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サタナエル編2-3

晴れ渡る空のもと、サマエルは大聖堂の上に降り立った。

「フッフフフフ、さて、第二幕の始まりだ。さあ、魔界の魔物よ、いでよ!」

サマエルは魔界から魔物を召喚した。サマエルは大聖堂の上からテンペルがある聖堂を見おろしていた。

魔物、異形の犬シャドウハウンドは、テンペルの聖堂前に突如、大量に出現した。

警備をしていた騎士がスルト団長に、魔物の出現を伝え報告した。

聖堂の外から、修道女たちは建物の中に入るようスルトは命令した。騎士たちは総出撃し、魔物との戦いに臨んだ。セリオンやアンシャルも戦いに臨んだ。二人は聖堂正面の敵を迎え撃つことにした。

「アンシャル、俺はこの魔物を知っている」

「どういうことだ?」

「サマエルが召喚した犬だ。俺はこの犬と戦った」

「ならば、この魔犬たちを召喚したのは、悪魔サマエルか」

シャドウハウンドは聖堂に襲いかかってきた。セリオンとアンシャル、騎士たちはシャドウハウンドと激突、交戦した。セリオンは前線に立ち、魔犬を次々と斬り捨てた。

アンシャルも長剣でシャドウハウンドをほふっていった。騎士たちも二人に続いて、シャドウハウンドと交戦した。

しかし、どれだけ倒しても、シャドウハウンドは尽きることを知らなかった。アンシャルは跳びかかってきたシャドウハウンドを斬り捨てた。シャドウハウンドは闇の粒子と化して消えた。

「こいつらは尽きることを知らないのか」

アンシャルは冷静に分析した。シャドウハウンドは聖堂の敷地の中にまで侵入してきた。聖堂の庭に一匹のシャドウハウンドが入った。

そこにエスカローネが立ちふさがった。

「私だって戦えるわ!」

エスカローネはハルバードを手にして構えた。シャドウハウンドはエスカローネを見るなやいなや、走り出し、跳びかかった。エスカローネはハルバードで一突きしてシャドウハウンドを仕留めた。

スルトは騎士たちを聖堂の周囲に分散して配置した。敵がどこから侵入してくるか分からなかったからである。続けて二匹のシャドウハウンドが庭に侵入してきた。

「また、来たわね!」

エスカローネは駆けてきた一匹を横に斬りつけ、後から続いたもう一匹をハルバードの槍で貫いた。

セリオンとアンシャルに正面の防衛が託された。セリオンは何体ものシャドウハウンドを倒した。

セリオンとアンシャルによって正面から来るシャドウハウンドは一掃された。しかし、どれだけ倒しても、シャドウハウンドはとどまることを知らなかった。シャドウハウンドは尽きることなく倒しても、倒しても次々と現れた。

「くっ……まだ現れるのか……」

セリオンの顔に焦りが浮かんだ。アンシャルに一匹のシャドウハウンドが襲いかかった。

アンシャルはすれちがいざまに、長剣でシャドウハウンドを斬りはらった。それは優美な動きだった。

「まずいな……このままではこちらが力尽きる……」

アンシャルがつぶやいた。セリオンは迫りくるシャドウハウンドを次々と仕留めた。それでも、シャドウハウンドは止まらない。

聖堂の庭でも、エスカローネが魔犬シャドウハウンドと戦っていた。

「しつこい!」

エスカローネはシャドウハウンドを横から突き刺した。シャドウハウンドは闇と化して霧散した。

「戦える女性がいるとは意外ね。戦うのはみんな男ばかりだと思っていたわ」

「あなたは……?」

エスカローネは宙に浮いた女性を見上げた。

「私はアナト。悪魔アナトよ。あなた名前は?」

「私はエスカローネよ」

「ウッフフフ、この私があなたを血で染めてあげる!」

アナトは魔力の爪を、両手から出した。

エスカローネはハルバードを構えた。

アナトが赤い爪でエスカローネに斬りかかってきた。エスカローネはハルバードで器用にアナトの爪を受け流した。アナトはまるで舞を踊るように長い爪で美しく連続攻撃をしてくる。

