悪役令嬢、剣術習う
「皆様、こんにちは」
「ああ。エリー。来たか」
「エリー。いらっしゃい」
アロークスを救出した次の日、王族たちの心のケアを含めて、エリーが話す時間が設けられた。
エリーは、王族たちに出迎えられ、部屋に入る。
そして、エリーは、顔を下げているアロークスに抱きついた。
「えっ!?ちょっ!?」
いきなりのことに、アロークスの脳は追いつかない。
エリーはそのまま、アロークスの頭を撫で、
「殿下。辛ければ、泣いても良いんですのよ。ここには、私たち以外誰も居ないのですから。他に見ているモノはおりません」
エリーは優しく囁く。
エリーの言うとおり、現在、使用人たちは部屋から出ていた。
「べ、別に辛くなんて、ない」
そういうアロークスの言葉には、力が無かった。
エリーはさらに囁く。
「私も盗賊に襲われ、死の恐怖を味わいましたわ。でも、1度泣いてみて、誰かに不安を吐き出すと、不安は小さくなりましたの。殿下も、少しは心の内を、誰かに見せてみては如何ですか?」
まあ、エリーには恐怖など無かったわけだが。
だが、共感という武器を使った、その心に入り込んでくる言葉は、アロークスには効果てきめんだった。
「うっ!くっ」
エリーは自分の服がぬれるのを感じながら、アロークスの頭をなで続ける。
そんな時間が、数十分ほど続いた、
「さて、少しは楽になりましたか?」
エリーは、アロークスに問いかける。
アロークスは、顔を赤くして、
「あ、ありがとう」
と、照れくさそうに礼を言った。
エリーはその言葉を聞いて、満足そうに微笑んだ。
「意外だな。アロークスに優しくするとは思わなかった」
第1王子のロメルが、本当に意外そうにいってくる。
エリーは、その言葉に笑う。
「私が厳しく接するのは、こちらに牙を向ける相手だけですわ。牙の抜けた相手を痛めつける趣味はございませんの」
エリーがそう言うと、ロメルはそれ以上何も言ってこなかった。
そのかわりに今度は、第1王女のタキアーナが、
「アロークスの不安に気づけなかった。姉として失格」
と、落ち込んだように声を出した。
エリーは、それをしばらくなだめる作業に追われる。
ーー子供って、心が発達していくのが感じられて面白いわぁ。
そんなことを思っていると、
コンコンッ!
と、扉がノックされ、
「王城内での話が終わりました。入室の許可を」
使用人の声がした。
第1王女のタキアーナが許可を出そうとするのを、エリーが手で制する。
そして、自分のお茶を手に持ち、
バシャッ!
と、ドレスにかけた。
「エ、エリー!?」
「大丈夫!?」
驚く王族たちをよそに、
「入って良いですわよ」
エリーは入室の許可を出す。
すぐに扉が開かれ、使用人たちが入ってきた。
エリーはその中にメアリーがいることを確認する。
「メアリー。お茶をこぼしてしまいましたわ。お着替えしたいのですけど」
「あっ!はい!すぐにご用意致します」
メイドに連れられ部屋を出る。
「エ、エリー。ごめんね。あれ、僕の涙を隠すためにわざとやったでしょ?」
エリーが着替えて戻ってくると、第2王子のアロークスが小声で謝ってきた。
エリーは何も答えずに、薄く微笑む。
「……エ」
「エリー!あのお話聞かせて!」
アロークスが何かを言おうとするが、その言葉は第2王女のリファータによって遮られる。
エリーもそちらに耳を傾けてしまった。
そして、結局アロークスは、しばらくその言葉を伝えることができなかった。
楽しいときはすぐに流れ、メイドに終了を告げられる。
「それでは、皆様ごきげんよう。お体にお気をつけ下さい」
エリーは別れの言葉を告げる。
そして、背を向けて去ろうとするところに、
「………エ、エリー!ぼ、僕とも友達になってくれない?」
アロークスは顔を赤くして言う。
エリーは足を止め、振り返り、
「いいですわ。これからよろしくお願い致しますね。アロークス殿下」
「よ、呼び捨てで良いから!」
「ふふふっ。冗談ですわ。アロークス」
遊び心を忘れないエリーであった。
ただ、心の中では、
ーー本当は、王族と仲良くするのダメなんだけどな。こうなったら、私が王族を洗脳して、未来を無理矢理壊すしかないのでは?
