悪役令嬢、治安維持とプロパガンダと
エリーたちは、ショッピングという名の、町の治安維持を続けている。
「やっぱり、他の貴族からの妨害が激しいねぇ」
エリーの兄、バリアルが呟く。
彼の目の前には、護衛によって取り押さえられている数人の黒ずくめの姿が。
護衛たちは、その男たちを詰め所に連れていくため、その場から去る。
その時だった。
「うおおぉぉぉぉ!!!!」
雄叫びを上げながら、大柄の男がバリアルたちに突進してきた。
護衛たちの間を抜けるように来たので、護衛たちはギリギリ間に合わない。
男は腰からナイフを抜き、それをエリーたちに向かって振りかぶる。
次の瞬間、ナイフが振り下ろされ、
カキンッ!
「なっ!?」
そのナイフははじかれた。
予想外の結果に混乱している男は、すぐに護衛に捕まった。
男のナイフをはじいたモノ、それは、バリアルの剣だった。
元騎士から受けた訓練のおかげで、バリアルもかなり剣の腕が上がったのである。
「お兄様。凄いですわ!」
男の剣を受け止めた自分の剣をぼぉっと眺めるバリアルに、エリーは声をかけた。
そこでバリアルは我に返り、
「あ、ああ。ありがとう。修行の成果だよ」
そう言って笑う。
そして、心の中でガッツポーズを決めた。
ーーよし!エリーを守れた!やはり、剣を選んで正解だったなぁ。
バリアルは、目的が達成されたことを喜んだ。
バリアルが剣を習う目的は、エリーを守ることであるため、今回はその目的が達成されたことになるのだ。
バリアルは、達成感を感じつつ、エリーに笑顔を向ける。
ーーもっと強くなって、エリーをこれからも守ってあげよう!
バリアルはそう決意しながら、エリーと談笑をする。
「お兄様のご活躍を、ヒューズール様にも報告しなければなりませんわ」
「ははっ。師匠が聞いたら、剣の振り方が甘いって怒られちゃうかも知れないなぁ」
「そんなことはないですわ!きっと、ヒューズール様にも褒めていただけるはずです!」
因みに、バリアルが守ろうとしているエリーの心の中は、
ーーあの剣の速さから考えると、剣術のスキルのレベルは4くらいかしら?子供は成長が速いわね。
子供の成長の早さを改めて実感する。
だが、成長が早いと言ってもそれだけで解決はできず本番は別にある。
「闇の加護のおかげで、かなり移動が楽になったわね」
エリーは船に再試乗した日の夜、自分の管理する漁村へやってきていた。
目的は勿論、治安の回復(つまり犯罪者狩り)である。
今までのエリーであれば、かなり距離のあるこの漁村に夜の活動で来ることは不可能であった。
だが、エリーは新しく闇の加護を得て身体能力がチート級で上昇。
光の加護と併せてチート級の底上げが2つ付いたため、1時間でエリーは漁村に着くことができるようになった。
ただ、それには人目を気にせずに走った場合に限定され、
「な、何!?」
「今、一瞬光るモノが通り過ぎた気が」
「なんか、妖精のようだったな」
エリーは移動を沢山の人に目撃されてしまっていた。
隠密行動ができない恨みも込めて、エリーは盗賊退治に動き出す。
「てい!」
エリーが気合いを入れると、とある小屋に居た数人の命が絶たれる。
死んだことを確認することもなく、エリーは次の獲物へ向かう。
「……俺以外は、全滅か」
血まみれの小屋に、そんな声が小さく響いた。
「ほっ!」
エリーは次々と犯罪者たちの首を飛ばしていく。
殺すのは、盗賊だけでなく犯罪者全般だ。
もちろん、軽い罪のモノを殺すわけではない。
ただ、指名手配されている犯罪者などが入り込んでいたので、その者や、その者の仲間は確実に殺した。
そうしていると、
「、、ここなら、」
「だが、、」
路地裏から話し声が聞こえた。
エリーは気づかれないように話している人物を確認し、
ーーあっ。2人とも指名手配されている人たちね。
エリーは標的であることを確認し、光の加護を使う。
すると、抵抗することもできずに2人は絶命した。
今までより攻撃の威力が高い。
闇の加護の攻撃力底上げが使われているのだ。
「さて、もっと殺しましょう」
エリーはそう言って、次の獲物を探した。
ただ、本当に犯罪者を殺すことだけが目的であるわけはなく…………
エリーが夜の活動を行った次の日。
漁村では、とある妖精の話で話題は持ちきりだった。
「おい!聞いたか。あの殺人鬼、オーシャルの死体が見つかったらしいぞ」
「オーシャルだけじゃないだろ。レンクスも、カンバーナも死体で見つかったって」
妖精じゃなくて、犯罪者の話ばかりじゃないかって?
いやいや、妖精が出てくるのはここからだ。
「やっぱり、妖精が全部やったのかな?」
「ああ。盗賊狩りの妖精な」
「妖精の噂は本当なのか?魔法よりも素速く動いて、相手に気づかれずに殺すって」
そう。
噂では、妖精が犯罪者たちを殺したことになっているのだ。
つまり言い換えれば、エリーが妖精だと思われているのである。
これをエリーが聞いたらどう思うだろうか?
