早すぎたバレンタイン
「お兄ちゃん! 今日は何の日ですかねえ?」
「ああ、そういやマンガの発売日だったな」
紫はめっちゃ不機嫌そうにしている。
「はあ……バレンタインだったな」
満足いく答えだったらしく紫もニコニコしながら言った。
「そうですよねえ、お兄ちゃんは私以外にもらえないでしょうしありがたく受け取ってくれますよね?」
しれっと酷いことを言う紫、まあ当たっているので否定はできない。
ところで今は午前七時、起床後すぐだ、早いな。
「お兄ちゃんに渡すのは私が一番ですからね! 昨日から徹夜で作りましたよアレやこれやの入ったスペシャルチョコです!」
スペシャル……何が入っているかは聞かないことにしよう……
「おっとお兄ちゃん! 怪しいものが入ってると思いましたか? 大丈夫です食べさせあいできるように常識的なものしか入ってませんよ!」
「ありがとな、ところでチョコは?」
そう、紫はチョコを持っていない……嫌な予感が……
「はいコレです!」
紫は手を差し出してくる、握っていたので気づかなかったがチョコを持っていた「らしい」
体温でチョコはべったり溶けている。
「溶けちゃったか、まあ気持ちは嬉しいよ」
「何言ってるんです? これでいいんですよ?」
「え!?」
ずいと手を俺に差し出してくる、俺の脳内にアラートが響く、まさか……
「舐めてください!」
「お前な……健全な関係って意識したことある? レギュレーションギリギリだぞ!」
なんのとは言わんが世間一般的には恋人でもやらない……よね?
「何を言ってるんです「手」を舐めることのどこに不健全要素があるんですか? まったくもって全年齢対象じゃないですか? 小学生の読むラノベだってこのくらいやってますよ?」
えぇ……
「『兄妹』なのは問題では?」
「何を言ってるんですか? 世間には家族にしかチョコをもらえない人たちだって大勢いるんですよ! つまり妹が兄に渡すのは極めて一般的なことですよ?」
「その発言は傷つく人が多いからやめよう!」
「大体、お兄ちゃんが私を恋人ってことにしてくれたら何の問題もないじゃないですか! 私はコレでも我慢してるんですよ!」
逆ギレムーブはやめて欲しいのだが……
「ほらほら、舐めて舐めて」
ぐいぐいと俺の口元に手を近づけてくる、逃げ道は……うん、無いな!
口のすぐ先にある妹の指を舐める、非常に変態的だとは思うが、朝の低血糖状態に糖分の塊が入って気分が澄んでくる。
「はっ! 俺は何を!?」
紫はニヤニヤしながら言った。
「いえいえ、越えてはいけない一線に一歩近づきましたよ! コレはめでたい!」
俺はやってしまった感が脳内を埋めつつチョコの甘さで頭がクラクラした、ホントに何も入ってないんだよな?
紫は自分の指をペロペロなめながら満足そうに部屋を出て行った。
ああああああああああああ!!! やっちまったあああああああああああ!!!!
大丈夫! 落ち着け! まだ一線は越えてない! セーフ、セーフだ!
意識が落ちていき、目が覚めた。
「夢か? なんか妙な夢だったな……」
時計に目をやると午前七時を指していた、つまり時間からするにアレは夢で間違いないだろう。
妹をどう考えているのかと落ち込みつつ着替えて朝食を食べに向かった。
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うーん、悪くないけどもっと積極的に来て欲しかったなあ……
まあいいや、チャンスはたっぷりあるんだからね。
隣の部屋では陰謀が画策されているのだった。
バレンタインネタはまだやる予定なので今回はベータ版的なものです。