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悪役令嬢、友人と遊びに行く

「お父様。少し良いでしょうか?」


「ん?何だ?今は時間があるが」


エリーは父親に、王族たちとお出かけすることになったことを伝える。

父親は意外そうに目を見開いた後、一瞬黒い笑みを浮かべた。


 ーー利用できる。とでも考えているのかしら?

エリーは、すぐに表情を穏やかな笑みに作り替えた父親の心の内を想像する。


「そうか。なら、陛下にもお話しして、時間を調整しておこう」


「お願いしますわ」


父親は手帳にメモをとる。

途中で、顔を上げ、


「それで、どなたとお出かけするのかな?」


「へ?どなたって、全員ですけど」


「……は?」


お互いが首をかしげる。

エリーが首をかしげたのは、誰と行くのか訊かれたことに疑問を持ったから、


父親が首をかしげたのは、

 ーー全員だと!?王族の心のガードは堅いはずだというのに!……我が娘は、一体どんな手であの固い壁を崩したんだ?私の子のはずなのに、私より優秀とは。


驚きはするものの、そうだというのなら拒否する理由は1つもない。

父親はすぐに許可を出し、


「……ということで、日程は1ヶ月後となりました」


エリーは、王族たちに日程を伝える。

王族たちもそのことは訊いていたようで、驚いた様子はない。


「ふふふっ!エリーとお出かけ。楽しみ」


「町に出るのも久々だな」


タキアーナとロベルはそう言いながら、行く場所を話し合う。

そこに楽しそうな声で意見を出すのが、


「私、エリーとお揃いのアクセサリーが欲しいですわ!」


お出かけの提案者、第2王女のリファータである。

ロメルは、その意見は大丈夫かと、他のメンバーを見回す。


「いいですわね。色違いのものを皆で買うのも良いですわ」


「僕も賛成かな。色違いなら、種類の多いアクセサリーが良いよね」


「アクセサリだったら、僕は、ペンダントが良いなぁ!」


エリー、第2王子のアロークス、第3王子のエイダーの順に賛成する。

ロメルとタキアーナはうなずき、行く時間などを話し合い始めた。


その後もそれぞれが行きたい場所を言い、それぞれが賛成反対を示し、調整が行われていった。



予定を細かく立てて待っていると時間は過ぎ去り、すぐにその日はやってくる。


「エリー!!」


「ふふふっ。皆様ご機嫌よう」


元気な声が聞こえてくる。

すでに王族もそろっていた。


「エリー。こっち。私たちと一緒」


「色々話そうじゃないか」


タキアーナとロメルが、手招きをする。

エリーは微笑んでそれに従い王族たちへ歩み寄り、


「まずは、アクセサリーショップでしたかしら?」


「そうだよ。何を買おうか。色違いのモノがあるのって、あまり種類が多くない気がするけど」


エリーは、王族たちと共に馬車に乗る。

その周りは、いつもの倍以上の護衛が。


 ーーさすがは王族ね。でも、ずっとこんなに護衛に張り付かれたら私は息苦しくなりそうだわ。

エリーは、王族でなくて良かったと安心した。


「あっ。着いたよ!」


第3王子のエイダーが、馬車の窓から外を見て、嬉しそうに言う。

扉が開き、エリーたちは馬車から出て、アクセサリーショップへと入った。


「可愛い!可愛いですわ!!」


「ん。同意。でも、御南で色違いを買えるほど色が多そうなのは少ない」


第2王女のリファータが楽しそうに声を上げ、第1王女のタキアーナが気を落したような声を出す。

ただ、護衛が店員に事情を説明すると、すぐに店員が奥へと入っていって、


「こちらなど如何でしょうか?」


奥から店員が箱を持ってきて、エリーたちの前で開く。

その箱には、色違いの指輪が多数。


「っ!豪華すぎずシンプルすぎない、繊細なデザイン!」


「いいですわね!これでいいでしょうか?」


第1王女のタキアーナと第2王女のリファータは目を輝かせる。

少し圧に押された感じはあったが、エリーたちは頷いた。


