悪役令嬢、王族たちへテスト
「失礼致しますわ」
エリーは頭を下げ、部屋に入る。
エリーがやってきたのは、王族たちが住まう王城。
「あぁ。来たか」
「いらっしゃい!エリー!」
「こんにちは。元気?」
王族たちがエリーを笑顔で出迎える。
1名以外は。
「……ふんっ!」
エリーが目を合わせようとしたら、目をそらされた。
第2王子であるアロークスには、まだ嫌われているようだ。
まあ、好かれるようなことを何1つ行なっていないから、当然ではあるのだが。
その様子を横目で見つつエリーは近くに居たメイドに手招きをし、耳打ちしておく。
メイドは軽く頭を下げてから部屋を退出した。
そして、軽くエリーたちが話していると、
「エリー様からのお土産をお持ちしました」
先ほどのメイドがお土産を持ってやってきた。
そして、
「それでは、エリー様のご希望により、ここでお茶を入れさせて頂きます」
「ここでお茶を?」
メイドの言葉に王族たちは首をかしげる。
だが、メイドはその疑問に答えず、エリーから受け取ったパックを取り出す。
そして、その中の粉を掬った。
その粉をそれぞれのコップに入れていき、お湯を入れて混ぜる。
「こちらでございます」
メイドは少量のお茶が入ったコップを王族たちの前に置いていく。
不思議そうな顔をしながら、王族たちはコップに口をつけ、
「「「………」」」
無言で固まった。
エリーはそれを眺めながら、自分も茶をすする。
だが、静かになどはしていられない。
カツンッ!
第2王子であるアロークスが、コップを置き、
「何だコレは!」
怒りのこもった声で叫ぶ。
こんなものを飲まされることになるとは思っていなかったという表情だ。
それにエリーは涼しい顔で、
「お茶ですわ」
と、答える。
悪びれる素振りあhない。
これによりさらにアロークスの表情は険しくなるが、
「お口直しでございます」
何か言う前に先ほどのメイドが、用意して置いたお茶をそれぞれに渡した。
王族たちはすぐにそのお茶に口をつけ、口の中にある、不味さをかき消す。
「貴様は何のつもりで、こんなモノを渡したんだ!」
第2王子のアロークスは叫ぶ。
エリーはそれにニヤリと笑う。
「ふふふっ。何のつもりと問うなら、第二王子様はどんなつもりで私が、コレを持ってきたと思いますの?」
「知るか!嫌がらせ程度のつもりだろう!」
エリーはそれを聞き、軽く頷いた後、他の王族に視線を移す。
そして、同じ質問を行う。
「皆様も同じお考えですの?」
第2王女のリファータと、第3王子のエイダーは即座に首を縦に振った。
その後、第1王子のロメルが悔しそうに、
「エリーのことだから考えがあるのだと思うが、俺には分からん」
ーーかなりロメルには買いかぶられてるわね。
そう思いながら、最後に残った第1王女のタキアーナを見る。
アキアーナは少し目をつむって心を落ち着けるようなそぶりを見せた後、エリーと目を合わせて頷き、
「私、分かった」
第1王女のタキアーナがこう言い、エリーは少し驚く。
タキアーナという存在は頭も回るのか、と。
実は、ゲームでタキアーナは出てこないのだ。
そのため、エリーはタキアーナのことを分かっていない。
それもあり、前回の面会の印象である、無口、と言う印象しかなかった。
「エリーは、今のお茶は平民にとっての普通であるということが伝えたかった。違う?」
タキアーナの言葉に、エリーは微笑む。
半分は正解しているのだ。
「その通りですわ。そのお茶、私の領地で1番高いお茶なんですのよ。まあ、1種類しかお茶無いから、それが1番安いお茶でもあるんですけど」
「そ、そんな。こんなものを平民たちは飲んでいるのか!?」
正義感の強い第2王子は、平民たちの食物を知って驚く。
こんなに自分たちと格差があるとは、思っていなかったのだ
「因みに、私がコレを出した理由は、それだけではございませんの。私は、殿下方の商才を見させて頂いたんですわ」
「商才。なるほど」
第1王女のタキアーナは、納得したような顔でまた頷く。
その様子を見ながら、エリーは説明を始める。
「まず、皆様は粉をお湯で溶かしてお茶にする、というのを見たことがあるでしょうか?」
エリーの問いかけに、王族たちは首を横に振る。
そこで、数人はハッとしたような顔をした。
「つまり、それを貴族向けに改良すれば売れるかも知れないって事か?」
代表するように第1王子のロメルが、そう問いかける。
その問いかけで、他の理解していなかったメンバーも気づく。