「妖精って、可愛いのかなぁ?」
「はははっ!可愛いかも知れないけど、エリー様にはかなわないんじゃないか?」
「いやいや。エリー様も可愛いは可愛いけど。それは別のかわいさだろ。俺が求めてるのは、こう、セクシーな感じの………」
村人たちの妄想は止まることを知らず、噂は色々脚色されて広まっていく。
因みに犯罪者殺しの話で盛り上がっているのは、村人だけではない。
「ば、馬鹿な!雇った奴らが全滅しただとぉぉ!!!????」
「ど、どうなっておるのだ!?」
「誰にやられたんだ!?……せっかく、あのクソ令嬢の計画を止められそうだったのに」
エリーの計画を邪魔したい、迷惑アホ貴族たちである。
犯罪者を大量に送り込んで治安を悪化させ、計画が進まないようにしようという作戦だった。
だが、どこからか現れた妖精によって、手のものを全て殺されてしまったのである。
これによって、今まで通りの邪魔ができなくなってしまった。
「新しい者を送り込めないのか?」
「実は最近、盗賊が次々と殺されていてな。人員の確保も難しいのだ」
さらに貴族たちの計画を立ち行かせなくしたのが、クラウンの活躍である。
クラウンたちが盗賊などを殺しまわったせいで、漁村に送れる者が少なくなってしまっているのだ。
「くそぉ!おのれぇぇぇ!!!!」
「必ず、必ず邪魔をしてやるぞ、クソ令嬢!!!」
貴族たちが決意を固くするものの、その決意が実るかどうかは、かにの味噌汁(神のみぞ知る)であった。
そんな風に恨まれていることも何となく理解はしつつ、その日の夜もエリーは漁村へ来ていた。
「ほっ!」
エリーが力を使えば、盗賊らしきものの首が飛ぶ。
そのまま、エリーは次の獲物を探すのだが、
「……いないわね」
周囲に犯罪者がいなくなっていた。
エリーが殺しすぎたせいで、生き残っていたモノたちも逃げてしまったのである。
貴族たちは、死んでも治安を悪化させろと指示を出した。
が、勿論そんな指示に従うものは居ない。
盗賊は自身の命が1番なのである。
「まあ、計画通りだから良いか」
エリーはそう呟いて帰路につく。
これすらもエリーの計画の内。
エリーが犯罪者たちの数名をあえて見逃したのは、犯罪者が殺されていると言うことを敵の貴族に知らせるためでもあった。
その貴族たちが、そんな指示を受ければどうなるかは、エリーには簡単に予想できたのだ。
死んでも仕事をしろと言われれば、一般人はどう思うだろうか?
もちろん、その仕事が危険なものだと考えるのだ。
よって貴族たちが焦れば焦るほど。必死になれば必死になるほど、犯罪者たちは漁村によりつかなくなる。
エリーの計画は、効果を十分に発揮していた。
そしてこうなれば、今度は次の段階に計画が進む。
今度は治安回復ではなく、
「エリー様。準備が整いました。売り出しを行いますか?」
「ええ。良いですわ」
エリーは頷く。
すると、目の前の作業員は資料を持って動き出した。
直後、外から、
「新聞でぇす!王国の情報が載ってますよぉぉ!!」
新聞を売る声がした。
先ほどの作業員と同じ声である。
実はエリーは、新聞業界にも手を出したのだ。
理由は簡単。
船の開発までは時間が掛かりそうだったからだ。
父親には大量に稼げと言われているので、今のうちに資金を集めておく必要がある。
新聞はエリーが王都から情報を持ってきて、王都についてのことを載せている。
ただ、船が開発されれば、各地の情報も載せる予定だ。
時刻表なども載せることができれば、とも考えている。
ーー王国の情報とかの1つに絞ると、敵が出てきたときに辛くなるわ。未開拓の業界なんだし、できるだけ手広く商売をしましょう。
新聞というものはエリーが考えているように未開拓の領域であるため、
「おい!これ、おもしろいぞ!」
「えぇ!知らんかった。王都って、こうなってたんだぁ!」
村の各地から驚きの声が上がる。
その理由は勿論、
「新聞って面白いなぁ」
「来週も売る予定らしいし、また買おう」
新聞である。
予想外に、新聞が売れたのだ。
エリーは黒字を出すのに数ヶ月はかかるだろうと思っていたが、このペースだと今までの投資してきた分を含めても黒字になりそうな勢いである。
売れている要因は、なんと言っても、王都への憧れだ。
やはり田舎というのは都会に憧れを持つものが多いわけで、都会の情報の需要は非常に高いのだ。
だからこそ、国の首都である、王都の情報が書かれた新聞は、飛ぶように売れた。
「これなら、印刷技術開発にかけたお金も回収できそうね」
エリーは手元の、今までかけてきた資金に関する資料を見て呟く。
印刷機の開発にかなり時間を使ったが、船と比べれば少ないものだった。
ーー印刷業界を抑えれば、プロパガンダも……
などと、かなり黒いことをエリーは考えていたとか、いなかったりはしなかったりとか。(要するに考えてる




