キモオタモブ傭兵は、身の程を弁(わきま)える
現在連載中のSFとは世界線が違っていますが、
似ているのはご勘弁ください
僕の名前はジョン・ウーゾス。
傭兵をやってる。
傭兵って言うとカッコいいイメージがあるけど、そんなのは一握りの連中だけ。
創作の題材になるようなのは、
美男美女で。
乗ってる船は、試験的に製作されたものの、誰1人乗りこなせなかった超最新鋭のやつか、遺跡から発掘された意思のある超兵器とかで。
そんな船を華麗にのりこなし、たった1隻で敵の連合艦隊を壊滅させたとか。
たった1人で惑星型要塞に潜入して全滅させたとか。
どんな国家にも属さない巨大な傭兵組織をつくったとか。
本当かどうか怪しい話ばかり飛び交う連中のことだ。
僕のような、小太り眼鏡のオタクで、船も改造しているとはいえ中古品なんていう、やられ役の雑魚モブ傭兵とは住む次元がちがう。
そんな僕は今、銀河大帝国国内のフイガ宙域で、バッカホア伯爵の陣営に列席し、敵であるジーマス男爵の陣営との戦闘を開始しようとしていた。
現在、銀河大帝国は内ゲバの真っ最中だ。
貴族同士で、どっちの格式が上か?とか。
古くさい骨董品を寄越すの寄越さないのとか。
そういう下らない理由で戦争をしている。
アホ臭くてしょうがない。
そしてそれに漏れず、このバッカホア伯爵は、ジーマス男爵の1人娘、(ちなみに親子くらい年齢がはなれている)を気に入り、自分の情婦にしたいから寄越せっていったらしい。
いますぐ回頭して、旗艦のブリッジブチ抜いたらあのおっさん死ぬかなあ?
ま、その辺りを確認せずに仕事をえらんだのは僕のミスだ。
ちなみに今、バッカホア伯爵は全艦に向けて演説を打ち、ジーマス男爵が自分を侮辱した報復だと言っているが、全員真実しってるお!
さて、そろそろ演説も終るだろうから、戦闘準備をしておこう。
戦闘が始まったら、戦闘領域の隅っこで、ほどほどに攻撃して、全力で逃げ回る。
これが生き残る戦略だ。
「よーし!4機目撃墜!」
開戦してから既に1時間。
僕は戦闘領域の端っこでなんとか生き延びていた。
「この辺はもう制圧したかな?」
フラグ間違いなしのセリフだが、どうやら心配はなかった。
するとそこに、一斉通信がはいった。
『左翼支援部隊に通達!中央の支援に向かってくれ!押され気味なんだ!』
画面にあらわれたのは、僕達傭兵の取り纏めを任されたガルベン中尉だ。
イイ人だが、どうせなら可愛い女性兵士に出てきて貰いたい。
もしくは本人が美人女性士官なら無問題。
しかし現実はくたびれかけたおっさんだ。
「ええー?!中央部隊にいた連中はどうしたんだ?確か『はっ!あんな雑魚の群れなんざ俺様1人で十分だぜ!邪魔すんじゃねえぞモブ共!』とかイキってたのがいたよな?」
『支援部隊はまだもってるが、正規部隊がガタガタなんだ。あと、そいつは1隻も撃墜してない』
僕の独り言にガルベン中尉は律儀に答えてくれた。
それにしても、戦闘で1隻も撃墜してないのはさして珍しくないが、あれだけイキっててそれではなかなかダサい。
ともかく中央に向かうことにした。
中央はなかなか大変なことになっていた。
支援部隊はそこそこ拮抗しているけど、正規部隊はガタガタ。
つか、支援部隊が居なかったらヤバイんじゃないか?
そして例のイキリ君は数十隻もの敵機を引き付け、戦場を飛び回っていた。
「あーありゃすごいわ!たしかに反撃をしてる暇はないわな」
イキリ君が大量の敵機を引き付けているため、味方機の安全マージンがたっぷりとれている。
しかし、あれだけの数に追いかけられて、落とされていないのは、船の性能もあるのだろう。
流石は主人公のイキリ君。やることが派手だ。
とにかくあのへばりついたのを仕留めるお!
僕以外にも、支援部隊の連中が、イキリ君にへばりついてるのを打ち落としていく。
でもそれで油断したのが良くなかった。
後ろに食いつかれてしまった。
攻撃はなんとかかわせているけど、このままだとヤバイ。
機体に負担がかかるけどやるしかないお!
