サタナエル編2-1
深夜、森の中をセリオンは疾駆した。セリオンは三人の敵兵と遭遇した。
敵兵はセリオンにサーベルで斬りかかってきた。逆にセリオンは三人の敵兵を大剣で薙ぎ倒した。
敵兵は三人とも倒れた。セリオンは再び夜、闇の中を駆けた。セリオンは森から抜けて、森の道に出た。
セリオンは警戒していた。いつ、どこで、敵兵と遭遇するか分からない。セリオンの気は張りつめていた。
セリオンは背後に、何者かの気配を感じた。セリオンは向かいなおった。今度は五人の敵兵と出会った。
セリオンは大剣を構えた。
しかし、五人の敵兵は何者かの手で斬り倒された。一瞬の出来事だった。
倒された敵兵の奥に、一人の男が立っていた。男は長い銀色の髪をし、黒いコートを着ていた。
その手には刀が握られていた。男は言った。
「おまえは友軍か?」
セリオンは少し間をおいてから答えた。
「そうだ」
「おそらく、この先に敵の本陣がある。共に行ってそれを叩こう」
「分かった」
セリオンは男と一緒に行動することにした。セリオンと男は深夜の林道を駆けた。
林道を抜けると、大きく開けた場所に出た。足元には土の地面が広がっていた。セリオンと男は中央まで進んだ。すると周囲から敵兵が現れた。二人は、周囲を敵兵たちに囲まれた。
セリオンと男は背中を合わせるように敵兵と向かいあった。
「こちら側は私が引き受けた。そちら側はおまえに任せる」
「ああ」
セリオンはうなずいた。男は刀を構えると、敵兵に斬り込んでいった。刀が振るわれる金属音が静かな森の中に響きわたった。
セリオンも敵兵に突撃した。セリオンは敵兵をサーベルごと力で吹き飛ばした。セリオンと敵兵たちが交戦した。セリオンは大剣を振るい、一人、また一人と敵兵を確実に仕留めていった。背後から敵兵がセリオンに襲いかかってきた。セリオンはサーベルを大剣で受け止めると、逆に敵兵を斬りつけた。敵兵はその場に倒れた。
「大丈夫か?」
男がセリオンに声をかけた。男の声にはどこか余裕を感じられた。男は息ひとつ上げていない。
「ああ、大丈夫だ」
どうやら彼はたやすく敵兵を斬り捨てたらしい。セリオンよりも早く敵を片付けたようだった。
セリオンは彼と自分がどこか対照的に感じられた。
金髪・碧眼の自分と、長い銀髪に黒い瞳の彼。
セリオンと男は、平らな林道を先に進んだ。男の読み通り、敵の本陣を発見した。
二人は敵の本陣に攻め込んだ。わずか数分で敵の本陣は陥落した。
敵の本陣は制圧され、敵軍はすべて降伏した。
軍の野営地にて。
軍は、森の中の開けたところで野営していた。夜があけて朝になった。朝日が森に降り注いでくる。
空気が新しくなり、新鮮な風が穏やかに流れた。
ツヴェーデン軍と聖堂騎士団は合同軍事演習を行っていた。
この演習は実践形式の非常にレベルの高い厳しいものであった。敵味方に分かれて、互いに戦闘に臨んだのである。ここは都市ツヴェーデンから離れたところにあるアルデンナの森である。
セリオンも聖堂騎士の一人として、この演習に参加していた。野営地には軍の車両、ジープやトラックがあった。
セリオンはトラックの後ろで、長方形の箱に座って休んでいた。
演習は夜のうちに終了した。A軍とB軍に分かれたのち、セリオンの属するA軍がB軍の本陣を落として、勝敗が決した。今回の演習はA軍の勝利に終わった。朝セリオンは簡単な食事を済ませた。
A軍の陣地では撤収作業が進められ、後は都市ツヴェーデンに帰還するだけだった。
A軍の兵士たちは、撤収前の空気の中各々休息を取っていた。
セリオンのもとに男がやってきた。
「コーヒーを入れた。飲むか?」
「ああ、いただく。ありがとう」
セリオンは男からコーヒーを受け取った。セリオンはカップに口をつけた。コーヒー独特のにがみが舌に走った。コーヒーは熱かった。コーヒーの熱が朝の冷たい空気にはありがたかった。
「もう、野営地は引き払った。撤収作業はすべて完了した。あとはツヴェーデンに戻るだけだ」
男はトラックに寄りかかりながら、コーヒーカップに口をつけた。
セリオンと男は撤収前の時間をのどかにまったりとすごした。
「それにしても、今回の演習は今までにないほど厳しく激しかった。ずいぶんと負傷者も出たようだ」
男は淡々と告げた。
「フフフフ、疲れたか?」
「ああ、疲れた。こんなに疲れたのは久しぶりだ。あんたは疲れているのか? 俺にはそう見えないな」
「フフフ、そうでもないさ。私も疲れている」
男は笑顔を浮かべながら答えた。
「おまえの名前は?」
「俺はセリオン。セリオン・シベルスク。あんたは?」
「私はサタナエル」
「あんたは強いな。あれほどの敵兵を一人でいともたやすく倒してしまうんだから」
「それはこちらのセリフだ。ツヴェーデン軍の精鋭部隊を蹴散らしてしまったのだから、おまえは強い」
サタナエルは再びコーヒーに口を付けた。
「撤収まではまだ時間がかかるだろう。軍司令部も一休みしているようだな」