全員ある程度わかったようだとエリーは薄く笑いつつ、軽く頷いた。
そして、パックの粉をよそい、自分のコップに入れる。
「まあ、正解ですわね。ただ、コレをそのまま改良するだけでは売れませんわ」
「どういうことだ?」
エリーはロメルからの質問を受け、パックを渡した。
ロメルは首をかしげながらも、パックを受け取る。
「私が注目して頂きたいのは、成分表示ですの」
パックの周りに、第2王子のアロークス以外の王族が集まる。
アロークスは、不満そうにエリーを睨んでいた。
「えぇっと、フィーリンティーと魚粉が成分か……って、魚粉!?」
魚粉という単語に、ロメルたちは驚く。
エリーは少し難しい顔をした。
「そうですの。魚粉が使われているから美味しくないんですわ」
エリーはそう言って、魚粉入りの粉茶をすする。
ーー私は、普通に飲めるんだけどなぁ。
「じゃあ、魚粉を抜けば良いじゃないか」
第1王子のロメルは反論する。
さらに、
「それに、このお茶は荒い。もっと美味しいお茶を使えば良い」
そう第1王女であるタキアーナは付け加える。
だが、エリーは首を横に振る。
「それだけではいけませんわ。粉状にすると、どうしても技術面の影響で味が落ちてしまいますの。さらに、粉にすると傷みやすくなりますの」
そこまで言うと、反論はなくなった。
王族たちは腕を組んで考え込んでいる。
しばらくしても、良い反論は返ってこない。
ーーそれじゃあ、答え合わせといこうかしら。
「それでは、私の考えたことを言いますわね」
渋々と言った感じで、アロークス以外は首を縦に振った。
アロークスは明後日の方を見てエリーと顔を合わせようとしなくなったので、エリーは無視して進める。
「まず、考えるべきなのは、なぜこんなモノが生まれたのかと言うことですの」
エリーがそう言うと、王族たちはそれぞれ考え出した。
最年少の、第3王子であるエイダーも、一生懸命考えていた。
ーー可愛いわね。
そんな第3王子に、若干母性が刺激されるエリーであった。
「まあ、簡単に理由を説明しますと、品質の問題でお茶の味があまり良くないと言うことと、量が少ないと言うことが原因ですの」
「っ!魚粉で味を変えて、さらに、かさ増しも?」
第1王女のタキアーナが考察を口にする。
ーーこの子、将来伸びるわね。
今回の話で、エリーはタキアーナの評価を数段上げている。
そこでエリーは将来のためにも、できるだけ死なせないであげようと、心に決めた。
「その通りですわ。お茶の味はなくなりますが、魚粉で味を変え、さらにかさ増しを行なっておりますの。ただ、私の領地が魚粉を使っているだけで、他の所も魚粉を使っているわけではないですわ」
「果実と合わせたら、かなり人気が出そうだが」
第1王子のロメルは、売れそうなアイディアを口にする。
だが、
「果物が採れる場所ですと、お茶も一緒にとれてしまいますの。わざわざかさ増しをする必要が無いんですわ。ただ、私もそうすれば間違いなく人気は出ると思いますの。果物とお茶を粉にして売り出せば、そこそこ売れるのではないかと思いますわ。ロメルもなかなか良い案を思いつきますわね」
エリーはロメルの考えを褒める。
その後も、メイドに止められるまで話は続いた。
そうして話を終わらせて、王城からの帰り道のこと。
エリーは、専属メイドのメアリーと一緒に馬車に揺られていた。
「ロメルも、タキアーナも、なかなか頭が回りますわね。仲が良いままこの国を支えていってくれれば、しばらくこの国は安泰になりますわ」
エリーの呟きに、メアリーは驚愕する。
ーー凄い!エリー様は、王族の方々に物事を教えて、この国の未来を安定させてゆこうとしていらっしゃるのね!
メアリーの中の評価は、うなぎ登り。
安定する職場をくれ、尚且つ自分の住む国を良くしてくれる人物に、感謝しないわけがないのだ。
ーー後天的なモノとはいえ加護を2つ持つエリー様はもしかして、神の使いなんじゃないかしら?
そんなことまでメアリーは考える。
かなり目が曇っていた。
それはもう曇りに曇って、エリーの一挙一動に意味があるのではと思えるほどに。
「……メアリー?大丈夫ですの?」
エリーがメアリーの顔をのぞき込む。
メアリーは突然のことに驚くが、すでにエリーの家に着いていることに気づき、急いで用意をする。
馬車の扉を開け、エリーの手を取る。
ーー私が、エリー様の邪魔をしてはいけないわ。エリー様に必要が無いことは、私がやらないと!