先ずはスロットル全開で飛ばしながら相手を自分の真後ろに誘導する。
相手が真後ろにきたら、機首をあげる・機体下部にある姿勢制御用のスラスターを一瞬だけ全力噴射・メインブースター停止を、タイミングを合わせて同時に行う。
すると、機体は回転しながら相手の機体を飛び越す形になり、そのタイミングでビームを放てば、相手は確実に蜂の巣だ。
つまりは宙返りして敵の背後をとる基本的な戦法だが、機首がいきなり上がる様子が、攻撃されて胴体が折れたように見えるので、『撃墜騙し』と呼んでいる。
そして相手は見事にハマってくれた。
そんなことをしているうちに、右翼の支援部隊も到着した。
すると、中央はバッカホア伯爵軍が俄然有利になった。
ジーマス男爵軍は、両翼の戦力がなくなったということであり、士気も下がるだろう。
そうして、イキリ君にへばりついた残りが十隻を下回り、戦場全体がバッカホア伯爵軍優勢になった時に、信じられない事が起こった。
バッカホア伯爵軍の旗艦が、主砲を撃ちながら前に出てきたのだ。
『ふはははははははははははは!圧倒的だな我が軍は!愚かな男爵風情が、さっさと娘を差し出せばよかったのだ!』
あ、それ死亡フラグ。
そう思った瞬間に、イキリ君の船に貼り付いていた船の1隻が、一直線に旗艦のブリッジに特攻した。
あまりの素早さに、味方は誰一人として反応出来なかった。
もちろん敵側も。
まさかあんなことをするとは思っていなかったのだろう。
船こそ沈まなかったものの、ブリッジは完全に破壊され、調子こいて宇宙服を着ていなかった伯爵とその取り巻きは確実にあの世いきだ。
すると、
『あー、ガルベン中尉だ。バッカホア伯爵とスカンタン中佐が死亡し、戦闘が継続不可能になった。全将兵に告ぐ。即座に戦闘を中止してくれ!こんな馬鹿げた殺しあいは無駄の一言だ!』
と、別の船から指示を飛ばしたそのガルベン中尉の言葉に、全員が戦闘を中止した。
戦闘終了後、バッカホア伯爵に雇われていた傭兵は、バッカホア家側の基地にて、補給を受けることができた。
しかし、中古で改造品の僕の船であの技を連発は出来ないので、きちんとドックにいれるか、自分でオーバーホールする必要がある。
報酬は既に支払われていて、いつ出ていっても問題ないが、僕はあとのほうに出るようにしている。
こぞって出ようとして、争いになったり、事故ったりしたらたまらない。
ヘタレだと思われるかも知れないが、敵視されたり事故を起こしたりするよりはマシだ。
そうやって船が出ていくのを眺めていると、不意に通信が入った。
「はいはいどなた?」
『初めまして。私は小型戦闘艇WVSー09・ロスヴァイゼともうします。そちらはジョン・ウーゾス氏の船『パッチワーク号』そしてあなたが船長で傭兵のジョン・ウーゾス氏で間違いありませんか?』
画面に現れたのは、金髪碧眼の、とにかく物凄い美女。
キャッチセールス・受付・美人局以外では絶対に話しかけて来ない人種だ。
そんな相手、しかも知り合いでもない人から通信がくるというのは、悪い予感しかない。
「はい…たしかに間違いありませんがなんのご用ですか?」
違いますと言ってもよかったが、コール番号を知っている時点で無駄だろう。
『はい。単刀直入に申し上げます。私に乗り換えませんか?』
「はい?」
なにいってんだこの人?
乗り換える?
恋人なんか産まれてから一度もいないのに、乗り換えるもクソもない。
その僕の表情を察したのか、ロスヴァイゼさんとやらは会話を続けた。
『私は小型戦闘艇WVSー09・ロスヴァイゼ。あなた方がいうところの、古代文明の遺跡から発掘された意思のある超兵器なのです』
「え?」
画面の前の美人はなにをいってるお?
意思のある超兵器だって?
だとしたらとんでもない代物だ!
売り出されたりしたらとんでもない値がつくだろう。
しかし、そんな話をされたとしても、簡単には信用できない。
それになにより、
「待った待った!それが真実だとしても、君には既にパートナーがいるだろう?」
よく考えれば、『ロスヴァイゼ』というのは、あのイキリ君の船の名前だ。
既に持ち主がいるのに、船が持ち主を裏切るというのは、どういうことなのだろう?
