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怪談:みるたまり

作者: みはらなおき

 ある田舎町のお話です。小学三年生の修一君は、放課後校庭で遊んで、五時過ぎになって帰りました。

 通学路の県道は、車通りが増える時間で、近道にもなる田んぼと神社の間の道を帰りました。この道は舗装されておらず、轍が削れていて、そこここに朝の雨の水溜りができていました。

 修一君の前を、低学年の同じ小学校の制服を着た女の子が歩いています。女の子は、黄色い長靴を履いていて、水溜りに入ってはぴちゃぴちゃさせています。

 神社の西の鳥居のそばに、一際大きな深そうな水溜りができていて、女の子は慎重に、そして面白そうに、長靴を進めていきます。

 修一君は、眺めながら歩いて追い越しました。

 「あっ」と、女の子は声を上げました。ちょっと深みにはまったようです。

 修一君はその時に女の子の顔を見ましたが、あまり見たことのない子だと思いました。

 女の子は、長靴がぬかるみにはまったのか、立ち止まって、長靴をちょっと動かして、足を持ち上げようとしています。

 修一君は、手伝ってあげようか、でも知らない子だし、と迷いました。そして、そのまま通り過ぎようとした時、

「きゃあ」と、女の子は叫びました。

 ずぶずぶと女の子の足が沈んでいきます。ぬかるみが下から湧いてくるように、水溜りはかさをましていきます。

 女の子は、腰の辺りまでぬかるみに引きずり込まれて、泣き出しました。

「た!助けてぇ!」

その間にも女の子は、ぬかるみに呑み込まれていきます。赤いランドセルと胸の名札辺りまで沈んだところで、修一君は無我夢中で駆け寄りました。

「ほ、ほら!」と、修一君が右手を出すと、女の子はその手を両手でしっかりと握りました。

「うん!」

修一君は、踏ん張って女の子を引き上げようとしました。

 その時、女の子の顔が笑ったようになりました。女の子は、強く強く修一君の手を引っ張り、ぬかるみに修一君を引きずり込もうとし始めました。

「あっ!や、やめて!」

修一君は、体を踏ん張ってこらえました。

 ぬかるみが女の子の体を這い上がってきます。すぐに女の子の顔と肘から先以外は、泥の塊のようになり、何倍も重くなりました。

「うっ、うわああ!」

 修一君は、必死に両手を振りほどくと、後退りしました。もう女の子の手は届きません。

「畜生畜生、こっちこぉい」と、女の子はうわ言のように言いながら、水溜りに消えました。

 しんとした夕方の土の道に冷たい風が吹いて、ぱあっと夕日が当たりました。

修一君は恐る恐る水溜りに近づき、覗き込みました。

 そこには、女の子と、ヘドロのような色のざんばら髪の目だけギョロギョロした老婆が、修一君を見上げています。二人とも憎むような顔で修一君に何か言っていますが、聞こえません。

 修一君は、走っておうちに帰りました。


 おうちではお祖父さんが農機具を洗っていました。修一君が、たった今の話をすると、お祖父さんは、丁寧に修一君の顔や、全身にはねた泥を拭ってくれました。


次の日、修一君はいつもより早い時間にお祖父さんとおうちを出ると、神社の西の鳥居から境内に入りました。

 お参りをして、正面の鳥居から出ると、そのまま、校門までお祖父さんが送ってくれました。帰りも、神社に寄るから、校門で待っているよう修一君に言いつけるとお祖父さんは帰っていきました。

 放課後、お祖父さんと一緒にお祓いを受けた修一君が、お祖父さんと一緒に正面の鳥居から出て、西の鳥居の前を通ると、あの大きな深い水溜りは、土ですっかり埋められていました。


「ありゃぁ、みるたまり言うて、人間がお参りの度に鳥居で落とす穢れを食うとるようなもんじゃ。人もあんまり通らんようなって、お参りに来るもんも減った。穢れも落ちん。たまりかねて引っ張りに来たんやろ。朝のうちに、水をさらって清めた土で埋めといた。もう出んじゃろ」



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