悪役令嬢 教育です
エリーは父親から宝物についての講習を受け、また部屋に戻った。
そして、寝たと思わせ、親が去ったところで外に出る。
目的地はもちろん、昨日会った元魔力狂いの少年の居る場所。
目的地まではすぐに着いた。
「起きてるかしら?」
エリーが隠し扉だった場所を通りながら呟く。
すると、独り言が聞こえたようで、答えが返ってきた。
「起きてるよ。来てくれたんだね」
そう言って少年が歩いてきた。
そして、近くまで来たところで、
「助けてくれてありがとう!」
土下座しそうな勢いで頭を下げた。
「え、えぇ。死ななくて良かったわ」
突然だったため少し戸惑ったが、すぐに返した。
ついでに頭を上げるようにも言うが、少年はなかなか頭を上げない。
「俺、毎日拷問みたいな事をされたりして、本当に大変だったんだ。本当に、本当にありがとう」
少年は目に涙を浮かべながらお礼を言う。
なぜかは分からないが、エリーは少し後ろめたい気持ちになった。
まあ、理由は強烈なハラパンを何度も決めたからなんだが。
「あなた、帰る場所はある?」
エリーは行く場所も含めて、少年の今後の予定を聞く。
だが、少年は静かに首を振るだけだった。
「家族は皆、殺された。帰る場所はもう、ない」
「そ、そう。悪いことを聞いたわね。……うぅ~ん。私は、あなたに居場所を作れないこともないわ」
「ほ、本当か!」
エリーの言葉に、少年は食いついた。
因みに居場所というのは、闇の組織である。
「ただ、そこはとても厳しい場所よ。1度入ってしまえば、後戻りはできないわ」
「構わない!盗賊だって、何だってやってやるよ!!」
その少年の言葉に、エリーはニッと笑った。
そして、強引に少年の手を掴み、
「えっ!?おわっ!!」
少年を抱きかかえた。
そして、そのまま走る。
「うわぁぁぁ!!!????」
とある町で、その日、とても素速い生き物が叫びながら走ったという。
さて、そんな素速い生き物は、5分もせずに目的地へ到着した。
「あぁ。ボス。来たのかい……ん?その子は?」
「この子、私たちの仲間になるって言うから、連れてきたの」
エリーは少年を不思議そうに見つめている老婆に、今までの経緯を説明した。
すると、老婆は1度大きく頷き、少年の耳元で何かをささやき始める。
ーーああ。私の厨二病的な遊びについて教えてくれているのね。
エリーはそう判断した。
実際間違いではない。
ただ、向こうは遊びだと思っていないだけだ。
「なるほど。俺、あなたの部下になります」
突然少年はそう言って、片膝をついた。
エリーは、厨二病の遊びに付き合ってくれる少年の優しさに心を打たれつつ、幸せにしてあげようと心に決める。
「分かったわ。それで、あなた、何かして欲しいことあるかしら?」
エリーはお返しに、何かをしてあげようと思った。
そして、その気遣いは予想以上に効果を示す。
「ほ、本当か、いや、本当ですか!?妹が、生きてるかも知れないんです。助けて下さい!」
少年はキラキラした眼でそう言った。
エリーはゆっくりと首を縦に振る。
「俺の妹も、俺と同じように実験に使われたんだ!きっと生きているはず!助けてくれ!」
敬語を使わなくて良いとエリーから言われた少年は、妹について話した。
エリーは話を聞きつつ、いる可能性のありそうな町を考えた。
「明日から捜索を開始するわ。あなたは、ここでシッカリと自分を鍛えなさい」
エリーは真面目な顔で少年に言う。
そして、少年を老婆に頼んで、エリーは帰宅した。
次の日の夜、早速エリーは少年の妹捜しを始めた。
エリーは考えつく場所の盗賊を殺しまわり、魔力狂いがいないか確かめる。
そして、3つ目の盗賊のアジトで、
「グゥゥゥゥ!!!!!」
魔力狂いを発見した。
1度経験しているので、比較的早く元に戻すことができた。
そして、回復した魔力狂いの姿を見て、エリーは落胆する。
理由は、その耳だ。
獣のような耳が付いている。
これは、獣人と言われる種族。
少年は人間だったので、この少女は妹ではないと考えられる。
まあ、それとは関係なく、エリーは少女と話をして、少女を仲間に引き入れた。
エリーが、獣人の少女を老婆の家へ連れて帰って。
「なあ。ボス。人数も少しずつ増えているし、今のうちに組織の名前を決めないかい?」
老婆がこんな提案をしてきた。
エリーは、少し考えて、自分の意見を言う。
「私は、組織名と、組織の構成員の名前を一緒にしたいと思っているの。そうすれば、誰がボスかわからないでしょう」
「ああ。なるほど。良いんじゃないかね」
エリーの意見に、老婆も、他の2人も理解を示した。
そして、エリーは考えていた組織の名前であり、構成員の名前であり、自分の名前でもある、思考の名前を口にする。
「『クラウン』とか、どうかしら?」
「クラウン。悪くはないねぇ」
こちらも全員理解を示す。
エリーはそれを見て、大きく頷き、
「ここに、全ての闇を飲み込む、『クラウン』の結成を宣言する。世界に永遠の闇を!」
「「「世界に永遠の闇を!!」」」
「さて、構成員の名前もクラウンにするって事だけど、流石にコードネームくらいは決めても良いんじゃないかい?」
