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リピート再生  作者: 朝霧
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二千十二年四月四日(XXXXX回目)

 二千十二年四月四日(XXXXX回目)

 カチリ、と秒針が戻る音がした。

 これで死ぬのは何度目だったか、と思いながら目を開く。

 朝日がカーテンから漏れている、枕元のスマホを手に取って画面を確認すると、表示されていた日付と時刻は二千十二年の四月四日の午前四時。

 また私は、この時間に戻ってきた。

 また私は、元の未来(世界)に帰れなかった。

 帰れないのならもう永眠してしまいたいのだけど、


 午前六時、姉のヒステリックな声がいつも通りに響く。

 一言一句変わらぬ言葉の羅列に目を覚ましてしまうのもいつも通り。

 叫んだ姉が父親にぶん殴られて吹っ飛ばされて前歯を欠けさせるのも、いつもと同じ。

 最初の何回かはこの一連の流れを変えようと頑張っていたこともあるけど、今はもうそんな無駄なことをする気力はない。

 だって、どうせ死ねば全部リセットされる、ならばもうなにをしても無駄。

 ならやるだけ全部無駄。

 だから何もしない、この日はもう何万回も繰り返してしまっているので、どうすれば一番無難なのかは知っている。

 姉と父の怒鳴り合いが終わったのが六時三十七分、その一時間後に何も言わずに家を出るのが一番何もないのだ。

 きっちり一時間後でないと父に殴られたり姉に包丁で滅多刺しにされたり、母がガソリンをぶちまけて家に火を放ったりするので、注意しなければならない。

 家から学校に行く道も一歩間違えるとバラバラ殺人事件に巻き込まれたり強姦魔に遭遇したり集団露出魔に追い回されるなどといったひっでぇ事件が起こるので、注意する。

 なんで私は最初の一回目を姉にビンタされただけで無事に終わらせることができたのだろうかと不思議に思うくらい、この二千十二年四月四日という日にはあらゆるところに死亡フラグが乱立しまくっている。

 他の日はここまでとち狂っていないのに、何故四月四日だけこんなにおかしなことになっているのか。

 というか、あまりにもおかしい日だからこそいわゆるセーブポイントになっているのかもしれないけど。


 とはいえ五桁程度は繰り返している日なので、どこにどんな危険があるかは理解し尽くしているはず。

 なので今回もまた無事、学校にたどり着いた。

 しかしここでも油断してはならない、油断すると無差別階段突き落とし事件に巻き込まれたり、調理室が大爆発したり、サッカーボールのせいで割れた窓の破片が目に降り注いできたりする。

 でも伊達に何万回も繰り返しているわけじゃないので、私はいつものように平穏無事に済む行動パターンをとる。

 そして、急いでいるフリをしてあの人モドキに正面衝突して平謝りしておくことも忘れない。

 正面衝突する前にいつも思う、また今回も同じ終わり方を繰り返すのか、と。

 だけど何万回繰り返したところで私にできるのは結局これだけだった。

 だってもう心はとっくに壊れてる。

 変えようとしても変えられず、だからといって元の人生をそっくりそのまま辿るのはあまりにも苦痛だった。

 だから、「一日を終える」たびにあの人のところ(未来)に帰れるかもしれないという奇跡を願うしかないのだ。


 今回もまた、定形通りの行動をとった。

 何万回も繰り返しているので何も考えていなくても全く同じ行動を取れるようになってきた、そんな自分が少し虚しい。

 そして、私は今「一日を終える」ために学校の屋上に向かっている。

 後ろを振り返ることなく階段を登り切って、屋上にたどり着く。

 そこには誰もいない、オレンジ色の雲の形は繰り返し見続けたそれと全く同じ形をしている。

 フェンスをよじ登って、よっこいせと腰掛ける。

 あとは飛び降りるだけ、ここで一度いつも通りに強風が吹き付けて、声が聞こえて来る。

「ねえ、死ぬの?」

 振り返るとあの人モドキが真っ黒な目で私を見ている。

 今日もまた、これを見るためだけにこの一日を再生し切った。

 今はまだ面影もないと思っていたけれど、この瞬間だけこの少年はあの人とそっくりな顔をするのだ。

 だから笑った、それであの人モドキが訝しげに近寄ってくるのも、いつも通り。

「死にますよ。ええ」

「なんで?」

「生きていたって仕方ないので」

 それに死んだところでまた繰り返すだけだ、終わってくれても一向に構わないのだけど。

 というわけで今日こそさっさと「一日を終える」ことにしよう、ログインボーナスはついさっき受け取ったので、ここから先はスキップしてしまって問題ない。

「死ぬくらいなら、オレと付き合ってよ」

 だけど、いつも通り聞こえてきたそんなセリフに私はいつも通り動きを止めてしまう。

 動け動け飛び降りろと思っても、前を向けない。

 あの人モドキは真剣な顔でこちらを見上げている。

 何も言わずに飛び降りればそれでおしまいなのに、私の口は勝手にいつもと全く同じセリフを吐き出した。

「じゃあ、世界一不幸になって」

「家族も全員失って、友達も全員殺して、大事なもの全部なくして」

「人を簡単に殺せて、本心から笑えなくて、それでも笑おうと下手くそな笑顔で笑って」

「そうしたら、私のことぐちゃぐちゃにしていいよ」

「……なんてね、ぜんぶ冗談だから」

「じゃあ、ばいばい」

 言い切ると同時に飛び降りた。

 風を切る音と衝撃が、そして時計の秒針が戻る音が聞こえてくる。

 そうして私はまた、二千十二年四月四日の午前四時を迎えるのだ。

 奇跡は起こらない、だからきっとこれは永遠に終わらない。

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