エスカローネは守勢に回った。アナトの攻撃を防いでいく。エスカローネは反撃に転じた。

エスカローネはハルバードで連続の突きを繰り出した。アナトは後ろに下がりつつ、突きをかわした。

エスカローネはアナトを斬りはらった。アナトは姿勢を低くして斬り払いをかわした。

すかさずアナトが爪で斬りかかってきた。エスカローネはハルバードの先でそれを受け止めた。

「やるわね。でもこれならどうかしら?」

アナトは手から魔力のエネルギーを放った。エスカローネはとっさに横にそれてかわした。

アナトは魔力のビームを連続で次々と撃ち出した。エスカローネはビームをかわすか、ハルバードの刃で受け止めた。アナトは魔力を波のように放った。

エスカローネはハルバードの刃を光輝かせ、魔力の波を斬りはらった。

そこにアナトが瞬時に間合いをつめ、長い爪でエスカローネを斬りつけた。

「ああ!?」

エスカローネはうまく受け止めきれず、後ろに地すべりした。

アナトは上空に浮遊し、魔力のエネルギーを放った。

エスカローネは光の刃で斬り裂き、迎撃した。

「おもしろくないわね」

アナトが攻撃をやめた。

「え?」

アナトは攻撃の構えを解いた。高いところに浮かびつつ、エスカローネを見おろす。

「あなたには愛が見える。あなたは愛で満たされていっぱい。あなたは愛しい人から愛されているから。あなたはその人を愛しているけれど、その人から愛されることで幸せにあふれている。あなたの存在から、愛、幸せ、喜び、そしてうれしさを感じるわ。すべてはその人から愛されているから。あなたはもっとその人から愛されたくてたまらない」

エスカローネは戦いの構えを保った。武器を構えつつ、アナトを見守る。

「ウフフフ、分かるのよ、私には。あなたの存在が愛それ自体なんですもの。あなたは心からその人を愛しているけれど、むしろ愛されるほうに傾いてしまうのね。たしかシベリウスの教えでは愛は与えるものだったはずだけれど? フフフ、妬けるわね。あなたは女としての幸せを手にしているんだもの」

「何が、言いたいの?」

「あなたはその人から愛されることを望んでいるということよ」

エスカローネは反論できなかった。確かにエスカローネにはセリオンから愛されたいという願望があった。

「あなたと戦えて楽しかったわ。でも、私にはやるべきことがあったの」

「やるべきこと?」

「フフフ、そうよ。もう終わっているわ」

そういうとアナトは空に手を上げた。アナトのそばに、縄で縛られ気絶したシエルとノエルが現れた。

「シエルちゃん! ノエルちゃん!」

エスカローネは叫んだ。

「私の狙いは最初からこの二人よ。それにもうそろそろ引き揚げ時なのよ」

「引き揚げ時? いったいどういうこと!」

エスカローネはアナトに迫った。シャドウハウンドたちの姿が次々と消えていった。魔犬たちはもとの闇の霧に戻った。

「いったい二人をどうする気!?」

「ウッフフフフ、別に危害を加えるつもりはないわよ。私はツヴェーデン郊外の森にある神殿にいるわ。二人を返してほしければ、そこに来るのね。歓迎してあげるわ」

「あっ、待ちなさい!」

アナトはそう言い残すと姿を消した。シエルとノエルも消えた。



セリオンは前線でシャドウハウンドと激しく戦っていた。大剣を振るって、シャドウハウンドを斬り捨てていく。

「うおおおお!」

セリオンはシャドウハウンドを次々と屠っていった。それは目覚ましい活躍だった。

ふと、シャドウハウンドたちに変化が生じた。シャドウハウンドの姿が次々と闇の霧と化して消えていった。

「なんだ?」

シャドウハウンドたちはいなくなった。

「フッフフフ! 第二幕、楽しかったよ、セリオン!」

「サマエル!」

サマエルが姿を現した。

「やはりおまえの仕業しわざだったのか!」

「そうだよ。君たち聖堂騎士たちの強さを見せてもらったよ。さすがだね。シャドウハウンドでは君たちに太刀打ちできなかったようだしね」

サマエルは聖堂前の通りに一人立っていた。サマエルは手を頭に当てて髪をすくった。

「フフフフ、ぼくの目的は最初からあの二人さ」

「あの二人?」

「そうだよ。君を兄のように慕う二人の娘だよ!」

「シエルとノエルか!?」

「フッフフフフ!」

サマエルは宙に浮いた。

「詳しいことはほかの人に聞くといい。それでは、今日はこれで去らせてもらうよ」

「待て!」

セリオンはとっさに大剣でサマエルを斬りつけた。しかし、その刃は宙を斬った。

「シエルとノエルがさらわれたのか?」

アンシャルがセリオンに尋ねた。

「サマエルの話ではそうらしい」

セリオンはサマエルが消えたところをにがにがしく眺めた。

「セリオン! 大変よ!」

「エスカローネ?」

セリオンのもとにエスカローネが現れた。

「シエルちゃんとノエルちゃんが!」

「二人がどうしたんだ?」

「二人が女悪魔にさらわれたの!」

「二人がさらわれた!?」

セリオンは驚いた。

「どうやらサマエルはシエルとノエルを標的としていたようだな」

アンシャルが言った。

「女悪魔は言っていたわ。ツヴェーデン郊外にある森の神殿で待っているって」

「森の神殿で? ……分かった。俺が二人を助けに向かう」

セリオンはシエルとノエルを助け出す意思を固めた。



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