悪役令嬢、襲撃を受ける
エリーは最近、夜の活動も、いっそう充実してきている。
なぜなら、
「クラウン様。火傷蜥蜴の本部から人員が」
「新たな魔力狂いが発見されました!」
「闇の加護持ちが動いたようです!」
エリーたちが行った工作により、現在の最大の敵である火傷蜥蜴が内部分裂をしたからだ。
最初はボスも怖くて乗り気ではないようであったが、部下たちに言われた世辞やらでその気になり、本部に反旗を翻したのである。
しかも、本部を次々と打ち倒すことに成功。
コレはもう行けないわけがないと言うことで、現在はボスも勝利を確信している。
エリーたちは、ボスたちが本部に負けないように、本部から送られてくる人員を間引いたり、事件によって操られている、闇の加護を持つ子供たちを守ったりしている。
「本部にはセカンドたちを、加護持ちにはサードたちをいかせろ。魔力狂いには我が対応する」
エリーは部下からあげられる報告に、人員の派遣を行いつつ、自分もきちんと出動する。
魔力狂いという名の、火傷蜥蜴の実験の被害者は、エリーにしか救えない。
だから、魔力狂いが発見されたら、エリーはそれを最優先しなければならない。
最近は部下が増えたことにより、さらに魔力狂いの発見件数が多くなっている。
エリーは毎日、魔力狂いを救いつつも、きっちり本部から送られた人員の殺害も行うのであった。
しばらくは、そんな夜が続く。
そんな中いつものように、
「クラウン様。こちらを」
エリーに、部下から紙が渡される。
その紙には、本部のモノたちによる大規模な襲撃計画が書かれていた。
現在、セカンドなどの初期からいたベテランメンバーは、全員出掛けている。
そして、エリーはフリー。
となれば、
「我が行こう」
エリーはそう言って、たった1人で目的地へと向かった。
光の加護と、あげにあげたレベルのおかげで、エリーはあっという間に目的地へたどり着く。
そこには、報告の通り、沢山の盗賊らしきモノたちが。
エリーは魔力を操作し、
バシュバシュバシュバシュッ!
連続で首を飛ばす。
《レベル169にレベルアップしました》
《レベル170に……》
どんどんとレベルが上がっていき、最後に、
《スキル『一撃必殺LV1』を獲得しました》
新たなスキルを獲得しました。
効果としては、初撃の威力を10倍にするという、スーパーウルトラスキルである。
因みに、獲得条件は、合計で1500以上の命を1撃で刈り取る、もしくは、500以上の戦闘で相手を1撃で殺す、というモノ。
エリーは、魔力狂いを救う関係で連続での殺害があまりできないため…………。
まあそんなこともありつつも、
「クラウン様。時間あるか?」
ある日のこと。たまたま仕事の終わったエリーにセカンドが話しかけてきた。
その後ろには、ケモ耳が目立つサードの姿も。
「丁度仕事が終わったところだが、何か用か?」
エリーが暇だと伝えると、セカンドは笑みを浮かべる。
そして、サードと顔を見合わせ、
「俺たちと、手合わせをして貰えないか?」
バトルジャンキー的なことを言ってきた。
エリーは暇だと言ってしまっていたので、断ることもできず、
「仕方ないな。良いだろう」
エリーは許可した。
そして、他の仲間と一緒に広い場所に行く。
「それでは、掛かってこい」
エリーは軽く手招きする。
全員がエリーを囲むように構え、
「しっ!」
セカンドがかけだした。
その後、次々と時間差で襲いかかるクラウンの仲間たち。
「はぁあぁ!!!」
迫る剣。
エリーはそれを、体を反らして避ける。
その後、
「ていっ!」
エリーは軽く膝蹴りを放った。
エリーにとっては、本当に軽い蹴りだったのだが、
ドンッ!
「ゲボッ!?」
なぜかセカンドは吹き飛んだ。
吹き飛んだことにより、周りのメンバーも巻き込んでいく。
サードも一緒に巻き込まれた。
それによって、エリーと戦っているメンバーは、指揮官を失い、呆然とする。
「隙だらけだぞ」
そのことを逃さず、エリーはクラウンのメンバーを殴り飛ばしていく。
ついでに蹴りも混ぜて。
勝負は部下たちにとってもエリーにとっても予想外なことに、数秒で終わってしまった。
「……もう終わりか。出直してこい」
エリーはそう言って、倒れているセカンドたちに背を向ける。
そんな風にエリーは、かなり偉そうに言ったものの、
ーー何アレ!?
