に対処するクラウンのメンバーを想像して、懐かしさを覚えたのだ。
しかしそれを素直に言うわけもなく、
「薬局も、凄腕の護衛を雇っているという事なんでしょうね」
エリーはこう言って、イルデを納得させることにした。
イルデもそれだけでは納得しかねるような様子だったが、否定する根拠もなく、うなずくことしかできなかった。
「まあ、薬局の事はこれから知っていく必要があるとして、問題は教会のこれからですわ」
エリーたちの考えた、元の作戦はこうである。
まず、イルデと薬局に裏で手を組ませ、薬局に民衆の支持を集めてもらう。
当然、教会は反発することが予想される。
それでも民衆の支持は教会から離れていき、教会の規模は縮小されていく。
そんな中、イルデは今度は表向きに薬局と手を結び、その知識と技術を取り入れて教会や医療技術に大きな革新を起こす。そうすれば、その功績によって次期教皇は間違いないものとなる。
と、言うのが理想である。
現在は、薬局が民衆の心をつかみ始めている段階。
教会は必死になって薬局をつぶそうとすると考えられる。
そこで仕掛けるのが暗殺程度であるのならばどうとでもなるだろうが、
「もしも、薬局に聖戦を仕掛けるとか言われたら大変面倒なことになりますわ」
聖戦というのは、教会が悪を伐つために行う戦争。
いくら薬局にはクラウンのメンバーが大勢いて暗殺者くらい簡単に対処できるといえど、さすがに教会全部と比べてしまえば数が違いすぎる。
「聖戦は、避けなきゃいけないよなぁ」
イルデもそこは理解してるようで、難しい表情へと変わっていった。
そんな会話をしつつも、とりあえず薬局のことは後回し。
直近で大切になってくるのは今回の話の本題であった、
「こんにちは。皆様」
「エリー。いらっしゃい」
お茶会である。
エリーに案内されてイルデはやってきて、
「皆様初めまして。私、イルデと申します。以後お見知りおきを」
イルデは不敵な笑みを浮かべながら、王族たちに頭を下げた。
その姿からは自信が感じ取れる。
「お前がイルデか」
「ようこそ。僕たちのお茶会へ」
王族たちの目はどこか鋭い。
まだイルデを警戒している様だった。
「皆様、警戒心が強すぎますわ。もう少し隠す努力をしてくださいまし」
そんな王族たちの様子を見ながら、エリーはため息とともに言う。
イルデもその反応には苦笑を浮かべていた。
ー-私が初めて会ったときよりはマシね。
エリーは王族たちに初めて会った時の事を思い出しながら、今の状況と比較した。
これから王族たちと仲良くなっていけるかどうかというのは、やはりイルデにかかっている。
エリーは少しの不安と共に、友人たちの様子を眺める。
そしてそれから数十分が経過し。
「はははっ。イルデ。いいなそれ」
「そうだよねぇ。ロメル様もそう思うかぁ」
楽しげな声。
イルデは、ある程度王族たちと打ち解けていた。
ー-私が教えた人心掌握術もしっかり使えてるわね。
エリーはその様子を見ながら、イルデに教えたことを思い出す。
「まだ何とも言えないけど、推薦の件は検討してみるよ」
「おお。ありがとう。アロークス様」
イルデは今回の目標の1つである王族からの教皇への推薦を、ある程度取り付けていた。
ただ、まだ確定したわけではないのでこれからの努力が必要になるだろう。
しかも、まだイルデは王族たちを呼び捨てにすることは許されていない。
敬語は不要ということになったが、呼び捨てにできるほどまでは仲が深まらなかったということだ。
そんな絶妙な状態の中、
「そういえば、エリーとイルデは、お友達になってからどれくらい経つんですの?」
リファータが話題を変えて突然質問してきた。
エリーは予想外の質問に驚いたものの、すぐに考えたが、
「あれ?そう言えば私たち、お友達になったんでしたかしら?」