「ねぇ。好きな色を紙に書いて、お互い色を教え合わないって、どう?」


第2王子のアロークスが、イタズラっぽい笑みを浮かべて、そう提案する。

エリー以外は何かに気づいたようで、おなじように笑みを浮かべて頷いた。


エリーは首をかしげながらも、紙に好きな色を書く。

そして、それを店員に渡した。


店員が、王族たちの選んだ指輪を護衛に渡していく。

その色は、赤、青、黄、橙、白。


「私が選んだのが、エリーとお揃い」

「そんなことはない。エリーと同じ色なのは俺だ!」

「はぁ~。皆、エリーのことを分かってないねぇ。お揃いは僕だよ」

「私がお揃いのはずですわ!」

「え~。白じゃないのぉ?」


「ふふっ。皆様、そういう考えでしたのね」


エリーはクスリと笑う。

それから、エリーは答え合わせをかねて、店員に目配せをする。


すると、店員は紫色の指輪を護衛に手渡した。

護衛がエリーに指輪を渡し、エリーはその指輪を大事そうにはめる。


「ふふっ。皆様ハズレですわ。私が皆様と出会えたのは、毒のおかげ。ですからやはり毒の加護の色、紫が私は好きなんですの」


「「「「エ、エリー!」」」」


王族たちが瞳を潤わせる。

そして、エリーに抱きついた。


「きゃっ!?」


エリーは小さく悲鳴を上げる。

それでも、王族たちはエリーを離さなかった。


「エリー。やはり可愛い」


「俺の予想を裏切るとは、さすがだなエリー」


「エリーなら、正義の黄色だと思ったんだけどな」


「私たちのことをそこまで思ってくれてるなんて。私感動ですわ!!」


「ずっと友達だよ!!」


そうしてエリーはたっぷり抱きつかれた後、護衛たちの時間だという言葉で解放された。

すぐに馬車に乗り込み、次の場所へ出発する。


エリーと王族たちの指には、光る新品の指輪が。

それぞれが、大事そうに指輪を撫でながら会話をする。


「次は、美術館ですわ!」


第2王女のリファータが、そう宣言する。

美術館には、現在活躍している芸術家たちの作品が多く飾られているらしい。


どこかの世界の、古い作品ばかりの美術館とは少し違う。

この世界の美術館は、芸術家たちが1番に活躍できる場所なのだ。


そんな場所へ向かう途中、


「あら?あの子」


エリーの目に、外を歩いている子供の姿が映る。

エリーはその子に、心配そうな目を向けた。


「あの子、足をすりむいてますわ。痛そう」


子供は、足をすりむいていて、今にも泣きそうな顔をしている。

だが、王族たちは大して気にしていないようだった。


別に平民などどうでも良いなどという理由ではなく、


「薬局がありますし、すぐにケガなど治りますわ」


「薬局?薬局とは何ですの?」


エリーは、王族たちに尋ねる。

すると、第2王女が不思議そうな顔をして、


「あら?エリー。ご存じないんですの?最近、病気やケガに効く薬をくれる薬局が王都で有名になっているんですわよ」


「へぇ~。薬を売ってるところなんですのね」


エリーは、感心したように呟く。

基本的に回復は、回復魔法で行われるのが一般的だった。


しかも、その回復魔法は、聖職者しか使うことができない。

というか、使い方を知るためには教会で習うしか方法がないのだ。


そして、その教会は国教の教会であり、あまり刺激することもできない。

宗教が幅をきかせているのだ。


「帰りに寄ります?少し時間がありますし、よれないことは無いと思いますわ」


「ええ。よろしいですの?では、お願い致しますわ」


こうして、予定に薬局へ行くことが追加された。

エリーは薬局へ思いをはせながら、美術館へと入る。


そこで少し気になる絵を見つけ、


「ん?この絵は?」


「エリー。気になるの?」


第1王女のタキアーナが、エリーが1つの絵をじっと眺めていることを心配して話しかける。

エリーは難しい顔をしながら、首をかしげる。


「盗賊殺しの妖精。なんだか、親しみを感じる題材ですの。なぜかしら?」


エリーは首をかしげる。

まあ、そう思う理由は簡単。


盗賊殺しの妖精という絵の題材が、エリーだからである!