内心驚き慌てていた。
あんなにセカンドへ行なった蹴りが強いと思っていなかったのだ。
もちろん、あの蹴りの威力には理由がある。
その理由は、エリーの手に入れたスキル。
一撃必殺、だ。
一撃目の威力が10倍になる効果があるため、軽く蹴っただけでも人が吹き飛ぶのだ。
エリーはそれを自覚しスキルの恐ろしさを感じた。
ーーもし、他の人がコレを持ってたら………。
そう考えたらなんだか怖くなってくる。
因みに、エリーは、犯罪者に対して攻撃力が上がるスキルも持っている。
そのため、相手が犯罪者の場合、エリーの初撃の威力は50倍を超えるため、
ーーちょっと待って。私、下手に犯罪者に触れられないじゃない!
指1本で犯罪者を木っ端みじんにしてしまう可能性もあるのだ。
夜のエリーはさらに圧倒的な力を手に入れたのであった。
そんな夜から舞台は変わって昼。
公爵家の令嬢として過ごすある日のこと。
「エリー。お出かけをしない?」
兄であるバリアルが、エリーにそう提案してきた。
エリーは、
「今日は、キシィお母様とお勉強が」
「大丈夫よ。私もついて行って、屋外での授業を行うわ」
兄の提案を断ろうとしたのだが、キシィに遮られた。
そういうことならと、エリーはうなずき、3人は馬車に乗って外に出る。
「今日は、どこへ行きますの?」
エリーは行き先を尋ねる。
バリアルは笑って、
「ふふふっ。内緒だよ。でも、楽しいと思う」
ーー楽しいところねぇ。この世界の娯楽施設って、何かあったかしら?
エリーは、この世界のことに思いを巡らす。
遊園地があるわけはないし、温泉やボウリング場もない。
エリーには楽しいところがどこなのか、見当も付かなかった。
移動中、
「……えぇ~。お兄様、意地悪ですわぁ」
「はははっ。怒るエリーも可愛いね」
和やかな会話が、馬車で行われる。
兄バリアルが教えてくれそうにないので、エリーは他のことを話そうと思ったところで、
ガタンッ!
馬車が大きく揺れた。
エリーは扉を手で押さえ、態勢を保った。
そして席に座り直し、外の様子がどうなっているのかと窓を覗く。
そうしてエリーの瞳に入ってくる光景は、
「っ!お兄様!お気をつけ下さい!盗賊ですわ!!」
「「盗賊!?」」
エリーの言葉に、バリアルとキシィが驚く。
そして、不安げな表情になった。
「な、なんでだ?この辺りは盗賊なんて出ないはずなのに」
「お、おかしいわ。王都内に盗賊がいるなんて」
二人が頭を抱えて呟く。
だが、エリーはキシィの呟きの方に
ーーいや、普通に王都内に盗賊はいるわよ。
と、ツッコミを入れた。
だが、今はそんなことを言っている場合ではなく、
「うわぁぁぁ!!???」
外から悲鳴が聞こえた。
兄がビクッと肩をふるわせる。
その直後、
バタンッ!
と、扉が開いた、
その瞬間、エリーの記憶の扉も開かれる。
ーーそうだわ!これ、結構ストーリーに関わってくる話じゃない!
エリーは思い出したことに喜びたくなるが、扉を開けた柄の悪そうな男がこちらを見ているので怯えた表情を急いで作る。
そして、勢いをつけて反対側にある扉を開けた。
ガンッ!
