アメリカでは定番らしい頭痛薬
x, y,z,a..カタリ――カタリ……
朝か……
なんだか中途半端な夢を見たような気がするのだが何故か内容を思い出せない。
コンコン
部屋のドアをノックする音が聞こえる、意識を覚醒させながらノックの主が妹以外いないことに思い至り部屋を出ることにする。
「お兄ちゃん、起きましたか?」
妹の紫が起こしに来てくれたようだ。
ツインテールを揺らしながら話しかけてくる。
あれ……昔……記憶が混濁している、いつもの紫に何故か違和感を覚えてしまった、いかんいかん、この年で記憶障害になったらしゃれになんないからな。
何かを感じるがこれと言ってなにもない日常のはずだ、そんなことより早く朝飯を食べよう。
なにやら紫がモジモジしている? 何かおかしな事があったか?
「お兄ちゃん……どうですかね? わたし……」
なんだよ一体? 別にいつも通りだと思うが?
「ええっと……髪でも切った?」
「違いますよ!」
不正解だったらしい、じゃあなんだろ?
髪は「いつも通りの」金髪だし、切ったとは思えない長さのツインテール……髪路線から離れよう。
「んー、痩せた?」
「はぁ……そうですよね、分かるわけないですよね……」
なんだか知らないが傷つけてしまったようだ、フォローしておかなくちゃ。
「まあでも……可愛いぞ」
特別な変化もないはずなのにそう言葉が出てきた、気のせいかもしれないが今日の紫は可愛い気がする。
すると何故かキョトンとしてから笑顔になった。
「そうでしょう! 私のリサーチ能力は当社比1000パーセントですから!」
当社て……
とりま機嫌が直ってくれて助かった、プロファイリングをさせられた気分だ。
今日は四月三十日、紫が高校に入ってようやくなれてきた頃だ、ちょっと前まで「お兄ちゃん! お兄ちゃん」としつこかったのが同じ高校に進学できて多少静かになった。
紫と二人で朝食のピザトーストを食べる。
コーヒーを飲むのだが何故か最近ではブラックで飲めるようになった、以前は砂糖とミルクを大量に入れていたような気がするのだがブラックに何故か長い間飲んでいたかのような安心感を覚える。
紫はアールグレイを飲みながらスマホをいじっている。
「こら、行儀が悪いぞ」
紫を叱ると素直にスマホを置く、コイツはスマホで一体何を見ているのだろう? やけに真剣な目で眺めていたが……まあ詮索するのも野暮ってもんだろう、兄妹にもプライバシーはあるしな。
――ズキン
何故か思い出に浸ろうとすると頭に鈍痛が走る、アスピリンを取りに部屋へ戻る。
そのとき紫が何か複雑な気分みたいに見えたのは長い付き合いだからだろう。
アスピリン500mg錠を1粒水で飲み下し心配そうに見る紫に心配をかけないように笑顔を作っておく。
「お兄ちゃん……大丈夫ですか?」
「ああ、いつもの頭痛だ。アスピリン飲んどけばすぐ収まる」
アセチルサリチル酸は人類が見つけた発明の中でも結構なものではないかなどとは思う、風邪からなにからとりあえず飲んどけば時間が解決してくれる、その時間を稼いでくれる薬だ。
「お兄ちゃん、ちゃんと朝ご飯は食べてくださいよ、胃に悪いんですから」
ちゃんと気遣ってくれる、コイツは自慢の妹だ。
「ああそうそう、お兄ちゃん! 私はお兄ちゃんのこと好きですよ、今が永遠であればいいのにって思うくらいには……です」
このブラコンめ、どこかで喜ぶ自分がいるがそれが百年以上前から当然のごとく続いているような気がしたのだった。