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悪役令嬢、遊ぶ約束

新聞が予想より売れ、エリーと公爵の懐が潤った次の日。

エリーは、いつも通り王族たちのもとにやって来ていた。


「失礼致しますわ」


「あっ!エリー!!」


明るい声で真っ先に反応したのは、少し前までエリーのことを毛嫌いしていた第2王子のアロークスであった。

ただ、攫われてからはエリーが巧みに心に入り込んだため、かなり懐いている。


「……アロークス。お前も変わったな」


苦笑いしながら、第1王子のロメルが2人の様子を眺める。

他の王族たちも、ロメルと同じように苦笑いしていた。


挨拶も兼ねた軽い雑談をしていると、エリーの持ってきた土産が出てきた。

ロメルは、クッキーをかじり、懐かしそうな顔をする。


「お前からの土産は豪華なものが増えたが、この味は変わらないな」


同窓会みたいなことをロメルは言う。

ただ、ロメルの言うとおり土産は最初の頃と比べてかなり様変わりしていた。


魚粉の使われていたお茶は改良が施され、魚粉なのに優しい香りがするという奇妙なものになっている。

他のモノも貧相なものが多かったのだが、今では無駄に金粉が使われたりしているモノも多い。


「凄いよな。エリーの領地は異様な発展してるし」


「同意。おかげで可愛いお菓子も増えた。私は嬉しい」


第1王子のロメルと、第1王女のタキアーナがそれぞれエリーの領地を褒める。

褒められて悪い気はしなかったので、エリーは儲かっている話をしてあげることにした。


「それじゃあ、私の領地でさらに発展しそうなお話をしますわ」


「え?まだ発展するの!?このままだと、王都が負けちゃうよ!!」


エリーの言葉に、第3王子のエイダーが慌てる。

エリーの領地が発展してしまえば、王都から人がそちらに流れてしまう。


そして、その王都を管理しているのは国王。

つまり、国王の管理する場所から人が出て行ってしまいかねないのだ。


これは、王族としては心配しなければならないことである。

 ーーその辺りも考えられるようになるなんて、エイダーも成長したわね。でも、無邪気で何も知らない頃のエイダーも可愛かったから、ちょっと寂しいわ。


「大丈夫ですわ。それも含めてお話しさせて頂きます。私が発展の足がかりとして、新たに行おうとしている、というか昨日から始めた産業が、印刷業です。印刷業は……」


エリーは印刷業や、それによる経済効果の解説を行う。

話が進むごとに、王族たちの顔は驚愕に染まっていった。


「なっ!?そんなことをしたら、やはり情報が集まるガリタッドに、人も集まるじゃないか!」


ロメルが、エリーの解説を聞いて焦る。

ロメルも、情報の有用性はよく分かっているようだ。


因みに、ガリタッドというのは、エリーが管理する漁村の名前である。


「大丈夫ですわ。人が集まることは集まると思いますが。それは王都も同じになるはずです」


「どうしてですの?新聞欲しさに皆ガリタッドへ行くのではなくて?」


エリーの発言には根拠がなかったので、第2王女のリファータが素速く質問してきた。

 ーーいいわね。足りないピースが何かを瞬時に考えて質問できてる。


エリーは、王族たちの成長を実感しながら説明をする。


「まず、私が新聞に載せる情報には、王都の良いところを大量に書きますの。悪いことは少ししか書きませんわ。ですから、それを読むモノたちにとって、王都はとても理想的な場所に見えるはずですの」


「なるほど。さらに言えば、少しだけ悪いことを書いておくことで情報の偏りがないようにアピールしてみせるわけだな」


エリーの説明に、素速く第1王子のロメルが隠された部分の確認を行う。

エリーは子供の成長の早さに驚きながらも、穏やかな笑みを貼り付けたまま頷いた。


 ーーロメルとタキアーナは、本当に優秀ね。この頭の良さなら、私が前世でいた世界でも十分生きていけるんじゃないかしら?


