悪役令嬢 毒まで予定通り
さて、昼はキシィによって教育を受けている間、夜の方は動きがあった。
まず、
「「「あっ!クラウン様!!」」」
メンバーが増えた。
今まで倒してきた盗賊たちのアジトを探してみると、意外と魔力狂いが残っていたのだ。
現在はメンバーが30名ほど。
だが、残念ながらセカンド、というコードネームの少年の、妹は見つかっていない。
変わったのは、人数だけではない。
セカンドやサードは盗賊退治に参加するようになった。
元魔力狂いは、普通の人間より魔力が多いらしく、とても強かった。
盗賊退治はとてもはかどってる。
本格的に闇の組織らしくなってきた。
他のメンバーも、セカンドたちが日中に戦闘を教えているらしく、めきめきと力をつけていた。
あと1週間あれば戦えるようになるそうだ。
ただ、数人は戦闘を嫌がるモノもいた。
そのため、そう言った者達はファーストという名の老婆の元で毒などを作ったりしている。
こういった裏方がいるのも、組織感があって、エリーは楽しかった。
また昼間のエリーの話に戻る。
「エリー。一緒に遊ぼう」
「はい!お兄ぃ様!」
エリーは教育によって話し方を矯正させられた。
お兄ちゃんやお母さんではなく、お兄様やお母様。
かなりしゃべり方に貴族感が出てきているように感じられた。
「エリー。今日は何をしたい?」
最近、兄、バリアルがよく遊んでくれるようになっていた。
理由は簡単。
バリアルにも、エリーが自分を守るためにキシィの教育を受けているというのがわかった。
そうでなければ、小さなエリーが鞭で打たれ、頬をはたかれることに耐えられるわけがないと、確信していた。
だからこそ、バリアルはエリーに優しくしようと心に誓ったのだ。
自分が公爵になったときには、仕送りをたくさんしてあげようとも考えていた。
たとえ、エリーがキシィに洗脳されても、役職は与えないが、優しくし続けようと思っている。
エリーに、表の世界での味方と言える存在ができた瞬間であった。
確実に、エリーはゲームとは違ったルートへ踏み入れるのであった。
時間は流れ、ついに鑑定式の日となった。
エリーはパーティー用におめかしをしている最中。
ーーうっ!ド、ドレスが苦しい。
エリーはきつい腰のコルセットなどに苦しんでいた。
胃が圧迫され、今にも吐きそうである。
顔が青白くなっていて、目はうつろ。
「エ、エリー!?」
そんなエリーを見た母親が慌てる。
エリーはぼんやりとして視界で母を捉え、
「お、お母様、ドレスが、きつい」
力なく呟いた。
母親はすぐにきつく縛り上げていたモノを外し、エリーを横にさせる。
「ちょっと!メイド!何をやっているの!」
母親は、エリーの着付けを担当していたメイドを叱った。
そのメイドはまだ新人で、幼子の着付けなどやったことがない。
分からないとそのメイド自身も言っていたのだが、先輩たちは無視してその仕事を新人に任せた。
これが、新人の受ける洗礼というやつである。
「なぜあんなにきつく縛ったの!?」
母親の説教が続いている。
ただ、エリーはそろそろ時間的にまずいと判断して、その説教を止めさせることにした。
「お、お母様。そろそろ時間ですわ。もう1度ドレスを着ないと」
「あ、ああ。そうね。……ハァ。まったく」
今度はメイドではなく母親が着付けをしてくれた。
苦しくない程度に着付けをされ、エリーは一安心。
だが、そんな安心もつかの間。
時間が迫っているため、急いで出発することになった。
エリーは、慌てているメイドたちに見られないよう、2つの髪飾りを髪の中に埋めた。
「エリー行くわよ!」
「はぁい!」
元気の良い返事をして、母親の後ろをついて行く。
外に出ると、大きな馬車が止まっており、エリーたちはそれに乗った。
そして、少し経つと、
「うわぁぁ!!」
エリーの目の前には、大きな建物が待っていた。
「それじゃあ、入りましょうか」
「はい!」
エリーは母親とともに、目の前の巨大な建物。
王城に入っていく。
「「「いらっしゃいませ」」」
ずらっと並ぶメイドに出迎えられる。
その奥には、父親の姿が。
「エリー。待っていたよ」
そう言って、父親はエリーを抱き上げる。
それによって、エリーは見えなかったところまで視線が届く。
「うわぁ。人がいっぱい」
驚きの声をエリーはこぼす。
父親はそれを聞くと、ニコリと笑い、どこかへ歩き出した。
父親は、人がより密集した場所に入っていく。
ーーん!あれは!