『今の私の乗組員であるアルベルト・リアグラズは、はっきりいって口だけのヘタレです!』
意思のある超兵器・ロスヴァイゼさんは、怒りの表情を見せていた。
『『俺は最強の傭兵だ!』とか、『船を操縦させて俺より速い奴はいねえ!』とか散々いってくれたくせに、実際は傭兵になったのは1週間前で、今日が初陣だったんですよ!?さらには!船の操縦も訓練用のシミュレーションでしかやったことが無かったんですよ?!』
「それでも、あれだけ大量の敵機を引き付けて、撃墜されずに逃げ回ってたのは凄いとおもうけど?」
あのイキリくん新入りだったか~。
まあ、主人公サイドの人間だから、秘められた能力が発動して、あれだけの成果をあげていたのだから、十分だと思うのだが。
しかしロスヴァイゼさんは不機嫌そうに、
『本人は開戦時にバリアにビームが当たったことに驚いて気絶・失禁していました』
そう、言い捨てた。
多分そうとう嫌だったんだろうな…。
「まあ…新兵にはよくあることだよね」
『貴方はどうだったんですか?ミスター・ウーゾス』
「まあ、気絶と失禁はしなかったかな。戦果はともかく」
『つまり。傭兵として、戦士として、貴方の方が素質があるということです!』
「いや、それはわかんないじゃん。これから化けるかも知れないし」
ロスヴァイゼさんは興奮気味に畳み掛けてくるけど、初陣は仕方ないっしょ。
『ともかく!私はそちらの船よりも、全ての性能が数百倍はあります!私に乗り換えれば栄耀栄華は思うがままです!』
「たしかにそれぐらい凄い船なら欲しいよな」
『そうでしょうそうでしょう♪』
事実、古代文明の遺跡から発掘された意思のある超兵器ともなれば、その性能は凄まじく、現行の戦闘艇はもちろん、艦隊とだって戦えるだろう。
そんな船を乗りこなしているなら、傭兵として華々しい活躍が出来るだろう。
なので僕は、
「だが断る!」
当然断った。
冗談じゃない!
僕みたいなのがそんな凄い船に乗っていたら、即座に因縁をつけられる!
「お前みたいな奴には宝の持ち腐れだ。俺達が有効に使ってやる」とか、
「彼女を脅していうことをきかせているんだろう!?今すぐ解放しろ!」とか、
場合によったら船を降りてる時にズドンだお!
だから断る。
分不相応・役者不足・身の程を弁える。
ともかく自分には勿体無い。
そういう船はイケメンか美女で、主人公属性の奴が乗るのが正しいお!
「というわけで、貴女に乗る気はありませんから、今のパートナーと頑張ってください」
『なぜですか?!私は今の時点で銀河最高最強の船なんですよ?無敵ですよ?たっぷり稼げるんですよ?』
ロスヴァイゼさんは必死に自分の長所をアピールするが、僕にとっては短所でしかない。
船がそれだけ強いなら、それだけ過酷な戦場に向かわされる可能性も高くなるし、敵から狙われる事にもなる。
何度も言うが、そういうのはイケメンか美女で、主人公属性の奴が背負わされるものなんだお!
僕みたいなキモオタモブ傭兵が背負って良いものじゃない。
「ともかく僕には貴女は必要無いので、イキリ君と仲良く頑張ってください」
『ちょっとまって!よく検討を…』
そういって通信を切ってやった。
僕みたいなのがあんな船に乗っていたら、どんな目に合わされるか、想像するだけで恐ろしい。
いつ死ぬかわからない傭兵生活。
自分を過大評価したり、調子にのったり、悪目立ちすることは命を縮めることになる。
だからこそ、身の丈にあった装備と環境が重要だ。
僕みたいなモブが、戦場で長く生き残るには、目立たず、臆病に振る舞い、名誉を求めないこと。
派手に目立ち、勇敢に振る舞い、名誉と栄耀栄華をほしいままにして生き残れるのはイケメンか美女の主人公属性をもつ奴らだけ。
モブがそんなことを求めてはいけない。
身の程を弁えるのが、戦場で生き残る確率をあげるのだ。
そう改めて納得しながら、残り数台になったバッカホア家側の基地を後にした。
さあ、早いとこオーバーホールを終わらせて、アニメショップに直行するお!
評判がいいようなら、連載作品にちらだしぐらいはしようかと考えています。
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