成長を実感しつつ、今回の話はここまでで終わらせる、

あまりいっぺんに知識を与えすぎても覚えきれないだろうと考えたのだ。


続きは次回話すとして、代わりの話題を探すわけだが、


「そういえば」


エリーは以前彼らと話していたことを思い出した。

今どうなっているのか気になったので、尋ねてみることに。


「王族の皆様で商品を売り出すと言うことでしたが、どうなりましたの?」


エリーの質問に、王族たちが驚いたような顔をした。

そして、全員が笑みを浮かべる。


「聞きたい?」


タキアーナが訊いて欲しそうに尋ねてきた。

その明らかに自慢をしたいのだろう様子にエリーは苦笑しながら頷く。


「お願いしますわ」


「ふふふっ!なんと、私が作ったモノが、1ヶ月で50万の利益を出した!!!」


普段は感情の起伏が読み取りにくいタキアーナが、今日は珍しく表情を輝かせて話している。

相当喜んでいることが読み取れた。


「俺は40万だった。悔しいな」

「私は30万でしたわ」

「僕は、10万だった。最下位だよぉ」


それぞれが報告をしてくる。

エリーは、感心したように数度うなずき、


「全員利益が出ましたのね。赤字じゃないのは素晴らしいですわ」


成果が出ているなら十分。

そう判断した。


そうしてエリーに褒められたのが嬉しかったのか成果を上げた王族たちが喜ぶ中、


「はぁ。僕も、エリーの言うことを聞いていればなぁ。今からやっても遅いしなぁ」


第2王子のアロークスが残念そうに呟いた。彼はその話をしたときにはまだエリーのことを嫌っていたため、事業は何も始めていなかったのである。

エリーはその様子を見て、元気づかせるように肩を叩く。


「そんなことはないですわ。いつ始めても、遅いと言うことはないはずです。1度経験したロメルやタキアーナからアドバイスを貰いながらやってみては如何ですか?」


エリーはそう言ってから、ロメルたちの方を見る。

ロメルとタキアーナは、笑顔で頷いた。


「私も手伝いますわ!」


「僕も!僕も!!」


第2王女のリファータと、第3王子のエイダーが不満そうに声をあげる。

エリーはわざとらしく驚いたような演技をして、


「まぁ!お兄ちゃんを手伝ってあげようなんて。素晴らしい妹と弟ですわ!」


「「えへへ!」」


エリーに褒められ、2人は照れたように笑う。

そこに、さらなる褒め言葉の追撃が、


「ありがとう2人とも。優しい弟と妹がいて、僕は幸せだよ」


「「えへへへぇ!!」」


部屋は、和やかな雰囲気に包まれた。



「……………そろそろお時間です」


そんな和やかな時間も過ぎていき、使用人の無慈悲な言葉に王族たちは悲しそうな顔をする。

エリーはそれを見て、かなり心をつかめたモノだと、達成感を感じた。


 ーーこのまま、ロメルがヤンデレにならずに、そして、アロークスが私を公爵家の人間から外さなければ私は生き残れるわ。適当な貴族と結婚して、自由な時間で闇の活動ができれば私は幸せ。


「あっ!そうですわ!」


将来のことを考えつつエリーが帰る準備をしているところで、第2王女のリファータがポンと手を打った。

突然声をあげたリファータに、全員の視線が集まる。


そんな視線を気にもせず、


「エリー。今度一緒に、お出かけ致しませんこと?」


「はぇ?」


外出のお誘いをしてきた。

エリーはあっけにとられながらも頷く。


「ちょっと。エリーは襲われたばかりだから、まだそういうのは」


「え?あっ!そうでしたわ。……ごめんなさいエリー」


タキアーナが注意をし、リファータはしゅんとした表情で謝ってくる。

エリーはそんなリファータに手を振って、大丈夫だとアピールする。


「大丈夫ですわ。私も、お出かけしたいです」


更に仲良くなれるチャンスかもしれないとエリーは外出しての遊びを約束し、帰りの馬車に乗る。

その中で王城の方を名残惜しそうな表情で見ながら、未来に思いをはせた。


「王族との外出。きっと、行けるのは王族との繋がりがある場所のはず。ここでアピールするチャンスを逃す訳にはいかないですわ」


「良かったのですか?王族の方々がおっしゃっていたように、盗賊に襲われたときの恐怖の傷は癒えていないのでは?」


笑みを浮かべるエリーに、専属メイドのメアリーが心配そうに尋ねてきた。

エリーと同い年の子供がもし同じ状況に置かれたらトラウマになることは間違いない。


メアリーの心配は、一般的に見れば的確なモノだった。

だが、心配されているのはエリーという常識で考えてはいけない相手である。


「盗賊など、今は怖くないですわ。護衛も雇いましたし。私もたしか、数秒なら耐えられるとヒューズール様にも言われておりますし」


「左様ですか。問題ないなら、私から言うことは何もないのですが」


エリーが問題なさそうに言っても、メアリーの顔から心配の色は消えない。

仕える主人が倒れてしまって、自分の立場に影響が出ることを危険視しているのだ。


因みに、自分の財布の心配ばかりをしている忠誠心のないものと思えるかもしれないが、これでもゲーム内では、エリーの精神的な支えとなっていた存在である。

 ーー王族たちの心は開けたけど、メアリーの心はなかなか開けないわね。どこかで、もう少し距離を縮めたいのだけど。


優秀だとは思われていて国のためになる存在だとは判断されているようだが、まだまだ心の距離は詰め切れていない。

メアリーとの関係の前進も課題の1つと考えた。

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