セリオンはこののどかなひと時を十分味わうことにした。体全体に疲労がたまっている。それに眠気もあった。
「いい朝だ。新鮮ですがすがしい」
サタナエルは空を眺めた。
「そうだな」
セリオンはコーヒーをゆっくり飲んだ。
「おまえは軍の兵士ではないようだな。聖堂騎士か?」
「そうだ。俺は聖堂騎士だ」
「それは残念だな」
「残念?」
セリオンはサタナエルに尋ねた。
「おまえのような者が軍にいてくれればうれしい。そういう意味だ。フッフフフ。どうして聖堂騎士団に?」
「俺はテンペルで育った。だから神聖なものに仕える騎士になりたかった。それだけだ。あんたはどうして軍に?」
今度はセリオンがサタナエルに質問した。
「私か? そうだな……私には戦うことしかできなかったからだ。戦う以外のことは考えられなかった。私にはほかに職能や才能と思えるものがない。だから軍に入った。それ以外の仕事は私には合わないだろうから」
サタナエルは自虐的に笑った。
その時周囲の兵士たちがあわただしく動き出した。セリオンとサタナエルのもとに一人の兵士がやってきた。
「撤収だ。司令部から命令がきた」
「ああ、分かった」
サタナエルは涼しげに答えた。
「さあ、撤収だ。用意はできているか?」
「ああ、もう済んでいる」
セリオンは立ち上がった。セリオンとサタナエルは人員輸送車に乗った。車のエンジンがかかり、野営地から出発し、車はツヴェーデンへの道のりを走行した。
セリオンは旧軍の基地を訪れた。セリオンはここでサタナエルと戦い、彼を倒したのだ。
サタナエルは巨大隕石を星にぶつけて、この世界エーリュシオンを破壊しようとした。セリオンは世界の命運をかけて、サタナエルと戦った。そしてサタナエルを倒した。サタナエルは死んだ。確かに。
それでもセリオンは何か不安を感じていた。サタナエルの死体は消失した。サタナエルの死体はどこかに消えてしまったのだ。サタナエルの体がどこに行ったのかは分からないままだ。
「どうしたんだい? ここで思い出でも探しに来たのかい?」
一人の男がセリオンに声をかけた。セリオンはこの男が一種のナルシストに見えた。
「フッフフフ!」
男は手をかざすと、地面に影を走らせた。セリオンはとっさに大剣を構えた。
影の中から異形の犬が、シャドウハウンドが姿を現した。三体のシャドウハウンドはセリオンの周囲を駆け回った。そしてシャドウハウンドは三体ともに、いっせいにセリオンに跳びかかってきた。
セリオンは横にそれてかわした。シャドウハウンドは次々とセリオンに襲いかかってきた。
セリオンは一体目のシャドウハウンドを大剣で横に斬り払い、二体目を縦から一閃で斬り、三体目を下から斜め上に斬り捨てた。三体のシャドウハウンドは倒された。
男は宙に浮くと、炎の魔法を放った。セリオンは後方に跳びのいた。
男はセリオンに接近し、炎の弾を撃ち出した。セリオンは炎の弾を大剣で斬りはらった。
男は楽しそうに笑い、闇の刃をセリオンの周囲に発生させた。
セリオンは冷静にそれらの刃を大剣で受け止めた。
男はセリオンの前方から氷のつららを出した。セリオンはとっさに前方に跳びだし、男に斬りかかった。
男は宙でセリオンの刃をかわした。
「おっと、危ない!」
男はくるりと回ると、後方に移動し、セリオンと距離を取った。男は楽しそうにセリオンを見ていた。
「何がおもしろいんだ?」
「フフフ、それはこれから起こることだよ」
「何が起こるんだ?」
「彼が、帰ってくる」
「彼?」
「彼が帰ってくる前は、一種のお祭りさ。フフフフフ」
男はひときわ大きな闇の刃をセリオンに放った。セリオンは蒼気を出し、闇の刃を斬り裂いた。
「彼って誰だ?」
「それは君がよく知っている男だよ」
男は空中を上昇し、腕を組んでセリオンを見おろした。
「彼は復活する。そして地上に帰ってくるのさ。サタナエル――」
セリオンは目を細めた。
「サタナエル? サタナエルは死んだ」
「確かに。でも彼は死をも超える存在さ。彼は復活する。そして再びこの地上に、災いをもたらす。そうして世界は破滅する」
「おまえは何者だ?」
「ぼくはサマエル Samael 悪魔サマエル。ぼくはサタナエルが復活することを告げる使者だよ」
「悪魔か。その悪魔が地上で何の用だ?」
「ウッフフフフ、ぼくの望みはただ一つ。この世界の破滅さ。もう一度告げよう。彼は復活する。そして地上に帰ってくる。この世界に大いなる破局をもたらすためにね」
「それは予言か?」
「そうだよ。セリオン。彼の降臨を楽しみにして待っているがいい」
それを言い残すと、サマエルは姿を消した。旧軍の基地にはセリオンだけが残された。セリオンの頭に、サマエルの言葉がエコーのように鳴り響いた。
「サタナエルが……復活する……」
セリオンにはにわかに信じがたかった。サタナエルは確かに死んだからだ。
その彼が、死をも超えて復活するという……
セリオンはしばらくこの場から離れることができなかった。セリオンに冷たい風が吹き付けた。