それから数日後のこと。
エリーと、兄のバリアルは、父親に呼びつけられた。
「バリアル。エリー。君たちの剣の師匠が見つかったぞ」
父親は、薄い笑みを浮かべて告げた。
エリーはその顔を見て、何か裏があるということを読み取った。
「すでにその人には来て貰っているから、早速稽古をつけて貰うと良い」
父親に促されるまま、2人は動きやすい服に着替え、屋敷の訓練場に連れて行かれる。
そこで待っていたのは、
ーーあの人、アロークスを救出する部隊の、隊長だった人じゃない!?
表の人間で、クラウンのことを知る数少ない人の1人だった。
「初めまして。バリアル様にエリー様。私、ヒューズールと申します。私が、あなた方の剣を教えさせて頂きます」
ーーセカンドからの報告だと、特に罰則は受けなかったという話だったけど、どうしたのかしら?
エリーは、ヒューズールがこの場所に居る理由がわからず、首をかしげる。
「エリー様。首をおかしげになられていますが、どうかされましたか?」
「……私の記憶が正しければ、ヒューズールという名前の騎士様が、騎士団の中でもかなり上の立場にいたはずですが」
エリーの言葉に、ヒューズールが固まる。
まさか、こんな幼年の貴族の令嬢に、自分の存在が知られているとは思っていなかったのだ。
「え、ええ。その通りです。ただ、少し事情があり、現在は騎士の職から離れております」
ただそれ以上語らず、
「まあ、私の事などどうでも良いのです。お二人とも動きやすい格好をしていらっしゃいますし、早速剣の練習をすることにいたしましょう」
ヒューズールはそう言って、木剣をエリーたちに渡す。
エリーたちは各々、その短い剣を軽く振ってみる。
「それでは、まずは基本の型からお教えしましょう!」
ヒューズールはそう言って、攻撃の仕方などをわかりやすく説明していく。
エリーたちは、それを聞き逃さないように集中した。
さて、エリーは剣を習っているわけだが、コレには理由がある。
自分が敵と戦えるいいわけを作るという目的も、もちろんある。
ただ、それだけではなく、クラウンに関する目的もあった。
クラウンの戦いに関しては、独自で研究したモノであり、兵士たちの技術と比べてしまうと無駄が多い。
そのため、エリーは、クラウンのメンバーにも、もっと効率的な剣の使い方を学ばせようと思ったのだ。
自分が覚えて伝えるつもりだったが、今は運が良いことに護衛が付いている。
ということで、護衛たちにも習わせて、護衛たちから他のメンバーに伝えさせることにしたのだ。
クラウンの剣術の技術を底上げする計画。
その計画はセカンドたちにも伝えてあり、セカンドたちも真剣にヒューズールを観察している。
ただ、その心の中は、エリーが思っていたモノとは違っていた。
ーーエリー様は、この教官を見て剣を学べと言っていた。つまり、こいつの動きを見て、騎士たちの倒し方を考えとけということだよな。
ということでエリーが剣を習う理由はクラウンの強化のためだったが、兄バリアルの剣を習う理由は、
ーーエリーを剣でなら守れるはず!
というモノであった。
日頃からエリーを守りたいと思っていた。
だが、エリーが優秀すぎて、守るところなど見つからない。
そんなときに起きたのが、盗賊からの襲撃だった。
ーー盗賊たちを見るエリーの目は、恐怖に染まっていた!(見間違い)武力でなら、エリーのことを救えるはず!
