悪役令嬢、誰やねん
「んっ!着いたぞ」
第1王子のロメルが自信にあふれた笑みを浮かべながら、工場への到着を告げる。
エリーが窓から外を見ると、そこには前世で見たような大きな工場が。
「ほぁ~。さすがは王国最高の技術力を持つだけはありますわね」
「ふふふっ!そうだろう!!」
エリーが感心したように呟くと、ロメルが胸を張って満足そうな顔をした。
他の王族たちも、どこか誇らしげである。
ーー普段私に教えられてばかりだから、私に感心されて嬉しいのね。それなら、この工場内では少しだけオーバーなリアクションをとってあげるとしましょう。
エリーは前世での接待経験を思い出しながら、覚悟を決めた。
「うわぁ!広い!」
ーー広い土地を持つことは貴族たちにとっての誉れ。ならば、王族たちも広さを褒められて悪い気はしないはず!
エリーは褒められて嬉しいだろう所を考えて、わざとらしさがないようにしつつ、感心したような演技をしていく。
そして、ついでに、
ーーあっ!あの機械の構造良いわね。パクらせて貰いましょう。
幾つか有効そうな技術を盗んでいった。
エリーは魔力感知のスキルを持っているので、魔力で動く機械類の構造を把握するのは簡単なのである。
そして見学すること数時間。
「いやぁ~。素晴らしかったですわぁ!」
エリーは目を輝かせながら言う。
この言葉に、嘘はない。
幾つか演技でオーバーリアクションをとったりもしたが、参考になる技術があったのも確かだった。
得るモノは、確かにあったのだ。
「凄いでしょぉ!」
「ええ。エイダーの作ったモノも素晴らしかったですわ」
これは、少しだけ嘘である。
確かに、第3王子のエイダーが考えたモノは、同年代が考えられるようなモノではなかったのだが、それでも売れそうなものでもなかった。
おそらく、王族関係者だからと言うことで、誰かが無理矢理売ったりしたんだろうとエリーは推測する。
ーーまあ、この年齢にしては考えた方なんじゃないかしら?
エリーがそう思ったときだった。
《スキル『演技LV1』を獲得しました》
新たなスキルを獲得した。
それ自体は、とても喜ばしいこと。
なのだが、
ーー演技ねぇ。スキルが手に入るほど演技やってたかしら?それはそれでエイダーを馬鹿にし過ぎた感じで心が痛いんだけど。
「それじゃあ、次は薬局だね」
そんなエリーの心のうちなど知らない第2王子のアロークスは笑顔で言う。
エリーもその言葉に、笑みを返して頷いた。
「薬局。楽しみですわ」
「何が楽しみなの?」
エリーが期待の言葉を呟くと、それを第3王子のエイダーが尋ねてきた。
エリーは口の端をあげ、
「薬局の人が若返ったと聞きましたわ。その方法が分かれば、きっと売れると思いますの!!若返りなんて誰もが求める商売の材料でしてよ!」
エリーは語気を強めて言う。
そんなエリーの様子に、王族たちは納得したような顔をした。
「エリーは金に目がないよな」
「公爵家なんだから、お金は有り余るほどにあると思うんだけど」
「きっと令嬢だから、備えが必要なんだよね。うんうん。きっとそうだ」
ーー結構な言われようね。
エリーは王族たちから自分がどう思われているのか知って気落ちしつつ、それでも薬局を利用してやろうと言う気持ちは、一瞬も消えることはなかった。
そんな風に何とも言えない空気感になっていると、
「ん。見えてきた」
第1王女のタキアーナが呟いた。
エリーがつられて外を見れば、
「…あれが、薬局ですのね」
エリーの目に、きれいな外装の建物が映る。
その外観からすでにかなり儲かっていることが読み取れた。
建物自体も大きめで、エリーの前世でいた国の病院と同じくらいの大きさだった。
馬車が止まると、建物から数人の職員らしき人間が出てきた。
「皆様初めまして。私、今回皆様の案内役を任されたモノです」
そう言って、1人の男性が頭を下げる。
それにつられる形で、他の職員たちも頭を下げた。
「本来はエリー様も来ていることで、顔見知りであられる局長が来た方が良いと思われましたが、残念ながら局長は現在手が離せない状況なので、局長の手が空くまでは私が担当させて頂きます」
「ああ、そうなんだ……………え?エリーの知り合い?」
「薬局のことは知らないんじゃなかったのか?」
案内役の言葉に、王族たちが首をかしげる。
首をかしげるのは、エリーも同じであり、
ーー薬関係に詳しい知り合いなんていたかしら?
不思議に思いつつも一先ず誘導に従いながら一行は薬局内を進んでいく。
「こちらで、休息の必要な方々は休んで頂いております」
案内役は相手が王族貴族だというのに緊張した様子もなく解説を行なっていく。
伊奈野が解説を受けた印象では機能的には薬局というか、病院に近い。
「凄い!色々ある!!」
案内を受けつつ様子を見ていた第3王子のエイダーは楽しそうな声を上げていた。色々と見たことのないものがあり楽しめているようである。
だが。即座に案内役が自分の口に人差し指を当てて、
「申し訳ありませんが、お静かにして頂けると助かります」
「あ、あぅ。ごめんなさい」
案内役に注意され、エイダーは顔を伏せる。
その瞬間即座にエリーはエイダーの頭を撫で、
「大丈夫ですわ。次から気をつければ良いのです」
「あ、うん。ありがとうエリー」
エイダーの顔に、明るさが戻る。
そのエイダーからは愛らしさが余計に感じられ、エリーはさらに頭を撫でた。
「くっ!最近、エリーの方にエイダーが懐いている気が」
「姉さん。諦めるんだ。エリーとは差がありすぎる」
「こちらが、当局で使う薬の保管庫となっております」
案内役に誘導され、エリーたちは次々と部屋を見て回る。
病院と言っても良いレベルだが、手術室がないのが、唯一の違いだと言えた。
「ほぁ~。薬が沢山」
エリーが感心したように息を漏らす。
王族たちもそれぞれの視点で思うところがあるようで、キョロキョロと薬局内を見回している。
「さて、主要な部屋はこのくらいですね。何かご質問などはございますか?」
案内役が質問を募った。
そこで、王族たちが全員手を上げる。
「はいはい!」
「聞きたいことが多すぎますわ!!」
少し声が大きすぎるような気がして注意しようとした。
が、それよりも一瞬早く
「エリー様。お久しぶりですねぇ」
若い女性に話しかけられた。
服装から、職員だということはわかる。雰囲気は完全に大物のそれ。案内役の方をちらりと見てみればその背が案内中よりもピシリと伸ばされており、薬局内の重要なポストの人間なのだということは分かる。
だが、
「え?誰?」