老婆がそう提案してくる。
エリーも納得できたので、コードネームをつけることにした。
話し合った結果。
老婆のコードネームはファースト。
少年はセカンド。
獣人少女はサード、
そして、エリーはゼロ。
新人が入ってきたら、フォース。フィフス……
となっていく。
コードネームを決めたところで帰宅時刻となったため、エリーは1度帰ることにした。
すでに帰宅は慣れたモノで、20分ほどで帰ることができる。
帰宅したら、そのままベッドイン。
エリーは意識を手放した。
次の日、エリーが1人で散歩をしていると。
「分かっているのですか!あなたは次期公爵なのですよ!もっと自覚を持って下さい!!」
怒鳴り声が聞こえた。
次期公爵と言われているから、怒鳴られているのは兄のバリアルだと思われる。
「なぜこの程度のこともできないのですか!」
エリーが盗み聞きした限り、兄、バリアルは礼儀作法ができなくて怒られているようだ。
ただ、問題なのは説教が1時間近く続いていることだと思われる。
ーーそんなに怒る時間があるなら、その時間を練習時間につかえばいいんじゃないかしら。
と、エリーは思った。
流石に兄がかわいそうになってきたので、エリーは救いの手を出すことにした。
「お兄ちゃん。どうしたのぉ?」
エリーは何も分かってないよ。
という顔で、部屋に入った。
「あっ!?エ、エリー」
目に浮かべていた涙を拭って、兄は笑顔を作る。
それを見た、怒鳴っていた女性は、ため息をついてエリーを睨む。
「あら、エリーはなぜここに?」
エリーを呼び捨てにするこの女性を、エリーはゲーム知識から思い出した。
この女性はキシィ。
エリーの父の側室の1人であり、エリーの教育係となる人だ、
極度の平民嫌いでもある。
エリーはこの女性に教育を受けたせいで、平民である主人公にきつく当たってしまうのだ。
「邪魔をしてはいけませんよ。エリー。今は、バリアル様のお勉強の最中です」
エリーを見下ろしながら、キシィはそう言った。
屈んで視線を合わせようともしない。
ーー子供嫌いなのかしら?
エリーの中の評価はこの程度だった。
「お勉強?お兄ちゃん!何のお勉強をしてるのぉ?」
エリーはかわいらしく首をかしげながら質問した。
バリアルは、困ったような笑みを浮かべながら答えた。
「今は、貴族としてのマナーを勉強している最中だよ」
因みに、バリアルは心の中でエリーにとても感謝していた。
1時間にも及ぶ説教を中断してくれたのだ。
感謝するのも当たり前だろう。
バリアルは、あまりキシィのことが好きではない。
バリアルは、平民を大切にしなければならないと考えているのだが、キシィは平民を虐げるような発言ばかりするのだ。
貴族としては、キシィと同じ考え方をするモノの方が多い。
だが、エリーの家は平民に優しい考え方をする家だった。
だから、貴族全体を見れば、バリアルは間違っているのかも知れないが、この家の中だけで見ればキシィの方が間違っているのだ。
だが、キシィは自分の考え方が間違っているとは思わない。
この家の考え方が間違っており、だからこそ、自分がこの家の考え方を変えなければならないと思っている。
そのため、次期公爵であるバリアルを時間があれば洗脳しようとしているのだ。
「エリー。そんなにお勉強に興味があるなら、一緒にお勉強する?」
キシィは意地の悪い笑みを浮かべながら、エリーに問う。
どうせならエリーを自分の都合の良い人形にしてしまおうと考えているのだ。
もちろん、エリーはそんな考え方は読めているが、
「うん!やるぅ」
こう言うしかなかった。
そうするしか、兄を守る方法がなかったから仕方ないだろう。
「それでは。まずは言葉遣いから直しましょう」
キシィによる教育が始まった。
少しでも失敗すると、
パァンッ!
頬をぶたれる。
「うぅ!」
「エリー!?大丈夫!?」
エリーは頬をぶたれて倒れる。
もちろん、演技であるが。
「その程度5分ほどすれば跡は消えます。さあ、バリアル様はもう1度行って下さい。そして、エリー!早く立ちなさい!」
キシィは心配して寄ってきた兄を引き剥がし、エリーに冷たい声を掛ける。
次の日も、教育は続いた。
泣いても無理矢理立たされて、それもやらなければ、またビンタが飛んでくる。
虐待にもほどがある。
まあ、だからこそ、ゲーム内のエリーは、キシィに従順に従っていたわけだが。
ピシィィンッ!
鋭いムチがエリーを襲う。
エリーは普段、服では見えないが、全身に傷が付いていた。
まあ、光の加護の効果で治せるのだが、わざと治していなかった。
「何度も言ってるでしょう!そうじゃない!」
教え方にもかなり難が多かった。
間違いとは言うものの、どこがどう間違っているのか言わないのだ。
それを聞けば、また叩かれる。
そして、キシィの口からは、自分で考えろという言葉しか出てこない。
「こう?じゃあ、こう?」
エリーは叩かれながらも、1つ1つ確認していく。
別にエリーにとっては加護のおかげで痛くもないし、確認するのは苦ではなかった。
前世からエリーは、知識欲の強い子であった。
そのため、たとえ叩かれようとも新しいことを知れるなら問題はない。




