妹ガチャ
俺は今……ガチャを引いている。
そう、ソシャゲのガチャだ、ソシャゲ名『いもうとこれくしょん』……
コレはなんとも言えない背徳感が……いいな。
もちろん全年齢対象のゲームだ、何故か日本では特定の年代がリアルタイムで遊べない年齢のゲームについてまるでリアタイでプレイしたかのような思い出を語る人がいるが、俺は違う。
いやあ何でだろうね? 語ってる人たちの年齢って当時十代前半じゃ……いやこの話はやめよう。
それはともかく、今の俺は忍びモードだ、こんなところを紫に見られた日には当分言いなりになってしまう……奴隷契約、ダメ! 絶対!
このツインテール可愛いなあ……紫も頼んだらやってくれるんじゃ……いけないいけない、リアルはリアル、ゲームはゲーム……割り切らないとな。
「お兄ちゃん! マルチしましょう!」
「特商法に引っかからないように気をつけろよ」
バタン
俺は紫に手が後ろに回らないように注意して部屋のドアを閉じ……
ギギギギ――
「お兄ちゃん! 何で閉めるんですか!」
マルチ商法は友情を換金する商売だからやめとけって事だ。
「違いますよマルチって言ったらゲームのマルチプレイに決まってるじゃないですか!」
「なんだよ、お前ゲームなんてやってんのか?」
意外だ、いつも妄想で頭がいっぱいなやつだと思っていた。
「見つけたんですよ! 私『たち』のためにあると言ってもいいゲームを!」
そう言ってスマホの画面を見せてくる、んんーコレは……
「ふっふっふ! 『いもうとこれくしょん』まさに仲良し兄妹のためのゲームと言ってもいい神ゲーです!」
「ああそれな……」
マルチってエンドコンテンツだぞ……このゲーム先月配信なのにもうメインクエストクリアしたのか……俺もクリア済みだが……
「あっれー? お兄ちゃんのスマホにもインストールされているようですね? コレは偶然! いえ運命ですね!」
「なんで知ってるんだよ! スマホの画面消えてるだろうが!」
ちっちっちと指を振りながらドヤ顔で紫が答える。
「ウチの固定回線は私が管理してるんですよ! いやあわざわざ業務用アクセスポイントを買ったかいがありました! トラフィックは全部見てますからね! このゲーム4Gだとダウンロード厳しいですからね、そういうものはWiFiを使うだろうと踏んでて正解でした!」
そういやコイツの部屋にWiFiルータがあるんだった……筒抜けか。
しかし! 俺はしらを切り通すぞ!
「いやあこのゲームインストールはしたんだけど全然進めなくってなあ、まだマルチが解放されてないんだよ」
「本当ですか……?」
「あたぼうよ」
さすがに俺がお年玉を全振りしてガチャを引いてクリアしたとは知らないだろう、まだマルチ人口が少ないからごまかせるはず……
「じゃっじゃーん! まほうのカードー!」
変な効果音とともに差し出してくるカード……え?
「ちょっと待てこれクレジットカードじゃないか? どこで手に入れたんだよ自首するなら付き添うぞ?」
「しれっと犯罪者扱いしないでください! これはクレジットカードじゃなくてデビットカードです、高校生以上なら持ててアプリストアでも使えるんですよ! さあコレでエンドコンテンツまでレッツスキップ!」
えぇ……ほっとくと人権キャラ引くまで俺のアカウントに課金しそうだからさすがに止める。
「分かった分かった、俺もマルチ解放してるから一緒にやるか、だからその魔法のカードはしまっといてくれ」
妹のカードで廃課金とか笑えないジョークだな。
「やっぱり進めてるんじゃないですか、リリース初日からトラフィックが多かったから多分進めてると思ってましたよ?」
コイツカマかけたのか、駆け引きがうまくて困る。
「じゃあ早速レイドボスの『オサナナジミー』を倒しましょう、妹以外はサクッと全滅させちゃいましょう!」
コイツ過激派か……
このゲーム、妹以外のあらゆる属性が敵として出てくるので特定の性癖持ちにはドストライクだそうだ……
他のゲームだと百合百合していたり、教師から赤ちゃんまであらゆる性癖をカバーするスマホゲームだがこの作品は「妹」に特化している。
妹が義妹実妹ともに平行世界に存在してそれをガチャで引くというなかなかに作者の正気を疑いたくなるゲームだ。
「ではお兄ちゃんのリアルシスターとしてどのキャラを選んだのか確認を……かくに……」
そうして俺の保有キャラを見て固まる紫。
「お・お兄ちゃんはそういうのが趣味なんですか!」
俺が選んだのは金髪ロリツインテツンデレとヤサイマシマシアブラカラメくらいに盛った妹だ。
そして紫は黒髪ポニテストレート……ああ……
「お兄ちゃん! ちょっと急用を思いつきました! また今度にしましょう!」
――翌日
案の定俺の目の前の紫はツインテにしていた。
うん、このくらい察してやるべきだったな……
俺は高校生でツインテールというなかなかできない髪型をした妹と外出するのを想像してまだ受けてもいない冷たい視線をどこからか感じたのだった。