明らかに視力が落ちているが、バリアルはとても高いモチベーションで剣を始めるのであった。
「えいっ!えいっ!」
バリアルは、気合い十分剣を振る。
それを、ヒューズールは頷きながら見ていた。
「バリアル様は、元気があって良いですな。エリー様は……」
ヒューズールは、エリーへと目を向ける。
そこでは、首をかしげながら木剣を振るエリーが。
「エリー様は、まだ剣になれていないようですね。ですが、これから練習すれば、きっとなじんでいくでしょう」
励ますようにヒューズールは言うが、エリーは心の中で、
ーー光の加護があるから、普通の子供よりは早く振る必要があるけど、あまり早すぎても怪しまれる。手加減って難しいのね。
そうして初日の顔合わせは終わった。
「それでは、今日はお二人に手合わせをして頂きたいと思います」
ヒューズールからの稽古の2日目。
突然、エリーとバリアルの手合わせが決まった。
「痛かったらごめんね」
バリアルが、心配そうな目でエリーを見る。
エリーは不安そうな顔をしておき、普通の女の子を装った。
「始め!」
ヒューズールが、手を振り下ろす。
それと同時に、2人の戦いが始まった。
まず、エリーは手加減をするため(一撃必殺が発動しないようにするため)、先手を打っておくことにした。
よろよろとした足取りで近づき、ゆっくりとした上段からの振り下ろしを行う。
「ほっ!」
バリアルが体を横に動かして攻撃を避け、それと同時に剣を横になぐ。
剣はエリーの脚に当たりそうだったが、エリーは必死そうに剣で防ぐ。
カツンッ!
軽い音で、木剣が打ち合わさった。
ただ、エリーはその衝撃でよろけ、そこにバリアルが追撃を行う。
「やめ!バリアル様の勝ち!」
こうして、エリーの積み重なる手加減の末、バリアルは勝利を手にした。
そんな接待をしつつ剣術を習ったエリーだが、予想外のところで良い結果をもたらした。
それが、
《スキル『剣術LV4』が『剣術LV5』になりました》
剣術のスキルを手に入れたことだ。
そのおかげだろうか、エリーの剣撃は、以前と比べものにならない速さを出している。
とは言っても、エリーが剣を使う必要はあまりないため、そこまで重要かと言えばそうでもないのだが。
ただ、スキルのレベルを上げるために夜の活動で剣を使うようになったのは、大きな変化であった。
《スキル『剣術LV5』が『剣術LV6』になりました》
「意外と、剣を使うのも悪くないかも知れないわね」
スキルのレベルはすぐに上がっていき、エリーはどんどん気分が乗ってきた。
そして、夜の活動を1週間もすれば、
《スキル『剣術LV9』が『剣術LVMAX』になりました》
《称号『剣豪』を獲得しました》
すぐに剣術のスキルレベルはカンストした。
因みに、剣術とは関係ないが、以前に隠したスキルもカンストしている。
《スキル『暗殺LV9』が『暗殺LVMAX』になりました》
《称号『死を知らせぬ者』を獲得しました》
《スキル『一撃必殺LV9』が『一撃必殺LVMAX』になりました》
《称号『終わりを始まらせる者』を獲得しました》
そうしてエリーは剣術のスキルレベルをあげながら、老婆のファーストの家に来ていた。
現在はファーストも出て行っており、エリー以外誰もその場所にはいない。
エリーはそこで、資料を読んでいた。
その資料には、複雑な魔法陣や数式が書かれており、一般人は読み解くことが困難な内容である。
「難しいわね」
読み解くことが困難なことは、エリーも同じだった。
ただ、決して読み解くことを諦めることはない。
その資料は、アロークスを助けたときに奪ってきたモノ。
そして、資料には、闇の加護を得る方法について書かれていた。
闇の加護を手に入れれば、エリーは3つの加護を得ることになる。
闇の加護は、光の加護と同じでチート級の加護なので、是非ともとっておきたい。
さらにエリーとしては、闇の加護を得る方法が分かればクラウンのモノたちにも伝え、これから先の人生を安全に過ごして欲しいという思いもあった。
「うぅん。ここで契約があって……っ!なるほど!!」
エリーが別の資料を見ると、そこにはアロークスに関する観察資料が。
その資料と今まで見ていた資料を見比べると、新たな発見があった。
そして、その資料から考えたことをやると、
《加護『闇の加護』を獲得しました》




