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悪役令嬢、事情聴取

望んでいない方向に思考が進んでいってしまっている。

アロークスをここでどうにか誘導しなければならない。


自分が生き残るためにも。


「あら?アロークスは、彼を悪だと思いますの?」


エリーはアロークスに尋ねてみる。

まずは現状把握だ。


アロークスの思想がどこまで進んでいてどういう状態になっているかによってとれる対応や限界が変わってくる。


「うん?当たり前じゃないか。あれが正義な訳がないでしょ」


 ーーこれはいける!

エリーは、アロークスの思考を誘導できると確信した。


こうして自信を持てば後は彼女の独壇場。


「アロークス。その考え方はどうかと思いますわ。彼にとっては、彼こそが正義なのですから」


「はぇ?どういうこと?」


アロークスは首をかしげる。

隙を出したアロークスに、エリーはたたみ掛ける。


「正義とは何かは人によって違いますわ。彼にとっては、その辺りの貴族や平民より自分が上であるということが、正義でしたの。そして、アロークスにとっては、全ての民が平等であることが正義であると。違います?」


「い、いや。その通りだけど」


「正義の違いは、考え方の違いですわ。正義とは人によって変化するモノですの。私だって、発展した漁村のモノたちにとっては正義かも知れませんが、私の計画に参加できなかった貴族たちにとっては悪なのですから」


エリーがそう言って小さく笑うと、アロークスは難しい顔をした。

 ーー少し難しかったかしら?まあ、まだ自分中心で世界がまわっているように考えてしまう年齢だものね。ただある程度理解してくれないと私としてもマズいんだけど……………。


そんな思いが通じたのか、完全に思い通りになったわけではないが、


「だが、じゃあ、僕はどうすれば」


アロークスは困惑した表情になる。

今まで自分が信じてきたモノが怪しくなってきてしまい、何を信じれば良いのか分からなくなったのだ。


「別に、正義など目指す必要は無いのですわ。アロークスは、アロークスにとって大事なモノだけを守れば良いじゃないですの」


「僕の大事なモノ?……それだけで、いいのかな?」


アロークスは不安そうな顔をする。

嫌でも王族という身分で生まれれば、全ての国民に目を向けるように教育される。


だからこそ、自分の大切なモノだけを見るということができなくなるのだ。

どうしても、国民全員と天秤にかけてしまい、そちらを選ばざるを得なくなってしまう。


一応国民全員をかけても勝ってしまう例外としてゲームの主人公という存在がいるのだが、あの存在は周りの知能を劇的に下げるので、エリーは頭から除外した。


「まあ、ロメルはそんなことをしてはいけませんわよ。陛下はそんなこと許されませんから」


「……分かっている」


途中からエリーたちの会話を盗み聞きしていた第1王子のロメルが、不満そうに呟く。

ロメルは、延々と周囲から王とは何かを説かれ続けてきたので、少しその辺りが煩わしくなっている節がある。


 ーーコレをこじらせて、ゲームの時みたいなわがままな性格になったのかしら?

このまま放置しているとひねくれた方向に向かいそうだななんて思うわけだが、


「だがなぁ。俺だって家族やエリーは大切なんだぞ」


ロメルが不満そうに言う。

 ーーえっ!?私も大切な人の1人なんだ。どれだけ私の好感度高いのよ。


エリーはゲームなら親密度メーターが真ん中まで上がっているだろうと考えながら、ロメルへかける言葉を考える。

父親が近くにいるため、国民は捨ててもいいなどという、迂闊なことは言えない。


「そうですわね。でも、それを見捨ててまで国民をとらなければならないのが、王という最高権力者の立場ですわ。ただ、だからこそ、今みたいに王でないときや、王として選択をしなければならないとき以外に、大切な人たちとの時間を作れば良いんですわ」


エリーは優しく語りかける。

目線も優しくロメルへ向けられている。


だが、目線ではロメルを見ていながらも、全神経を父親に向けている。

自分がマズいことを言っていないか警戒しているのだ。


マズいことを言えば、父親が止めに入るはず。

だが、あまり反応を示していないので、一応大丈夫だとエリーは判断した。


「だからロメル。これからも、一緒に遊びましょう」


「っ!ああ!勿論だ!!」


実はというと、父親はエリーの言葉に反応していた。

だがその反応は、決して悪いモノではなく。


 ーーいいぞ。エリー!さらに王族たちとの繋がりを強固なモノにするのだ!そして、我が家に利益を!!

