1、神楽坂茉莉花は脱却したい (2)
「なっはっはっは! まーちゃんかわいそー」
「笑い事じゃない! 私は! 本気で! 今の状況を変えたいの!」
「うーん……じゃ、整形すれば?」
「流石小夏。私も同じ案よ。そして費用がないから却下」
「ありゃりゃー。前途多難だね」
「多難過ぎて過労死するわ」
運動部らしいポニーテールにおっとりとした顔立ち。丸い眼鏡をかけた正面に座る女の子は、ドリンクバーのジュースをミックスしまくったコップを片手に大爆笑。色々と要素が詰め込まれ過ぎな気がする。
彼女は唯一私の野望を知る、幼馴染の松屋小夏。つまり唯一私が素で話せる相手だ。
「つーかそれ、美味しいの?」
「おいしーよ? こなっちゃんが実験に実験を重ねて生み出した『トロピカルサンダーきゅるりんジュー
スデラックス』! ……飲む?」
「絶対にいらん。名前なげぇし、カロリー高そうだし、小夏が平気で飲んでる時点で危険」
「味覚は一般的だよー?」
「……それ以外は世間とずれてるって認めるのね」
「まーちゃんには言われたくないけどね」
「いやいや。誰にだって大きな野望はあるでしょう? ほら、夢はでっかく持て! って、小学校の時の
担任が言ってたじゃん」
「高校生に対しては言ってないけどね」
ズゴーっとジュースを飲みほした小夏は、指で髪を弄りながらメニューを開いた。
「ねぇねぇ、ティラミスも頼んでいーい?」
「人に物を頼む態度じゃねぇ」
「……土下座でいいっすか?」
「やめろ、やめろ! ここ店内! 奢ってあげるから席に着け、この馬鹿者!」
「わーい。ごちぃ」
満面の笑みでボタンを押す小夏。くそぉ、やられた。
学校であのような仕打ちを受けている私のストレスは大いに溜まっていった。それを発散するために、毎
日のように小夏を連行してファミレスで愚痴を聞いて貰う日々。当然、私の奢りだ。小夏の時間は有限なので。そして私の財布も有限だ。
「いらっしゃいませ。ご注文ですか?」
「この特大ティラミスをお願いしまーす」
「は? 特大⁉ それは奢れないからね! このハーフサイズにしなさい!」
「ええー? そんなの食べた気にならない」
「夕飯食べられなくなるでしょ⁉」
「ちっちっち。こなっちゃんの胃袋は無制限大解放……だぜ?」
「ドヤ顔すんな! すみません、店員さん。特大ティラミスキャンセルで、このハーフサイズ――え」
メニューから顔を上げ、店員の顔を見て唖然とする。
「……なんで、いんだよ」