悪役令嬢 そんな褒美は願い下げ
「エリー。あなたはなんということを………………」
母親はエリーに悲しげな目を向けた。
王冠を壊してしまい、娘か公爵家に罪が掛かると思っているのだ。
だが、国王が重鎮たちとの話し合いを終わらせ、その中に居た父親が帰ってきた。
そして、しばらく父親が母親としゃべると、
「エリー!凄い子ね!私が間違っていたわ!!」
そう言って、エリーに抱きついた。
かなり強い力で。
ーーぐはぁ!苦しいっ!
エリーは死にかけた。
父親がすぐに止めなければ、本当に死んでいたのではないかと思うほどだった。
母親は慌ててエリーを解放したが、エリーはそれ以降、母親に抱かれるとわずかな恐怖を覚えることになる。
数日が経ち、エリーはまた国王の下へ訪れた。
今回のことで褒美をくれるというので、エリーは内心ウキウキである。
「エリーよ。今回はよくやった。本来であれば全貴族の前で褒美を渡したいのだが、残念ながらそれはできない」
エリーはそれに苛立つことはなかった。
国王としては秘密にしたいだろうというのが読めたのである。
「ということで、エリーよ。君には我が息子たちと結婚する権利をやろう」
「はぇ?」
国王の発言に、エリーを抱えていた母親がぽかんとした表情をする。
エリーは、
「うぇ、うぇ、うぇぇぇぇぇんっ!!!!」
ーー嫌よおおぉぉぉぉぉ!!!!
その後エリーは泣き叫んだが、結局褒美が消えることはなかった。
今回の褒美の内容はこうである。
・王子と結婚する権利を与える。
ただし、お互いが好意を抱いている。つまり、両思いであることが条件である。
王子と結婚することが嫌なら、好きにならなければ良いと思うかも知れない。
だが、エリーとしては王子と関わることは絶対に避けたいことだった。
なぜなら、前世でやったゲームで、
第1王子が裏ボスだったからである!
ーー絶対関わりたくないわぁぁ!!!!!!!
裏ボス、と言ったものの、通常ルートをいくらやったところで第1王子と会うことはない。
彼と会うことができるのは、ダウンロードコンテンツを買ったときである!
そのダウンロードコンテンツは、ハードモードを体験できるというモノ。
好感度を上げることが通常より難しくなり、逆ハーレムを作ることがかなり難しくなるのだが、完全に無理ゲーだった。
まず、ハードモードでは第1王子と結婚しないと主人公は必ず死ぬ。
しかも面倒なことに、第1王子の好感度が非常に上がりにくいのだ。
エリーは前世で、ハードモードの最高のエンディングまで行ったことが数百回ある。
第1王子との親密度を100%にして、主人公は正室となり女王へとなったのだが、それ以外のハーレムメンバーを作ることができなかった。
ハーレムゲームなのに、ハッピーエンドだと逆ハーレムを作れない。
どれだけ忍耐力のある人物でも、ハッピーエンドまでクリアしたら、それ以上、手をつけるプレイヤーは居なかった。
エリーの前世、明日花以外は!
明日花は、ハーレム候補に少しではあるが、エリーのことを話す人が居たため、その人だけでもと思って全力でやったのだ。
そして、その人物も一緒にハーレムに入れることはできた!
のだが、残念ながらエリーの話は聞けなかった。彼女の努力は徒労に終わったのである。
さて、そんなハードモードで攻略しなければならない王子だが、最後の最後に闇の精霊によって体を支配されてしまう。
最終局面で主人公は、自身の持つ光の加護によって王子を救い出し、物語はエンディングを迎える。
それで、問題はその救い出す方法だった、
なんと、主人公自身の言葉によって王子の心を開いていき、できた心のすきが光の加護で埋まっていく。
のだが、この言葉は親密度が高ければ高いほど届きにくくなる。
親密度が高いほど、心を閉ざしてしまうのだ。
さあ、そんな面倒な王子と相思相愛で結婚したいだろうか?
否。エリーは断固として拒否する。
死にたくはないのだ!
因みに、死にたくないというのはそのままの意味である。
王子の心を開くことに失敗すると、主人公は死んでしまうのだ。
いや、死ぬのは主人公だけではない。
この国のほとんどの人間が死んでしまうのだ!
そんな爆弾人間とは、絶対に関わりたくない!というのが、エリーの意思である。
他の王子とからんでも良いのだが、それでもどこかしらのタイミングで第1王子と顔を合わせる確率があるから嫌だと考えている。
それに、他の王子にも癖の強いモノが多いし。
エリーは、今後のことを考えて、あまり王子達とは関わりたくないのだった。
ーー王子には惚れない、そして向こうも惚れさせない。これが1番大事ね!!