バレンタイン・イブ
――カチッ――カチッ――
何かが動く音がする、幾度も聞いたような気がする響きが脳内にしみてくる。
バサッ
俺は布団をどかし姿勢をただす、時計を見る『午前七時』いつもの時間だ。
寝起きの目をこすりながら意識の覚醒を促す。
そしてカレンダーに目をやる、2月13日が目にとまる。
『明日』はバレンタインデーだな……面倒なことになるんだろうな……
ならないはずがない、「あの」紫だ、悪乗りの極みを見せてくれるだろう。
「お兄ちゃん、起きましたか?」
「ああ、起きてるぞ」
「では失礼します」
今日はなんか殊勝な態度だなコイツ……まるで申し訳ないような?
「おはよう」
「おはようございます、お兄ちゃん! いよいよ! 明日は! バレンタインデーですね!」
「そうだな」
「参考までにお兄ちゃんの理想のバレンタインを教えてくれませんか?」
「とりあえず家族以外にチョコをもらうこと」
もう……あの優しいチョコは嫌なんだ……もらうときの慈しみにあふれた顔が耐えられない。
「お兄ちゃん、私以外に、もらおうとか考えてます?」
目が怖い、怒るなよ……
「ま、まあ、家族チョコもいいよな!」
ごまかすことにした。
「いえ、私のは大本命ですよ」
逃げ道を潰すのはやめて欲しい――頼むから……
とはいえこの妹にもふさわしい相手が現れるかもしれないし一時の気の迷いに付き合ってやるのも悪くはないか……
「はあ……分かったよ……ありがたくもらうよ」
「もう! お兄ちゃんはもっと欲望に忠実になってくださいよ! かわいい妹からのド本命チョコですよ! 人によっては小躍りするくらい嬉しいんですよ!」
それは一部の特別な人じゃないかなあ……
そして自信満々に言ってのけた。
「お兄ちゃんが飛び上がって喜ぶようなチョコを用意するので期待しておいてくださいね! というわけで今日はキッチンに入らないでくださいね!」
「ああ、それは構わないが……」
キッチンには立ち入り禁止のようだ、反論しようとも思ったが部屋で作られると本当に何が入るか分からないので従っておこう。
キッチンで作るなら食べ物しか入んないだろうからな。
「何か大変失礼なことを考えてませんか?」
「いや、チョコ楽しみだなーって」
「そうでしょうとも! パーフェクトなチョコを作りますので期待に打ち震えておいてくださいね!」
自分でハードルを上げてることは気にしていないようだ……
紫なら高級食材でも平気で入れそうだな……
「期待はしておくよ、ありがとな」
「ええ! ちょっと過激なのは控えようと思いますので安心してください!」
「過激なのも考えてたのか……」
ひゅーひゅーとそっぽを向いて口笛(吹けてない)をする紫。
一応自覚はあるようなので大丈夫だろう……多分。
なにやら甘い香りが漂ってくる、一応チョコの匂いなので問題はないだろう。
俺はキッチンには入れないと言うことなので飯を食べに外出してくるといい外に出る。
さて、チョコはもらえるしなんか辛いもんでも食べるか……
あれ? 昔どこかでこんな事があったような……
気のせいか……
どうも特別な日が近くなって俺も少し慌ててた様だ。
――――
ふう、こんなところですかね。
『昨日』は失敗しましたからね、お兄ちゃんは控えめな子が好きなようです。
リサーチを怠った深くを取り戻すためにもお兄ちゃんをうならせるチョコを作りますよ。
「ふふ、今度こそ『確定』できるといいですね……」
そう独りごちる紫は名状しがたい笑みを浮かべていた。