エリーは、自分が描かれている絵を見ているのだ。


「盗賊殺しの妖精。あぁ。エリーの領地で犯罪者を大量に殺害したと噂されているヤツか」


止まっている2人を心配して近づいてきた第1王子のロメルが、エリーの呟きに応える。

そこで、エリーは気づいた。


 ーーそれって、私のことよね?

そこまで有名になってしまっているのかと驚き自分の行動に反省しつつ、別の絵に視線を移す。


「あら?こちらは、薬局関係かしら?」


「ああ。薬局の局長さんの絵ね。凄いご高齢だったんだけど、ある日突然凄く若返ったんだって」


エリーの目に入ったのは、後光の差す、年若い女性が、ボロボロの民に手を差し伸べる絵が。

すかさず、近くにいた第2王子のアロークスが絵画の解説をしてくる。


 ーー若返ったの!?それは、稼げそうなネタね。


そんな風に気になる情報をいくつか手に入れることができたエリーたちは美術館を出て、予定通り昼食を食べに行くことに。

馬車で少し移動すると、そこには豪華な装飾の施された店が。


「ここは、元王宮料理長のやっているお店なんですわ!」


明るい声で、第2王女のリファータが昼食を食べに入った店の説明をする。

エリーは、興味深そうにその話を聞いていた。


 ーー元、ということは、かなりご高齢のはず。亡くなったときに従業員が引き抜けるよう、今のうちに繋がりを作っておくべきかしら?

その話を聞きながら、エリーは黒いことを考えるのであった。


「こちら、コースメニューの前菜、マンドレイクと角粉のフレークのサラダです」


エリーたちの前に、料理が並べられていく。

エリーたちは、雑談をしながらその料理を口にした。


「マンドラゴラは、相変わらず独特な味がしますわね」


「そうだね。見た目は他の野菜と似てるんだけど、味が」


そう言って薄く笑う第2王子のアロークスの頬に、エリーは手を伸ばす。

そして、そこを撫でるようにして、


「ふふっ。ついてましたわよ」


指についたフレークをみせる。

エリーはそれを、


「はむっ」


「えっ!エリー」


エリーが指のモノを口に入れると、アロークスの顔が赤くなる。

他の王族たちは、その様子を微笑ましそうに眺めていた。


それから談笑しつつ食事をとり、1時間ほどたっただろうか、


「ふぅ。お腹いっぱいですわ」


エリーは、大量の料理が入っていった自分のお腹をさする。

王族たちも、満腹になったようでそれぞれゆったりしている。


エリーはそのゆったりした空気に流されそうになったが、店にあった時計を見て思いなおす。


「そろそろ時間ですわね。次はどこだったかしら?」


エリーはそう言って立ち上がる。

王族たちも時間が迫っていることに気づいたようで、柔らかな椅子から名残惜しそうに立ち上がった。


「次は、私たちが考えた商品の工場」


第1王女のタキアーナが。眠そうな顔で言う。

エリーはそれに目を輝かせた。


「あらぁ。皆様の考案したモノが見られるんですのね。楽しみですわ」


そのまま、誰にも気づかれないくらいのペースで歩く速度を上げる。

歩く速度が上がったことに王族たちは気づかず、エリーと同じペースで馬車へと向かう。


 ーー工場見学がそんなに短い時間で終わらせられるわけないじゃない。時間になって全部見られずに終わるわけには行かないわ。


エリーは、王国最高の技術を誇るであろう、王族たち専属の工場へ思いをはせるのであった。

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