どちらかと言えば評価していた。さらに話を続けてより心をガッチリとつかんでほしいなんて考えているくらいである。


そんなことをしていれば当然時間が経過して、


「あっ!もう皆様終わってましたのね!」


「はぁ~。疲れたよぉ」


第2王女のリファータと第3王子のエイダーも、事情聴取が終わって部屋から出てきた。

2人ともどこか疲れた様子である。


「あぁ~。私も抱きつきますわ」


「あっ!僕もぉ!!」


2人はエリーに抱きついたままのタキアーナを目にとめ、同じように抱きついてきた。

エリーはそんな2人を安心させるように声をかける。


「大丈夫ですわ。何か困ったことがあれば、私がお助け致しますから」


「「エ、エリー!」」


エリーの優しい言葉に、2人はコロッと落とされる。

抱きついていたタキアーナがさらに強く抱きついてきて、同じように他の2人も強く抱きついてきた。


《スキル『洗脳LV1』を獲得しました》

《スキル『精神支配LV1』を獲得しました》


抱きつかれながらエリーは、新たなスキルを獲得した。

 ーーえ!?何!?2つとも名前が物騒なんだけど!

抱き着かれた状態であるためできないが、非常に頭を抱えたくなるのであった。




後日。


「それでは、もう1度事情聴取をさせて頂きます」


また取り調べ。今回は個別でなく全員で受けることになった。

その理由は、


「我が教会のモノが、王族方を侮辱するはずがない!王族様方!コレは何かの間違いなのでしょう!」


事実を無かったことにしたい、教会側の権力者が出てきたからだ。

ここで被害者側を全員納得させられれば、無かったことも可能なのである。

教会も頑張りどころだし相当力を入れてきているようなのだが、


「とりあえず、私は侮辱されたと思う」


第1王女のタキアーナが、珍しく怒りのこもった声で言った。

そのタキアーナに、他の王族も続いていく。


「俺も聞いたな」

「僕も聞いたねぇ」

「私も訊きましたわ」

「ぼ、僕も!」


これを聞いた教会側の出席者は顔をゆがめる。

自分に刃向かうモノが存在することを許せないような表情である。


確実に何か起きそうな雰囲気ではあるが、

 ーーしばらくは、見ているだけにしましょう。

エリーはまだ傍観者でいることを決めた。


とりあえず王族が罪をなかったことにするつもりがないということは伝わったようで、教会側も切れる手札を切ってきて、


「で、では、皆さんは、教会との仲を悪化させたいとおっしゃるのですかな?」


いきなり爆弾を出してきた。

王族たちも流石に驚き、うろたえているような表情に。

教会との関係を悪化させれば国営にも影響があるため、おいそれと敵対しますなんて言うことは言えない相手なのだ。


 ーー少し援護した方が良いかしら?

エリーがそう思ったところで、


「そうは言っていない。こちらも教会側との繋がりは大切だと思っているからこそ、()()してやろうと思っているんだが」


ロメルが言葉を発した。

とりあえず任せてみようということでエリーは口を噤む。


「ほぅ。譲歩ですか!さすがは次期国王。ロメル様はよく分かっているようですなぁ」


ロメルの言葉に教会側は明らかにホッとしたような表情をする。

だがその後の言葉ですぐに表情は崩れることとなり、


「そうだ。俺たちを侮辱したヤツの永久追放と。1千万の賠償ですませてやろう」


「はっ!?」


 ーー上手いわね。コレなら文句は言えないわ。

エリーはロメルの発言に感心し、成長を感じた。


「どうした?かなりの譲歩だろう?本当なら国家反逆罪で教会の全員を斬首刑にしなければならないんだが、俺たちとしても教会との繋がりは大切にしたいと思ってな。かなり譲歩してみたんだが。………もちろん、文句はないよな?」


「なぁ!?……うぅ!!分かりました!それでいいでしょう!!」

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