エリーの眼に、見覚えのある人物が捉えられた。
父親の歩く方向から考えて、その人物に向かっていっている事を感じ取る。
エリーは服装を少し整える。
「陛下。エリーを連れて参りました」
「うむ。エリーか久しいな。随分と成長したな」
国王はそう言って笑みを浮かべる。
すると、父親がエリーの肩を叩く。
「エリー。ご挨拶を」
その言葉を聞き、エリーは軽く深呼吸。
そして、覚悟を決めて、
「ごきげんよう。陛下。私、エリー・ガノル・ハアピでございましゅ」
甘噛み。
失敗ではあるモノの、十分許容範囲だ。
「ふはは。ここまでできるとは、随分と優秀なようだな」
王は笑う。
父も笑みを浮かべているので、成功したとエリーは確信した。
ということで、エリーは国王の心が寛容なうちに行動を始める。
「あら?美味しそうなクッキー。陛下。1枚つまんでもよろしいでしょうか?」
「ん?ははは。食欲には勝てんか。良いぞ。1枚などと言わず、5,6枚食べると良い」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
エリーは近くにあったクッキーを数種類つまみ、ヒョイッ!と口に入れた。
「あぁ~。おいひぃで……ガハッ!ゲハッ!ゲホゲホッ!ゲ、ゲボッ!」
エリーが咳き込むと、辺りが赤く染まる。
そのまま、エリーは喉を押さえながら倒れた。
「エリー!?」
「おい!誰か!医師を呼んでこい!!」
父親が慌て、国王が部下に医者を呼ぶよう指示した。
その間にもエリーは血を吐き続ける。
「どうなさいました!?」
数十秒もしないうちに医師が数名やってきた。
国王が事情を説明すると、2人がエリーにつき、他の者達がクッキーを調べだした。
「HP、残り121。ヒールを2回」
「了解!『ヒール』『ヒール』」
エリーを温かい物が包む。
回復魔法だ。
「HP,117.ダメだ。回復量よりダメージの方が大きい」
エリーに付いている医師が頭を抱えていると、
「毒だ!クッキーに毒が入っていたぞ!!」
「毒だと!?」
毒という言葉に、医師だけでなく、野次馬となっていた他の貴族たちもざわついた。
もし、エリーが食べなければ、自分たちが食べていた可能性があるからだ。
「解毒をしろ!」
先ほどまでは見かけなかった、小柄な初老の老人が声を張り上げる。
すると、医師たちがそれに従って動き出した。
初老の老人。
それは、この応急の医師で最高の位置に君臨するモノ。
宮廷医師長である。
「『ヒール』『ヒール』」
「うそだろ。魔力中毒薬が使われてる!?」
回復魔法を使って時間を稼ぎつつ、毒の成分を調べてそれの解毒薬を作る。
予定だったのだが、ここで問題が起きた。
魔力中毒薬を打ち消す効果のある薬が、今の状況で存在していないのだ。
宮廷医師長は国王に頭を下げる。
「王よ、申し訳ございません。通常の治療法では、エリー様を助けることはできません」
「通常の方法でなければ助けられるのだな?では、資源を惜しまずに使え!エリーを必ず救うのだ!」
「はっ!」
医師は了承する。
そしてそのため、
「それでは、人払いをお願い致します」
「分かった。兵士たちよ!我と医師とエリー以外を他の部屋に移せ!」
国王が指示を出し、部屋から人がほとんど居なくなる。
すると、宮廷医師長はまず、エリーに回復魔法を掛けさせるのをやめさせた。
治療放棄にも見えるが、この行為は治療に必要な行為であった。
エリーのHPがジリジリと削れていく。
「45,44,43,」
すでにHPは2桁前半。
だが、それでも回復しない。
「22,21,」
ついに十秒台に入った。
そして、さらに待ち、
「11,10、9,」
ついに1桁に。
そこから事態は動いた。
「4,3,2,」
1という言葉とともに、宮廷医師長の声が響いた。
「『天の守り』!」
 