と、言う鈍い音共に、「グフッ!」といううめき声が聞こえた。
どうやら反対側からも襲おうとしていた盗賊に扉がクリーンヒットしたらしい。
エリーはキシィと専属メイドであるメアリーの腕を掴み、そちらの扉の方に押しやる。
そして、自分はバリアルと手をつないで走った。
「待て!」
逃げられたことに男は驚いたが、すぐに仲間に声をかけて追いかけてくる。
エリーは、追いつかれないように、完璧なルートで走ったのだが、
「うわっ!?」
兄がこけた。
「お兄様!?」
エリーは、こけた兄に急いで駆け寄る。
ただ、それによって時間が無くなり、
「ふへへっ!追いついたぜぇ」
盗賊たちに追いつかれてしまった。
兄、バリアルは、その盗賊たちを睨みながら立ち上がる。
「何者だ!この狼藉は、僕がハアピ家長男、バリアル・ガノル・ハアピと知ってのことか!」
バリアルは吠えた。
だが、盗賊たちはそれを、面白そうに笑ってみている。
ーーこのイベント、バリアルがエリーをかばってケガを負っちゃうのよねぇ。
エリーは、ゲーム中で知ったことを思い出した。
バリアルは、盗賊たちに背中を切られ、大きな傷を残してしまう。
ゲーム内では、そこの傷が影響して呪いをかけられ、魔族に操られるというルートも存在する。
エリーは、そんなことはさせないと、兄の袖を掴み、
「きゃあぁぁ!?お兄様ぁ!」
悲鳴を上げながら袖を引く、
すると、直後、バリアルが居た場所を、剣が通り過ぎた。
「ちっ!動くんじゃねぇぇ!!!」
盗賊が怒鳴るモノの、エリーはちょこまかと動き回り、兄を操って攻撃を回避していく。
「きゃあぁぁぁ!!いやぁぁぁ!!!」
エリーは大きな悲鳴を上げながら、兄にしがみつく。
それによって兄、バリアルはバランスを崩すが、その直後、頭上を剣が通過した。
「くそっ!ガキが、ちょこまかと動きやがって!」
「さっさと死ねよ!目障りなんだよ!」
盗賊たちがわめきながら剣を振るうが、全く当たらない。
そして、盗賊たちがイラつきをマックスにさせたところで、
「貴様ら、何者だ!!」
騎士がやってきた。
その中にはキシィの姿があり、彼女が騎士を呼んできたことが分かる。
ーーキシィが、私を消すために仕掛けたんじゃないのね。だとすると、依頼主は……
エリーはその姿を見て、今回の盗賊襲撃の背後に居る存在を予測する。
「くそっ!騎士が来ちまった!逃げるぞ!!」
盗賊たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
エリーは騎士たちに向かって駆け出すように体を前に倒し、
「うわぁ!?」
逃げる1人の足を引っかけた。
盗賊は派手に転び、騎士に捕縛される。
「バリアル。エリー。大丈夫だったか?」
父親が心配そうな顔で聞いてくる。
エリーとバリアルは、黙って頷いた。
エリーたちは屋敷に戻っており、屋敷には家族が全員集まっている。
ーーこれは、心配して集まったわけではなさそうね。
エリーは家族たち(主に父親の側室)を見ながらそう判断する。
家族たちの顔には心配そうな表情は浮かんでおらず、どちらかと言えば困惑しているような顔だった。
「今回、エリーとバリアルが襲撃を受けたと言うことで、我らの家の者の護衛を見直すことにした」
父親がそう言うと、半数は驚き、半数は納得したような顔になる。
エリーは納得した方だ。
ーー護衛の強化は当然よね。今回はかなり一方的に護衛がやられたみたいだったし。
ただ、その一方でエリーは不安になった。
ーー夜も誰かが付いたりするのかしら?だとしたら、夜の外出がかなり厳しくなりそうねぇ。
クラウンとしての活動ができなくなる可能性があるのだ。
「あの。父さん。1つ良いですか」
父が護衛を増やすという話をして、解散しようとしたところで、バリアルが声を上げた。
全員の視線がバリアルに突き刺さる。
「僕、剣術を学びたいんです」
「剣を、だと?」
父親は考え込むような顔になる。
即刻拒否されなかったため、行けると判断した兄はたたみかける。
「そうです。今回、僕はただうずくまることしかできませんでした。運良く無傷でいられましたが、次回何かあったときに、生き残れるとは限りません」
「なるほど。悪くはないかも知れないが、領主に必要な力ではない。護衛を増やせば良いだけの話だが」
父親は渋る。
そこでエリーは、少し思いついたことがあり、
「では、私に剣を教えて頂けませんか?」
「「「は?」」」
エリーの発言に、家族が全員驚く。
この世界では、女性が弱いと言うことはないのだが、それでも女性よりも男性の方が兵士などの職に就きやすい、という特性がある。
「何がでは、なのだ。エリーの提案は何も解決策にはなっていないぞ」
「あら?そうですの?私のような女が戦えるとは誰も考えないはずですわ。ですから、護衛を外さなければならない場面でも私がいれば、次期公爵であるバリアルお兄様を逃がすことができますわ。それに今回、命を捨ててでもお兄様を守らなければならない私は、お兄様に守られることしかできませんでしたから」
「言っていることは間違ってはないが……はぁ。我が娘ながら、その優秀さは恐ろしいな」
 




